第004話 タティー優勝へ

タティー・クアスン編挿絵04

01 タティー・クアスンの不幸の歩み


 タティー・クアスンは元人間である。
 気が弱く、いじめられっ子だった、ただの人間だった。
 だが、そんな彼女の転機は彼女が名付けられた赤ん坊の頃より決まっていた。
 彼女は最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータのアナグラムとしての名前を得ていたのだ。
 彼女自身が拒否しても勝手にクアンスティータとしての力の一部が流れ込んでくる。
 そうして彼女は本物よりも数が少ないとは言え、万能細胞である背花変(はいかへん)と自動防御能力を持つ千角尾(せんかくび)を手にして謎の生命体【めがねさん】に見いだされ、惑星ファーブラ・フィクタに連れて来られ、身に余る任務を与えられる。
 クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に任命されてしまったのだ。
 それでも彼女の不幸は終わらない。
 クアンスティータに憧れるなりきりコスプレイヤーの【クインスティータ・クェンスティー】が何かと突っかかってくるのだ。
 【クインスティータ】は本名ではない。
 本名は【スウィート・ピュア】というかわいらしい名前があるが、本人はそれを良しとはしなかった。
 クアンスティータと名前が似ている【クインスティータ】と【クェンスティー】と名乗る事にしたのだ。
 だから、彼女の事を【スウィート】さんとか【ピュア】さんと呼ぶと怒るのだ。
 【クインスティータ】さんと言わないと返事もしてくれない事もあるのだ。
 困った女の子である。
 彼女は本来、特殊警察署長としてあるタティーの仕事を奪う。
 彼女の代わりに優秀な署員をクビにした事もしばしばある。
 そんな中、現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界においては危険レベルとされる【ステージ2】もどきの力の流出事件が発生する。
 真相を究明するために彼女と最大神殿を目指すが、このメンバーでは心元ないと思い、メンバーを二人追加する。
 一人目が【ヴェルト・ハウプトシュタット】。
 勝ち気で力自慢の少女だった。
 彼女はタティーにつきまとうドスケベ四人衆のリーダー、【プライス・フィー】の元恋人でタティーに勝負を申し込んできた。
 ドスケベ四人衆とはタティーのお尻大好きな【プライス】の他にもおっぱいが大好きな【スコント・プレッツォ】、くびれが大好きな【ベネフィス・フォルテュヌ】、足が大好きな【クリエント・カントラークト】で構成される。
 どいつもこいつも変態さんな四人組だった。
 タティーは自動防御本能で【ヴェルト】を制すると彼女はタティーの子分となった。
 もう一人の新メンバーが、【リセンシア・アジュダンテ】。
 彼女はいわゆる腐女子。
 ボーイズラブ、ガールズラブが大好きな少女だった。
 タティー、【めがねさん】、【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】――問題のあるチームだったが、女子チームを結成し、最大神殿を目指す。
 するとそれに合わせて動く二組。
 一つはドスケベ四人衆。
 タティー行くところ自分達もありと主張する彼らは男子チームを結成、タティーチームの後を追った。
 そして、もう一つ、動く影が。
 【プライス】にこっぴどくフラれてプライドを傷つけられた悪女【ヴィホヂット・ウボヒー】がその悪意を【プライス】から【ヴェルト】、【ヴェルト】からタティーへと変えて付け狙う。
 【ヴィホヂット】は道中、純真なコスプレイヤー、【リーチェニー・パルフェーム】をその毒牙にかけ、手下とする。
 その【リーチェニー】を伴って、タティー達が参加する闇のコスプレ大会にも参加してきたが、策を失敗させて嫌がらせは徒労に終わった。
 【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】も失格または棄権し、闇のコスプレ大会に参加しているのはタティーのみとなっていた。
 決勝トーナメント一回戦はなんとか勝ち残るタティーだったが、まだ二回戦からの戦いが残っている。
 彼女の気は重い。
 まだ、戦わなくてはならないのかと思ってしまう。
 だけど、これ強制だから。
 【クインスティータ】の強制だから。
 だから、タティーは戦い続ける。
 早く強い気持ちを持ちたいとは思いつつも、気の弱い彼女は今日も不本意な戦いを強要される。


