第007話 【ヴェール】の脅威と【ロスク】の気配

タティー・クアスン編挿絵07

01 タティー・クアスンの歴史


 タティー・クアスンは結婚を夢見る女の子。
 いじめられっ子だったが普通の人間だった彼女はある時、突然、転機が訪れる。
 それは、最強の化獣(ばけもの)クアンスティータのアナグラムとしての名前を両親より得ていたことによるものだ。
 偽クアンスティータをスカウトするためにやってきた【めがねさん】に見いだされ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長という仕事が回ってきた。
 また、その役職に不満を持つ存在もいた。
 その者の名前は【クインスティータ・クェンスティー】と言うが本名ではない。
 彼女の本名は【スウィート・ピュア】という名前があるが、彼女は【クインスティータ】で通している。
 【クインスティータ】は熱烈なクアンスティータのファンでもある。
 そんな彼女がタティーに嫉妬してよくつっかかってくるのだ。
 特殊警察の署長として仕事にも少し慣れてきたところ、バッドニュースが飛び込んでくる。
 それは、現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界においては、宇宙崩壊の危険性を伴う【ステージ2】にせまる勢いの【ステージ2】もどきの力が闇取引で売買されているというものだった。
 クアンスティータ誕生宇宙として指定されている現界を維持するために、タティーと【クインスティータ】はそれを取り締まる必要があった。
 二人(と【めがねさん】)は取り締まるために流出先とされている最大神殿を目指して調査の旅に出ることにした。
 そこで、追加メンバーが二名加わる事になる。
 【ヴェルト・ハウプトシュタット】と【リセンシア・アジュダンテ】だ。
 【ヴェルト】はタティーへの覗きの常習犯、【プライス・フィー】を元カレとする力自慢の女の子だ。
 【ヴェルト】はタティーに挑むも彼女の自動防御能力の前に屈し、彼女の子分となる。
 【リセンシア】はいわゆる腐女子。
 ボーイズラブ、ガールズラブが大好物なちょっと変わった女の子だ。
 タティー、【めがねさん】、【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】で女の子チームを組み、早速、旅へ。
 するとタティーの動きに合わせて動いたのが二組。
 一組目は、タティーへの覗きの常習犯、四人組、ドスケベ四人衆だ。
 メンバーは、タティーのお尻大好き、【プライス】、
 おっぱい大好き、【スコント・プレッツォ】、
 くびれ大好き、【ベネフィス・フォルテュヌ】、
 足大好き、【クリエント・カントラークト】の4人で構成される。
 また、もう一つは、【プライス】にこっぴどくフラれた悪女、【ヴィホヂット・ウボヒー】だった。
 彼女は【プライス】→【ヴェルト】→タティーへと憎むべき相手を変えてつきまとってくる迷惑な女だった。
 【ヴィホヂット】は途中、プロのコスプレイヤーの【リーチェニー・パルフェーム】と者喰い王(ものぐいおう)選手の【アイリーン・エイムズ】をその毒牙にかけて手下とする。
 他にもタティーが優勝して手に入れるはずだった闇コス大会の優勝賞品である【ヴェール】の起動キーを盗み出したりなどの嫌がらせをしてきた。
 【ヴィホヂット】が逃亡先に選んだ、【エニグマ】領に行ったタティー達はそこで、覗き魔として、ドスケベ四人衆以外に【風来坊のえーちゃん】と名乗る男を捕まえ、お仕置きする。
 実はその男、領主である【エニグマ】本人であったが、タティー達はその正体に気づいていなかった。
 ある時、タティーはラブレターをもらい、待ち合わせ場所に向かう。
 そこには、金にものを言わせる、【ミスターサカキ】と美しさこそが全てという判断基準のナルシスト【カルメン・サイアーズ】と【風来坊のえーちゃん】の三人が待っていた。
 誰かに決めなくてはという雰囲気だったため、タティーは三人の中では一番ましだと思った【風来坊のえーちゃん】を選ぶのだった。
 その事がきっかけで少しだけ、タティーと【風来坊のえーちゃん】は近づいたと言えるのだった。
 いろいろあったが、【風来坊のえーちゃん】は自身が【エニグマ】だと告白し、領地を捨てて、タティーへのアプローチを貫く事になった。
 その後、タティー達一行は、【エニグマ】領改め【五将】領を離れ、【クアンスティータ学の里】へ立ち寄り、クアンスティータ学の事を学んだ後、最初の最大神殿である土の最大神殿へとたどり着いたので【ヴィホヂット】達の事は後回しになった。
 面倒な手続きもあり、広大な敷地面積を持っている土の最大神殿の神託の間(小)でいよいよ土の最大神殿の神姫巫女(かみひめみこ)、フルテララとの謁見にこぎ着けるのだった。


