第003話 闇のコスプレ大会

タティー・クアスン編挿絵03

01 タティーのたどってきた道


 タティー・クアスンは、好きな男性との結婚を夢見る普通の少女だった。
 だが、両親に名付けられたこの名前は曰わく付きだった。
 この名前は最強の化獣(ばけもの)として名高い13番、クアンスティータのアナグラムとなっていた名前だったのだ。
 何故か、これだけでタティーは偽クアンスティータとして認定されてしまった。
 認定されただけならまだしも、しっかりと偽クアンスティータの特徴である背中の背花変(はいかへん)と呼ばれる万能細胞も本物より数が少ないとは言え、ついてしまったし、もう一つの特徴である千角尾(せんかくび)もまた彼女の腰から生えてしまっていた。
 これでは違います。
 私は偽クアンスティータじゃありませんと言っても通じない。
 【めがねさん】と呼ばれる、伊達眼鏡――もとい、謎の生命体に見いだされ、彼女は謎の惑星ファーブラ・フィクタに招かれた。
 だが、彼女は拉致されたと思っている。
 帰りたいけど、帰れない。
 そんな状況なのだ。
 そんな彼女の受難は続く。
 タティーよりも強く偽クアンスティータの仲間入りを希望している少女、【クインスティータ・クェンスティー】がよく絡んでくるのだ。
 【クインスティータ】の名前は本名ではなく、本当は【スウィート・ピュア】という立派な名前が他にあるのだが、その名前を気に入っていないのか、本人は【クインスティータ】という名前で通していた。
 【クインスティータ】はことあるごとにタティーに突っかかってきた。
 何かとけちをつけ、強引に推し進めてくる。
 今回、最大神殿の調査に向かったのも彼女に強引に持って行かれたのだ。
 タティーには偽クアンスティータとしてクアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長としての立場が与えられているが、【クインスティータ】はただのファンである。
 なりきりコスプレイヤーでもあった。
 【めがねさん】もいるが、そんな彼女と二人っきりで調査に向かうというのは不安だったので、調査メンバーを探した。
 それで【クインスティータ】に紹介されたのが力自慢の【ヴェルト・ハウプトシュタット】と理屈自慢の【リセンシア・アジュダンテ】だった。
 だが、この二人も問題のある二人だった。
 【ヴェルト】はタティーにつきまとうドスケベ四人衆のリーダーと昔付き合っていて、タティーに勝負を挑んできた。
 ドスケベ四人衆とはタティーのお尻を気に入っているリーダーの【プライス・フィー】、おっぱいを気に入っている【スコント・プレッツォ】、くびれを気に入っている【ベネフィス・フォルテュヌ】、足を気に入っている【クリエント・カントラークト】で、タティーの入浴を覗く常習犯でもある。
 タティーは【ヴェルト】を制し、彼女はタティーの子分としての立ち位置を決めたようだ。
 また、【リセンシア】はいわゆる腐女子。
 ボーイズラブ、ガールズラブが大好物の困ったちゃんだった。
 タティー、【めがねさん】、【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】でチームを組み、一行は最初の最大神殿を目指す。
 だが、タティー達が動いたことにより、ドスケベ四人衆もまた動くのだった。
 それともう一つ、怪しい動きを見せる者が。
 【プライス】にフラれプライドを傷つけられた悪女【ヴィホヂット・ウボヒー】がその悪意を【プライス】から【ヴェルト】、【ヴェルト】からタティーへと標的を変え、近づいて来る。
 【ヴィホヂット】はプロのコスプレイヤーとして生活をしていた【リーチェニー・パルフェーム】をたらし込み、その尖兵とするべく悪の教育を始める。
 【リーチェニー】は人気レイヤーでもあり、タティーと全く同じプロポーションを持つナイスバディな女の子。
 利用できる方法はいくらでもあると考えたのだ。
 そんな【ヴィホヂット】の悪意には気づかず、今日もタティーはお風呂での憩いの一時を過ごすのだった。
 出発してから最初の目的地までの距離は半分まで進んだ。
 旅は引き続くのだった。


