第005話 風来坊のえーちゃん

タティー・クアスン編挿絵05

01 タティー・クアスンの行動


 タティー・クアスンは元、普通の女の子である。
 いじめられっ子でもあった彼女はある時、【めがねさん】と呼ばれる眼鏡型の謎の生命体にスカウトされて、偽クアンスティータとして、惑星ファーブラ・フィクタに拉致されてしまった。
 理由は彼女は最強の化獣(ばけもの)であるクアンスティータのアナグラムとしての名前を両親からもらっていたのである。
 彼女は偽クアンスティータとして、惑星ファーブラ・フィクタの特殊警察の署長という立場を割り当てられた。
 特殊警察とはクアンスティータに仇なす存在を取り締まる警察の事を言う。
 そんな彼女に突っかかってくる存在が居た。
 その存在の名前は【クインスティータ・クェンスティー】と言う。
 本名は【スウィート・ピュア】というかわいらしい本名があるのだが、クアンスティータを崇拝する彼女は【クインスティータ】と名乗っていた。
 【クインスティータ】は本来タティーがやるべき仕事、クアンスティータに仇なす存在の取り締まりに積極的だったが、彼女自身は署員ではない。
 あくまでもボランティアのような存在だった。
 ある時、事件が起きる。
 現界(げんかい)という宇宙世界においては危険レベルとされる【ステージ2】に近い【ステージ2】もどきの力が闇ルートで売買されているとの情報を得た。
 タティーと【クインスティータ】はその力が流出していると思われる最大神殿の調査に乗り出すことになるが、このままではメンバーが足りないという事で新たに二名、追加する。
 それが、【ヴェルト・ハウプトシュタット】と【リセンシア・アジュダンテ】だった。
 【ヴェルト】はタティーにつきまとっているドスケベ4人衆のリーダー、【プライス・フィー】の元カノで、タティーに嫉妬し、戦いを挑んで来たが、タティーの自動防御で彼女を制すると子分になった。
 【リセンシア】は、いわゆる腐女子で、ボーイズラブ、ガールズラブが大好きな特殊な性癖を持つ女の子だ。
 タティーと【めがねさん】と【クインスティータ】、【ヴェルト】と【リセンシア】の5名で最大神殿の調査に乗り出すのだった。
 タティーが動くと動く存在が二組、存在した。
 一組目は、ドスケベ4人衆だ。
 ドスケベ4人衆とはタティーのお尻大好き【プライス】、おっぱい大好き【スコント・プレッツォ】、くびれ大好き【ベネフィス・フォルテュヌ】、足大好き【クリエント・カントラークト】で構成される懲りない連中の事を指す。
 タティーの入浴シーンを覗くことに全力を尽くす彼らがついてきたのだ。
 それともう一つ。
 【プライス】にこっぴどくフラれた悪女【ヴィホヂット・ウボヒー】もまたついてきた。
 【ヴィホヂット】は逆恨みからターゲットを【プライス】→【ヴェルト】からタティーに変えてつきまとってきた。
 【ヴィホヂット】は途中でプロのコスプレイヤーとして生活していた【リーチェニー・パルフェーム】をスカウトし、タティー達にちょっかいをかけて来た。
 【クインスティータ】の希望で参加した闇のコスプレ大会に出場し、タティーが苦労の末、優勝し、優勝賞品である超兵器【ヴェール】の起動キーを手にした途端に盗賊を使ってそれを盗みだし、【ヴィホヂット】は持ち去った。
 タティー達は主犯格が【ヴィホヂット】だと断定し、後を追うのだった。
 【ヴェール】が超危険な兵器だとわかった事で、最大神殿の件よりもまず優先させるべきだと判断した。
 タティー達の旅は続く。


02 【ヴェール】の謎


 チャポン。
「ふぅ〜、落ち着くなぁ〜」
 とりあえず、一旦、タティーはお風呂に入った。
 【ヴィホヂット】を追う事にしたが、最低でも一日一回のこれだけは外したくないのだ。
 タティーがお風呂に入ると当然――
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」
 という声が漏れる。
 ドスケベ四人衆だ。
 もはや、タティーのお風呂とセットと言っても過言では無い。
 そして、【クインスティータ】に見つかり、
「何をしてますの?」
 と言う。
 ドスケベ四人衆はいいわけにならない、いいわけをして【ヴェルト】の前に突き出され、お尻百叩きの刑を受け、その後、【リセンシア】の前に突き出され、
「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」」」」
 と【地獄の仲人】のお仕置きを受ける。
 いつものことである。
 覗かれるタティーも覗くドスケベ四人衆も同様に懲りないのであった。

 いつものタティー達だが、先日、闇コス大会の運営委員の過去をタティーの千角尾(せんかくび)で探った際、さらなる謎が深まった。
 クアンスティータにもついているこの千角尾相手では嘘がつけない。
 例え記憶を上書きしていてもその事実を知っていたという過去がある限り、遡って調べることが出来るからだ。
 にも関わらず、複数の運営委員を調べた結果、それぞれがそれぞれ別の記憶を持っていた。
 時には、魔神の様な存在。
 時には、獣の様な存在。
 時には、悪霊の様な存在。
 時には、人造人間の様な存在。
 時には、妖精の様な存在。
 時には、要塞の様な物。
 時には、宝石の塊。
 時には、雲の様な存在。
 時には、複数のメンバーがある組織の名前。
 時には……という様に千差万別の【ヴェール】に対する評価があったのだ。
 全く別の存在などが全て、正解であり正解では無い。
 その様な答えが導き出されたのだ。
 千角尾は【ヴェール】とは何物でも無い存在。
 何者かになろうとする存在と出ていた。
 クアンスティータ学の知識を利用して作った存在であり、ブラックボックスの多い存在であるというのは人々が噂する都市伝説などを吸収し、一つの(あるいは複数の)形をなそうとしている存在の様なもの――それが【ヴェール】だと言うのだ。
 つまり、【ヴェール】が何者かというのではなく、【ヴェール】はそうやって噂話を吸収し、大きくなっていくもの。
 何者かと何者ではないというのは現在では、等価値の存在。
 それが、【ヴェール】だという。
 噂では【ヴェール】には0から999番までの番号が割り当てられていて、全部で1000の【ヴェール】があるというのもある。
 三桁より二桁、二桁より一桁の番号が割り当てられている【ヴェール】の方がより、やばい【ヴェール】であるとも。
 【ヴェール】の起動キーとはそれらの噂話のエネルギーを実体化させるキー。
 それまでたまった噂話のエネルギーは想像出来ないくらい膨大であり、だからこそ、起動キーは恐れられているのだ。
 【ヴェール】の起動キーで実体化させた【ヴェール】は起動させた者の言うこと等聞かない。
 破滅をもたらすだけだとされているのだ。
 それを聞いた【クインスティータ】は所有する事から処分する方向で考え出したのだ。
 それは普通の存在が扱ってよい代物では無いと判断して。
 だが、悪女【ヴィホヂット】や、【ヴェール】を求める者達に話してもそれは聞かないだろう。
 自分達から奪おうとそんな嘘をついていると判断するだろう。
 だからこそ、タティー達は力ずくでも【ヴェール】の起動キーを奪わねばならなかった。
 全てはクアンスティータの誕生する予定宇宙である現界を守るために。


