第002話 出発

タティー・クアスン編挿絵02

01 タティーのこれまで


 タティー・クアスンは元、ただの人間である。
 だが、彼女は最強の化獣(ばけもの)クアンスティータのアナグラムの名前を持って生まれてしまった。
 両親の事を恨んでも仕方が無いとは言え、彼女は【めがねさん】と呼んでいる謎の生命体に見いだされ、謎の惑星ファーブラ・フィクタに連れて来られてしまった。
 惑星ファーブラ・フィクタは現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界にありながら、現界よりも数百万倍も大きいという不思議な星だ。
 彼女はこの星でクアンスティータに仇なす存在を取り締まる役目を持つ、特殊警察の署長に選ばれてしまったのだった。
 彼女の元にはクアンスティータに憧れ、クアンスティータこそが全てという宣伝部長の【クインスティータ・クェンスティー】(本名スウィート・ピュア)、変な男大好きな力自慢【ヴェルト・ハウプトシュタット】、地獄の仲人と呼ばれる腐女子【リセンシア・アジュダンテ】などのおかしな連中が集まって来た。
 これらの面子(めんつ)で、タティーが署長に就任してからの初めての大きな事件となり得るかも知れない最大神殿の調査に向かう事にした。
 また、タティーが動くと彼らも黙っていない。
 タティーのお尻が大好きなリーダー格の【プライス・フィー】、おっぱいが大好きな【スコント・プレッツォ】、くびれが大好きな【ベネフィス・フォルテュヌ】、足が大好きな【クリエント・カントラークト】の4人で構成される通称ドスケベ四人衆もまた、彼女を追って動こうとしていた。
 彼らもまた変な連中である。
 タティーの周りには変な奴らでいっぱいである。
 将来、結婚して、偽クアンスティータという役職を退こうと思っている彼女にとっては受難が続くと言えるだろう。
 タティーが運命の赤い糸に導かれた素敵な男性と巡り会える日は来るのであろうか?
 それは今のところ全くわからない。
 全く兆候が見えていない。
 お先真っ暗なお仕事のイメージしかない。
 彼女は悲しむ。
 だが、元、いじめられっ子の彼女の辞書には今のところ強気という文字は無い。
 ただ、流されるままにお仕事をこなす。
 それだけなのだ。
 彼女の不幸な旅路は始まったばかり。
 これからどんな受難が待ち受けているのであろうか?


02 タティーの宿敵?


「俺の美学にお前の尻はない……」
(ぬぁんですってぇ……この私が、この私がフラれるというの?大した男でもないこいつにぃ……)
「はっ……また、この悪夢……」
 【ヴィホヂット・ウボヒー】は何十回も見た悪夢にうなされ起きる。
 周りには裸の女性が何人か寝ていた。
「はぁん……お姉さまぁ……また愛でてくださいまし……」
 その内の一人がすり寄ってくる。
 【ヴィホヂット】は、
「うるさい。今、それどころじゃないのよ」
 と言って蹴り上げる。
「あぁん。もっといじめてぇ〜……」
 女は喜ぶ。
 だが【ヴィホヂット】は喜ばない。
 彼女も女だ。
 【ヴィホヂット】には苦い思い出があった。
 それは、自分の美貌を利用してそこそこイケていると思われる男をナンパして、後でこっぴどくフるという遊びをしていた時、たまたま、声をかけた男にフラれたのだ。
 その男の名前は、【プライス・フィー】。
 タティーにつきまとっているドスケベ四人衆のリーダー格の男でお尻好きの変態男である。
 【ヴェルト・ハウプトシュタット】の元カレでもある。
 プライドの高い【ヴィホヂット】は大して興味もない【プライス】に会っていきなりフラれたのだ。
 「お前のお尻には興味がない」
 と。
 いきなり手玉にもとっていないのにフラれたのでは話にならない。
 フるのは【ヴィホヂット】であって【プライス】ではない。
 結果、【ヴィホヂット】は【プライス】に追いすがる形を取ってしまい、それが周囲の目には、【プライス】が【ヴィホヂット】をフって、すがりついて復縁を求めている様に映ったのだ。
 【ヴィホヂット】はこの時、プライドがズタズタにされた。
 それから悪夢を繰り返し見るようになったのだ。
 【プライス】はその当時、【ヴェルト】のお尻に熱を上げていた。
 そのため、怒りの矛先は【プライス】から【ヴェルト】に移っていた。
 自分をフッた【プライス】よりも【ヴェルト】が凄いと言われているようで悔しかったのだ。
 それで、ことあるごとに【ヴェルト】の仕事を邪魔してやろうと近づいてくるが、【ヴェルト】の側には腐女子、【リセンシア・アジュダンテ】が居た。
 【リセンシア】は、
「あなた、良いわぁ〜創作意欲をかき立てられるわぁ〜」
 と言って、無理矢理、他の女の子を【ヴィホヂット】にあてがったのだ。
 すっかり、あてがわれた女の子は【ヴィホヂット】の虜となってしまった。
 自分は違うと思い、何度も【ヴェルト】に嫌がらせをするが、その度に【リセンシア】に別の女の子を割り当てられ、今にいたるのだ。
 今ではちょっとしたハーレムが出来てしまった。
 もちろん、これはありがた迷惑な話である。
 【ヴィホヂット】は別に女性が好きではない。
 あくまでも男性が好きなのだが、これと言って好みの男性とは巡り会っていないので、憂さを晴らすために、男を手玉にとっていたのだ。
 最近になって、【ヴェルト】と【プライス】が別れたという報告を受けてざまぁみろと褒められたものではない感情を持ったのだが、すぐに怒りに身を震わせる。
 【プライス】の興味は【ヴェルト】からタティー・クアスンという訳のわからない女に移ったという報告を受けたのだ。
 まるで、【ヴィホヂット】より、【ヴェルト】が、【ヴェルト】よりタティーが上だと言われている様な気がして、更に自分を格下げされた気分になったのだ。
 【ヴィホヂット】の怒りの矛先は【ヴェルト】からタティーに移ろうとしていた。
 許すまじタティー・クアスン……
 【ヴィホヂット】の逆恨みはタティーにターゲットを変えた。
 タティーの新たなる不幸が、受難が、始まろうとしていた。