02 闇のコスプレ大会


 程なくして、タティー一行は足を止めた。
 まだ、最初の目的地である最大神殿の一つには着いていない。
 着く手前になれば、最大神殿の上に浮かんでいるであろう巨大な女神像が見えるはずである。
 見えないという事は着いていないという事だ。
 だが、道を先導していた【クインスティータ】はここで良いと言う。
 タティーは、
「【クインスティータ】さん、ここで何かあるんですか?」
 と尋ねた。
 【クインスティータ】は、
「えぇ。あるわ。皆さん準備はよろしくて?エントリーするわよ」
 と言った。
 意味がわからない。
 何のエントリーだ?とタティーは思う。
 その疑問には、【リセンシア】が答えてくれた。
「ここは闇のコスプレ大会の受付の場所ね……となると目的はあれかしらね?」
 と言って指さしたものは何かの鍵の様なものだった。
 タティーが首をかしげると、【リセンシア】は、
「前に話した超兵器【ヴェール】――その起動キーの一つとされているのが、この闇のコスプレ大会の優勝賞品なのよ」
 と言った。
 超兵器【ヴェール】――その名前は前に聞いた事がある。
 怖い話に出てたあれだ。
 三つあげた怖い話の一つとして【ヴェール】はあった。
 確か、クアンスティータ学が元になって作られた、普通の存在が扱えないとんでもない代物だとかいうあれだ。
 クアンスティータを理解しようとする学問、クアンスティータ学を持ってしてもその九割がブラックボックスだという賢い者は手を出さない方が安心ですよ〜的な危険なものを動かすキーが優勝賞品。
 だからこそ、闇のコスプレ大会と呼ばれていた。
 表に出すと問題になるものが優勝賞品として提示される大会なのだ。
 直接、【ヴェール】に用は無くとも、その超兵器の起動キーともなれば闇市でかなりの値がつくのは間違い無い。
 売り飛ばせば、十万年生きる存在が一生安泰の生活を送れるだけの資金は少なくとも手に入ると言われているのだ。
 【クインスティータ】の第一の目的はこの大会での優勝をして、【ヴェール】の起動キーを手にする事にあった。
 もちろん、【ステージ2】もどき、現界においては超危険レベルの力を持つ【ヴェール】の起動を阻止するという目的もあるが、【ヴェール】の力を手にすれば、自分も偽クアンスティータとして認めてもらえるのではないかという期待もあったのだ。
 つまり、下心もあったのだ。
 【クインスティータ】だけでは優勝するかわからない大会もタティー達、美人どころを四人揃えばそれだけ、優勝確率も上がると考えていたのだ。
 タティーに性格に難ありの【ヴェルト】と【リセンシア】を紹介したのもこれが理由だった。
 二人とも美人だったからだ。
 美人が四人揃えば優勝も目じゃないと考えていた。
 だが、そういう下心を考えていたのは【クインスティータ】だけでは無かった。
 悪女、【ヴィホヂット】もまた、同じような事を考えていたのだった。
 【ヴィホヂット】には【リーチェニー】がついている。
 【クインスティータ】と人気を二分するレイヤーであり、タティーと全く同じプロポーションを持つ彼女の使い道は正にこれにあると言っても過言では無い。
 【クインスティータ】と【ヴィホヂット】――二人の思惑がひしめきあう怪しい大会。
 それが、闇のコスプレ大会だった。


03 失格と棄権


 タティー達は闇のコスプレ大会――闇コスにエントリーした。
 闇コスは優勝賞品が優勝賞品なだけに参加人数が多く、約18万7千名ずつ32ブロックに別れて予選大会が行われ、決勝トーナメントとして、その予選大会を勝ち抜いた1名ずつ、32名で行われる。
 闇の大会なので、コスプレして格闘技を行うようだ。
 予選大会と決勝トーナメントでは別のコスプレをしなくてはならないというルールがあり、コスプレするキャラクターも闇コスに登録されている2000億近いキャラクターの中から選ぶというのが決められている。
 その2000億近い登録キャラクターの中にクアンスティータはない。
 クアンスティータ大好きな【クインスティータ】は、
「あら、残念ですわ。私のクアンスティータ様愛を示す良い機会でしたのに、だったらどれでも良いですわね」
 と言っていた。
 このことが後で不幸をもたらすとは夢にも思っていなかった。
 登録した結果、【クインスティータ】と【ヴェルト】は同じ1組にエントリーされた。
 つまり、どちらか一名しか決勝トーナメントには上がれない。
 【ヴェルト】は、
「なんだか知らないけど、やるからには負けないぜ」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「返り討ちにしてさしあげますわ」
 と彼女もやる気だった。
 【リセンシア】は4組、タティーは最終組である32組にエントリーされた。

 コスプレするキャラクターは知らないと意味が無いので、資料室が備え付けられている。
 レイヤー達は、自分の選んだキャラクターを理解し、なりきるためにその資料室で資料映像などを見ながら学習するのだ。
 服などは自前で用意しないと行けないので、登録者は、予選大会、決勝トーナメント一回戦(32名→16名)、決勝トーナメント二回戦(16名→8名)、決勝トーナメント準々決勝(8名→4名)、決勝トーナメント準決勝(4名→2名)、決勝トーナメント決勝(2名→1名)用の5キャラクターに加え、三位決定戦用に1つ、予選大会でのアクシデント(決勝トーナメント出場者の欠席などに対応するため)用に1つの計7キャラを選ばなければならない。
 この闇コス大会出場者はその7キャラになりきらねばならないのだ。
 面倒臭いなぁ〜とタティーは思った。
 2000億キャラなんか多すぎて何が何だかわからないと言った感じだ。
 本来の参加者達はあらかじめ7キャラ選んで来ているため、迷わないが、【クインスティータ】を除けば後は飛び入り参加の様なものだ。
 選べと言われても困るのだった。
 それでもなんとか7キャラ選び出したタティーは【リセンシア】に
「【リセンシア】さん、どんなキャラクター選びました?」
 と聞いた。
 【リセンシア】は、
「さぁ?よくわかんないわね。興味ないし」
 と相変わらず自分に興味がないのだった。
 それよりは、
「それより、相手との絡み、期待しているわよ」
 と言ってきた。
 この人は……とつっこみたかったが、言っても彼女は直らない。
 これが、【リセンシア】の人柄なのだから。
 それよりも選択したキャラクターのコスチュームを作る必要がある。
 いざとなれば背中の万能細胞、背花変で作ってしまえばいいのだが、この大会はコスチュームを作るという意味も含まれているのでそういう訳にもいかないだろう。
 タティー達に与えられた時間は3日しかない。
 この3日の間に、予定された7キャラ分のコスチュームの材料を揃えて作らないと行けないのだ。
 タティー達はそれぞれ材料を買いに走って、その後、せっせと縫い物をした。
 そして、三日後、闇コスの予選大会が始まるのだった。
 もう、服の直しはきかない。
 服のエントリーも済ませてしまったので、勝手に変更すれば失格となる。
 このままやるしかなかった。