03 風来坊のえーちゃん


 【ヴィホヂット】を追いながらとある領域にまで行ったタティー達は立ち止まる。
 ここから先は領主がいる領域になるからだ。
 【エニグマ】と言う領主が五将と呼ばれる側近達と共に支配している独立国家の様な場所だった。
 いかに特別警察と言えども無許可で侵入すればただでは済まない領域と言えた。
 【クインスティータ】は、
「回り道しましょう。ここは特別警察の力が及ばない領域です。クアンスティータ様の勢力として逃げる訳には行きませんが、ここはまず、【ヴェール】の行方が最優先ですわ。【ヴィホヂット】と【エニグマ】の両方を敵に回すのは得策ではありませんわ」
 と言った。
 それを聞いたタティーは言おうかどうか迷った。
 実は、千角尾を使って【ヴィホヂット】の足取りを探索してみると、【ヴィホヂット】はどうやら、【エニグマ】の領域に逃げているらしいというのがわかっていたからだ。
 つまり、【ヴィホヂット】が【エニグマ】の領域を出ない限りタティー達は捕まえられないという事になるのだ。
 【ヴィホヂット】が【ヴェール】の起動キーの使用法を理解する前に、彼女を捕まえなくてはならないが、【エニグマ】の領域はタティー達にとっても危険な領域となる。
 面倒事は避けて通りたいタティーだが、それだと、いつまで経っても【ヴィホヂット】は捕まえられない事になる。
 恐らく、それがわかっているからこそ、【ヴィホヂット】は【エニグマ】の領域に逃げたのだろう。
 狡猾な彼女の事だ。
 【エニグマ】に取り入っているかも知れない。
 うーん、困った。
 どうしよう?
 結論が出ない。
 タティーは頭をひねって考えた。
 だが、やはり答えは出ない。
 こんな時はやっぱり、お風呂だ。
 お風呂しかない。
 タティーはそう思い、脱衣所でいそいそと服を脱ぎ始めた。
 【クインスティータ】は、
「またですの?毎回、覗き魔を捕まえる身にもなって欲しいですわ」
 と言った。
 タティーは、
「実は、【クインスティータ】さんに報告して良いのかどうか迷っている事があって、それを決めたいのでお風呂で考え事を……」
 と言った。
「なんですの?私に報告って?」(【クインスティータ】)
「だから、それを考えるために、一旦お風呂に……」(タティー)
「……ちょっと納得しがたいですが、まぁ、良いでしょう。さっさと入って考えをまとめて来なさい。覗き魔はいつものようにやっておきますから」(【クインスティータ】)
「ありがとう」(タティー)
 【クインスティータ】の許可も得られたので、早速お風呂につかるタティー。
 チャポン
「ふうぅ……。おちつくなぁ〜……」
 と一息つく。
 タティーがお風呂に入れば奴らが動き出す。
 ドスケベ四人衆だ。
 彼らは、
「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」」
 と興奮した声を上げる。
 だが、変だ。
 カギ括弧がいつもより一つ多い。
 誰か一人多いのだ。
 【クインスティータ】は、
「とりあえず、捕まえてみましたけど……誰ですの、あなた?」
 と聞いた。
 【クインスティータ】が捕まえた覗き魔は5人。
 一人目は、お尻大好き【プライス】。
 二人目は、おっぱい大好き【スコント】。
 三人目は、くびれ大好き【ベネフィス】。
 四人目は、足が大好き【クリエント】。
 ――で、五人目がいたのである。
 偽クアンスティータであるタティーの裸を覗こうとは不届きな奴である。
 【クインスティータ】はこの五人目に誰かと聞いたのだ。
 その五人目は、
「お初にお目にかかる。おれっちはそうだな……【風来坊のえーちゃん】とでも呼んでもらおうかな?」
 と気取って言った。
 【クインスティータ】は、
「覗き魔の分際で、何が【風来坊のえーちゃん】ですの?――まぁ、良いですわ。覗きをして捕まえた以上、彼らと共に地獄のフルコースを味わっていただきますわ。これはお約束ですの」
 と言った。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「ふっ……地獄のフルコースか……どんな素敵な体験なのか、おれっち楽しみ……」
 と言ったが、【クインスティータ】の言う地獄のフルコースとは、【ヴェルト】によるお尻百叩きと【リセンシア】による【地獄の仲人】の刑の事を指す。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「い、嫌だぁ〜……もうしません。もうしませんから堪忍してください……」
 と言った。
 一通り罰を受けた後、ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】が、
「あんた、見所があるな。あんたは彼女(タティー)のどこがお好みなんだい?」
 と聞いた。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「ふっ……おれっちは全てさ。彼女の全てのフェチさ。強いて挙げるなら彼女のシルエットだな。彼女のシルエットは美しい。一目惚れさ」
 と言った。
 こうして、ドスケベ四人衆に五人目の同士、タティーの【シルエット】フェチの【えーちゃん】が加わった。
 ドスケベ四人衆と意気投合した【えーちゃん】は、
「何かあったら、声をかけてくれ。おれっちは、この町のどこかでプラッとしているからさ」
 と言って立ち去っていった。
 【風来坊のえーちゃん】とは何者なのか?