03 最初の目的地を目指して


 【ヴィホヂット】が動き出した事はもちろん、【ヴィホヂット】の存在すら知らないタティーは【めがねさん】という伊達眼鏡を着用し、【クインスティータ】、【ヴェルト】、【リセンシア】らと共に、旅支度を調え、出発していた。
 出発して早々、タティーは、
「あの……【めがねさん】……」
 と話しかけた。
 【めがねさん】は、
「なんでございましょうタティー様」
 と聞き返す。
「いえ、あの……ね、……私達は最大神殿っていうところを目指しているんですよね?」(タティー)
「そうですが?」(【めがねさん】)
「その最大神殿って目印か何か無いんですか?私、何を目指して行けば良いのかわからなくて……突然、着いたと言われてもびっくりするかも知れませんし……」(タティー)
「簡単ですわ。最大神殿の上空には巨大な女神像がありますの。それを目指して行けば遠方からでもわかりますわよ」(【クインスティータ】)
「へ、へぇ〜【クインスティータ】さん、詳しいんですねぇ〜」(タティー)
「常識ですわよ。常識」(【クインスティータ】)
「私は知らなかったぞ」(【ヴェルト】)
「私も興味ないから知らなかったわね」(【リセンシア】)
「まぁ、あなた達もなの?てっきり無知なのはタティーさんだけかと思ってましたわ」(【クインスティータ】)
「おい、【クインスティータ】、お前、あんまり姉さんに失礼な事を言うと許さんぞ」(【ヴェルト】)
「まぁ、許さなかったらどうだっておっしゃるの?」(【クインスティータ】)
「こいつで黙らす」(【ヴェルト】)
「まぁ、私とやろうっていうの?あなた達は私がタティーさんに紹介してあげたんだって事、忘れてるんじゃないかしら?」(【クインスティータ】)
「それとこれとは話が別だ。姉さんに対する無礼の数々、目に余る」(【ヴェルト】)
「やろうっていうの?」(【クインスティータ】)
「やらいでか」(【ヴェルト】)
「ちょっと、やめてください二人とも」(タティー)
「あら、残念、殴り合いから生まれる愛もあると思ったんだけど」(【リセンシア】)
「【リセンシア】さんも何を言っているんですか」(タティー)
「愛こそ全てなのよ。同性同士の愛は最高だわ」(【リセンシア】)
「はぁ……」
 ちょっと質問しただけでこれだ。
 この先、このメンバーでやっていけるのか、かなり不安だった。
 本来であれば、タティーが先頭をきって進んで、パパパっと片付けて帰りたいところなのだが、あいにく、調査の目的で最大神殿の一つを目指しているというところまではわかって居ても、どこの最大神殿を目指しているかもわかって居なかった。
 主導権は道を先導している【クインスティータ】にあるのだ。
 だが、【クインスティータ】に質問すれば、タティーに対して失礼な言い方をするかも知れないし、そうなると【ヴェルト】が怒り出す。
 それを【リセンシア】が面白がるという構図が出来てしまっていた。
 完全にパターン化してしまっている。
 だから、【クインスティータ】ではなく【めがねさん】に質問したのだが見ての通りだった。
 そもそも、調査と言われてもタティー達は最大神殿に向かって何をすれば良いのかわからないのだ。
 着いたは良いが何をすれば良いのでしょう?では笑い話にもならない。
 なんとか調査の仕方だけでも聞き出したいのだが、【クインスティータ】にはそんな事も知りませんの?と言われそうだ。
 困った。
 非情に困った。
 チームワークに問題ありだ、このパーティーは……。
 タティーはそう確信した。
 人選を間違えたと言うしか無い。
 メンバーの個々の実力はあるのかも知れないがチームワークがからっきしだ。
 みんな自分達の事しか考えていない。
 自分のマイペースを貫き行動している。
 少しは歩調を合わせて欲しいものだ。
 だけど、気の弱いタティーにはそれを言うことは出来ない。
 もし、言えば【ヴェルト】あたりは聞いてくれるかも知れないが、後の二人はそうは行かないだろう。
 【クインスティータ】は反発するだろうし、【リセンシア】はへりくつで返してくるだろう。
 困った。
 本当に困った。
 どうしようもないから、出来るだけタティーも自然体で行こうと心がけているが、いまいちペースがつかめない。
 タティーとしては出来るだけもめずに穏便に目的地に着くこと。
 出来れば、そこに運命の結婚相手と巡り会って、電撃入籍して引退。
 ――そんな、都合の良い妄想をするが、それがかなえられる事はまずないだろう。
 わかっている。
 わかっている、そんな事は、百も承知だ。
 だけど、出来ればリタイアしたいという気持ちが強くなってしまう。
 だって、女の子なんだもん。
 そんないいわけをしたくなる。
 誰もそんないいわけ聞いてくれないのはわかっているんだけど。
 歩いていれば、黙々と歩きに集中することが出来るかもしれないが、移動手段は、お皿型の浮遊装置となっている。
 座っていても目的地に自動で進んでくれるという便利なものだが、一応、お仕事なので、暇つぶしの道具を持ってきていなかった。
 ただ、ぼーっとしている事も出来ずに、気の合わないメンバーと面と向かって座っているのだ。
 どうしよう。
 間が持たない。
 何か話さなくてはと思うけど、下手な話をすれば、また喧嘩になる。
 しゃべるも地獄。
 しゃべらないも地獄の地獄づくしだった。
(誰か助けて〜)
 タティーは悲鳴にならない心の悲鳴を上げた。
 旅は始まったばかり。
 まだ、何もおきちゃあいない。
 起きるのはこれからなのだ。
 タティー達は少しずつ最初の目的地を目指して進んでいた。