02 真相


 タティーの緊張はMAXをとうに振り切っていた。
 目の前の神々しいオーラを放ちまくっているフルテララに対して、千角尾(せんかくび)による調査を強制しないといけないからだ。
 千角尾とは万能細胞である背花変(はいかへん)という背中の花と同じくクアンスティータとしての特徴とされるもので、腰から生えた無数の尻尾の事を指す。
 その力は主に、対戦者の最も弱い時代に遡ってダメージを与える事とされているが、実はそれだけではない。
 基本的には1000の異能力を自動で発動出来るようにしてあるからこそ、千角尾と呼ばれているのだ。
 そして、その力の一つとして、対象者の過去などを洗いざらい探り出す力も含まれている。
 その力でフルテララを探ろうというのが【クインスティータ】の案なのだが、そんな失礼っぽいことをどう切り出したか迷っていたのだ。
「あの……」
 と口を開くが言葉が続かない。
 フルテララは、
「はい……何か?」
 と聞くが声が出ない。
 焦って汗が流れ落ちる。
 ゴクリ……
 つばを飲む。
 だが、緊張が解けない。
 あぁお風呂に入りたい。
 そう考えて居るとフルテララの方から話しかけて来た。
「皆様のなさりたいことはおおむね理解しております。星見で見させていただきました。確かに、最大神殿の失態で【ステージ2】もどきの力がある者達の手により闇取引に使われたようです。ですが、その者達はすでに、見つかり、罰を受けております。どうかそれでご勘弁いただけませんでしょうか?」
 と言った。
 え?とタティーは思った。
 すでに解決済み――全く予想もしていない出来事だった。
 それならば話は早い――そう考えて居ると【クインスティータ】が、
「出来る訳ございませんでしょ。現界の破壊行為にもつながる重大な犯罪なのですよ。それを見逃せとおっしゃるの?」
 と詰め寄った。
 ――違います。
 解決したのなら、これで十分ですとは言い出しにくくなってしまった。
 フルテララは、
「どうか……お慈悲を……」
 と頭を下げた。
 神姫巫女が頭を下げる事などよっぽどの事だ。
 【クインスティータ】は、
「嫌ですわ」
 と要求を突っぱねた。
 このまま【クインスティータ】に任せていると、いつまでも終わらない。
 ここは代表者であるタティーが出なくてはならない。
 だけど、怖くてこれで良いですとは言えなかった。
 絞り出した答えが、
「そ、その……罪を犯した方っていうのはどのような方なのですか?」
 という質問だった。
 【クインスティータ】はそれに乗っかり、
「そうですわ。その愚か者を前に差し出しなさい」
 と言った。
 フルテララは苦しそうに、
「法を犯した者はこの土の最大神殿にはおりません。火と風と水の最大神殿に一名ずつ……それが全てです。どうかそれで……」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「クアンスティータ様の使いとしては罰を与えねばなりません……」
 と言った。
 これ以上、【クインスティータ】にしゃべらせては、土の最大神殿に取って不利になると思ったタティーは、
「そ、そうですね、その3名を紹介してください。今、私達は【ヴェール】という超兵器を追っています。それを一緒に解決すれば、お咎め無しという事で……」
 と言葉を差し込んだ。
 【クインスティータ】が、
「な、……そんな勝手に……」
 と言ったが、【ヴェルト】が、
「お前の負けだよ【クインスティータ】、代表者は姉さんだ。姉さんが決めた事が絶対だ、文句は言わせない」
 と言った。
 姉さんとはタティーの事を指す。
 タティーの子分である【ヴェルト】は彼女の事を【姉さん】と呼んで慕っているのだ。
 【クインスティータ】は、
「う……それを言われますと……」
 とたじろいだ。
 それを聞いたフルテララには少しほほえみが……。
 どうやら、この展開になることがわかっていたようだ。
 解決(犯人を突き出す事)をじらし、【クインスティータ】をいらつかせ、それに焦ったタティーが提案するという図式が見えていたようだ。
 フルテララ――偽クアンスティータを利用するとは大した器だ。
 伊達に土の最大神殿を取り仕切っている女性では無いなと感心する【エニグマ】だった。
 ――そう、フルテララの腹芸を見抜いていたのは【エニグマ】一人だった。
 それに気づかないタティー達は未熟者と言えるだろう。
 【エニグマ】だけが見抜いたという事にフルテララも気づいているのか彼に対してほほえんだ。
 結局、3名の犯罪者は一度は最大神殿を破門になったのだが、フルテララのテレパシーを受けて、火、風、水の神姫巫女達がそれぞれの最大神殿の中間地点である町、【ギルティーヤ】に待機させているという事がわかった。
 こうなる展開がわかっていて、あらかじめ準備していたのだ。
 なんとも手回しの良い事である。
 何となく、フルテララの手のひらの上で転がされている様な感じとなった。
 それに気づかない【クインスティータ】は、
「わかりましたわ。とりあえず、その【ギルティーヤ】という町までその3名の罪人を引き取りに伺いますわ」
 とやる気だった。
 確かに、その3名の罪人を処分すれば、この旅の目的は達成した事になる。
 口から出任せを言ってしまったが、その3名達と協力して今度は【ヴェール】の方をなんとかしなくてはならないと思うと憂鬱になるタティーだった。
 タティーはまた人間だったころを思い出す。
 今度は夏休みの宿題編だ。
 タティーは宿題を夏休みの最初の内に大体、やっていた。
 宿題は先にやるタイプだったからだ。
 だが、その後も、
「宿題やったんでしょ、写させて」
「宿題一緒にやろう」
「宿題みせろ」
 等とそれまで付き合いの無かった者もタティーの家にやってきて、タティーのやった宿題を写すと見せかけて、彼女の家のもので遊んで帰って行った。
 その間、遊んでいる子供達の宿題を何故か、タティーが書き写す事になってしまった。
 二学期が始まって、生徒達の大半の宿題が同じ字だったことと、答えが一緒だったことから、宿題を写したという事がバレて、さらにその犯人をタティーに仕立て上げられた。
 その後、教師にこっぴどく怒られた思い出があった。
 夏休みはまるで遊べなかったし。
 まさに踏んだり蹴ったりだった。
 その事を考えると憂鬱だった。
 タティーの暗い過去コレクションはまだまだあった。
 これからも何かある度に人間の頃の不幸を思いだすんだな〜と思うタティーだった。
 だが、これで最大神殿は回る必要はなくなった。
 最終目的が【ヴェール】に変わってしまったが、それが終わったらおうちに帰れる。
 そう思うのだった。
 となれば、一旦、落ち着きたい所だ。
 土の最大神殿を出たタティーは早速、いそいそと服を脱ぎはじめ、
 チャポン――
 と湯船に使った。
「ふぅ〜……落ち着くなぁ〜」
 と一息つく。
 こうなると後はお約束。
「「「「「ふうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」」」」」
 と五つの興奮した声が漏れる。
 いつものドスケベ四人衆プラス1のいつもの悪行――覗き行為だ。
 声に出さなきゃ、もう少し隠れていられるかもしれないのに、【クインスティータ】に見つかり、【ヴェルト】の前に突き出され、お尻百叩き、【リセンシア】の前に突き出され、
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」」」」」
 と【地獄の仲人】の刑を受ける。
 見事な(悲鳴による)五つのハーモニーが木霊する。
 初めてその光景を見た者は、
「な、何事だ?」
「何、何なの?」
「何があったんじゃ?」
 と驚きの表情を浮かべてのぞき込むが、それはいつもの事。
 【リセンシア】が、
「あ、失礼しました。修行なんですよ。これ、いつもの……なので、気にしないでください」
 と慣れた対応をする。
 もちろん、修行などではない。
 ただの覗き行為だ。
 全く懲りないので、大概は修行という事でごまかしているのだ。
 いつものお約束も済ませた事で、次の目的地、【ギルティーヤ】を目指すタティー達だった。