02 タティーのバトル


 タティーのいるBブロックも第三、第四試合と進み、次の第二回戦を行う事になった。
 第一試合はタティーが出る事になる。
 タティーの相手は、【ロザリー】選手だった。
 【ロザリー】選手の二回戦用コスプレキャラは【斬魔(ざんま)】というキャラクターだ。
 この【斬魔】というキャラクターは剣、刀、槍、大鎌、ライフル、銛、棒の七つの武具を使うキャラクターだが、実は、【ロザリー】選手は大鎌とライフルの使い方がへたくそだった。
 だが、それ以外の5つの武器は自在に使いこなし、100%【斬魔】というキャラクターの魅力を出していると表現出来る腕を持っていた。
 全ての技能が使える訳では無いけど、使える技能は100%表現出来て居るという強敵だ。
 対してタティーがコスプレする元のキャラクターの名前は【メッチャ】というキャラクターで、関西弁と自在に脂肪を増やして攻撃するというのが特徴のコミカルな女性キャラだった。
 タティーはこのキャラクターの完全なまんまるになる能力が気に入って選んだのだが、よくよく考えてみたら、このキャラクターを表現するのはかなり難しいと言える。
 【メッチャ】は関西弁以外の言葉を使ったらアウトなので、関西弁が使えないタティーは終始黙っていることにした。
 早くこのキャラクターを終わらせないとボロがでる。
 そう思ったタティーは、背花変を脂肪に見立ててうまく攻撃していった。
 資料室で見た映像そのままに戦って見せるタティー。
 結果、【斬魔】の剣術などには、苦戦したが、最後には、最も気に入ったまんまるアタックを決めて勝利した。
 こうして、いよいよ、Bブロック代表戦、準々決勝に駒を進めるのだった。
 二回戦第二試合も行われ、それに勝利した【アニー】選手とぶつかる事が決まったのだった。
 準々決勝での【アニー】選手のコスプレの元キャラは、【魚(うお)】というキャラクターだった。
 それは二回戦で見せた【鳥(とり)】とのセットのキャラクターだった。
 【鳥】は飛行能力を持ち、【魚】は潜水能力を持つという。
 舞台でどうやって潜るの?と思っていたが、やたら高い、陸上潜水システムという超高級アイテムを購入していて舞台での潜水を可能としていた。
 お金かかっているなぁ〜と思うタティーだった。
 そんなタティーが準々決勝用に選んだキャラクターの名前は【獣人にゃんこ】だ。
 猫型の耳が可愛くて選んだ猫又キャラだった。
 服装がぶかぶかのワイシャツいっちょというのがなんとも恥ずかしい衣装だった。
 タティーは招き猫のようなポーズを取り、
「うにゃんっ」
 と言った。
 ノリノリだった。
 楽しくやっているようだ。
 どうやらコスプレの楽しさに目覚めたようだ。
 【獣人にゃんこ】は正義の味方キャラクターでその変幻自在な動きで敵を惑わすというものだった。
 見えそうで見えない下着も魅力の一つとされている超人気キャラで、予選からここまで、実に10万人以上がどこかで選択していた愛されたキャラと言える。
 決勝まで使用を控えているレイヤーも居るが、途中で敗退してしまうとお披露目の機会がなくなるので、出すタイミングが重要なキャラクターと言えるだろう。
 【獣人にゃんこ】になりきったタティーの動きは素晴らしかった。
 観客の、
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 とか、
「す、すげぇ〜」
 とか、
「ナイス」
 などの歓声が飛び交った。
 すっかりタティーは人気者だった。
 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
 カメコ(カメラ小僧(カメラこぞう))達のシャッター音が鳴り響く。
 タティーはすっかりアイドル気分だった。
 何かが吹っ切れた感じがしていた。
 こうして、終始、【アニー】選手を翻弄し、お魚咥えたどら猫よろしく、【魚】キャラを仕留めたのだった。
 勝ち名乗りにタティーは、
「うにゃんっ」
 と言ってポーズを取った。
 試合が終わってからボッと真っ赤になった。
 あんな恥ずかしい真似、【クインスティータ】達の前では出来ないなと思うのだった。
 だが、親切心からか、【めがねさん】は映像を撮っていて、それを偵察から帰ってきた【クインスティータ】達に見せた。
 【リセンシア】は、
「ノリノリねぇ。直接、見たかったわぁ」
 と言った。
 タティーは、
「ひぃ〜恥ずかしい……」
 と小さくなってしまった。
 ちょっと調子に乗りすぎた。
 そう思い、反省するのだった。
 何はともあれ、Bブロック代表に選ばれた。
 この後は準決勝、決勝と二回勝てば、優勝賞品である超兵器【ヴェール】の起動キーが手に入る。
 仮に準決勝で負けたとしても三位決定戦があるので、どちらにしても二回戦う事になる。