 タティーやドスケベ四人衆達と別れてしばらく経った時、【風来坊のえーちゃん】の元に何者かが近づく。
 その者は、
「【エニグマ】様、こちらにおいででしたか?五将様方がお待ちです。領域に【ヴェール】の起動キーを持った者が侵入したという情報が」
 と言った。
 【風来坊のえーちゃん】とはタティー達が恐れていた【エニグマ】の事を指していたのだ。
 【えーちゃん】こと、【エニグマ】は、
「そうか、【ヴェール】の事はあいつら(五将)に任せる。おれっちは新たな楽しみを見つけた」
 と言った。
 配下の者は、
「またですか?あなた様は御領主様なんですから、もう少し……」
 と言い、【エニグマ】は、
「そういうカタッ苦しいの嫌いなんだよ。おれっちは【風来坊のえーちゃん】やっている方が性に合っているんだって」
 と言った。
 配下の者は、
「少し御自重ください。見てましたよ。あれでは配下の者に示しがつきません。あの女達を捕まえて……」
 と言ったが、【エニグマ】は、
「野暮な事はよせよ。おれっちは覗きをしたから捕まってお仕置きを受けた……ただ、それだけの事だ。それに対して、部下使って報復に出た日には余計みっともないだろうが。絶対にやめろよな、そういうの……」
 と言った。
 配下の者は、
「【エニグマ】様がそうおっしゃるのであれば、従いますが、情けのうございますよ」
 と涙ぐんだ。
 【エニグマ】は、
「そういうなって。運命の赤い糸ってやつかもしれんな。――彼女、名前、なんて言うんだろうな?」
 と言った。
 配下の者が、
「早速、調べます」
 と言ったが、【エニグマ】は、
「だから、そういう野暮な真似は止めろっつってんだって。俺が自分で調べてアプローチすっから黙ってみてろって」
 と言った。
 配下の者は、
「はぁ……わかりました。そうさせていただきます。では失礼します」
 と言って、【エニグマ】の前から消えた。
 【エニグマ】は、
「それにしても綺麗な子だったなぁ――今度、いつ行こうか……」
 と言って、歩いて町のどこかに消えて行った。
 飄々(ひょうひょう)とした【エニグマ】という男。
 彼は味方となるのか、それとも敵に回るのか?
 それはまだ、わからない。
 彼に対してはわからない事が多すぎる。
 今は正体が【エニグマ】という領主である【風来坊のえーちゃん】と言うことしかわかっていない。


04 【ヴィホヂット】の更なるスカウト


 【ヴィホヂット】が【エニグマ】領に足を踏み入れたのは、何も、タティー達から逃げるためだけではなかった。
 この地で新たなるスカウトしようとしていた。
 彼女が目をつけていたのは、吸収姫(きゅうしゅうき)と呼ばれる存在だ。
 宇宙絶滅危惧種(うちゅうぜつめつきぐしゅ)の一つとして認定されている吸収者(きゅうしゅうしゃ)マンジェ・ボワール族は自分の力をアップさせるために、様々な存在を吸収して変化していく存在とされた。
 危機感を感じた他の存在によるマンジェ・ボワール族への殺戮が始まったという不幸な歴史があった。
 その不幸な歴史をスポーツとして発展させたのが者喰い王頂上戦(ものぐいおうちょうじょうせん)と呼ばれる大会だ。
 その者喰い王頂上戦発祥の地がこの【エニグマ】の領地になっているのだ。
 元々、【エニグマ】の領地は現界の他の場所に存在していたが、惑星ファーブラ・フィクタが出現した時にこの地に引っ越したとされていて、新たな聖地と呼ばれているのだ。
 者喰い王頂上戦は存在を吸収するタイプのフードファイトの様なものとなっていて、競技用の存在が作り出されていて、その競技用の存在(肉の塊)を作り出す技術もこの地で開発されていて、宇宙中に広まった。
 競技用の存在は、【土】、【火】、【風】、【水】、【雷】、【光】、【闇】の七大属性原素(ななだいぞくせいげんそ)を原料としているものだったが、ここ、惑星ファーブラ・フィクタに来てからは、最大神殿の力も借り、新たに、【変】、【幻】、【外】、【他】、【奇】、【妙】の六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ)である食材となる競技用の存在を加える事に成功している。
 新たに加わった六大特殊属性原素の食材は現界においては、惑星ファーブラ・フィクタでしか競技出来ないと言われているため、者喰い王頂上戦の最終決戦の地とも言われている。
 その競技者達は、存在を吸収することに長けた存在達が集まって、白熱した競争をすると言われている。
 その者喰い王頂上戦には男女混合戦と女王戦の二種類があり、女王戦のトップ100に入るとスター吸収姫と呼ばれる。
 その吸収姫の中でもアイドル吸収姫と呼ばれる【フロリゼル・チェルニー】をスカウトするのが、本来の目的だった。
 彼女は万年ランク4位と言われ、トップ3には入れず、いつも泣いていた。
 それが、彼女の容姿と相まって人気を博していたのだ。
 が、最近になって念願の初優勝、そして二連覇をしたらしい。
 他の選手が吸収するのを不得意としている六大特殊属性原素の吸収力が優れていた彼女が優勝することになったのだ。
 正に、開催地が惑星ファーブラ・フィクタに移ったからこそなれた栄冠――女王だった。
 見た目を最重要視する【ヴィホヂット】はそのアイドル吸収姫である【フロリゼル・チェルニー】をスカウトするためにこの【エニグマ】領まで足を運んでいた。
 だが、ギャラリー達の話によると【フロリゼル】は、QOHの男を追いかけて行ってしまい、今大会から休業しているとの事だった。
 現女王不在の大会となってしまった事をギャラリー達が嘆いていたのを聞いたのだ。
 QOHとは【クオーターオブハンドレッド】の略で、クアンスティータとその誕生により出現が確定化されるとされる総全殿堂(そうぜんでんどう)と呼ばれる存在の次の実力者とされる存在を表す言葉である。
 クアンスティータの姉であり兄でもあるクアースリータもそのQOHに属する様になるとされている。
 つまり、大物である。