03 【ヴィホヂット】包囲網の穴


 【ギルティーヤ】の町に行くまでにはまだ距離があった。
 その間にも【ヴィホヂット】一味の捜索をしながら行動しなくてはならない。
 聞き込み調査によると【ヴィホヂット】らしき女達の行方はちょうど、【ギルティーヤ】の方向を目指していると推測出来た。
 それは土の神姫巫女、フルテララ達が【ヴィホヂット】達に仕掛けた巧妙な罠でもあった。
 力を欲していると星見で出ていたので、フルテララは破門した3名を一つの町に集めて【ヴィホヂット】一味を誘い込む事にしたのだ。
 フルテララとしては、タティー達に協力して、【ヴェール】の捕獲に力を貸さないと、最大神殿が出してしまった汚点、犯罪者達を許してもらえないと考えたのだ。
 犯罪を犯した3名は闇ルートで【ステージ2】もどきの力を横流ししていた。
 力を欲し、弱味につけ込もうとする【ヴィホヂット】ならば、罪を犯してしまったという強い弱味を持つ3名につけいろうとするだろう。
 この3名は、それぞれ、女従官(にょじゅうかん)の立場にいた女性達で、火、風、水の神姫巫女に最も近い立場に居た者達であり、その美しさと気品は折り紙付きだった。
 となれば、あの悪女が目をつけてもおかしく無い。

 また、女従官達は、それぞれが、裏の組織に弱味を握られ、力の横流しに手を染めたが、火、風、水の最大神殿はその汚名を晴らすために、それぞれが、その横流しに参加した裏の組織を壊滅させていた。
 臭い物に蓋(ふた)をした形になっていた。
 最大神殿としてはこの話題は出来るだけ触れて欲しくない事なので、少しでも早く、偽クアンスティータから許しを得る事が最大神殿共通の使命となっていたので、最大神殿同士が連携して、偽クアンスティータから許しを得る方法を探し出したのだ。
 他の偽クアンスティータであれば、容赦ない裁断が下されるだろうが、タティーならば、甘い判定が下ると考えた最大神殿はこの情報をタティーの居る特殊警察にリークしたのだ。
 それで、タティーが最大神殿を訪れることになったという経緯だった。
 それが一連の流れだ。
 最大神殿としては除名したとは言え、元、最大神殿の最奥部で女従官として働いていた3名の失態をクアンスティータの勢力に許して欲しいのだ。
 クアンスティータに睨まれたら、現界どころかどこの宇宙世界でもやっていけないと考えているのだ。
 なので、早く終わらせたい一件であるため、そのための協力は惜しまなかった。
 ちょうど、タティー達一行と【ギルティーヤ】の町で鉢合わせするようにいろいろと働きかけているのだ。
 理由はともかく、最大神殿という心強い後ろ盾を得たタティー達は予定通り、【ギルティーヤ】の町まで進めばそこに【ヴィホヂット】一味も来ていてそこで御用。
 そういう手はずだった。
 だが、最大神殿とて完璧では無い。
 穴は少なからずある。
 それは、【ヴィホヂット】が手にしている【ヴェール】の起動キーだ。
 これを【ヴィホヂット】が動かしてしまうと全てがパァとなる可能性だってあるのだ。
 フルテララの星読みによるとその可能性は五分と五分。
 【ヴィホヂット】の気分次第で、どうとでも転ぶと出ていたのだ。
 全ては【ヴィホヂット】の気持ち次第――
 なんとも不安な事だろうか。
 あの女は気分次第でろくでもない事を考える女だ。
 その女の気持ち次第と言われて、安心など出来るはずもない。
 フルテララからこの計画を聞かされたタティー達は不安に包まれた。
 うまく行く可能性は50%。
 だが、それでも行くしか無い。
 タティーは少しでも不安を解消するためにまた、入浴し、いつもの光景を作り出し、安心しようとした。
 【めがねさん】は、
「タティー様。大丈夫ですか?」
 と言ってきたが、タティーは、
「不安です。どうにかなりませんか?」
 と答えた。
 【ヴィホヂット】の性格はある程度、理解して居る。
 下手に追い詰めると何をするかわからない女だという事も。
 だから、安心ですという答えが欲しかった。
 【めがねさん】に大丈夫ですと保証して欲しかった。
 だが、【めがねさん】は、
「【ヴィホヂット】という女はどうでも良いのですが、【ヴェール】がクアンスティータ学を利用している兵器である以上、安心ですとは言い切れません。クアンスティータ学はクアンスティータ様を理解しようとして発展した学問です。何があるかわかりませんので」
 と正直に答えてくれた。
 結果不安は増した。
 そして、その不安は的中することになる。
 フルテララが懸念していたのは、【ヴィホヂット】の悪行についてだ。
 フルテララは何も【ヴィホヂット】が【ヴェール】の起動キーを起動させるとは思っていない。
 【ヴィホヂット】には【ヴェール】を起動させる方法がわかって居ないのだから。
 それよりも【ヴィホヂット】の悪行が、【ヴェール】の判断基準を超えた時、【ヴェール】は自動的に起動する。
 【ヴェール】のクアンスティータ学をもってしても不明とされるブラックボックスの部分――それは、神話の時代より続く、偽クアンスティータの要素を一部取り込んでいるからこそ、そこは、ブラックボックスとなっていたのだ。
 偽クアンスティータの本分はクアンスティータに取って害悪となる存在の排除だ。
 つまり、【ヴィホヂット】の悪行が、【ヴェール】の逆鱗に触れた時、それは起動するのだ。
 【ヴィホヂット】はもちろん、関わって来た存在を抹消するために。
 フルテララの星見では7割の確率で起動すると出ていた。
 それでも五分の希望を持っていたのは、起動する【ヴェール】は三桁の番号の【ヴェール】であり、それならば、タティーの力を持ってすれば、7割の確率で終息させる事が出来ると出ていたからだ。
 7割の確率で起動してしまうが、7割の確率で抑えられる。
 だから、フルテララは五分五分と判断したのだ。