03 準決勝の戦い


 Bブロック代表として選ばれたタティーは再び抽選を行い、それで、決勝の相手が決まる。
 タティーの準決勝の相手は、Cブロックの代表選手だった。
 つまり、【ヴェルト】がチェックしてきた相手との戦いになる。
 タティーは早速、【ヴェルト】にその勝ち上がって来た選手の情報を求めるが、
「なかなかやりましたよ、そいつは」
 と言った。
 タティーは、思わず、
「そ、それだけ?」
 と聞き返した。
 【ヴェルト】は、
「それだけっす。他に何か?」
 と言った。
 役に立たない。
 【なかなかやる】じゃただの感想ではないか。
 偵察に出てもらった意味が無い。
 そうじゃなくて、具体的にどんな感じの選手だったか聞きたいのだが、脳みそ筋肉の【ヴェルト】にそれを期待しても無理だろう。
 他に人員をCブロックにさけなかったので、運が悪かったというしかないだろう。
 このまま、情報らしい情報も得られないまま準決勝を迎える事になった。
 タティーの準決勝の相手選手の名前は、【チャーリー】選手と言った。
 【チャーリー】選手の準決勝でのコスプレは、【女王サラニマス】というキャラクターだった。
 ちなみにタティーのコスプレのキャラクターも【女王サラニマス】だった。
 つまり、ネタがかぶったのだ。
 2000億もキャラクターがあったのにこんなことってあるのか?と思ったが、これが仮に引き分けに終わった場合、より【女王サラニマス】に近い演技をした方が勝つということになる。
 まずい。
 まずいことになった。
 タティーはそう思った。
 【女王サラニマス】は冗談でいっぺんくらいこんな衣装を着てやってみたいなと思って選んだキャラクターで、タティーの性格とはまるでマッチしていないキャラクター性を持っていた。
 このキャラクターは、高圧的な態度を取るキャラクターなのだ。
 コスプレ大会だから、バトル以外にもキャラクターの再現度も当然、審査される。
 【女王サラニマス】は、
「この豚猫がぁ〜」
 とか、
「ひざまずけこの糞虫がぁ〜」
 とか、
「踏んで欲しいんだろぉ〜言って見ろよほらぁ〜」
 とか、
「噛んでやるよ。ほらぁ、欲しいんだろ、このあたいの唾液がぁ〜」
 等々、過激な発言で知られるキャラクターだった。
 とてもじゃないが、タティーにそんな台詞を吐く勇気はない。
 こんな恥ずかしい台詞を吐いた日には死んでしまう。
 穴が空いていたら入りたいくらいだ。
 動揺していると、【クインスティータ】が近づいてきて、
「わかってますわよね」
 とにっこり笑った。
 その笑顔が恐ろしい。
 やれという意味だろう。
 タティーは、
「そ、そんな……」
 と言ったが、【クインスティータ】は、
「ご自分で選んだんですもの……出来ますわよね?」
 と言った。
 かすかな怒気がこめられている。
 このキャラを選んだのはほんの茶目っ気です――とは、口が裂けても言えないタティーだった。
 タティーは、
「えへっ……えへへへへへへ……」
 と妙な笑い方をした。
 目が勘弁してくださいと訴えている。
 だが、【クインスティータ】はまっすぐ見返し。
「ごまかしは無しですわ。もしも、無様な演技をしようものなら、わかってますわよね?タティーさん」
 とやはり、にっこり笑って答えた。
 その笑顔が恐ろしい。
 タティーは、
「ひ、ひぃ〜……」
 と軽く言ったとたんに、【クインスティータ】は、
「しっ……お静かに。そのキャラクターはそんな事、言いませんですわ。失格になりますわよ」
 と言った。
 それは恐ろしい。
 ここまで来て失格などにされたら、たまらない。
 タティーは無理に強気の表情を作って舞台に上がった。
 早く決着をつけたい。
 間違っても引き分け以下には出来ない。
 圧勝だ。
 それしか無い。
 判定に持ち込まれたら演技では勝てない。
 必ずボロが出る。
 それだけは避けなくてはならない。
 タティーは精一杯の虚勢を張り、
「ひ、ひねり潰してくれるわ」
 と言った。
 これが彼女の本当の精一杯である。
 これ以上は言えない。
 【チャーリー】選手の【女王サラニマス】は、
「地べたを這いつくばらせてやるよ、このウジ虫がぁ〜」
 と言っていた。
 やはり、やりこんでいるのか向こうの方がうまい。
 同キャラ対決という事もあり観客はより一層、注目していた。
 同じ同キャラ対決なら【獣人にゃんこ】だったなら楽しく出来たのに――
 と思うのだった。
 よりによって最悪のキャラでの同キャラ対決となってしまった。
 選ぶんじゃなかったと今更ながらに後悔するタティーだった。
 タティーは【チャーリー】選手に近づいて行き、思いっきり張り手を食らわした。
 そして、【チャーリー】選手も張り手で返す。
 ――そう、【女王サラニマス】の最大の魅力とされているのが相手を張り手で倒すというものだった。
 だから、この張り手合戦に発展したのだ。
 この勝負は負けられない。
 ビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッ
 張り手の応酬が続く。
 痛い。
 痛過ぎる。
 なんで、張り手のやり合いをしなくてはならないのかと涙が出そうになるのを必死でこらえた。
 【女王サラニマス】はどんな目にあわされても決して泣かないという設定のキャラクターなのだ。
 泣いたらこれまでの努力が全てパァだ。
 更に張り手の応酬は続く。
 ビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッビタンッ
 タティーは耐える。
 負けちゃだめだ。
 負けちゃ駄目だ。
 負けちゃ駄目だ。
 得意の自己暗示でなんとか必死にこらえる。
 もう駄目だ――
 そう思い始めた頃――
「あふんっ……」
 という声が漏れる。
 え?
 何?今の?
 と思ったタティーだが、相手の顔を見たらうっとりとした顔をしているのが確認出来た。
 どうやら、【チャーリー】選手はマゾヒストとしての要素を隠し持っていたらしい。
 張り手の応酬でその内なる欲望が開花してしまったようだ。
 【チャーリー】選手は、
「あぁん。もっと……もっとお願いよぉ〜……」
 という声を上げた。
 ゾッとするタティー。
 すると審判が、
「そこまで。【チャーリー】選手、失格です。【女王サラニマス】はマゾヒストではなくサディストです。【女王サラニマス】がおねだりしてはなりません」
 と言った。
 どうやらなんとか勝てたようだ。
 苦しい戦いとなった。
 もう二度と【女王サラニマス】のコスプレはするまいと思うのだった。
 大苦戦をしたが、なんとか決勝進出を果たしたのだった。
 なんとか安心したが、それよりも今は顔を冷やしたかった。
 何発も張り手を食らったので顔がパンパンだった。
 タティーは、
「もう、嫌……こんなの……」
 と泣き言を言った。
 【クインスティータ】は、
「後、一つですわよ。気合い入れて」
 と彼女なりの激励をした。
 優勝したあかつきには何かしてもらわないと釣り合わないと思うタティーだった。