 間もなくして、【クインスティータ】と【ヴェルト】が参加する予選大会第一組の戦いが始まる。
 これはバトルロイヤル形式で、とにかく、相手を舞台から落として、最後の一人になれば勝ちというルールだ。
 【ヴェルト】は、
「見たところ、他にめぼしい奴はいないわね。だったら、【クインスティータ】、あんたをぎったぎたにすれば、私の勝ちってことよね」
 と言い、【クインスティータ】は、
「そうね、あなたをたたき落として差し上げますわ」
 と返した。
「負けねぇよ」
 と【ヴェルト】が言えば、
「勝つのは私ですわ」
 と【クインスティータ】が返す。
 どちらもやる気だった。
 試合開始のホイッスルが響き渡り、【ヴェルト】が
「私のパワーで押し出してやる」
 と言ってパワーを上げ、【クインスティータ】も
「その程度のパワーで私に勝てると思って?」
 とパワーを上げた。
 そして――
 ピッ
 と笛がなり、
「はい、そこの二人、失格です」
 と審判に指摘された。
 【クインスティータ】は
「な、何故ですのぉ?」
 と食い下がり、【ヴェルト】も、
「そうだ、納得がいかない。説明しろ、説明を」
 と言った。
 審判は、冷静に、
「えっと――1組の17万4963番の【クインスティータ・クェンスティー】さんに、1組の18万飛んで356番の【ヴェルト・ハウプトシュタット】さんでしたね。まずは、【クインスティータ】さんから行きます。あなたがコスプレした【チャリーン】というキャラクターはパワーが弱い事で有名なキャラクターです。あなたが出したパワーは明らかにキャラクターの個性を逸脱したものです。同じく【ヴェルト】さんがコスプレしている【ソーデナンダス】も同じくパワーが弱い技巧派として名前が通っているキャラクターです。どちらもパワーキャラではないのにパワーを押し出すような戦い方をしたので失格となります。これはあくまでもコスプレ大会です。本物のイメージを損なうような戦いをしたものは即刻、失格となります。当然でしょう」
 と言った。
 言われて見ればその通りだった。
 元のキャラクターのイメージを崩す様な戦い方をすれば、コスプレイヤーとしての意味が無いのだ。
 【クインスティータ】は、
「そ、そんな……」
 と肩を落とす。
 【ヴェルト】も、
「ま、負けちまった。悔しい……」
 と涙する。
 それを笑う者が一人。
「おーほほほ、ざまぁ無いわね、お二人さん」
 声の主は、悪女【ヴィホヂット】だった。
 彼女もまた3組のエントリーで大会に参加していた。
 その笑う影に別の審判が肩をたたき、
「えー、3組15万6981番の【ヴィホヂット・ウボヒー】さんでしたね。あなたも失格です」
 と言った。
 【ヴィホヂット】は、
「な、ぬぁんですってぇ〜なんでよ?なんで私まで失格なのよ。私の組はまだ戦ってないじゃないのよぉ〜」
 といちゃもんをつけたが、その審判も冷静に、
「大会参加中はそのキャラクターになりきる――それくらい最低限のルールです。あなたが予選で登録したキャラクター、【まっしろ姫】は清廉潔白で有名なキャラクターです。【まっしろ姫】が【ざまぁ無い】なんて下品な台詞言うとお思いですか?私達審判は大会中は参加者を常にチェックしてますからね。少しでもふさわしくないと思ったら遠慮無く失格にさせていただきますからね。少しはあの方を見習われてはどうですか?あなたのお連れさんでしょ?11組13万6932番の【リーチェニー・パルフェーム】さん。あの方はレイヤーの鏡ですよ。ちゃんとキャラクターになりきっている。彼女の爪の垢でも少し飲ませていただいてはどうですか?」
 と言った。
 【ヴィホヂット】は、
「ぐぬぬぬぬぬ……」
 と激しい歯ぎしりをして悔しがる。
 【リーチェニー】も参加させては居るが、優勝するのは自分だと思っていたからだ。
 それが予選失格という不名誉な結果となってしまった。
 これと言うのもタティー達が悪いと逆恨みするのだった。