04 【ヴェール】起動


 その頃、【ヴェール】の起動キーを持ったまま、【ヴィホヂット】は悪行に悪行を重ねていた。
 【カルメン】がさらってきた闇コス大会の優勝者達を使って、美人局の様な真似をして資金を稼いでいた。
 理由は【ギルティーヤ】に居る3名の元、女従官達を買収するための資金作りだった。
 女従官達は金に弱いと決めつけていたのだ。
 悪の連鎖なのか、【ヴィホヂット】の配下となった女の子達は次々と悪事に手を染めていた。
 その間にも【ヴェール】の起動キーは禍々しさを増していった。
 まるで、【ヴィホヂット】の悪行に対して、怒りの感情を持っているかのように。
 そして、ある日、突然――それは起こった。
 ついに沸点を超えたのだ。
 大きな光の柱が立つ。
 その中心には【ヴェール】の起動キーが。
 【ヴィホヂット】は突然の出来事に、
「何よ、何なのよ、これは」
 と文句を言った。
 自分の悪行が原因だとは夢にも思っていない。
 だが、【ヴェール】の敵意は【ヴィホヂット】に向けられる事になる。
 存在達の噂話をエネルギー原として、形が定まって居なかった【ヴェール】――それが動き出すために形を持とうとしていた。
 【ヴェール】の起動キーの周りに無数の画像が映し出される。
 それらはパパパと、ものすごい動きで映り変わっていった。
 姿形を検索しているのだ。
 その中で最も適していると思われる姿を形取る。
 その姿は男でも女でも無い無性生命体のような姿だった。
 クアンスティータもカノン・アナリーゼ・メロディアスという女性を元に姿形を決める事になるのだが、元々は無性生命体であり、両性具有(りょうせいぐゆう)ではない【おんこ】という性別となっている。
 出て来た【ヴェール】もそれに近い性別と言えた。
 素っ裸だが、男としての特徴も女としての特徴もない姿だった。
 左の胸元には三桁の番号のようなものがある。
 つまり、三桁番号の【ヴェール】であるという事だ。
 番号は【789】番だった。
 ここに【789番ヴェール】が誕生した事になった。
 【789番ヴェール】は左右上下を確認する。
 惑星ファーブラ・フィクタがどのような世界なのか確認しているのだ。
 そして、【ヴィホヂット】を確認する。
 その前に、悪事から帰ってきた【カルメン】が顔を出し、
「な、何だ、こいつは?どこ……」
 【――から来たんだ?】とは言えなかった。
 それよりも前に【カルメン】の姿はかき消えたのだ。
 【789番ヴェール】の手によって。
 【ヴィホヂット】はいち早く危険を察知して、逃げ出した。
 あれはやばい。
 やばすぎると判断したのだ。
 【カルメン】も天罰とは言え、余りにもむごすぎる結末となってしまった。
 突然、人生がかき消されたのだ。
 【ヴィホヂット】から【カルメン】の記憶がすぅーっと消えて行くのを感じた。
 記憶がなくなったのではない、存在が消えていったのだ。
 あれに関わると無かった事にされる。
 あれに関わると全てが終わりだ。
 それだけはわかった。
 もはや、【ヴィホヂット】は【カルメン】の記憶を持たない。
 持たないが何かが存在ごと消し飛ばされたという恐怖だけは伝わった。
 【ヴィホヂット】は今更ながらに盗賊達が言っていたことを思い出した。
 盗賊達は口々に、
「あれはやばい……」
「あんなものに関わっていたら破滅する……」
「あれを動かしたら身の破滅だ」
 等と言っていた。
 その事が現実のものになろうとしていた。
 あれはタティーへの嫌がらせのために盗っただけのアイテムだ。
 あれを使って何かをしようと思った事は一度もない。
 そう自分に言い訳をする【ヴィホヂット】。
 決して、自分が悪いとは思わない。
 だが、そんな言い訳が【789番ヴェール】に通用するはずも無い。
 【ヴィホヂット】は逃げた。
 とにかく逃げた。
 【カルメン】がさらってきた闇コス大会の優勝者達や、【リーチェニー】、【アイリーン】を置いて逃げた。
 助かりたいから我先にと逃げた。
 闇コス大会の優勝者は【カルメン】が消滅した事によって、【カルメン】にさらわれたという事実も消えたために、元々存在する場所で普通に過ごしていることに切り替わり、その場からは消滅していた。
 【リーチェニー】と【アイリーン】も【カルメン】と関わっていないという事が事実となり、人間関係も微妙に変化していた。
 【カルメン】消滅により、次々と事実が塗り変わる。
 【789番ヴェール】は、ゆっくりと【ヴィホヂット】に狙いをすます。
 言いしれぬ恐怖が【ヴィホヂット】を支配する。
 今まで【ヴィホヂット】は自分の思うようにやってきた。
 それが今までは、まかり通って来たし、それを変えるつもりも無かった。
 だが、すぐそこに、【ヴィホヂット】の意思ではどうにもならない恐怖が居る。
 【ヴィホヂット】に狙いを定めてゆっくりと追いかけて来ている。
 すぐに追いつかないのは【ヴィホヂット】が【789番ヴェール】に対して抱く恐怖も含めての粛正なのだろう。
 【ヴィホヂット】は叫ぶ。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 と恥も外聞も無く、逃げ回る。
 だが、ダッシュで逃げているはずの【ヴィホヂット】がゆっくり来ているはずの【789番ヴェール】を振り切れない。
 【ヴィホヂット】がその気になれば光速の数百倍以上のスピードで逃げる事も出来る。
 にも関わらず、全く振り切れない。
 【ヴェール】相手に現界での常識は通用しない。
 【789番ヴェール】と【ヴィホヂット】の周りの時間感覚がおかしくなっているのだ。
 逃げたくても逃げられない。
 絶対的な恐怖が【ヴィホヂット】を襲う。