 お目当ての女の子が居ない大会と知り、悔しがる【ヴィホヂット】だったが、吸収姫達には、まだまだ可愛い女の子もたくさんいて、目指せ、第二の【フロリゼル】と言わんばかりの盛り上がりを出していると聞いて、【フロリゼル】の代わりになる、新たなアイドル吸収姫をスカウトするために、予選大会からチェックしていた。
 【ヴィホヂット】がチェックしているのは新人王発掘戦と呼ばれる大会で、新人選手達が集う大会だ。
 その代表戦最終決戦がこの【エニグマ】領で行われるという。
 新人王発掘戦は現界の宇宙の各地、10万カ所以上の場所で予選大会を行っていて、代表戦最終決戦がこの【エニグマ】領で行われる。
 というのも代表戦最終決戦に勝ち上がると本戦と呼ばれる大会に出場する権利が与えられる。
 新人達は本戦に出場することによって、やがて吸収王(きゅうしゅうおう/男女混合戦の王者の事を指す)吸収姫(女王戦の王者)と呼ばれるようになるのだ。
 本戦に出場するのに最低限必要なのは、六大特殊属性原素を吸収出来るかどうかだ。
 本戦の決勝がやはり、【エニグマ】で行われるので、決勝の食材でもある六大特殊属性原素の内、最低でも4種類は吸収出来る事が確認されないと本戦への出場権は与えられない。
 つまり、代表戦最終決戦とは、その本戦での最低限の出場権を得るための決定戦になるのだ。
 この大会で優勝する必要はない。
 ただ、六大特殊属性原素の内、最低でも4種類は吸収出来る事を証明出来れば良いのだ。
 これが出来る出来ないで、本戦大会に出場出来るか、地方戦だけの選手になってしまうかが決定されるという新人選手にとっては天と地の差を決められる大事な大会となっているのだ。
 【ヴィホヂット】としては、代表戦最終決戦の上位に食い込む選手を探す必要はない。
 ただ、【ヴィホヂット】の都合が良い駒になりそうなどこか気の弱そうな選手を探し出せば良いのだ。
 それで、いつか手籠め(てごめ)にしてやろうと予選大会からチェックしていた選手を見るためにやってきたのだ。
 【フロリゼル】がいないのならその選手しかいないと思っていたのだ。
 【ヴィホヂット】がチェックしている選手の名前は、【アイリーン・エイムズ】――若手注目株の一人だった。
 【アイリーン】は見た目が女の子っぽいのを気にしていて、ボーイッシュスタイルを貫いている選手で、それでも女の子っぽさが隠せていないという女の子だった。
 そこに、【ヴィホヂット】の食指が反応したのだ。
 実は、者喰い王頂上戦を知ったきっかけは彼女、【アイリーン】だった。
 最初はあの子可愛いな程度だったのだが、その後でトップ選手である【フロリゼル】の事を知って一気に興味が爆発したのだ。
 つまり、者喰い王に興味持つきっかけとなった選手なのだ。
 【ヴィホヂット】は唯一の手下となった【リーチェニー】を伴って【アイリーン】が出場する代表戦最終決戦を見学に来た。
 代表戦最終決戦は本戦の種目にもなっている六大特殊属性原素を持った競技用の存在がおかれている競技場でいかに吸収出来るかを決める競争となる。
 本戦では競技用存在には競技を複雑化させるために、逃走能力、反撃能力などが付加され、自動で競技用存在は散り散りに逃走したりもするのだが、代表戦最終決戦では、胃力(いぢから)――つまり、吸収力だけを見るために競技用の存在は肉の塊として、ドンと置かれたままになっている。
 競技用の存在とは魂を持たない肉人形のようなものであるが、普通の存在としての要素ももっている。
 それに十三の属性原素を付随させて食用として作り出されたのが、競技用の存在となっている。
 本来、普通に存在している存在で行うと問題があるために、競技用の存在が作られたのだ。
 これにより、吸収能力を持った者が職を持てるようになり、他の存在が吸収されて亡くなるといった事件が年間を通して八割以上減ったというのだからかなり貢献されているというところだ。
 それでも違法に他者を吸収する者は居る。
 それを取り締まるために、宇宙警察などが躍起になってもいるのだが。