 その後、大会も進み、次は【リセンシア】が参加する予選第4組となった。
 【リセンシア】は、
「4組9万1275番、【リセンシア・アジュダンテ】、棄権します」
 と言って開始早々、舞台を降りた。
 【クインスティータ】が、
「なんでよ?なんで棄権したんですの?」
 と問いただすも、【リセンシア】は、
「だって興味ないもん……」
 といつものマイペースだった。
 それを見たタティーは、これだ。
 これで私も棄権出来ると考えたが、そうは問屋が卸さない。
 【クインスティータ】は、
「あなたは、棄権しないわよね!ね!ね!タティーさん!」
 と念を押してきた。
 その余りの迫力に気圧されたタティーは、
「はい……き、……棄権しま……せん」
 と言った。
 これで退路は断たれた。
 何が何でも戦うしかない。
 【クアンスティータ】のこの様子では、登録キャラクターと違う動きをして失格になっても何を言われるかわかったものではない。
 やるしか無かった。

 その後、【ヴィホヂット】の秘蔵っ子とも言うべき【リーチェニー】が11組を圧倒的強さで勝ち進んだ。
 【ヴィホヂット】一派の一人が決勝トーナメントに進んだ以上、タティーは絶対に負けられない戦いに追い込まれてしまった。
 タティーはいつものように、
(た、助けて……誰か助けて……)
 と願うがそれは自分でかなえるしかない。
 自分でなんとかするしかなかった。
 タティーの順番が回ってくるまでのカウントダウンが始まっていた。


04 予選大会


 タティーの精神統一に必要な事と言えばお風呂だ。
 だが、大会中、お風呂に入る事は出来ない。
 大会が終わるまで、タティーは登録したキャラクターになりきらなければならなかった。
 息抜きさえ出来ない。
 それが彼女を苦しめた。
 逃げたい。
 逃げ出したい。
 どこかへ消えたい。
 そう思うがそれを【クインスティータ】が許してくれない。
 彼女の気迫がタティーを追い詰める。
 タティーは特殊警察の署長という立場にある。
 だが、その権威を行使出来た事はほとんどない。
 それはほとんど無関係であるはずの【クインスティータ】が行っているからだ。
 今回も【クインスティータ】の意向には逆らえない自分がいた。
 このままじゃいけない。
 強くならなきゃいけない。
 嫌なものは嫌だとはっきり言える自分にならなきゃ行けないとは思うのだが、【クインスティータ】はやっぱり怖い。
 どうしても気後れしてしまう。
 【クインスティータ】は、
「わかっているとは思いますけど、負けは許されませんのよ」
 と言ってきた。
 あなたは失格になったじゃないですかとは、とても言えない。
 タティーは、
「が、頑張ります……」
 と小さく答えるのが精一杯だった。
 そうこうしている内に予選第31組の試合が始まった。
 次はもう最終第32組――つまりタティーの出番となる。
 緊張が増してきた。
 無様な戦いは出来ないというプレッシャーよりもここから逃げたくても逃げられそうも無いというプレッシャーの方が強かった。
 出来れば、【クインスティータ】に自分の代わりに出て欲しい。
 だが、代理は認められていない。
 登録した本人が出場しなくては失格となるのだ。
 他にもあれこれ可能性を探したがどこにも逃げ場が見つからなかった。
 どうしよう…?
 どうしよう……?
 どうしよう………?
 何回考えてもわからない。
 何も思い浮かばない。
再び――
 どうしよう……?
 どうしよう………?
 どうしよう…………?
 どうしよう……………?
 考えるのを増やしてみたが、結果は同じ。
 全く何も思いつかない。
 参加する予選大会の時間だけが迫ってくる
 あぁ、どうしよう、どうしよう、どうしよう?
 時間が来る、来る、来る。
 軽くパニックになるタティー。
 それを見た【クインスティータ】は、
「落ち着きなさい。それでも偽クアンスティータに名を連ねるものなの?」
 と檄を飛ばす。
 あなたが緊張させているんですよとは口が裂けても言えないタティーだった。
 【クインスティータ】は、
「大丈夫、私が保証してあげます。あなたなら出来ます。タティーさん、私のために勝ってきなさい」
 と勝手なことを言う。
 恨み言を言いたいがその勇気がない。
 そもそも言えるくらいなら、初めからこの予選大会は辞退していた。
 言えないからこそ、このよくわからない大会に参加している。
 気が弱いからこそ、戦うしかなくなっているのだ。
 予選大会32組――およそ18万7千名によるバトルロイヤル――
 普通の女の子が戦う数じゃない。
 異常だ。
 こんなのは異常だ。
 おかしいよ、こんなの。
 だが、異常なのが当たり前なのがこの惑星ファーブラ・フィクタなのだ。
 これはおかしい。
 あれはおかしい。
 それはおかしいと言っていたらいつまで経っても指摘は終わらないのだ。
 だから諦めて戦う事にした。
 だが、彼女は背花変と千角尾によるいつもの自動防御は使えない。
 それはクアンスティータ関係の力であって、登録キャラクターの力ではないのだから。 タティーは、その登録キャラクターの力だけで戦わなければならない。
 当然、タティーにその登録キャラクターの力が無ければ使えない。
 条件としては最悪だった。
 無理だ。
 やっぱり無理だ。
 こんなの勝てる訳がない。
 タティーはそう思って居た。
 だが、奇跡が起こった。
 彼女はひたすら気配を消す事に集中した。
 彼女が予選大会用に選択した登録キャラクターは【イレイザーガール】という女の子キャラだ。
 このキャラクターは姿を消す事に特化したキャラクターであり、存在感が無いというのがキャラクターの持ち味だ。
 タティーは舞台の隅っこで出来るだけ目立たないように小さくなっておとなしくしていた。
 それが、キャラクター性とマッチした行為であり、それが勝利を引き寄せた。
 タティーを除き、最後の一人となったレイヤーが自分が勝ち抜いたと思って自ら舞台を降りたのだ。
 この瞬間にタティーの勝ちが決まった。
 正に漁夫の利とも言える勝利だった。
 最後の一人にまで残って居たレイヤーは抗議したが聞き入れてもらえなかった。
 あれは、【イレイザーガール】の特性そのものだと判断されたのだ。
 タティーは、
「勝ったの?私勝っちゃったの?」
 と、きょとんとしていた。
 【クインスティータ】は、
「さすが、私がライバルと認めた方だけはありますわね。見事ですよタティーさん。私は勝つと信じていましたけどね」
 と勝手な事を言う。
 だが、タティーの顔は憂鬱(ゆううつ)顔だ。
 勝っちゃった以上、決勝トーナメントもまた戦わなければならないのだから。
 予選大会はたくさん参加者がいたから負けても目立たなかっただろうが、決勝トーナメントは1対1の戦いだ。
 負けたら目立つ。
 それだけは間違い無かった。
 予選全32組による戦いも終わり、戦いは大いに盛り上がった。
 ただ一人、タティーを除いてではあるのだが。