04 タティー優勝へ


 決勝戦よりも先に、準決勝で負けた選手同士の戦い、三位決定戦が行われた。
 タティーと対戦した【チャーリー】選手ともう一つの準決勝で敗退した【マァサ】選手の戦いとなった。
 【チャーリー】選手は、動く仏像【ボーン】のコスプレ、【マァサ】選手は、ボディービルダー【ビル】のコスプレだった。
 聞いてもどんなキャラクターだかわからないので、何となく見ていたが、それなりに楽しめた。
 まるでコントを見ている様な滑稽な試合だったからだ。
 どちらもお笑いキャラらしく、なるほどなぁと納得したのだった。
 そして、闇コスも残すところ、最後の一試合、決勝戦を残すのみとなった。
 決勝の相手はAブロック代表の【ゆとりん】だ。
 彼女が決勝用に持ってきたとっておきのキャラクターは人気トップ100に入る常連キャラクター【セクシーネ】だ。
 その服装は上半身が燕尾服風の服、下半身はズボンもスカートも履いて無く、ガーターベルトとストッキングとパンツのみとなっているセクシーキャラだ。
 そのキャラクターが発表されたとき、観客達からは、
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
 とか、
「ぴーっ」
 とか、
「ブラボーっ」
 とかの大歓声が来た。
 対するタティーの方は、これまたトップ100に入る人気キャラ、【セクシーナ】だ。
 資料室で資料を見ていると決勝戦用にはトップ100に入る人気キャラを選ぶのがセオリーだと説明されていたので、選んだキャラがこれだ。
 【セクシーナ】は【ゆとりん】が選んだ【セクシーネ】の妹キャラという事になっているキャラクターで、スリットがかなり大きなチャイナ服に近い服装になっている。
 格闘技と言えばこんな感じの衣装がいいかな?と思って選択したのだが、まさか、決勝で戦う相手との姉妹キャラになっているとは思って居なかった。
 タティーのキャラクターが発表されると観客達からは、
「いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」
とか、
「出た、姉妹対決っ」
とか、
「愛してるぅ〜」
 などの大歓声が沸いた。
 タティーは【獣人にゃんこ】の時の戦いでファンがつき、応援する観客が増えていたのだ。
 共に人気キャラでレイヤー達の人気も急上昇している者同士。
 決勝戦は始まる前から大いに盛り上がった。
 そうなるとタティーは焦る。
 焦りまくる。
 大舞台に慣れないからだ。
 再び人間だった頃の緊張感を思い出す。
 今度はピアノの発表会だ。
 観客が思ったよりも多くて小さい頃、緊張して、失禁してしまったという苦い思い出が走馬燈のように彼女の脳裏をよぎる。
 タティーは舞台袖で、
「あわわわわわっ……駄目なんですよぉ……こういうのは……」
 といつものように弱音を吐く。
 【クインスティータ】達はまたかという表情で見ていた。
 どうせ勝つんだからという感じで受け取りまともに取り合わない。
 偽クアンスティータの力を持っていても中味は小者なんです。 
 小心者なんです。
 臆病者なんです。
 と訴えたいが訴えても意味が無い事は彼女もわかっていた。
 だから今日も諦めて、仕方なく戦いの準備をするのだった。
 タティーは、
「うわっやっぱりこれ恥ずかしい。自分で作っておいてなんだけどスリットが脇腹の方まであるし……」
 と言った。
 キャラクターのコスチュームを忠実に再現するとそうなってしまうのだ。
 これ着て舞台で戦うのか――そう思うと憂鬱になってしまう。
 タティーは思考を変える事にした。
 これに勝ったら優勝して優勝賞品がもらえるかも知れないとは思わない。
 優勝賞品に興味はないのだから。
 興味を持っているのは【クインスティータ】の方だ。
 タティーと言えばやはり……
「これに勝ったら、お風呂。これに勝ったらお風呂……」
 と惑星ファーブラ・フィクタでの最大の楽しみお風呂を思い浮かべる。
 ドスケベ四人衆に覗かれても覗かれてもなおも入りたがるのだから相当である。
 パァンッ
 とほっぺを叩き、気合いを入れると、
「痛たたた……そう言えば、準決勝でほっぺを……」
 と痛がった。
 【クインスティータ】は、
「何をバカな事をしてらっしゃるの?良いからとっとと行って決着をつけてらっしゃい」
 と言った。
 タティーは、
「は、はいぃ……」
 と力なく頷き、出て行こうとすると、
「気合いが足りない。しゃきっとしなさい、しゃきっと」
 と【クインスティータ】に怒られてしまった。
 今度はどんな苦しい戦いになるのかと思って出たのだが、決着はあっさりとついた。
 タティーが拍子抜けするくらいにあっさりと。
 どうやら、【ゆとりん】選手の準決勝の試合が壮絶で、満身創痍(まんしんそうい)で勝利していたらしい。
 タティーがほっぺを負傷したようにまた、【ゆとりん】選手も負傷していたのだ。
 決勝戦は無理だと言われていたらしいが、それでもレイヤーとして、決勝戦用のコスチュームを着て選手紹介を受けたいと主張したらしい。
 見上げたレイヤー根性である。
 見習いたいくらいだ。
 【ゆとりん】選手が決勝での試合が不可能という事になり、タティーの不戦勝での優勝が決まったのだった。
 タティーは、いつもの、
「勝ったの?……私勝っちゃったの?」
 という台詞を勝利者インタビューで残した。