 そして、その現場に、タティー達がたどり着く。
 タティーは、思わず、
「あ……」
 という声を漏らした。
 すると【789番ヴェール】が、振り向く。
 タティー達は一瞬にして、それが【ヴェール】の一つだと見抜く。
 それほどまでに禍々しい気配を【789番ヴェール】はまとっていた。
 【ヴェール】の起動を阻止するために【ヴェール】の起動キーを追っていたが、【ヴェール】が動き出してしまったのなら、話が変わってくる。
 タティーの方でもなんとかしなくてはならないと思ったのだ。
 【ヴェール】は偽クアンスティータに近い意思で行動するが、正確にはクアンスティータ側の意思ではない。
 偽クアンスティータとしては、なりすましではないが、勝手にクアンスティータの意思として行動するのを許す訳には行かない。
 少々、不本意ではあるが、タティーは【ヴィホヂット】をかばう形で、【789番ヴェール】と対峙することになった。
 そういう意味では【ヴィホヂット】は悪運の強い女であると言えるだろう。
 偶然とは言え、さんざん嫌がらせをしたタティーを味方につける形になったのだから。

 【クインスティータ】は、
「タティーさん、そこの愚か者(【ヴィホヂット】)は後で罰するとして、まずは、【ヴェール】を止めるのよ」
 と言った。
 言われるまでもなく、動き出した【ヴェール】を野放しには出来ない。
 最優先事項として、まずは、この【789番ヴェール】を止めなくてはならない。
 だけど、タティーの力がどれだけ通じるかは不明だ。
 こういう緊迫した状況は【クインスティータ】に任せたいところだが、クアンスティータ学を基本のベースとして動いている【ヴェール】相手にはきついだろう。
 【ヴェルト】や【リセンシア】、ドスケベ四人衆プラス1の力を借りても苦しいのは変わらないだろう。
 理由は全く訳のわからない力で動いているからだ。
 数の有利がそのまま有利になるとは限らない。
 この中で唯一、対抗手段を持っているのはタティーのみ。
 タティー以外は居ても邪魔になるだけだ。
 それは、来てすぐに千角尾で探ったから確かなことだった。
 何が何でもタティーが出て止めるしかない。
 フルテララの星見では7割の確率で止められると出ているがそれはタティーは知らない。
 タティーは五分五分だと聞かされているからだ。
 つまり、半分は負けてしまうかも知れないと思っているのだ。
 これが前向きな性格の者だったならば、少しは勝つ確率を上げられるだろう。
 だが、タティーは後ろ向きな考えの持ち主だった。
 上げるどころか確率を下げるような妄想をしていた。
 タティーが考えて居るのはまたしても人間だった頃の思い出だ。
 今回のバージョンは、頼まれ事編だ。
 人間だった頃のタティーはよく頼まれ事をした。
 無理矢理、押しつけられたと言っても良い。
 なので、よく用事のダブル、トリプルブッキングなどもあった。
 無理矢理、頼まれただけなのに、それらの頼まれ事がこなせなくて後で文句を言われるという事もしばしばあったのだ。
 それを考えるとまた憂鬱になる。
「はぁ……」
 ため息が漏れる。
 また、自分でなんとかするしかないのかと嫌気がさしてくる。
 いつか幸せな結婚をして寿退社――そんな夢も遠い過去のようだ。
 そんな事を思っていると、【789番ヴェール】が襲いかかって来た。
 一瞬の判断ミスから、タティーは交わしきれない――
 ザスッ――
 非情な一撃がタティーに差し込まれたと思った時、それをかばった存在が居た。
 【エニグマ】である。
 タティーの事を真剣に愛している彼は、タティーをかばって【789番ヴェール】の一撃を受けたのだ。
 【エニグマ】は存在が消える間際に、
「だ、大丈夫か?……」
 とタティーを気遣った。
 消滅してしまうかも知れないこの瞬間も彼女を心配したのだ。
 それを見たタティーは、
「い、嫌……そんなの嫌……」
 とかばってくれた【エニグマ】が消滅してしまうことを嫌がった。
 その時、タティーの万能細胞、背花変が反応した。
 消滅していく、【エニグマ】の存在を背花変が再生させたのだ。
 背花変は何にでもなる万能細胞――それが、どのようなものであれ再生可能とするものだ。
 残念ながら、それは本物のクアンスティータに言える事で、タティーの背花変は不完全なものだったのだが、消滅する存在の補強をするくらいには使えたようだ。
 完全消滅する寸前の所で、【エニグマ】は九死に一生ではなく、九滅に一有を得た事になった。
 【エニグマ】は、
「い、生きているのか、おれっちは?」
 と言った。
 側に寄り添っているタティーは、
「それは私の台詞です……もう……」
 と言った。
 いつになく、良い雰囲気の二人。
 だが、それを邪魔する存在が、【789番ヴェール】だ。
 これはまだ、動きを止めたという訳では無い。
 ただ、【789番ヴェール】によって消滅するはずだった【エニグマ】の命をつなぎ止めただけなのだ。
 この件で【ヴェール】が本当に野放しにしておくのは危険と判断したタティーは、攻撃の意思を示した。
 それに呼応するかの様に、【めがねさん】の姿形も変わる。
 タティーの一、伊達眼鏡に過ぎなかった【めがねさん】は、形状を変え、本来の姿となった。
 【めがねさん】の正体はタティーの偽クアンスティータとしての特徴となるタティーの周りを飛び回る、女性の首を持つステッキの姿形になった。
 【めがねさん】の正式名称は、【首杖(くびづえ)】という。
 【めがねさん】改め【首杖】は、
「【ヴェール789号】、偽クアンスティータの名において命じる。起動停止せよ」
 と言った。
 【首杖】の役割は元々、人間であるタティーの弱い部分のサポート、補強がメインとなる。
 気の弱いタティーの代わりにクアンスティータの威光を示す事も役割の一つとなる。
 頼りないタティーの代わりにもなるのだ。
 【首杖】の言葉を聞いた【789番ヴェール】は、
 プシューっという音を立てて、起動停止した。
 偽クアンスティータの意思に近い行動原理を持つ【ヴェール】にとって、偽クアンスティータの命令という明確な強い意思を感じ取るという事は重要な事だった。
 タティー自身の意思の力が足りないので、【首杖】が代わりに示したという形を取ったのだ。
 タティーは、目をぱちくりとして、
「え?何?終わったの?」
 と誰とも無く聞いた。
 あっという間の時間での事だったので正確にどうなったのか理解出来なかったのだ。
 【789番ヴェール】は起動停止し、収縮し、また、どこへなりとも消えて行った。
 残されたのは【ヴェール】の起動キーのみだった。
 オロオロしていると、【首杖】は、
「タティー様、起動キーを背中の背花変に」
 と言った。
 【エニグマ】の存在を維持した分、タティーの背花変は減ってしまったので、減った分を【ヴェール】の起動キーで補えと言うことである。
 そうなれば、背花変は元に戻るし、騒ぎの元となった【ヴェール】の起動キーは消滅することになって一石二鳥だという事になる。
 タティーは、促されるままに、
「あ、うん……」
 と言って、背中に【ヴェール】の起動キーを近づけた。
 すると、残っていた背花変が反応し、【ヴェール】の起動キーを分解吸収し、万能細胞として補充した。
 すると、そこに、3名の女性が現れた。
 【ギルティーヤ】で待っているはずの3名だった。
 最大神殿側は無理矢理にでも破門した3名を【ヴェール】の件に関わらせようとして、ねじ込んできたのだ。
 ちゃっかりしている。
 結果的には、【ギルティーヤ】で事は起きなかったが、【ギルティーヤ】におびき寄せる罠を仕掛けたからこそ、タティー達は、【ヴィホヂット】一味と出くわす事にもなった訳でもあるので、一応、関わったと言っても良かった。
 【クインスティータ】は、
「納得しませんわ。こんなのこじつけですもの」
 と文句を言ったが、事なかれ主義のタティーは、
「良いじゃありませんか。これで、最大神殿の失態も水に流しましょうよ」
 と言った。
 慈悲深い判断とも言えるが、これ以上のもめ事はごめんだというのがタティーの本音だった。
 タティーとしては、【ヴェール】の事件で、より一層、【エニグマ】を将来の結婚相手として意識出来るようになったし、大団円(だいだんえん)という事にしたいのだ。
 【クインスティータ】としては納得しがたいことだったが、騒ぎの首謀者である【ヴィホヂット】は捕らえたので、とりあえずは、特殊警察に戻るという事で納得する事にした。