05 決勝トーナメント前の一時


 決勝トーナメントは予選大会の疲れを取り除くため、中一日挟んで行われる。
 それまでしばしの休息となった。
 やっとお風呂に入れる。
 タティーはいそいそと服を脱ぎ始めた。
 タティーが脱ぎ始めると奴らがやってくる。
 ドスケベ四人組だ。
 だが、今回はやってこなかった。
 ドスケベ四人組は別の場所に居た。
 タティー同様に決勝トーナメントに勝ち進んだ【リーチェニー】の近くだった。
 そう――彼女はタティーと全く同じプロポーションを持つ少女なのだ。
 タティーの裸も大事だが、ここは新たな女神の登場に、本当にタティーと同じプロポーションなのかの確認――つまり覗く必要があったのだ。
 タティーと時、同じくして、【リーチェニー】もまた服を脱いでいた。
 自動浄化能力を持っていない彼女は、タティーと違い、お風呂に入らなければ汚れを取ることは出来ない。
 タティーの様に入る必要がなくても入るのではなく、彼女は必要だから入っているのだった。
 【リーチェニー】は、湯船につかり
「ふぅ……」
 と一息つく。
 まるでどこかで見た光景だった。
 その【リーチェニー】の美しい肢体を覗き見た不届き者四人は、
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」
 と興奮した声を上げた。
 そこへ、【クインスティータ】が声をかける。
「あなたたち……タティーさんから鞍替えしたんですの?」
 と言った。
 タティーが風呂に入ると聞いて、ドスケベ四人衆をつけていた【クインスティータ】は、4人がタティーの居る風呂場ではなく、別の場所――【リーチェニー】の入浴している風呂場に向かった事に驚いたのだ。
 【プライス】は、
「ば、バカにするな。俺たちの女神は変わらない」
 と言った。
 【スコント】は、
「だが、しかぁし――ここにまた新たなる女神の存在が……」
 と言った。
 【ベネフィス】は、
「ここは自分達が確認しに行かねば――そう思ったであります」
 と言った。
 【クリエント】は、
「女神が二人に増えた。ただそれだけのこと……」
 と言って最後に【プライス】が
「これは喜ばしい事だ。あっちへ行ってもこっちへ行っても俺たちのパラダイスがそこにはある」
 と言って涙を流す。
 こいつらは……。
 とつっこみたくなったが、彼らにそれを言っても始まらない。
 彼らは懲りない連中なのだから。
 言ってきかせてどうこうなるものではない。
 【クインスティータ】は迷った。
 【リーチェニー】は【ヴィホヂット】の手先――
 言ってみれば敵だ。
 だが、これは女の敵として、彼らを処分すべきだろうと判断した。
 【クインスティータ】は、彼らを捕まえ、【ヴェルト】と【リセンシア】の前につきだした。
 【ヴェルト】はお尻百叩きを担当し、
 【リセンシア】は、【地獄の仲人】の刑で、彼らの精神を追い詰めた。
「「「「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっいやぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっ」」」」
 という悲鳴が上がるがいつものことだ。
 それよりも入浴から上がったタティーに
「飽きられたのかも知れないわね、あなた」
 と【クインスティータ】は言った。
 居たら居たで迷惑な四人だが、相手にされないというのもなんだか少し寂しい気持ちになるタティーだった。
 なんだか複雑な気持ちとなった。
 それを察したのか【クインスティータ】は、
「嘘よ。彼らはまだ、あなたのこと女神だと言っていたわよ」
 と訂正した。
 それを聞いて何故かホッとするタティーだった。
 女心は複雑だった。
 女としての魅力でのライバルの登場にタティーの気持ちは少し波立ったのだった。
 一時の一休みはすぐに終わる。
 これからは、闇コスの決勝トーナメントが始まるのだった。