05 盗まれた優勝賞品


 そして、よくわからず、ぼーっとした状態で優勝賞品の贈呈式が執り行われた。
 優勝賞品である【ヴェール】の起動キーを受け取るタティー。
 横で【クインスティータ】が、
「よくやりましたわ、タティーさん」
 と褒めてくれた。
 タティーは、
「あ、ありがとうございます、【クインスティータ】さ……」
 ん、と言おうと【クインスティータ】の方を振り向いた時、
「いただきっ」
 と、タティーに手渡された【ヴェール】の起動キーを横からかっさらう者がいた。
 盗賊である。
 【クインスティータ】は、
「あぁ〜っ」
 と叫ぶが、一瞬にも満たないことで反応出来なかった。
 盗賊は連携を組んでパスを繰り返し、どこかに消えた。
 【クインスティータ】は、
「何をしているんですの、追って!」
 と叫ぶ。
 タティーは、
「は、はい……」
 と慌てて追ったが、向こうは惑星ファーブラ・フィクタでプロの盗賊としてやっている集団である。
 煙に巻くように、あっという間に居なくなってしまった。
 【クインスティータ】は大会運営委員につめより、
「優勝賞品が盗られた場合はどうなりますの?」
 と聞いた。
 大会運営委員は、
「こちらとしましても優勝賞品をお渡しする前でしたら、私共の責任として追いますが、ご覧になられましたように、お渡しした後で、優勝者であるタティー・クアスン選手が盗られたので……こちらとしては出来るだけの事はさせていただきますが、お気の毒としか……」
 と言った。
 確かに、ぼーっとして奪われたタティーが悪いのかも知れないが、ここはまだ闇コスの大会が行われている会場じゃないか。
 大会会場での盗難事件は大会本部が責任を持っても良いじゃ無いかと思う【クインスティータ】だった。
 盗賊をこの会場に入れたのは大会本部なのだから。
 と言いたいが、来場した者全てをチェックする事など出来はしない。
 残念だけど泣き寝入りしかない――とは思わないのだった。
 【クインスティータ】は、
「追いますわよ。ふん捕まえて、ぎゃふんと言わせて差し上げますわ」
 と言った。

 その頃、消えた盗賊達は、悪女【ヴィホヂット】の元に居た。
 【ヴィホヂット】は、
「ご苦労様、じゃあ、この娘達、あんた達の好きにしていいから」
 と言った。
 自分を慕う女の子達を盗賊に差しだそうとは見下げ果てた根性だった。
 さらに闇コスで、失格になった【ヴィホヂット】は盗賊を雇い、優勝賞品を盗む様に企てたのだった。
 盗賊Aは、
「嫌、やめておくわ。盗っちまってから思うんだが、こいつは普通の存在がどうにかして良い物じゃねぇな。こいつから禍々しいオーラみたいなのを感じる。マジでやべぇよ、こいつは」
 と言い、
 盗賊Bは、
「悪いことは言わねぇ。こいつと関わるのは止めた方が良い。俺たちはこの星を離れる事にした。あんたの口車に乗るんじゃなかったよ。いい迷惑だ」
 と言った。
 【ヴィホヂット】は、
「男のくせに根性ないのね。これさえ、もらえばあんた達になんかに用は無いわ。どこへなりとも消えなさい」
 と言った。
 盗賊Cは、
「わかってねぇんだよ、そいつのやばさが。とてもあんたが扱えるようなものじゃねぇ。俺たちは裏社会でずっと生きてきた。だから、わかるんだ。そいつの超激やばさに」
 と言い、
 盗賊Dは、
「普通の存在が手を出しちゃなんねえって感覚がヒシヒシと伝わってくる。俺たち裏社会の存在はクアンスティータの害にならねぇって方針でやっている。あれを敵に回したら終わりだからな。そいつは、それに近い危険性を持っている。それと比べちゃクアンスティータが怒るかも知れねぇが、それだけやべぇ代物だよ、そいつは……」
 と言った。
 【ヴィホヂット】は、
「大の男が揃いも揃って情けない。これがなんだって言うのよ、クアンスティータ関係じゃ無いのは確かなんでしょ?だったらビビる必要なんてないじゃない。良いから消えなさいよ。目障りだわ」
 と言った。
 盗賊Eは、
「俺たちは忠告したからな。本当にやべえって言ったからな」
 と言った。
 盗賊Fは、
「あんた、おろかだよ、マジで」
 と言い、盗賊Gは、
「良いぜ、行こうぜ、死相が見えている女とこれ以上関わっても俺たちまで危なくなる」
 と言った時、【ヴィホヂット】は、
「消えろって言ってんのよ。うざいんだよ」
 と怒鳴り散らした。
 その光景を見ていた【ヴィホヂット】に執心(しゅうしん)していた女の子が、
「ごめんなさい、お姉様、私――さよなら……」
 と言い、それに合わせるかのように他の女の子達も
「あ、私も……」
「私もその……」
「さよなら……」
「私、帰る……」
「もう、話しかけないで……」
 などの様に口々に言い、【ヴィホヂット】の元を去って行った。
 決して盗賊の慰み者にされそうだったからではない。
 【ヴィホヂット】のためならばそれさえもかまわないと思えるくらいに彼女達は心酔していたのだ。
 だが、まるで魔法が解けたかのように【ヴィホヂット】の虜だった女の子達は離れていった。
 それだけ、【ヴェール】の起動キーは禍々しいアイテムだという事だった。
 闇コスもこの余りにも恐ろしいアイテムの処理に困り、優勝賞品として、出していたのだ。
 何も知らない参加者達が価値があるものと思っている内に放り出したかったのだ。
 大会本部としては、盗み出してくれるのであれば、どうぞ持って行ってくださいという感じだったのだ。
 だから、本来であれば、大会を汚した行為として、盗賊を追いかけ処罰することをしたはずなのに、大会本部は追っ手を差し向ける事に消極的になっていたのだ。
 やば過ぎるアイテム【ヴェール】の起動キー。
 そのやばさに気づかない鈍感な【ヴィホヂット】はやはり愚かな女と言わざるを得ないのかも知れない。
 しばらくして、偵察に言っていた【リーチェニー】が戻って来た。
 彼女には他の使い道があるとして、盗賊の慰み者にはせずに偵察という名目で離れた位置に行かせていたのだ。
 【リーチェニー】は、
「あれ?お姉様、他の先輩達は?」
 と聞いてきた。
 【先輩】とは去って行った女の子達の事だ。
 【ヴィホヂット】の虜になって日が浅い、【リーチェニー】にとっては先輩にあたっていたのだ。
 【ヴィホヂット】は、
「去る者は追わずよ。これからしばらくあなたと二人だけになるわね。その分、かわいがってあげるわよ。今夜もね」
 と言った。
 【リーチェニー】は、
「はい……お姉様」
 と頬を赤らめ頷いた。
 彼女だけはまだ洗脳されたままだった。
 だが、【ヴィホヂット】は理解した。
 彼女に【ヴェール】の起動キーを見せたら彼女の洗脳も解けてしまう。
 そうなったら、自分は一人だ。
 それはまずい。
 それだけは避けなくてはと思うのだった。
 その日の夜、【ヴィホヂット】は悪夢を見ることになる。
 これまでの様に【プライス】にフラれるという悪夢では無い。
 なんだかわからないものに追い回される悪夢だった。
 本能の部分では【ヴェール】の起動キーを恐れているのだ。
 だが、表層意識では、理解して居なかった。