05 【ロスク】の気配


 タティー達は【ヴィホヂット】と一度は【ヴィホヂット】に置いて行かれた【リーチェニー】と【アイリーン】を拘束し、お皿型の浮遊装置で帰宅の途につく。
 無事に解決した事に安心したタティーは――
 チャポン
「ふぅ。……落ち着くなぁ〜……」
 といつものお風呂タイムを取った。
 今までどんなに窮地に追い込まれてもこの一日一回のお風呂タイムだけは欠かした事が無かった。
 ことある度に入っていた。
 そして、ことある度にドスケベ四人衆プラス1にお風呂を覗かれ、彼らは【クインスティータ】に捕まり、【ヴェルト】に突き出され、お尻百叩きの刑、【リセンシア】に突き出され、【地獄の仲人】の刑を受ける事になる。
 いろいろあったが、このいつもの、
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ許してぇぇぇぇ、許してくださぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ……」」」」」
 との悲鳴で締めくくられる光景が平和の象徴だったと言えるだろう。
 このいつもの光景を再現するために、その間の困難に立ち向かって行ったと言っても過言では無いだろう。
 そんな旅もタティーが特殊警察に着いたら終わってしまうのかと思うと少し寂しい気にもなるのだった。
 だが、問題が全て解決されたかというとそうでも無かった。
 【789番ヴェール】が起動する事は二度と無くなったが、【ヴェール】は【789番】一つではない。
 他にも【ヴェール】の起動キーは999も存在し、闇コス大会の優勝賞品などのように闇取引などで売買などもされている恐れもある。
 三桁の【ヴェール】だけでもこれだけ大騒ぎになったのだ、二桁や一桁の【ヴェール】が起動してしまったら、騒ぎはこの比ではないだろう。
 それに、【ヴェール】はこの惑星ファーブラ・フィクタの三大禁忌の一つに過ぎない。
 つまり、【ロスク】と呼ばれる偽クアンスティータになれなかった怪物と名前すら伝えられていない他の脅威がこの惑星にはまだ、存在しているのだ。
 【ヴェール】の様に、タティー達の冒険にどこかで関わって来るかも知れない。
 先の未来はタティーにもわからないのだ。
 先の事はわからない。
 タティー達は、自分達の出来る範囲の事をやっていくしかなかった。