04 怖い話


 長い沈黙に耐えられなかったタティーが口を開いた。
「あの……」
 という滑り出しだ。
 【クインスティータ】は、
「何かしら?」
 と聞き返す。
 タティーは、
「この惑星ファーブラ・フィクタで注意する事って何ですか?私、わからなくて」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「そうねぇ……三つ怖い物をあげるとしたら、一つは超兵器【ヴェール】、二つ目は【ロスク】、三つ目は名前さえ伝えられてないものかしら?」
 と答えた。
 タティーは、
「それはどういったものなんですか?」
 と尋ねた。
 三つともよくわからないからだ。
 名前さえ伝えられていないと言う三つ目は答えようがないかも知れないが、【ヴェール】と【ロスク】についてはまだ、わかることがあるのではないかと思った。
 危険からは出来るだけ遠ざかりたいという方針のタティーにとっては避けて通るべきものだからもう少し理解しておきたかったのだ。
 その名前や怪しいなと思った時にすぐに逃げ出せるようにだ。
 【クインスティータ】は、
「それなら、【リセンシア】に聞いた方が良いかも知れないですわ」
 と言った。
 【リセンシア】は、
「聞きたい?」
 と聞いてきた。
 タティーは、
「後学のためにも是非……」
 と言った。
 すると【リセンシア】は、
「じゃあ、何をしてくれる?私もただで話す訳にはねぇ。ちょっと【クインスティータ】か【ヴェルト】と絡んでくれるだけで良いわよ」
 と言った。
 タティーは真っ赤になってクビをブルンブルン降った。
 私にそういう趣味はありませんと主張したのだ。
 【リセンシア】は、
「嘘、嘘。ただで教えてあげるわよ。まずは、超兵器【ヴェール】ね。これはクアンスティータ学を元に作られた兵器で普通の兵器とはまるで違うと言われているわ」
 と言った。
 クアンスティータ学……聞いた事の無い学問だ。
 【リセンシア】が言うにはクアンスティータを理解しようとして発展した学問で、決してクアンスティータの力ではないのだが、全く無視も出来ない学問で、通常の現界の常識を逸脱した超常識でなりたっている学問だとされている。
 現界では通常あり得ないような出力を出す事も可能とされている学問だ。
 その粋を尽くして作られた兵器が【ヴェール】と呼ばれる超兵器で、よくわかっていないらしい。
 クアンスティータ学を用いてもなお、ブラックボックスが九割以上を占める兵器であり、現界の存在がまともに動かす事の出来ないものとされているらしい。
 聞くだけでゾッとするような話だ。
 近づかないようにしようと思うタティーだった。
 【リセンシア】は、
「続いて、【ロスク】ね、【ロス・Q(クアンスティータ)】とも呼ばれる存在で偽クアンスティータになれなかった存在と言われているわ」
 と言った。
 タティーは、
「【ロス・クアンスティータ】……」
 とつぶやいた。
 【クアンスティータ】の名前が出るだけでそれがただものではないことが容易に想像できたからだ。
 【リセンシア】が言うには、【ロスク】とは偽クアンスティータを生み出す段階で失敗した存在で、現在でもなお、1億5000万体以上の【ロスク】が存在していて、その処理を主に他の偽クアンスティータ達が行っているという。
 この惑星ファーブラ・フィクタにも数十体居ると言われているらしい。
 偽クアンスティータが忙しいというのはこのクアンスティータの汚点とも言うべき、【ロスク】の処理をするのが急務だったからでもあるという。
 【ロスク】にはまともな知能が無く、強烈な破壊衝動を持っているため、見つけ次第処分するしかないという。
 神話の時代に築かれたクアンスティータの伝説は、数々の不幸を産んでいた。
 【ロスク】もその一つとされる。
 【ロスク】の生まれたいきさつは不憫だとは思うが、破壊衝動のある存在をそのまま野放しには出来ない。
 出来れば関わりたくないが、タティーも出会ったら、その処分を任される事になるかも知れない。
 絶対に出会いたくは無いが。
 三つ目については名前さえ伝わっていないので、何が何だかさっぱりだが、名前が伝わってないのに、三つの危険の一つに数えられているという事はどうせ、超危険極まりない何かであることは間違い無いだろう。
 その三つが惑星ファーブラ・フィクタに存在しているという事なのだ。
 そんな危なっかしいもの置いておくなと言いたいが、あるものは仕方が無い。
 出来るだけ避けて通ろうと思うタティーだった。
 他には無いんですね?と聞いて見たら、
「三つ挙げるとしたらこの三つだけど、まだ、挙げようと思ったら他にもあるわよ。五つくらいにしとく?それとも十くらいにしとく?」
 と怖い事を【リセンシア】は言っていた。
 つまり、怖い事は三つでは無いという事だ。
 この惑星ファーブラ・フィクタにはもっと多い数の怖い事がたくさん隠れているんだと思うと背筋が凍る思いだった。
 まだ、話したそうな【リセンシア】だったが、タティーは、
「も、もう結構です。お腹いっぱいです」
 と断った。
 これ以上聞いていると夜眠れなくなりそうだった。
 人間の頃はお化けの話が怖かった。
 が、今は、想像も出来ない力を持った存在が何より怖かった。
 お化けは現実味が無かったが、これらは現実の問題として今にもタティーの前に飛び出てきそうでリアルだったから余計怖かったのだ。
 タティーは、
「よ、夜、ちょっと添い寝してもらってもいいですか?」
 と言った。
 それを聞いた【リセンシア】は、
「お、良いねぇ、そそるねぇ。ビデオ回しても良いかな?」
 とすっとぼけた事を言った。
 タティーは、
「寝るまで一緒に居てくれるなら、我慢します」
 と言った。
 【リセンシア】は、
「あら、ごめんね。怖い思いさせちゃったかしら?」
 と謝った。
 【クインスティータ】は、
「情けないですわねぇ〜それでも偽クアンスティータに名を連ねる存在ですの?」
 と言った。
 【ヴェルト】は、
「姉さんに失礼な事、言うなって言っただろうが。――姉さん、それは私が……」
 と言い、【リセンシア】
「出来るだけ組んずほぐれつでお願いね」
 と言った。
 チームワークが良いんだか悪いんだかわからない四人だった。
 目的地までにはまだしばらくかかる。
 タティー達の旅は続く。