06 決勝トーナメント開始


 ドスケベ四人衆とのいつもの攻防はあったものの、無事、夜を過ごし、タティー達は決勝トーナメントがおこなわれる朝を迎えた。
 泣いても笑ってもこれから1対1のコスプレバトル大会が行われるのだ。
 バトル形式が採用されているのは、人気投票だと、その日の審査員達によって勝敗が左右されてしまって、運の良し悪しがあるからだ。
 それよりは、きっちりと決着をつけるという意味で、バトル形式が採用されている。
 バトルで使える能力なども登録されたキャラクターの範疇(はんちゅう)を超えないものと指定されているので、元々のコスプレイヤー自身の力の増減に左右される事無く、コスプレとしての審査で判断される決着方法と言えるだろう。
 大事なのは強いポテンシャルを持っているキャラクターを選ぶという事とその選んだキャラクターの能力をレイヤーが使いこなせるかという事だった。
 それ以外の要素はオマケと言えるが攻撃に耐える体力や耐久力なども必要な要素と言えるだろう。
 攻撃は元のキャラクターの範疇を超えてはならないというルールはあるものの、持ち前の頑丈さや知恵などは仕方ない事として、認められているのだ。

 タティーは決勝トーナメント出場者の控え室に向かった。
 本来であれば、この部屋にいるのは【クインスティータ】であり、タティーではない。
 だが、うっかりさんな【クインスティータ】は予選大会で失格になってしまった。
 だから、タティーががんばるしかないのだが、タティーの目には誰も彼もが強く映ってしまう。
 自分だけ置いてきぼりになってしまった様に感じるのだ。
 そんな訳でガチガチに緊張していると声をかける存在が一人。
 ライバルの【リーチェニー】だった。
 【リーチェニー】は、
「おはようございます。タティー・クアスンさんですよね。私、【リーチェニー・パルフェーム】と言います。一応、プロのコスプレイヤーをしています。もしかして緊張なさっているんですか?大丈夫です。私、良いおまじない知っているんです」
 と言ってきた。
 良い子だ。
 この子は良い子だ。
 【ヴィホヂット】と違って良い子だと思うタティーだった。
 【リーチェニー】は、
「本当はお姉様にあなたのことを完膚なきまでに叩きのめせと言われているんですけど、私そういうの苦手で。――私、コスプレは楽しくやらなきゃ駄目だと思って居るんですよね。例え対戦相手でも楽しく戦いたい。――そう思うんです。甘いですかね?こういうのって?」
 と言った。
 タティーは、
「そんな事ないです。私もそう思います。私達、気が合いそうですね」
 と言った。
 笑顔で答えたタティーに対して【リーチェニー】は少し戸惑いながら、
「あのこれ、差し入れです。食べてください。おまじないの意味も込めて」
 とお菓子を渡してきた。
 タティーは、
「あ、ありがとうございます。うれしいです」
 とお礼を言った。
 それを見た【リーチェニー】は、
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、私、やっぱり出来ません」
 と妙な事を言った。
 実は、【ヴィホヂット】に命令されて、超強力な媚薬入りのお菓子を食べさせようとしていたのだ。
 要するにタティーに恥をかかせようという目論見である。
 タティーのまっすぐな笑顔に良心の呵責に耐えきれず、取り乱したのだった。
 まだ、【ヴィホヂット】の洗脳は完璧ではなかったのだ。
 タティーは心配し、
「大丈夫ですか?あ、良かったらあなたにもらったものですけど、お菓子でも食べて落ち着いてください」
 と言った。
 【リーチェニー】は、
「え……と、そ、それは……」
 と焦る。
 タティーは、
「私はあなたと話せたから、もう大丈夫です。だから、これはあなたが食べて落ち着いてください。あなたが落ち着くにはこれが一番ですよね?」
 と言った。
 【リーチェニー】は涙目になり、
「は、はい……たべまひゅ……」
 と言ってパクッと食べた。
 策士策におぼれる。
 【ヴィホヂット】が立てた嫌らしい作戦は純粋な【リーチェニー】には、荷が重く、無理だった。
 それがかえって仇となり、【リーチェニー】は棄権を申し入れた。
 体が紅潮し、興奮してしまって、とても耐えきれなかったからだ。
 【ヴィホヂット】に棄権した事を伝えた【リーチェニー】に対し、【ヴィホヂット】は、
「このバカ。なんで棄権なんかしたのよ。この愚か者。私の計画が台無しじゃない」
 と激怒した。
 【リーチェニー】は、
「そ、そんな、お姉様……」
 と涙目になって訴えたが、この悪女にそれは通じない。
 彼女には帰ってお仕置きが待っていた。
 そんな見えない攻防があったことなどつゆほども知らないタティーは、
「彼女――無理して参加してたのね。彼女のためにもがんばらないと」
 と奮起した。
 こうして、どこか間抜けな展開となってしまった。
 優勝候補筆頭の【リーチェニー】の突然の棄権に大会本部は大あらわ。
 11組の予選大会参加者の中から敗者復活戦が行われるようになった。
 タティーは、
「あぁ、このために1キャラ選んだんだぁ〜?」
 とのんきな事を言っていた。
 【リーチェニー】の代わりの予選通過者が選ばれ、改めて32名で決勝トーナメントが行われることになったのだった。
 タティーはまだ、【ヴィホヂット】の悪意に気づいていなかった。
 彼女もどこか抜けた女の子だった。
 理解していたのは【リセンシア】くらいのものだろう。
 【リセンシア】は、
「なるほど……面白いわね。これはネタに使えるわね」
 と喜んでいた。
 悲喜こもごもの闇コス大会は続く。