 その後、逃亡を図った盗賊達はタティー達に捕まっていた。
 【クインスティータ】は、
「白状なさい。あの優勝賞品をどこに隠しましたの?」
 と問い詰めた。
 盗賊Hは、
「バカな女が持って行ったよ。ありゃ、やべぇ」
 と言い、盗賊Iは、
「悪いことは言わねぇ、あんた達も関わるのを止めた方が良いって。その方が利口だって」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「そのような事を聞いているのではございませんの。どこに隠したかを聞いているんですのよ」
 と威嚇した。
 タティーは、
「しゃべっちゃった方が良いよ。【クインスティータ】さん、怒らせると怖いから」
 と言った。
 盗賊Cは、
「勘弁してくださいよ〜俺たちもう、あんなもんに関わりたく……」
 と涙を流して懇願した。
 【リセンシア】は、
「とりあえず、アイテムを渡した女の名前と特徴だけでもゲロッちゃいなよ。後は私達で探すからさ」
 と助け船を出した。
 盗賊Jは、
「確か、選手でも出てた【ヴィホヂット】って女です。俺、大会見てましたから。失格になった高慢ちきな女として印象に残ってたんです。……本当はその連れの子が可愛かったからですけど……」
 と言った。
 連れの可愛い子とは【リーチェニー】の事を指す。
 【ヴェルト】が
「あの、バカ女、またか……」
 と言った。
 【ヴェルト】と【リセンシア】がコンビを組んでやっていた時もずいぶん邪魔をされていたので、またかと呆れたのだ。
 【クインスティータ】は、
「わかりました。ありがとう。そこまでわかれば十分ですわ。【ヴィホヂット】から、【ヴェール】の起動キーを取り戻しますわよ」
 と言った。
 タティーは、
「なんか危なそうなアイテムだし、あげちゃっても良いのでは?」
 と言った。
 タティーとしては別に欲しくはないのだ。
 【クインスティータ】は、
「何をおっしゃいますの。あれは、私達が勝ち取ったものなんですのよ」
 と言った。
 違います。
 私ががんばって優勝して手に入れたものです。
 あなたは私を脅していただけですとは言えなかった。
 優勝した本人が欲しくないのだが、タティー達一行は【ヴィホヂット】を追う事にした。
 追われていた立場から追う側に転じる事になってしまった。
 あぁ〜嫌だなぁ、
 面倒臭いなぁ〜と思うタティーだった。
 これ以上は無駄と盗賊達を普通の警察につきだしてから、タティー達一行は【ヴィホヂット】の足取りを探るのだった。
 タティーは最大神殿はどうなっちゃったの?
 と思ったのだが、【クインスティータ】は最大神殿に着く前に手に入れておく予定だったアイテムが盗られてしまったので、それどころではなかった。
 最大神殿までの道案内が出来る【クインスティータ】が目的地を変更してしまったらタティー達は、それに従うしかない。
 本当に面倒臭いが寄り道をしていこうという事になった。
 最大神殿が遠ざかる。
 一体、いつになったら、たどり着くのだろうか……
 タティーはこの先の展開が読めなくなったことに不安を覚えるのだった。
 タティー達の旅は続く。