 それを追う影が2グループ。
 タティーの入浴シーンを狙うドスケベ四人衆とタティーに敵対心を持つ【ヴィホヂット】だった。
 最初の目的地を目指して、一定の間合いを取りつつ、三組のチームは進んで行く。


05 見つかった四人


 タティー達の旅は続く。
 惑星ファーブラ・フィクタは広い。
 現界よりも広いため、高速で移動していても目的地までには結構、時間がかかるのだ。
 初日はさして問題も無く終わった。
 タティーは怖い話を聞いて眠れない夜を過ごし、翌朝を迎えた。
 寝不足だが、日課の入浴を済ませたいと思ってタティーはお皿型の浮遊装置に備え付けられている脱衣室に向かった。
 彼女がこの浮遊装置を移動手段に選んだのはなんと言っても入浴室がついているからだった。
 これならば、長い移動中にお風呂に入る事ができるのだ。
 チャプン。
 タティーは、体を洗った後、お湯につかる。
「ふぅ〜落ち着きます……」
 タティーは気分を落ち着けた。
 タティーはお風呂さえあれば、不安から立ち直る事も出来た。
 お風呂こそが憩いの場。
 お風呂こそが救いのアイテム。
 お風呂こそが癒やしの薬と言えた。
 だが、そんな時、決まって現れるのは奴らである。
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」
 ドスケベ四人衆が興奮する。
 望遠鏡を使ってタティーの入浴を覗いていたのだ。
 そこへ、
「何をしてますの、あなた達……?」
 と、【クインスティータ】が声をかける。
 ドスケベ四人衆は、
「「「「うおわっ!」」」」
 と驚く。
 いつ覗いても、【クインスティータ】にはすぐに見つかってしまうのだ。
 今日もまた、やっぱり見つかってしまった。
 【クインスティータ】はただちに四人を拘束し、お皿型の浮遊装置の元に連れて行く。
 元カレの【プライス】を確認した【ヴェルト】は、
「あ、あんた、また姉さんを……」
 とわなわなと肩をふるわせ怒りの表情を浮かべる。
 【プライス】は、
「お、落ち着け【ヴェルト】、俺はだな、芸術鑑賞をだな……」
 と良いわけするも、
「覗きのどこが芸術鑑賞だぁ〜」
 と【ヴェルト】に殴り倒された。
 【プライス】は、
「こ、殺す気かぁ〜」
 と文句を言ったが、【ヴェルト】は、
「お望みなら何度でも殺してやるわ。この浮気者がぁ〜」
 と言ってなおも殴りかかる。
 【プライス】は、
「よ、よせ、俺たちは別れたんだ。だから俺はフリーだ。これは自由恋愛だ」
 とさらなるいいわけをするが、
「覗きのどこが自由恋愛だぁ〜」
 と一蹴された。
 お約束な光景だった。
 とりあえず、ドスケベ四人衆には【リセンシア】による【地獄の仲人】の刑を受けさせて、また、【ヴェルト】を落ち着かせて、【クインスティータ】が尋ねる。
「それで、こんなところで何をなさってますの?」
 と。
 特殊警察からもタティーの家からもずいぶん離れている。
 タティーを追ってきていないのであれば説明がつかない場所と言えたのだ。
 ドスケベ四人衆はそれぞれにいいわけをしたが、いいわけにはもちろんなっていなかった。
 とりあげるまでもないようなくだらない文言で言い逃れようとする。
 【クインスティータ】は、
「要するに、タティーさんを追って来たと……そういう訳ですのね?」
 と言うと、ドスケベ四人衆は観念したのかコクンと頷いた。


06 最初の敵?