 そんなタティー達が帰る先、特殊警察では【ロスク】問題の報告が上がっていた。
 【ロスク】――【ロス・Q(クアンスティータ)】――偽クアンスティータになれなかった怪物。
 その多くは、現界の宇宙世界に1億5000万体以上存在し、現在、他の偽クアンスティータ達が始末をしている最中だ。
 だが、それは、惑星ファーブラ・フィクタにも数十体居るとされているのだ。
 見つけ次第、排除命令を出すほどの極超危険指定の存在――それが【ロスク】だった。
 タティー達が惑星ファーブラ・フィクタの安全面を守る担い手だとすると、【ロスク】との衝突は避けられない事と言って良かった。
 【ヴェール】の様に起動さえさせなければ問題ないものとは違う。
 【ロスク】は惑星ファーブラ・フィクタ内に確実に存在しているのだから。
 見つかったという事は動いているという事でもあるのだ。
 お皿型の浮遊装置に取り付けられている特殊警察との連絡用の通信装置に緊急連絡が入ったのはそれから間もなくしての事だった。
 署員による、
「緊急事態発生、緊急事態発生、署長、聞こえますか?署長の現在地より、南東2246の地点に【ロスク】と思われる反応が現れました。至急調査に向かってください」
 との連絡が来た。
 旅すがら【リセンシア】に【ロスク】の事を聞いていなければ、【緊急事態発生】と言われても何の事だかわからなかっただろう。
 だが、今はわかる。
 【ヴェール】と同じくらい、危険なものだと言うことが。
 【ヴェール】の場合は、偽クアンスティータの意思と同等の意思で動くために止める事が出来た。
 だが、【ロスク】は違う。
 【ロスク】は偽クアンスティータになれなかった怪物だ。
 言ってみれば、反偽クアンスティータと呼んでも良いくらいの存在。
 偽クアンスティータであるタティーの言うこと等聞きはしない。
 即刻、排除しなくてはならない、超危険な存在なのだ。
 【ヴェール】の時の様に何となくで解決出来る相手ではなかった。
 一報を受け、タティー達に緊張が走る。
 相手は、クアンスティータの汚点とも言うべき存在。
 クアンスティータ属性ではないが、偽クアンスティータを元々、目指していた存在だというだけあって、その力は恐ろしく強大だ。
 他の偽クアンスティータも油断すると手痛いしっぺ返しを食らうほどの相手。
 まして、偽クアンスティータのオマケのようなタティーが余裕を持って戦えるような相手ではないのだ。
 これまでの様に嫌々やっているような消極的な態度だと一発でやられてしまう恐れもあるのだ。
 【ロスク】は最大神殿の力を借りずとも自然に【ステージ2】もどきの力をひねり出せる。
 つまり、通常の攻撃力そのものが、現界を揺るがすほどの力を秘めているのだ。
 偽クアンスティータの意思に従わない、それに近い力を持つ存在。
 それは存在して居るだけで脅威と言えるだろう。
 神話の時代より存在し、今だに一掃できていない脅威――それが【ロスク】だ。
 【ヴェール】の場合は起動させるというワンクッションがあったが、【ロスク】の場合は、確認次第戦闘ということになる。
 そんな【ロスク】を惑星ファーブラ・フィクタで暴れさせる訳にはいかない。
 タティーは詳しく知ってそうな【リセンシア】に【ロスク】の情報をもっと詳しく話してもらうことにした。
 【リセンシア】によると、
 【ロスク】は普段は休眠状態にあるらしい。
 クアンスティータも本体は何度か生まれ変わる度に繭蛹卵(けんようらん)という状態になり、次の本体が生まれる時にさらなる大きな力を持って何度も生まれなおすと言われている。
 【ロスク】にもそれと少しだけ似た特徴があるらしい。
 【ロスク】の場合は、休眠中に活動中に使うエネルギーを貯めるらしいが。
 【ロスク】は元々、偽クアンスティータになろうとしていた存在だが、そのあまりのパワーに活動エネルギーがすぐに底をつくような存在だった。
 そのため、偽クアンスティータとして認められなかったのだ。
 【ロスク】は休眠状態の時に莫大なエネルギーを貯め、活動期になるとそれを一気に爆発させて、行動するという。
 それは傍目には暴走している様にも映るとのことだ。
 簡単に言えば制御出来ない偽クアンスティータの力を持っている存在が【ロスク】であると言える。
 力を使いこなせないのだから、格としては当然、偽クアンスティータよりも下になるのだが、活動期に一気に使い切るそのエネルギーは十分に偽クアンスティータにとっても脅威となるものだという。
 一通り活動するとまた、休眠状態に戻るのだが、その状態になってしまうと存在感がものすごく少なくなってしまい、発見するのはほぼ不可能と言われて居る。
 そのため、活動期より、圧倒的に長い休眠状態にある【ロスク】達の発見が困難なものとなっていて、偽クアンスティータ達も【ロスク】を発見出来ずに始末出来ない状態となっているのだ。
 また、【ロスク】は休眠状態から活動期に入ると、一気に動く事もあるので、速やかに排除していかないと周りにどんな被害が起きてしまうか予想も出来ないと言われている。
 危険性で言えば、【ヴェール】よりも上だと言われて居るのだ。
 その説明を受けて、タティーの顔は青ざめた。
 もうこれ以上は無いくらい怖い目にあっているとは思っていたが、さらにそれらを上回る恐怖を突きつけられた気分だった。
 タティーの【ロスク】に対する印象はこれだった。
 怖い。
 怖すぎる。
 あの【ヴェール】よりも更に怖い。
 ――だった。
 タティーの恐怖の歴史に更に上書きされた気分だった。
 怖くてたまらないのだが、これもまた、タティーが出てなんとかするしかないだろう。
 何度も言われたことだが、他の偽クアンスティータは他の【ロスク】などの処理をするのに忙しい。
 数十体しかいないのだから、惑星ファーブラ・フィクタ内に存在する【ロスク】くらいはタティーがなんとかするしかないのだ。
 そう考えるとまたいつもの感情がわき起こる。
 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……
 ――で、
 逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい……
 ――で、
 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……
 の三段感情だ。
 それで結果はいつも一緒。
 誰も助けてくれない。
 結局は自分でなんとかするしかないのだ。
 だが、今回は、今までと少し違った。
 今まではタティーだけが怯えて、周りは、いつもの事だとして、どうせ、解決するんだからと、とらえていた。
 今回の場合は、他のメンバー達も不安を隠せなかった。
 それだけ、【ロスク】の危険性は惑星ファーブラ・フィクタ内では、かなり有名だったのだ。
 恐怖という点においては【ヴェール】を大きく上回る【ロスク】――
 その【ロスク】が動き出したという報告をタティー達は受け取ったのだ。