07 決勝トーナメント1回戦の緊張感


 【リーチェニー】の脱落というアクシデントはあったが、決勝トーナメントは何事もなかったかのように執り行われた。
 まずは決勝トーナメント第1回戦。
 これで、32名から16名に減ることになる。
 負ければそれで、終わり。
 ご退場となる。
 それがトーナメント決勝大会だった。
 改めて抽選が行われ、新たな番号が割り当てられる。
 タティーはBブロックの3番だった。
 決勝トーナメントはABCDの四ブロック8名ずつで別会場で行われる。
 タティーはBブロックの第二試合という事になるのだ。
 同じブロックの対戦相手の戦いは見学する事は出来るが他のブロックの対戦相手の試合は彼女は見る事が出来ない。
 早速、タティーはBブロック決勝トーナメントが行われる会場に向かった。
 タティー自身が見る事が出来ないので、【クインスティータ】はAブロック、【ヴェルト】はCブロック、【リセンシア】はDブロックを見学することになっている。
 つまり、Bブロックはタティー(と【めがねさん】)だけで分析して戦わなければならないのだ。
 眼鏡は伊達だが、目が悪いという事になっているので、使用を許可されているが、【めがねさん】はあくまでも眼鏡なので、サポートすることは出来ない。
 負けたら【クインスティータ】に何を言われるかわからない。
 何が何でも勝つしかないのだが、Bブロックの出場者は誰も彼もが強く見える。
 実は、【リーチェニー】に言っていたのは強がりだった。
 彼女が苦しそう(に見えた)だったので、大丈夫ですと言っていたのだ。
 自分まで緊張していると言ったら彼女が困ると思ってタティーなりに気を遣ったつもりだったのだ。
 なので、せっかくくれたお菓子も【リーチェニー】に返してしまったので、緊張がまるで解けて居なかった。
 むしろ、ドキドキ具合は増していると言っても良いくらいだった。
 あぁ、どうしよう、どうしよう、どうしよう……
 気ばかりが焦るが、どうしようも無い。
 人間だった頃、演劇で主役でも何でも無い木の役をやるのに必要以上に緊張し、倒れて保健室に運ばれた事を思い出した。
 彼女は大舞台になれていないのだ。
 誰か――助けて…。
 助けて……。
 助けて………。
 助けて…………。
 助けて……………。
 助けて………………。
 助けて…………………。
 助けて……………………。
 助けて………………………。
 助けて…………………………。
 呪文のように【助けて…】を連呼するが、もちろん誰も助けちゃくれない。
 逃げたい…。
 逃げたい……。
 逃げたい………。
 逃げたい…………。
 逃げたい……………。
 逃げたい………………。
 逃げたい…………………。
 逃げたい……………………。
 逃げたい………………………。
 逃げたい…………………………。
 【助けて…】から【逃げたい…】に言葉を変えて見ても結果は同じ。
 変わりが無い。
 これでどうにかなるのはクアンスティータくらいのものだ。
 タティーはクアンスティータじゃない。
 偽者のさらにもどきの存在に過ぎない。
 彼女にクアンスティータのような飛び抜け過ぎた力はないのだ。
 今度は、
 私はやれば出来る子…。
 私はやれば出来る子……。
 私はやれば出来る子………。
 私はやれば出来る子…………。
 私はやれば出来る子……………。
 私はやれば出来る子………………。
 私はやれば出来る子…………………。
 私はやれば出来る子……………………。
 私はやれば出来る子………………………。
 私はやれば出来る子…………………………。
 と言葉を変えて見た。
 今度は少し効き目があるみたいだ。
 自己暗示として、自分を奮い立たせる。
 彼女は第二試合。
 これから行われる第一試合の後には彼女の出番となるのだ。
 タティーは、
「はぁ〜っ……緊張する……」
 と声を漏らす。
 彼女の泣き言は今に始まったことではない。
 なんだかんだで彼女はどうにかしてきたのだ。
 今回もどうにかなると思っている【クインスティータ】達は落ち着いて自分に与えられた仕事をしている。
 慌てる事はない。
 どうせいつものことだ。
 そう見ていた。
 慌てているのは本人だけだった。
 震えているのは本人だけだった。