 ドスケベ四人衆にいつものように百叩きのお仕置きを済ませた後、とりあえず、警護という目的で彼らの同行を許し、タティー達は旅を続ける。
 ドスケベ四人衆から、タティー達をつけている途中で【ヴィホヂット】と会ったという事を聞いた。
 【ヴェルト】は、
「しつけーなぁ、あの女は」
 と言った。
 【ヴェルト】と【リセンシア】の仕事をことごとく邪魔をしていた【ヴィホヂット】もタティー達を追っているのではないかと思ったからだ。
 だが、タティーは、【ヴィホヂット】という名前は初耳だ。
「どちら様?」
 というのが正直な感想だった。
 この頃はまだ、タティーは【ヴィホヂット】は【ヴェルト】と【リセンシア】にとっての邪魔者として認識していた。
 まさか、自分に対して敵意が向いているとは夢にも思っていなかった。
 ただ、迷惑な人じゃありませんようにと軽く祈る程度だった。

 そんなタティー達の元に近づく物体があった。
 星だった。
 よく考えたらおかしな話だが、惑星ファーブラ・フィクタには星の中に星が存在していた。
 それもいくつもだ。
 星の中に星が出来ることなどあり得るのだろうか?
 これは決して衛星や月ではない。
 ちゃんとした星がいくつも存在しているのだ。
 惑星ファーブラ・フィクタには上空に星がいくつも浮かび、それが星中星(せいちゅうせい)として認識されていた。
 だが、よくよく考えたら昼間も星が見えるというのはおかしい。
 てっきり宇宙に浮かんでいる星だとタティーは思っていたのだが、星は惑星ファーブラ・フィクタの中に存在している。
 地上から成層圏までが途方も無くやたらと遠いのだ。
 だから、小さく見えていたため、宇宙にある星だと認識していたのだが、どうも違うようだ。
 どうなっているのかよくわからないが惑星ファーブラ・フィクタ自体が大きな宇宙世界のようなものなのだ。
 それで、その中の星の一つがだんだんとタティー達の元に近づいてきていた。
 タティーは、
「なんでしょう、あれ?」
 と誰かに答えを求めた。
 【リセンシア】が、
「あら、どうやら、どこぞの星中星の支配者にでも目をつけられたみたいね、私達――因縁でもふっかけに来たんじゃないのかしら?」
 と答えた。
 タティーは、
「な、何をそんなにのんきに……」
 と言った。
 惑星ファーブラ・フィクタの住民にとって、星中星から誰かが攻めてくることなど大して珍しくもない事なのだ。
 だから、むしろ慌てているタティーの方が、なんで?というのが正しい反応だった。
 タティーがこれまで培ってきた常識は通じない――それが惑星ファーブラ・フィクタでの常識なのだ。
 誰かが攻めて来たという事は戦闘が始まるかも知れないという事だ。
 タティーはあたふたとした。
 オロオロとした。
 冷や汗をかいた。
 緊張した。
 恐怖した。
 などなど、慌ただしかった。
 だが、タティー以外の連中はいたって冷静だった。
 まるでだから何だとでも言いたげな態度だった。
 タティーのドギマギした態度だけが浮いて見える光景だった。
 近づいてきた星中星の大きさは太陽系で考えれば太陽のだいたい120倍程度の大きさだった。
 太陽の120倍と言えば相当大きいのだが、惑星ファーブラ・フィクタからすれば、大した事ない大きさだった。
 それだけ何もかもがスケール違いだった。
 ある一定まで近づいたところで星中星の動きがピタッと止まる。
 どうやら、星中星を誰かが動かしているようだ。
 星を動かす行為など、惑星ファーブラ・フィクタにおいては指して珍しい光景でもなかった。
 相変わらずタティーだけが慌てていた。
 少しすると、星中星の中から誰かが出て来た。
 大きい。
 細かいが1520メートルはあるだろうか?
 ズドズンというものすごい轟音をあげて、その何かは惑星ファーブラ・フィクタの地面に降り立った。
 見上げるほどの大きさの何かは巨大な大女だった。
 巨大な大女はしゃべり出す。
「我は、星中星フライヤスの女帝フライヤスなり」
 と言った。
 女帝フライヤスは、傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度でタティー達を見下す。
 タティーは、
「ひぃ〜……」
 と怯える。
 【クインスティータ】は、
「どこの田舎者かしら?我々が、クアンスティータ様に連なる組織と知っての狼藉(ろうぜき)かしら?」
 と言った。
 女帝フライヤスは、
「く、クアンスティータ様の……」
 と言って、そのまま、
「し、失礼しましたぁ〜」
 と言って、惑星フライヤスに逃げ帰った。
 あれだけでかいたっぱを誇っていた女帝フライヤスがその名前を出しただけで、ビビって逃げ出すクアンスティータって一体……とタティーは思った。
 結果、最初の敵、女帝フライヤスは戦わずして逃げ出したという事になった。
 逃げたので、戦っていないから、敵と呼ぶにもおかしな話だが。
 とにかく、最初の難関となるかも知れない事はあっさりと回避された。
 何はともあれ一安心したタティーだった。
 このままクアンスティータの名前を出して行けば安全に進めるのでは?と思えて来た。
 だが、クアンスティータの威光を傘に着るという行為は偽クアンスティータの反感を買う元となる。
 タティー達が他の偽クアンスティータに粛正されるという場合もあるのだ。
 そうなれば、偽クアンスティータの権利の剥奪どころでは済まされないだろう。
 殺されてしまうかも知れないのだ。
 しかもただ、殺されるという事にはならない。
 良くてなぶり殺し。
 悪かったら、想像もつかない目にあわされるだろう。
 そう考えるとゾッとする。
 クアンスティータの名前はどうしようも無くなった時にだけ出す事にしようと思った。
 ちょっと躓いたが、タティー達の旅は続く。