 【ヴィホヂット】がチェックしている【アイリーン】は六つの食材を順番に吸収していっている。
 【アイリーン】としてもこの星に来て初めて吸収する存在とあって、大分苦戦しているようだ。
 七大属性原素についてはトップ選手にも引けを取らない彼女も六大特殊属性原素の癖の強い特性には悪戦苦闘しているようだった。
 それもそのはず、六大特殊属性原素は現界においては本来存在しないはずの原素なのだから。
 かなり頑張っていたのだが、【変】原素6体、【幻】原素3体、【外】原素1体、【他】原素2体、【奇】原素7体、【妙】原素9体を取り込んだ時点で食材をはき出してしまった。
 体が拒絶反応を示し、出してしまったのだ。
 本戦への最低出場体数は六大特殊属性原素をそれぞれ10体以上と決められている。
 この時点で、【アイリーン】の脱落が決まってしまったのだ。
 本戦で活躍するトップ吸収姫ともなれば、代表戦最終決戦では最低原素でも10000体以上は吸収しているポテンシャルを発揮していた。
 つまり、【アイリーン】は本戦では全く、通用しないという烙印が押されてしまった事になるのだ。
 10体にも満たないのでは惨敗も良いところだ。
 ショックを隠せない【アイリーン】に大会の司会者の容赦ない言葉が浴びせる。
「【アイリーン】選手。ここで脱落ですね。六大特殊属性原素全ての食材に対して、10体以下という無残な結果になりました。七大属性原素の食べっぷりを見る限りでは将来を期待された選手だっただけに残念です。これから地方選手としてやっていくことになると思うのですが……」
 と言った時、【アイリーン】は、
「あ、いえ……、残念ながら吸収姫としての夢は諦めざるを得ないので、もう一つの夢である最大神殿の神姫巫女(かみひめみこ)を目指そうかと……」
 と答えた。
 すると司会者は、
「おっと、最大神殿の神姫巫女と来ました。これは驚きです。という事は一から修行をするという事ですか?」
 と言い、【アイリーン】は、
「あ、はい。六大特殊属性原素の最大神殿の神姫巫女は体質的に無理みたいですので、七大属性原素の最大神殿の神姫巫女ならば、私にも可能かと……」
 と言った。
 司会者は、
「道は険しいですよ。それでもおやりになるのですか?」
 と言い、【アイリーン】は悔し涙をためながら、
「う……はい……頑張ります」
 と答えた。
 その後も司会者による、傷をえぐるような言葉が浴びせられた。
 司会者はこの時の評判が悪く、司会者を降板させられたのだが、実は、これには【ヴィホヂット】の暗躍があったのだ。
 司会者の弱味を握り買収し、【アイリーン】に失礼な質問をし続けろと脅していたのである。
 目的は【アイリーン】を精神的に追い詰める事にあった。
 神姫巫女になどさせるものか……
 【アイリーン】は私が落とすとばかりに手練手管を用意して、手ぐすね引いて待ち構えていたのである。
 傷心の【アイリーン】は偶然を装って出会った【ヴィホヂット】に誘われるがままに、彼女が【アイリーン】を落とすためだけのために借りた家に誘い込まれ、悪夢の夜が始まった。
 【リーチェニー】と共に、悪の道へと誘う儀式が始まり、やがて、【アイリーン】も【ヴィホヂット】の事を、
「お姉様……」
 と呼ぶようになった。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかった哀れな被害者がまた、一人。
 同性の女の子を落とす事にかけては【ヴィホヂット】は百戦錬磨と言えた。
 こうして、【ヴィホヂット】一派は、【ヴィホヂット】、【リーチェニー】、【アイリーン】の三名となった。
 【ヴィホヂット】の悪行は続く。


05 七大ボス


 【ヴィホヂット】は更にメンバーを探す事にしていた。
 そこで目をつけようと思っていたのが、七大ボスと呼ばれる存在だったが、さすがにそれは怖過ぎると判断して止めることにした。
 【ヴィホヂット】は自分が女王様でなくてはならない。
 七大ボスを仲間にした日には、いつ自分の立場が奪われるかわかったものではないからだ。
 ちなみに七大ボスの中にはクアンスティータも含まれる。
 七大ボスとは、現界の宇宙世界において強いと評価されている七名を指す言葉だ。
 クアンスティータは別として、七大ボスより強い存在は存在するのだが、例えば、クアースリータはクアンスティータに含まれるなどの判断などもあり、クアースリータは七大ボスに含まれていない。
 七大ボスの七名は、
 クアンスティータ、
 フェンディナ・マカフシギ、
 デュジル、
 ラクン・シュアル、
 ヴェレイ、
 バーンエディラ、
 そして、クアンスティータに続いて二番目の実力者と言われるウェルヴェレと言われている。
 なぜ、この七名が七大ボスとして呼ばれているかというと、この七名は全員、複合多重生命体(?)だからである。
 つまり、複数の肉体を持っているという事で共通している。
 そのため、他にも強い存在がいる中で、この七名が共通項から七大ボスとしてくくられているのだ。
 誕生する前のクアンスティータの核が存在しているとされている惑星ファーブラ・フィクタにおいては、これは常識の一つとしてとらえられている。
 クアンスティータは化獣(ばけもの)にも属するが、七大ボスにも属する。
 この様に、クアンスティータは複数の区分けに属する事がある。
 それだけ、クアンスティータという名前を取り込んで、その属するものの名前の格を引き上げようという試みはあちこちで行われていた。
 中には、全く関係無いのに、無理矢理クアンスティータの名前を利用して、偽クアンスティータにクアンスティータ侮辱罪という罪で、粛正されるところもある。
 認められるのはクアンスティータが属しても恥ずかしくないと判断されるものに限られる。
 化獣は勢力を持っているという共通項目から、
 七大ボスは複合多重生命体(?)という共通項目から、
 それぞれ、クアンスティータが属する事を認められていると言われて居る。
 なので、一名でも複合多重生命体(?)では無い者が居たら偽クアンスティータ達によって粛正されていた可能性もあった。
 それだけ、偽クアンスティータにもクアンスティータの在籍を認められているものというのは権威、価値のあるものだった。
 それだけに、【ヴィホヂット】はそれに属する者を取り込みたかったが、この悪女は自分の器というのもある程度理解していた。
 自分の手が届かない。
 手を伸ばしてはいけない範囲というのはきっちりと理解していた。
 手を出せば破滅をもたらすと思われるものはいくら欲しくても手を出さない。
 それが、こす狡く生き延びる手段の一つだった。
 者喰い王頂上戦でのトップ吸収姫にも手を出さないのは、トップファイターだと自分の立場が危うくなるかも知れないと思って、トップファイターになりきれなかった【アイリーン】に目をつけたのだ。
 自分はトップには立てない。
 それは【ヴィホヂット】は理解していた。
 自分で言うのもなんだが、【ヴィホヂット】は大物としての威厳がない。
 このような者がトップに立つ宇宙世界などたかが知れたものだ。
 それはわかっている。
 だから、【ヴィホヂット】は彼女の周りだけでトップに立ちたい。
 そういうタイプの悪女だった。
 その彼女が偽クアンスティータでもあるタティーにちょっかいをかけるのは、タティーが偽クアンスティータの中でもさらにオマケの様な存在で、少しでも条件が変われば偽クアンスティータの座からずり落ちる事がわかっていたからだった。
 【プライス】にフラれて、【ヴェルト】に敵対心を持ち、それからタティーへと逆恨みをするようになった頃、【ヴィホヂット】はタティーの事を調べた。
 タティーは偽クアンスティータだと言う事を知り、一度は恐れおののいた。
 だが、調べていく内にタティーが偽クアンスティータのばった物的存在であることに気づいた。
 元はただの人間に過ぎない事もそこで知った。
 その時、【ヴィホヂット】はタティーに対して怯えた事――ただの人間だった者――それもいじめられっ子だった存在に一度でも怯えたという事に対して屈辱を受けたと判断したのだ。
 それはすぐに怒りに変わり、【化けの皮】を剥がしてやると思うようになったのだ。
 偽者とは言えクアンスティータなのだから、普通の存在ならば恐れて当たり前の存在であるタティーなのだが、【ヴィホヂット】にとっては、タティーがいじめられっ子だったという過去がプライドを傷つけたということになったのだ。
 それはつまらないプライド、意地ではあるのだが、【ヴィホヂット】にとっては自分の小さなアイデンティティーが犯される危機でもあった。
 だから、【ヴィホヂット】はタティーを困らせるために行動していた。
 奪った【ヴェール】の起動キーも実は、どのように使えば良いのかほとんど理解していなかった。
 ただ、奪えば、タティーが困ると思ったから奪っただけなのだ。
 嫌がらせをしただけなのだ。
 また、タティー同様に【クインスティータ】や【ヴェルト】、【リセンシア】の事もあなどっていた。
 【クインスティータ】は偽クアンスティータになりたくてもなれなかった落ちこぼれ。
 【ヴェルト】と【リセンシア】は特に目立った力の無い無個性な存在として認識していた。
 つまり、タティーのチームは全員、なめられているという事なる。
 【ヴィホヂット】は自分より下だと思った者には容赦がなかった。
 格下は格下なりに自分より目立つな。
 それが、【ヴィホヂット】のルールだった。
 全くの小者の発想である。
 器の小さな悪女【ヴィホヂット】はこうして行動していた。