06 超兵器【ヴェール】とは……


 優勝賞品を【ヴィホヂット】に奪われたタティー達は、【ヴィホヂット】を追って行動していた。
 中途半端な偽クアンスティータであるタティーは探索能力はそれほど優れていない。
 また、【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】、【めがねさん】も同様だった。
 タティーとしてはやば過ぎる匂いがプンプン匂ってくる【ヴェール】の起動キーなど、のしつけてくれてやれば良いのにと思うのだが、【クインスティータ】はそれを許してくれない。
 とにかく、【ヴェール】という兵器の事を調べないと行けないと思い、詳しく事情を知っていそうな闇コス大会の運営委員を締め上げて問いただす事にした。
 【クインスティータ】は、
「ちょっと、こっちは優勝賞品を損失してますのよ。【ヴェール】の秘密についてもう少しくらい説明してくれても罰はあたりませんわよ」
 と言って詰め寄った。
 タティーは、
「く、【クインスティータ】さん、穏便に行きましょう。穏便に……」
 と言うが火に油を注ぐようなもので、
「タティーさん、あなた、悔しく無いんですの?あなたが奪われましたのよ。あなたが」
 と言って矛先がタティーの方に向いてきた。
 タティーは、
「べ、別に悔しくは……それに話しにくいことなんじゃないかな、これって……」
 と言ったが、
「あなたじゃ埒があきませんわ。やはり私が力ずくで……」
 と運営委員を脅す。
 すると、【めがねさん】が、
「タティー様。千角尾を使われてはいかがですか?」
 と言って来た。
 千角尾――クアンスティータの特徴の一つであり、ターゲットの最も弱い時にさかのぼったりしてダメージを与える事が出来たりする無数の尻尾の事だ。
 だが、それがなんだというのだろう?
 運営委員の弱い時を狙って攻撃を仕掛けても仕方ないと思うのだが。
 タティーは、
「どういう事ですか、【めがねさん】?」
 と聞いて見ると、【めがねさん】は、
「どうも千角尾の力を勘違いなさっているようですが、なにも千角尾は過去や未来に渡ってダメージを与える事だけが力ではありませんよ」
 と答えた。
 タティーが、
「と言いますと?」
 と更に聞くと、【めがねさん】は更に説明をしてくれた。
 伊達に、偽クアンスティータのスカウトをしていた訳では無く、背花変と千角尾の力くらいは把握していたのだ。
 その説明によると――
 千角尾――それは千種類の特殊な力を封じ込めているからこそ、ついている名前だった。
 基本的には千種類で、クアンスティータ本体(と言っても本体は本体でも千角尾がついているクアンスティータという意味で、第一本体、第二本体などの意味では無い)の意思とは無関係に自動防御として発動する仕組みをその尻尾に封じ込めている。
 もちろん、クアンスティータ毎にチョイスしている特殊な力は異なるし、千種類というのは基本的な数を表しているものであり、もっと少ない場合も逆に多い場合も考えられる。
 千角尾とはクアンスティータのために自動で動く防御システムの様なものなのだ。
 その登録してある力で最も有名なのが、ターゲットの最も弱い状態の時にさかのぼりダメージを与える事が出来るという力なのだ。
 また、その力も別に最も弱い時を探し出すということでは無く、相手の人生、歴史全ての時を網羅(もうら)出来る迎撃システムという事になっている。
 つまり、運営委員が【ヴェール】の知識を得た時代にさかのぼる事も出来るのだ。
 千角尾を使えば、嘘は全く通じないという事になる。
 例え、嘘をついた本人が忘れたり記憶から消去したとしても、本当の事を知っていた時期があれば、それを探し出す事が出来るのだ。

 クアンスティータの千角尾という力は、知れば知るほど、恐ろしい力である。
 千角尾の持ち主であるタティー自身がそのことを知らなかったというのは宝の持ち腐れだったと言わざるを得なかったのだ。
 だが、その力があるのであれば、探るのは簡単だ。
 早速、タティーは運営委員の歩んできた歴史を探り、【ヴェール】の知識を得た時を見つけようと試みた。
 タティーは、
「う、うーん、これも違う。これも、これも、あれも違う……どれなの……」
 と戸惑っていた。
 千角尾の力が使える事はわかったが、使い勝手がよくわからず四苦八苦していた。
 本物の偽クアンスティータだったならば、もう少しうまく使えるのにと思うタティーだが、実は背花変と千角尾を持っている偽クアンスティータはタティー一人だった。
 他の偽クアンスティータは別の生物の要素を作り半獣神の様な姿になっているが、背花変と千角尾は基本的についていない。
 実はそれでも出す事は出せるのだが、他の偽クアンスティータは、ずっと維持することは出来ず、かなり集中していないと背花変も千角尾も出せないのだ。
 そのため偽者のクアンスティータと呼ばれるのだ。
 通常状態で、ついているのは本物のクアンスティータ達とタティーのみなのだ。
 つまり、タティーだけは本物のクアンスティータに近い性質を持った偽クアンスティータという事になるのだ。