07 【ヴィホヂット】の悪巧み


 一回は名前を聞いた【ヴィホヂット】だが、彼女がタティー達の前に姿を現すという事はなかった。
 しばらくの間ではあるが。
 彼女はその頃、せっせと悪巧みをしていた。
 自分のハーレムの女達にスパイをさせて、タティー達の様子を探っていたので、タティー達とドスケベ四人衆が共に行動していることやメンバーの数などは把握していた。
 その上で、手下がハーレムの女達だけではタティー達には勝てないと考えた【ヴィホヂット】は、仲間という名の手下を増やすべく行動していたのだった。
 【ヴィホヂット】が最初に目をつけたのは【リーチェニー・パルフェーム】という女の子だった。
 この子はいわゆるプロのコスプレイヤーだった。
 有名な何かの真似などをして生計を立てて生活している存在である。
 【クインスティータ】もまた、プロのコスプレイヤーと言えなくもなかったので、彼女の同業者と言っても良いだろう。
 【クインスティータ】がクアンスティータだったならばどんな可能性だったかを示すというタイプのコスプレイヤーなのに対し、【リーチェニー】は本家越えのコスプレイヤーと呼ばれ、元となっているモデルを超える完成度の出来を見せる事からこのあだ名がついていた。
 当然、本家本元を超えなければならないので、クアンスティータのコスプレはしないというポリシーでやっている。
 やっても超えられないのがわかっているからだ。
 なので、同じコスプレイヤーでも【クインスティータ】とはきっちり棲み分けが出来て居るレイヤーであると言えた。
 彼女にコスプレして欲しい元のモデルは星の数ほど存在するとまで言われている超有名な存在と言える。
 今まで、【クインスティータ】と同じコンテストに出場した事も22回ほどあり、10勝10敗2引き分けと全くの五分の戦績となっている。
 一部では、クアンスティータ専門の【クインスティータ】とクアンスティータ以外専門の【リーチェニー】共通のファンクラブもあると言われて居る。
 【クインスティータ】と【リーチェニー】は世間的に見ればライバル関係と言えるのだ。
 だが、本人達はきっちり棲み分け出来ていたので、お互いをライバル視した事は一度もないという。
 本来であれば、交わる事の無かった接点――それが【ヴィホヂット】という悪女によって、つながれようとしていた。
 【ヴィホヂット】は、
「お願いよ、【リーチェニー】さん。あなたしかいないの。私のしもべ――いえ、お友達の皆さんを輝かせるのはあなたしか……あなたしかいないの……どうか、あなたの力でプロデュースしてあげて欲しいのよ。出来るでしょ?」
 と言った。
 もちろん、これは口から出任せである。
 【リーチェニー】を仲間に引き込む第一歩として、自分に従っているしもべ達を餌に近づこうとしているのだ。
 【リーチェニー】は、
「そんな事、急に言われても……、私は生活のためにしている訳だし。人に教えるためにやっている訳では……」
 と言った。
 彼女はコスプレという職業を生活のためとして割り切っているのだ。
 【リーチェニー】は人間だが、もちろん、地球人ではない。
 変身能力のある異星人だ。
 彼女の夢は現界の宇宙世界でのトップアイドルとなる事だった。
 だが、上には上がいる宇宙ではトップアイドルになることは出来なかった。
 最大の理由は彼女が複合生命体では無かったからだ。
 トップアイドルというからには宇宙の至る所で芸能活動をしなくてはならない。
 宇宙は広い。
 とても体一つでは足りないのだ。
 星、一つ回るのにさえ、手間取るだろう。
 だから、宇宙世界でのトップアイドルになるという最低条件の一つとして、体を複数もつことが出来るというものがある。
 彼女はその素質が無かった。
 トップアイドルには複合生命体ではない者も少なからずいるのだが、(別の工夫をしているトップアイドルが存在している)彼女は自分には無理だと早々に諦めてしまったのだ。
 だが、代わりに目指せたものがあった。
 それがコスプレアイドルである。
 アイドルはアイドルでもコスプレイヤーとしてのアイドルであるため、複合生命体でなくとも十分にやっていけたのだ。
 逆に、身一つだから、かえって貴重とされる様になり、人気はうなぎ登りに上がっていったという。
 最初は戸惑いながら何となく始めたコスプレだったが、今では誇りに思っている。
 決して遊びでやっている訳では無いのだ。
 だからこそ、プロのコスプレイヤーと名乗っているのだ。
 片手間にやるようなものとしてはとらえていない。
 だが、【ヴィホヂット】はお友達とやらのコスプレ指導は片手間で良いからと言っている。
 【ヴィホヂット】は【リーチェニー】の負担にならない様にと言ったつもりだったのだが、真剣にやっている彼女にとっては遊びと本気の区別がついていない半端者がやっているのではないのか?と思ってしまったのだ。
 だから、やる気になれなかった。
 だが、ファンですと言って近づいて来た【ヴィホヂット】を無碍(むげ)には出来なかった。
 プロのコスプレイヤーはお客様が居てこそ成り立つ職業でもある。
 【ヴィホヂット】はそんな【リーチェニー】の弱みにつけ込んで勧誘してきているのだった。