08 タティーの戦い


 Bブロック一回戦の試合は盛り上がっていたようだが、極度の緊張で何が行われていたかはっきりとわかって居なかった。
 この試合の勝者と仮にタティーが一回戦を勝ち抜けばあたることになるのだが、それをチェックしている余裕は彼女には無かったのだ。
 それよりは目の前の第一回戦をどうするか?
 そればかりが、彼女の頭の九割を支配していた。
 後の一割はお風呂である。
 そうこうしている内に、Bブロック一回戦第一試合が終了し、いよいよ、タティーの出番となった。
 タティーの対戦相手の名前は、【リスキー】と言う名前の選手だった。
 【リーチェニー】ほどでは無いにしても彼女も忠実に元のキャラクターを表現出来る体現者として定評があった。
 彼女が選択した今回のキャラクターは【ぞん美(ぞんみ)】という名前で要するにゾンビキャラだった。
 まるで本物のリビングデッドの様な表情はリアルと言えた。
 対するタティーの方は、堕天使キャラの【ローラ】だった。
 堕天使キャラなので、暗黒の翼を背花変で再現するところまでは許されている。
 だが、出来ることは飛ぶことくらいで後は許されていない。
 後は悪魔の尻尾だ。
 それも背花変で再現可能だが、そうなると千角尾が邪魔だった。
 背花変も千角尾も見えなくすることは可能なのだが、本物のクアンスティータと違い、そのものを消すことは出来ない。
 なので、見えなくても千角尾は彼女の腰についているのだ。
 だから、悪魔の尻尾による突っつき攻撃も制限されるという事になるだろう。
 逆に千角尾が邪魔となってうまく攻撃出来ないからだ。
 堕天使キャラなので千角尾による攻撃は許されていない。
 ピンチになれば、自動的に千角尾は攻撃態勢を取ってしまうことになるが、そうなると失格になってしまう。
 自分で使わないようにしっかり制御していかなくてはならないのだ。
 だから、本来であれば頼もしい助けとなるはずの千角尾はこの戦いにおいては邪魔なお荷物となるのだ。
 こういったハンデを背負いながら、タティーは【リスキー】と戦わなければならなかった。
 どうしよう……
 勝てるのかな?
 負けたらどうしよう?
 そんないいわけじみたことを考えてしまう。
 だが、その心配は無用だった。
 この件に関して言えば、タティーよりもむしろ【クインスティータ】達の方が正しく判断していた。
 タティーは背花変で作った黒い翼で、ひと羽ばたきした。
 すると旋風が起こり、【ぞん美】に扮していた【リスキー】を巻き込み、場外に放り出したのだ。
 この風は、たまたま、【ローラ】の隠し技、【旋風翼(せんぷうよく)】と認定され、タティーの勝利となったのだ。
 失格になるかもと恐れたが、それどころか【旋風翼】を忠実に再現したとして大歓声が起きた。
 タティーは、
「勝ったの?また、勝っちゃったの?」
 と言った。
 いつものことである。
 自覚は無いが、彼女は偽クアンスティータに認定された存在である。
 ただのコスプレイヤーにはそうそう負けないポテンシャルを秘めていたのだ。
 だが、彼女の心は弱く、いじめられっ子だった頃と変わらなかった。
 だから、いつも弱気。
 いつも後ろ向きで事をとらえていた。
 また、負ける。
 負けてしまうとは思っていても結局は勝ってしまう。
 それがタティー・クアスンという人物像だった。
 人物像とは表現しても彼女は今、人間を止めた状態になっている。
 彼女は偽クアンスティータ。
 彼女が結婚し、人間に戻る日が来るのかどうかはまだわからない。
 彼女には、偽クアンスティータとしてやるべき仕事がまだ残っているのだから。
 そんな彼女に休みは許されない。
 次から次へと問題はやってくる。
 彼女はそれを一つ一つ解決していくだけなのだ。

 決勝トーナメント一回戦は突破した。
 次には二回戦が控えている。
 このBブロックだけでも後、二回戦わなければならないのだ。
 それを思うと彼女はまた、憂鬱になる。
 タティーは、
「はぁ……いつ、終わるのかしら、これ……」
 とため息をついた。
 ため息ばかりついていると幸せは逃げていきますよ。


続く。


登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。
















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。



















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。
















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男


010 ヴィホヂット・ウボヒー
ヴィホヂット・ウボヒー
 ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】にフラれた経験のある性格の悪い悪女。
 【リセンシア】にあてがわれた女の子達を手下に持つ。
 あの手この手でタティー達に嫌がらせをしようと画策している。


011 リーチェニー・パルフェーム
リーチェニー・パルフェーム
 【ヴィホヂット】に勧誘されたプロのコスプレイヤーの少女。
 タティーと全く同じプロポーションをしているため、ドスケベ四人衆が揃って好みそうな体型をしている。
 アイドルの夢を捨て、プロのコスプレイヤーとして生きる道を選択した。
 今は、この仕事に誇りを持っているまっすぐな少女。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかり、悪の道を進もうとしているかわいそうな少女でもある。
 本家越えと呼ばれる人気者のレイヤーでもある。
 【ヴィホヂット】の悪巧みを実行しようとするも根が正直な彼女は失敗し、闇コスプレ大会を棄権する事になってしまった。


012 リスキー
リスキー
 タティーが闇コスプレ大会の決勝トーナメント一回戦で戦う事になるレイヤー。
 元のモデルを忠実に再現することで定評がある選手。
 【ぞん美(ぞんみ)】というゾンビキャラで堕天使【ローラ】というキャラクターになっていたタティーと対決するも惜しくも敗れる。