 七大ボスはものすごく魅力的だが、自分の手には余り過ぎる。
 だから、自分の手のひらで転がせるちょうど良い相手、それを自分の手下として取り込もうと考えて居た。
 そうやって、【リーチェニー】と【アイリーン】を取り込んできたのだ。
 自分が利用しやすい相手を探して手下にする。
 それが、自分の格を上げる事だと思っていた。
 迷惑な女である。


06 ラブレターの差出人


 その頃、タティー達は泊まっていた宿屋に届けられた一通の手紙の事で相談をしていた。
 闇コス大会で優勝してからタティーにはファンが増え、ファンレターをもらうことも決して珍しい事ではなかった。
 だが、その中の一通に真剣に交際を申し込む手紙と結婚を前提にと言う事で婚約指輪が贈られてきたのだ。
 普通に考えれば怪しい手紙である。
 だが、男性に免疫のないタティーは動揺した。
 彼女の夢は結婚し、寿退社で偽クアンスティータの仕事を退くこと。
 ついにお迎えがきたぁ〜と興奮したのだ。
 【クインスティータ】は、
「お待ちになって、タティーさん。まだ、会ってもいないのに判断するべきで無くてよ。それに私は偽クアンスティータ職の引退なんて認めませんからね」
 と言った。
 タティーは、
「だって、だって、【クインスティータ】さん。ここ、ここです。ここ。【僕は初めてお会いした時から】って書いてありますよぉ〜これは絶対……」
 と興奮を抑えられない感じだった。
 タティーは人間だった頃を思い出す。
 人間の頃も美人だった彼女はラブレターをもらった事はある。
 だが、心ない他の人間達によって、もらったラブレターを奪われ勝手に発表されて、話が駄目になったり、嘘のラブメールをもらって行ったものの、一日中待ち惚けを食らったりして、良い思い出がろくに無かった。
 だが、それでも夢見る乙女としては、いつも期待したい自分がいた。
 今度こそは。
 今度こそは。
 今度こそはと毎回期待し、夢破れてもまた、期待するタティーだったのだ。
 幸せになりたい。
 ただ、それだけを夢見て今日もラブレターに胸躍らせるのだった。
 いくつもあったラブレターの中から婚約指輪のあったそのラブレターに絞り会うことしたのだが、人間の世界で考えてもラブレターにいきなり婚約指輪をつけて送ってくる男というのはどうなのだろうか?
 色恋沙汰にはろくな思い出が無いタティーはそういう経験値が無いので、単純に、真剣に交際を申し込んで来てくれるんだと判断して、会ってみることにしたのだ。
 ワクワクしているのはタティーのみ、
 【めがねさん】も【クインスティータ】も【ヴェルト】も【リセンシア】もこれは良く無いのでは?と判断していた。
 ドスケベ四人衆もまた、【俺たちの女神が他人のものになってしまうかも知れない】と嘆いていたが、それは置いておくとしてだ。
 待ち合わせ場所は【エニグマ】領の観光名所の一つ、【エニグマ噴水広場】の大噴水の前だった。
 ワクワクしながら、待つタティーだが、彼女は見落としていた。
 タティーは全部の手紙を見たわけでは無かった。
 見なかった手紙の内、二通に偶然、婚約指輪を送りつけた相手と同じく、会ってくださいという事と待ち合わせ場所に【エニグマ噴水広場】の大噴水前を指定したものが混じっていたという事に。
 つまり、【エニグマ噴水広場】の大噴水前には三人の手紙の送り主が待っている事になるのだ。

 素敵な異性と会える。
 そう思うと夜も眠れない。
 明日の待ち合わせには何を着ていこう。
 たっぷりおしゃれをしていきたいと思ったり、
 あんまり気合い入れて行くと男に飢えていてがっついていると思われてしまうかな?と思ったり、
 ナチュラルメイクってどうやるんだろうと思ったり、
 少し遅れて行った方が良いかな?
 あなたのためにたっぷりおしゃれしてきましたっていうアピールとかいろいろ考えていた。
 待ち合わせ場所には3人が待ち構えているという事も知らずに。


07 誰が運命の相手?