 タティーの胸がいつも以上に鳴り響く。
 ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……
 だが、この鼓動はタティーだけのものでは無い。
 他のメンバーの鼓動も聞こえるようだった。
 いつものやりとりが無い。
 いつもの様に、タティーがお風呂に入ってからの一連の流れが無かった。
 それだけ、タティー一行にとって異常事態として認識していたのだ。
 現場に行くのが怖い。
 行けば、すぐに戦闘になる。
 【ロスク】の戦闘力の高さは想像出来ないほど高さだという。
 そんな者と戦って生きて帰れるのか?
 いや、死ぬだけでなく、それ以上の恐怖を味わうことになるかも知れない。
 足が重い。
 一歩が前に出ない。
 だが、そんな気持ちとは裏腹にお皿型の浮遊装置は着実に【ロスク】事件発生報告を受けた現場に進んでいた。
 黙っていてもここからだと後、2、3日の後には現場に到着するだろう。
 今度ばかりはおちゃらけてなどいられない。
 ゴクリとつばを飲むタティー。
 だが、今回はタティーだけじゃない。
 【クインスティータ】も、
 【ヴェルト】も、
 【リセンシア】も、
 ドスケベ四人衆プラス1も、
 捕まえて護送中の【ヴィホヂット】達3名も固唾をのんでいる。
 やばすぎる存在、【ロスク】――
 その脅威まで、どんどん近づいていた。
 タティーは祈る。
 今度こそ、駄目かも知れない。
 でも、生きて帰ったら素敵な恋をするんだと。
 タティーはまだ、結婚→引退を諦めていない。
 こんな怖い思いをして、そんな怖い存在と戦って散るなど彼女のプランには無いのだ。
 素敵な男性と知り合って、素敵な恋をして、そして、結婚、引退。
 それが全てだった。
 もしかしたら、【エニグマ】がその相手になるかも知れないと思うようになって来たのに、こんな事で死にたくない。
 タティーは自分が絶対、
 助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる、助かる……
 と何度も連呼して自己暗示をかけた。
 タティーの必勝スタイルだ。
 いつものように不安に思いながらも結果的にはなんとかなる。
 そういうパターンで済む事を必死で祈るのだった。
 ――神様、お願いします。何度目かのお願いですが、私、幸せになりたいだけなんです。他には何も望みません。ですから……
 困った時の神頼みだった。
 だが、クアンスティータはどちらかと言えば神とも敵対している立場だ。
 その祈りが届くかどうかは甚だ疑問ではある。


続く。



登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
首杖めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。
 正体は首杖(くびづえ)という女性の首にステッキで偽クアンスティータの周りを回って補佐をする第三の偽クアンスティータとしての特徴だった。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。

















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。




















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。
















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男


010 風来坊のえーちゃん【エニグマ】
エニグマ
 タティーへの覗きに参加してきた謎の男。
 本人は【風来坊のえーちゃん】と名乗るが正体は【エニグマ】領の領主、【エニグマ】本人。
 タティーの全身をこよなく愛す、シルエットフェチでもある。
 自分の立場を捨てでもタティーと付き合いたいという気持ちを持っている。
 今回領主の座を捨て、ドスケベ四人衆に加わり、タティー達一行を追う事になる。
 タティーとの距離が近づきつつある。











011 ヴィホヂット・ウボヒー
ヴィホヂット・ウボヒー
 ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】にフラれた経験のある性格の悪い悪女。
 【リセンシア】にあてがわれた女の子達を手下に持つ。
 あの手この手でタティー達に嫌がらせをしようと画策している。
 今回、盗賊を使って優勝賞品である【ヴェール】の起動キーを盗み出す。


012 リーチェニー・パルフェーム
リーチェニー・パルフェーム
 【ヴィホヂット】に勧誘されたプロのコスプレイヤーの少女。
 タティーと全く同じプロポーションをしているため、ドスケベ四人衆が揃って好みそうな体型をしている。
 アイドルの夢を捨て、プロのコスプレイヤーとして生きる道を選択した。
 今は、この仕事に誇りを持っているまっすぐな少女。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかり、悪の道を進もうとしているかわいそうな少女でもある。
 本家越えと呼ばれる人気者のレイヤーでもある。
 【ヴィホヂット】の悪巧みを実行しようとするも根が正直な彼女は失敗し、闇コスプレ大会を棄権する事になってしまった。


013 アイリーン・エイムズ
アイリーン・エイムズ
 【ヴィホヂット】の新たなる手下となる者喰い王(ものぐいおう)の選手。
 期待の新人とされていたが、本戦大会の最低出場条件である六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ)を最低10体ずつ吸収するという事が不可能であったため、夢を断念、もう一つの夢である最大神殿の神姫巫女(かみひめみこ)を目指そうとするも大会の司会者にケチをつけられ意気消沈。
 その弱った心に【ヴィホヂット】がつけ込み、手籠めにされた。


014 カルメン・サイアーズ
カルメン・サイアーズ
 レディーキラーと呼ばれるナンパ師。
 正体は女性だが、普段は男装している。
 美しい女性をコレクションとして自宅に監禁するという危ない趣味を持つ。
 タティーを落とそうとするも玉砕する。
 【ヴィホヂット】に弱みにつけこまれ、彼女の傘下に加わる事になる。
 起動した【ヴェール】により、存在抹消されてしまう。










015 土の神姫巫女(かみひめみこ)、フルテララ
フルテララ
 土の最大神殿を統治する土の神姫巫女(かみひめみこ)。
 土の力を司り、現界においてはクアンスティータ属性の土系統が9割、フルテララ属性の土系統が1割とされている。
 彼女と敵対するという事はその1割の土系統の力を没収されてもおかしくないという事になる。
 タティーがおののくほどの神々しさをまとい、登場する。


016 ヴェール789号
ヴェール789号
 起動した【ヴェール】の三桁番号兵器の一つ。
 攻撃した対象を存在抹消させる力や、時間の流れを変えるなどの力を持つ。
 存在するにあたってボディーとなる候補を検索し、無性生物のボディーを選択した。
 その後、【首杖】の命令で起動停止し、起動キーに戻った後、タティーの背花変の素材になり消滅する。