 とことん悪知恵の働く女である。
 【リーチェニー】は、
「あのね、【ヴィホヂット】さん。遊びと思われるかも知れないけど、私、真剣に考えているの」
 と言うと、【ヴィホヂット】は、
「そう……真剣に遊んでいるのね……わかったわ」
 と言った。
 【リーチェニー】は全然わかって無いと思うのだった。
 やんわりと断ろうと言う態度を示し始める。
 だが、【ヴィホヂット】は諦めない。
 【リーチェニー】はあの男――【プライス・フィー】の最も好む体型をしているのだ。
 つまり、彼女はタティーと全く同じプロポーションなのだ。
 【ヴィホヂット】は【プライス】が好む体型を調べあげた。
 それで見つけたのが彼女なのだ。
 自分のプライドを傷つけた【プライス】を虜に出来るかも知れない逸材――それが【リーチェニー】という少女なのだ。
 タティーと全く同じプロポーションという事はドスケベ四人衆全てのフェチを網羅(もうら)しそれに対応出来るということを意味していた。
 タティーがクアンスティータの加護によって体型を維持しているのに対して、彼女の場合は天然での体型の維持である。
 だからこそ、彼女の勧誘は外せなかった。
 男を惑わすという役割を持たせるにあたって、タティーを除き、彼女ほどの適任者は早々見つかるものではないのだ。
 仮に見つかったとしても胸、くびれ、腰、足の四拍子揃った者など滅多に居ない。
 だからこそ、まるで蛇の様に狙った獲物は逃すまいと【ヴィホヂット】はあの手この手で【リーチェニー】を説き伏せる。
 今まで【リセンシア】にあてがわれた女達を通して、女の子を籠絡(ろうらく)する手段はいろいろと身につけて来た。
 あの子は何が気に入る。
 あの子は何が気に入らない。
 この子は何が気に入る。
 この子は何が気に入らない。
 その子は何が気に入る。
 その子は何が気に入らない。
 どの子が何が気に入って何が気に入らないというのを瞬時に見極め、口説き方を修正していくのだ。
 さっきも【リーチェニー】が【片手間】という言葉に僅かな嫌悪感を持ったと判断した【ヴィホヂット】は舌の根も乾かない内に真剣路線で話を進めていた。
 【リーチェニー】はファンを疑ってはいけないという思い込みから、だんだんと丸め込まれて行く。
 一時間後には、
「わかりました。【ヴィホヂット】さんの真剣な気持ち、私も真剣に考えさせていただきます」
 と言っていた。
 【ヴィホヂット】は、
(しめた。籠絡完了ね……)
 とほくそ笑んでいたが、それを【リーチェニー】には見せない。
 こうして、忠実なしもべをまた一人、増やして行くのだった。
 【リーチェニー】はまだ悪役というタイプではない。
 だが、【ヴィホヂット】の策略にはまって次第に悪の道を歩いて行くことになるのだろう。
 ご愁傷様である。
 【ヴィホヂット】は、
「さぁ、行きましょう。あなたとは夜通し語り合いたいわ。是非、私の家に泊まっていってね」
 と言った。
 【リーチェニー】は
「この辺にあるの?」
 と聞いた。
 【ヴィホヂット】は、
「えぇ、すぐ近くに……」
 と答えた。
 もちろん嘘である。
 【リーチェニー】をたらし込むために借りた家があるだけである。
 抱いてしまえばこちらのもの。
 後は何とでもなると【ヴィホヂット】は思って居た。
 悪党の発想である。
 危ない。
 自分の夢にまっすぐな【リーチェニー】が【ヴィホヂット】の毒牙にかかろうとしていた。
 だが、それを助ける者は居ない。
 【ヴィホヂット】はこっそりとしのびより、彼女に手をかけようとしていたのだから。
 彼女のピンチを知る者はそこにはいない。
 やがて、【リーチェニー】は【ヴィホヂット】と共に、【ヴィホヂット】が借りた愛の巣に向かって行った。
 それは、まるで美しい蝶を絡め取った蜘蛛の巣のようだった。
 やがて、少しずつ【リーチェニー】は懐柔(かいじゅう)されていく。
 【ヴィホヂット】の忠実な尖兵として調教されていくのだ。
 哀れな【リーチェニー】。
 怪しく笑う【ヴィホヂット】。
 怪しい夜は更けていく。
 純真な少女を悪夢に誘う、危険な夜が。
 家には複数の女達が待っていた。
 【ヴィホヂット】によってしもべとされてしまった先輩達だ。
 【リーチェニー】は抵抗したが、多勢に無勢。
 あらがう術はなかった。
 【ヴィホヂット】は、
「怖いのは最初だけよ。だんだん気持ち良くなるから」
 と言ってほほえんだ。
 悪意をうまく隠した微笑だ。
 恐怖に駆られていた【リーチェニー】はそこに救いを求めてしまう。
 それが悪夢の始まりだとも知らずに。
 夜は更に更けていく。
 悪夢への道は始まったばかり。
 彼女は一歩一歩、踏み出していく。
 逃れられない毒蜘蛛に捕まってしまった。
 【ヴィホヂット】という悪女はそうやって、自分に忠実なしもべを増やしてきたのだ。
 【ヴィホヂット】の悪巧みは今日も冴え渡る。
 悪いことを考えさせたら彼女は天才的だった。
 クアンスティータが生まれてしまったら、この悪事は通じない。
 偽クアンスティータが管理している甘い時代だったからこそ通じる悪意だった。
「あぁん……」
 また、一人、悪女の手先が生まれようとしていた。