 翌日、タティーはいつもの様にお風呂に入る。
 チャプン。
「ふぅ……。落ち着くなぁ〜」
 落ち着くタティー。
 それを覗くドスケベ四人衆。
 それを【クインスティータ】が見つけて捕獲し、【ヴェルト】に突き出し、お尻百叩き、【リセンシア】に突き出し【地獄の仲人】の刑を受けさせる。
 いつもの光景である。
 だが、そこに新メンバーの【風来坊のえーちゃん】の姿が無かった。
 もう、飽きられたのかな?
 そう思っていたが、違っていた。
 【風来坊のえーちゃん】はおめかしして、待ち合わせ場所である【エニグマ噴水広場】の大噴水前で待っていた。
 ――そう、タティーに宛てた【エニグマ噴水広場】の大噴水前で待ち合わせを指定した手紙の一通は【風来坊のえーちゃん】が書いたものだった。
 【風来坊のえーちゃん】――【エニグマ】はタティーとの真剣交際を申し込むために来ていたのだ。
 では、後の二人は誰なのだろうか?
 二人目の男性は、【ミスターサカキ】と良い、実は彼こそが婚約指輪を贈った本人だった。
 ストーカー気質のある彼は、自らの財力にものを言わせてとびっきり高価な婚約指輪を送りつけていたのだ。
 狙った女性は執拗に狙い、飽きたら捨てるというクズだった。
 彼は、偽クアンスティータの肩書きを持つタティーを彼女を自分の彼女にしたら自分のステータスが上がると思ってやってきたのだ。
 男性版【ヴィホヂット】と言えるくらいの下劣な男だった。
 三人目の男性――いや、女性は、【カルメン・サイアーズ】と言った。
 【カルメン】はいわゆる【レディーキラー】とあだ名される女性で、狙った女の子をコレクションとして監禁するこれまた危ない女性だった。
 【カルメン】は闇コス大会で優勝した選手を集めるという趣味を持っていて、今までの闇コス大会の優勝者の半数近くは彼女の手によって、今も彼女のアトリエに監禁されているだった。
 【エニグマ】、【ミスターサカキ】、【カルメン】という危ない面子が待っている【エニグマ噴水広場】の大噴水前にタティーは意気揚々として、出かけていった。
 野暮な真似は止めてとタティーは【クインスティータ】達だけでなく、【めがねさん】も置いていって、他の伊達眼鏡を着用していた。
 つまり、丸腰で来ていた。
 待ち合わせに着くと、タティーは、
「お、お待たせし……って、なんであなたがここにいるんですか?」
 と最初に目にとまった【風来坊のえーちゃん】に声をかける。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「なんでって、君に正式に交際を申し込むためさ……、おれっちは本気だ」
 と言ったが、その時、
「「ちょっと待ったぁ〜」」
 と声をかけるのが二人。
 【ミスターサカキ】と【カルメン】だった。
 タティーを巡って三人のライバルがここに集結した事になる。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「なんだ、お前さん達は?」
 と聞くと、【ミスターサカキ】が、
「それは、こちらの台詞だ。どこの馬の骨ともわからん者が、この【ミスターサカキ】にたてつこうというのか?」
 と言った。
 【ミスターサカキ】は【エニグマ】領での商売を認められた豪商と言う立場を振りかざして言ったのだ。
 その相手が【エニグマ】本人だとも知らずに。
 【ミスターサカキ】は【エニグマ】の家臣である五将の顔は把握していたが、まつりごとに参加したがらない【エニグマ】の顔は知らなかったのだ。
 だからこそ、【エニグマ】イコール【風来坊のえーちゃん】に対して強気でいられたのだ。
 さらに、【カルメン】も黙っていない。
「ちょっと待ちたまえ、君たち。醜男の嫉妬は醜いよ。この女性はこの私、【カルメン】様が目をつけたんだ。おとなしく引き下がっていることの方が、身のためだよ」
 と言った。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「大事なのは、彼女をどう思って居るかじゃないのか?おれっちは彼女の良いところ、100万は言えるぜ」
 と言った。
 【ミスターサカキ】は、
「バカを言うな。大事なのは財力だ。金さえあれば何でも買える。愛も心もな」
 と言った。
 正に金で物を言う嫌な奴という感じだ。
 【カルメン】は、
「いや、違うよ。大事なのは美貌だ。美しさこそ、全てに勝る」
 と言った。
 それを聞いた、【風来坊のえーちゃん】は、【力こそ全て】と言おうと一瞬思ったが、止めた。
 それは彼女の――タティーの好む事では無いと思っているからだ。
 力であれば、【エニグマ】でもある【風来坊のえーちゃん】にとって、【ミスターサカキ】も【カルメン】も敵では無い。
 恐らく瞬殺出来るだろう。
 【風来坊のえーちゃん】からして見れば、恋のライバルであるこの二人などたたき伏せるのは訳は無い。
 だが、大事なのは気持ち。
 タティーに対しては誠実でありたいと思った【風来坊のえーちゃん】は魅力の一つである力の強さを封印した。