 いろいろ、迷ったが、これだと思う運営委員の過去にたどり着いた。
 それによると、【ヴェール】という超兵器は別名、【クアンスティータ】のコバンザメ兵器とも呼ばれているらしい。
 クアンスティータという大きな魚のおこぼれをもらう様な兵器。
 それはクアンスティータに属する部分と属しない部分を両方持ち、それを都合良く使い分けている立場の兵器という事だ。
 クアンスティータに属しないと最強とはとても呼べないが、クアンスティータに属する事で、最強という立場を得る事が出来る存在という事から【コバンザメ兵器】と呼ばれている。
 決してクアンスティータの力ではないのだが、ある意味、関連づけて居る立場を貫いている兵器。
 クアンスティータに属するという事は他者に対してのこれ以上無い威嚇になり、クアンスティータに属していないという事はクアンスティータに対しては関係無いですという立場を貫く兵器。
 なんだか美味しい所どりのずるい兵器だなぁと思うタティーだった。
 虎の威を借る狐みたいな兵器のようだ。
 虎の威を借ると言えば、自分もそうかと思うタティーだった。
 なんだかんだ言って、タティーがそれなりの立場を保証されているのはクアンスティータの正式な偽者(のもどき)だからでもある。
 タティーもまた、【ヴェール】と同じ立場で一部ではクアンスティータに属する存在となり、本物のクアンスティータに対しては偽者ですという立ち位置にいる。
 そういう意味ではタティーと同じ立ち位置の兵器という事になるだろう。
 クアンスティータの【コバンザメ】的存在は結構いるのかも知れない。
 という事は同じ【コバンザメ】同士、戦う事になった場合、クアンスティータの威光は使えないという事になるかも知れない。
 あるいは、同じ【コバンザメ】同士、理解し合えるかも知れないとも思うのだが、タティーは生命体、【ヴェール】は、兵器だからそれは難しいかなとも思うのだった。
 一人目の闇コス大会の運営委員の過去からわかる事はそこまでだった。
 タティーは他にも何人かの運営委員の過去を探り、【ヴェール】について知れる所まで知ることが出来た。
 そしてわかった事は【ヴェール】は野放しにして良い兵器ではないという事は確信が持てた。
 タティーは、わかった情報を【クインスティータ】達に説明した。
 【クインスティータ】は、
「危ない兵器だというのはわかりましたわ。ならばこそ、なお、取り返さなくてはなりませんわね。そんな危ない兵器の自由をあの女に握らせる訳にはいきませんもの」
 と言った。
 つまり、この時点で、【クインスティータ】の欲望のためにではなく、正式な偽クアンスティータの仕事という事になった事を意味していた。
 最大神殿の問題も残っているが、まずは【ヴェール】問題の方が切実な問題だ。
 タティー達は改めて、【ヴィホヂット】達を追うのだった。


続く。



登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。
















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。




















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。

















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男


010 ヴィホヂット・ウボヒー
ヴィホヂット・ウボヒー
 ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】にフラれた経験のある性格の悪い悪女。
 【リセンシア】にあてがわれた女の子達を手下に持つ。
 あの手この手でタティー達に嫌がらせをしようと画策している。
 今回、盗賊を使って優勝賞品である【ヴェール】の起動キーを盗み出す。


011 リーチェニー・パルフェーム
リーチェニー・パルフェーム
 【ヴィホヂット】に勧誘されたプロのコスプレイヤーの少女。
 タティーと全く同じプロポーションをしているため、ドスケベ四人衆が揃って好みそうな体型をしている。
 アイドルの夢を捨て、プロのコスプレイヤーとして生きる道を選択した。
 今は、この仕事に誇りを持っているまっすぐな少女。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかり、悪の道を進もうとしているかわいそうな少女でもある。
 本家越えと呼ばれる人気者のレイヤーでもある。
 【ヴィホヂット】の悪巧みを実行しようとするも根が正直な彼女は失敗し、闇コスプレ大会を棄権する事になってしまった。


012 ロザリー
ロザリー
 タティーが闇コスプレ大会の決勝トーナメント二回戦で戦う事になるレイヤー。
 【斬魔(ざんま)】という剣、刀、槍、大鎌、ライフル、銛、棒の七つの武具を使うキャラクターをタティーとの大戦でコスプレしてきた。
 大鎌とライフルはへたくそだが、それ以外の五つの武具は100%表現可能という実力者。











013 アニー
アニー
 タティーが闇コスプレ大会の決勝トーナメント準々決勝戦で戦う事になるレイヤー。
 【魚(うお)】という地面を潜るキャラクターでタティーと大戦する。
 陸上潜水システムという超高いアイテムを使って潜水能力を再現するなどコスプレにかなりの金額をかけている選手でもある。








014 チャーリー
チャーリー
 タティーが闇コスプレ大会の決勝トーナメント準決勝戦で戦う事になるレイヤー。
 【女王サラニマス】という超高飛車なキャラクターでタティーと大戦する。
 タティーも同キャラを選択しており、張り手合戦となった。


015 ゆとりん
ゆとりん
 タティーが闇コスプレ大会の決勝トーナメント決勝戦で戦う事になるレイヤー。
 【セクシーネ】という人気トップ100に入るキャラクターを選出する。
 【セクシーネ】は上半身が燕尾服風、下半身はズボンやスカートを着用せず、ガーターベルトとストッキングとパンツのみというコスチューム。
 実は決勝で戦える状態ではなく、レイヤー根性を見せただけの出場だった。