08 今日もこうして……


 チャプン。
「あぁ……気持ちいいですぅ〜」
 一人の少女が悪女の手に落ちた事も知らずにタティーはのんきに朝風呂に入っていた。
 そうするとまたドスケベ四人衆が動き出す。
 自分達の女神――タティー・クアスンの肢体を眺めようとあの手この手で近づいてくる。
 そして、また、めざとい【クインスティータ】に見つかり、【地獄の仲人】の刑とお尻百叩きの刑に処される。
 これはもはや日課と化していた。
 タティーも覗かれるとわかっているのだから、もう少し警戒しても良いものなのだが、彼女はそれよりもお風呂の魅力に取り憑かれていた。
 全て忘れてお風呂でのんびりしたいという気持ちが先に立ってしまい、ドスケベ四人衆の事などすっかり忘れてしまうのである。
 【クインスティータ】は、
「全く、この懲りないバカ四人衆も四人なら、あなたもあなたですのよ、タティーさん。女なんですから、少しは警戒なさい」
 とたしなめる。
 タティーは、
「はい……わかって居ます。でも忘れてしまうんです。つい、お風呂の気持ちよさには勝てなくて……」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「入浴への欲求に勝てないなんて、偽クアンスティータとして失格ですわよ」
 と言った。
 偽クアンスティータの条件にお風呂への誘惑に負けるなという項目はもちろん無い。
 これは、【クインスティータ】のこれはこう、あれはあぁであるべきだという決めつけ、悪い癖の一つだった。
 相変わらず直ってないのだ。
 【ヴェルト】は、
「おい、【クインスティータ】、姉さんは、お風呂で精神統一してらっしゃるんだ。【プライス】のバカ達の事なんて考えている暇はないんだよ」
 と言った。
 これも口から出任せである。
 別に、タティーはお風呂で精神統一をしている訳では無い。
 むしろ羽を伸ばしてのんびりしているのだ。
 【リセンシア】は、
「まぁまぁ、気になるなら後でみんなで入って洗いっこしたら、私は撮影――もとい、見学させてもらうから」
 と言った。
 タティーは、
「【リセンシア】さん、鼻血……」
 とつっこむ。
 【リセンシア】の思惑はお見通しと言わんばかりだった。
 こうして、いつもの毎日が始まる。
 最初の目的地、第一の最大神殿までは後、半分と言ったところまで来ていた。
 このまま何事も無く終わるのか?
 それとも一悶着二悶着あるのか?
 あるいはもっとか?
 【ヴィホヂット】の悪巧みも気になるところだ。
 悪女【ヴィホヂット】は【リーチェニー】をどのように利用するのか?
 タティー達の預かり知らぬところでせっせと悪巧みに精を費やしているのだろう。
 タティー達の旅は続く。
 まだ、何事もない。
 せいぜい、ドスケベ四人衆に毎日、お風呂を覗かれているくらいのものだろう。
 まだ、安全。
 だが、これからはわからない。
 悪女、【ヴィホヂット】が正式に動き出したのだから。
 いつ、邪悪なアプローチを仕掛けて来ないとも限らないのだ。
 【ヴィホヂット】は手ぐすね引いて罠を張り、どこで仕掛けてくるかわからない。
 そんな危険性をタティーはまだ知らない。
 彼女は次に入るお風呂を楽しみにしている。
 のんきな女の子だった。


続く。




登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。




















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。

















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男


010 ヴィホヂット・ウボヒー
ヴィホヂット・ウボヒー
 ドスケベ四人衆のリーダー、【プライス】にフラれた経験のある性格の悪い悪女。
 【リセンシア】にあてがわれた女の子達を手下に持つ。
 あの手この手でタティー達に嫌がらせをしようと画策している。


011 リーチェニー・パルフェーム
リーチェニー・パルフェーム
 【ヴィホヂット】に勧誘されたプロのコスプレイヤーの少女。
 タティーと全く同じプロポーションをしているため、ドスケベ四人衆が揃って好みそうな体型をしている。
 アイドルの夢を捨て、プロのコスプレイヤーとして生きる道を選択した。
 今は、この仕事に誇りを持っているまっすぐな少女。
 【ヴィホヂット】の毒牙にかかり、悪の道を進もうとしているかわいそうな少女でもある。
 本家越えと呼ばれる人気者のレイヤーでもある。