 一方、タティーの方も迷っていた。
 【ミスターサカキ】は金に物を言わせ、
 【カルメン】は自意識過剰のナルシスト。
 どちらも自分の好みではない。
 唯一、タティーの琴線に触れたのは【風来坊のえーちゃん】なのだが、彼はタティーのお風呂を覗き見たという前科がある。
 その事が引っかかっていた。
 迷っていると、【ミスターサカキ】が、
「俺様は、婚約指輪も贈っているんだ。その婚約指輪はいくらすると思っているんだ?国の一つや二つ買える金額だぞ。だから、俺を選ぶんだよぉ」
 と怒鳴った。
 それを聞いたタティーは、あぁ、指輪の主はこの人なんだ?という事と、なんか幻滅したなぁ〜という感想が同時に起きた。
 三人の中ではこの【ミスターサカキ】が一番あり得ない。
 タティーは、【ミスターサカキ】の前に進み、送られて来た指輪を出す。
 【ミスターサカキ】は、
「おお、それだよ、それ、俺を選ぶんだな?」
 と言ったが、タティーは、
「あの……これ、お返しします。あなたとはありえませんので……」
 と言った。
 お金が必要ないとは言わないが、お金だけの生活もあり得なかった。
 結婚して引退したいタティーだが、だからと言って誰でも良いという訳では無い。
 【ミスターサカキ】は、
「お、俺をフると、後悔するぞ。俺はこの【エニグマ】領で……」
 と言った時、背後から、
「その事なんですが……」
 と声がして【ミスターサカキ】は振り返った。
 すると、【ミスターサカキ】と五将とのつなぎ役をしている者が現れた。
 【ミスターサカキ】は、
「お、おぉ、あんたか、あんたからも言ってやってくださいよ。俺を敵に回したら、この【エニグマ】領での立場は保証しないって」
 と言ったが、そのつなぎ役の者は、
「それなんですが、【ミスターサカキ】、あなたは現時点より、【エニグマ】様への謀反の疑いがあるとして、全権剥奪の上、拘束させていただきます」
 と言った。
 【ミスターサカキ】は、
「え?な、なんで……?」
 と言ったが、ずるずると引っ張られていった。
 彼は後で知る事になる。
 自分が見下していた男こそが【エニグマ】本人であるという事を。
 その頃には【エニグマ】領を追放になったのだが。
 命が助かったのは同じ女の子にアプローチした仲間としてのせめてもの配慮だった。
 本来であれば、【エニグマ】侮辱罪で首をはねられてもおかしくない事だったのだ。
 そして、残るは【風来坊のえーちゃん】と【カルメン】を残すのみとなった。
 しばし考え、タティーは、
「よ、よろしくお願いします」
 と【風来坊のえーちゃん】を選んだ。
 【カルメン】は、
「な、何故だ?」
 とショックを受けた。
 自分が負けるとは思っていなかったのだ。
 タティーにとって、【カルメン】は彼女の苦手ないじめっ子の匂いがしたのだ。
 その自信過剰な態度から、付き合えば、いじめられる……そう感じたのだ。
 決して、【カルメン】が女性だったからではない。
 彼女は男装していたので、女性だとは夢にも思っていなかったのだ。

 立ち尽くす、【カルメン】を残し、手をつないで歩くタティーと【風来坊のえーちゃん】。
 しばらく歩いたところで、【風来坊のえーちゃん】は、
「自分を選んでくれてありがとう」
 と言った。
 タティーは、
「あの……勘違いしないでください。三人の中ではあなたが一番ましだと思ったから選んだだけです。だれかを選ばないとあの場は収まらないと思ったから……私、覗く人と付き合うなんて、考えられませんから……今は……」
 と言った。
 【風来坊のえーちゃん】は、
「わかってる。……それでもおれっちを選んでくれてうれしかった。これからもよろしく。んじゃ、またな」
 と言って去って行った。
 タティーの乙女心に【風来坊のえーちゃん】というキーワードが僅かに引っかかった瞬間だった。

 タティーと別れてからしばらくすると、【風来坊のえーちゃん】は、
「うひょぉ〜手ぇ、つないじゃった。これはしばらく洗わねぇぞぉ〜」
 と歓喜した。
 それを見ていた配下は、
「無理矢理、手籠めになさっても良いのでは?彼女は押しに弱いタイプだと思いますよ」
 と言ったが、【風来坊のえーちゃん】は
「そいつぁ駄目だ。おれっちはどうしても彼女の気持ちをつかみたい」
 と言った。
 その心には【エニグマ】領の領主の座を捨ててでもという気持ちもあった。
 全てを捨ててでも彼女と付き合いたい、そう思うようになっていた。
 運命の相手?――かも知れないのだろうか、【風来坊のえーちゃん】という男は?


続く。



登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。




















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。
















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男


010 ヴィホヂット・ウボヒー
ヴィホヂット・ウボヒー
 ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】にフラれた経験のある性格の悪い悪女。
 【リセンシア】にあてがわれた女の子達を手下に持つ。
 あの手この手でタティー達に嫌がらせをしようと画策している。
 今回、盗賊を使って優勝賞品である【ヴェール】の起動キーを盗み出す。


011 リーチェニー・パルフェーム
リーチェニー・パルフェーム
 【ヴィホヂット】に勧誘されたプロのコスプレイヤーの少女。
 タティーと全く同じプロポーションをしているため、ドスケベ四人衆が揃って好みそうな体型をしている。
 アイドルの夢を捨て、プロのコスプレイヤーとして生きる道を選択した。
 今は、この仕事に誇りを持っているまっすぐな少女。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかり、悪の道を進もうとしているかわいそうな少女でもある。
 本家越えと呼ばれる人気者のレイヤーでもある。
 【ヴィホヂット】の悪巧みを実行しようとするも根が正直な彼女は失敗し、闇コスプレ大会を棄権する事になってしまった。


012 風来坊のえーちゃん【エニグマ】
エニグマ
 タティーへの覗きに参加してきた謎の男。
 本人は【風来坊のえーちゃん】と名乗るが正体は【エニグマ】領の領主、【エニグマ】本人。
 タティーの全身をこよなく愛す、シルエットフェチでもある。
 自分の立場を捨てでもタティーと付き合いたいという気持ちを持っている。

















013 アイリーン・エイムズ
アイリーン・エイムズ
 【ヴィホヂット】の新たなる手下となる者喰い王(ものぐいおう)の選手。
 期待の新人とされていたが、本戦大会の最低出場条件である六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ)を最低10体ずつ吸収するという事が不可能であったため、夢を断念、もう一つの夢である最大神殿の神姫巫女(かみひめみこ)を目指そうとするも大会の司会者にケチをつけられ意気消沈。
 その弱った心に【ヴィホヂット】がつけ込み、手籠めにされた。


014 ミスターサカキ
ミスターサカキ
 【エニグマ】領で手広く商売をしていた豪商で、【エニグマ】の顔も知らずに【風来坊のえーちゃん】に喧嘩をふっかけて逆に【エニグマ】領を追放される哀れな男。
 金で買えないものはないと思っている男で、タティーに対して求婚するもフラれる。



















015 カルメン・サイアーズ
カルメン・サイアーズ
 レディーキラーと呼ばれるナンパ師。
 正体は女性だが、普段は男装している。
 美しい女性をコレクションとして自宅に監禁するという危ない趣味を持つ。
 タティーを落とそうとするも玉砕する。