第001話 タティー・クアスンと仲間達

タティー・クアスン編挿絵01

00 タティー・クアスンという少女


 チャプン……
「ふぅ……落ち着きます……」
 タティー・クアスンは憩いの一時、大浴場で羽を伸ばしていた。
 惑星ファーブラ・フィクタに連れて来られて現在に至るまでいろいろとドタバタしていたのだ。
 現在という表現は正しくない。
 惑星ファーブラ・フィクタに連れて来られたタティーは少し成長していたもう一人のタティーに出会った。
 もう一人のタティーは、
「すみません、あなたが居るとちょっと困るので二年と少し前の過去に行っていただけますか?私もそうしてきたので……」
 と言った。
 そして、そのまま過去へと飛ばされたのだ。
 飛ばされた時間は最強の化獣(ばけもの)クアンスティータが誕生する事件の約3年前だった。
 タイムスリップをあっさりやらされたのにも驚いたが、何より驚いたのは惑星ファーブラ・フィクタの広さだった。
 何しろこの星、現界(げんかい)と呼ばれる宇宙世界の中にありながら、現界よりもずっと大きいのだ。
 何でも数百万倍はあるそうだが、そんな事言われてもピンと来ない。
 空間がねじ曲がっているから起きる現象らしいが、タティーは軽くパニックになった。
 タティーには彼女が【めがねさん】と呼ばれる謎の存在がサポートについている。
 その【めがねさん】は彼女の伊達眼鏡として彼女と一緒にいる。
 もちろん、今は入浴中だがら席を外してもらってはいるのだが。
 【めがねさん】が言うにはタティーには仕事があるとのことだった。
 それは彼女がクアンスティータのアナグラムであるタティー・クアスンという名前になったからこそ与えられる使命だった。
 ただの人間だったはずの彼女は偽クアンスティータとしてクアンスティータに仇なす存在を取り締まらなければならなかった。
 クアンスティータが誕生したら、クアンスティータの自動防御能力で自動的に取り締まれるらしいが、まだ、この時点ではクアンスティータは誕生していない。
 なので、不届き者達に対して、クアンスティータの代わりに偽クアンスティータ達が取り締まっているのだ。
 【達】というからには他にも偽クアンスティータは存在している。
 正式な偽クアンスティータ達は神話の時代から取り締まっていると言われているのだ。
 その性格はとても残忍であり、少しでもクアンスティータに悪意を持った存在は完膚なきまでに叩きのめし、殺害するという。
 最初はタティーにもそれを強要されたが、元々、人間として生活して来た彼女にそんな真似が出来るはずもなく、それで、クアンスティータ・ファンクラブと呼ばれる集団と何度ももめていたのだ。
 あなた様は甘すぎる、他の偽クアンスティータ様を見習ってくださいと。
 そんな事を言われてもタティーには無理だった。
 それで苦労に苦労を重ねて、少しずつ自分の立場を確立していったのだ。
 過去へ渡って3ヶ月、ようやく少し慣れてきたところだった。
「そうなんですよ。わかります?私の苦労」(タティー)
 ――って、ちょっとタティーさん、これはナレーションなんですから話かけないでくださいよ。
「そんな事言っても、寂しかったんですもの、お話させてくださいよぉ」(タティー)
 仕方ないですね、じゃあ、将来の目標とかあるんですか?
「将来の目標ですか?それはですね、結婚して寿退社することです。結婚すれば、姓が変わるでしょ?そうなったら、私、偽クアンスティータじゃなくなるんですよ。だから、クアスン姓の方とは絶対に結婚は出来ません。そうなっちゃうと偽クアンスティータのままですからね」(タティー)
 結婚って……
「良いんですぅ。女の子の夢の一つじゃないですか。結婚して幸せな家庭を築くんですよ、私」(タティー)
 結婚する予定のお相手はいるんですか?
「今のところ居ません。これから出会う予定です。きゃ〜言っちゃった」(タティー)
 まぁ、夢見るのは勝手ですからね。
 じゃあ、本編始めますよ。
「よろしくお願いします」(タティー)
 やれやれ……


01 ク【イ】ンスティータ襲来


 【めがねさん】は言った。
「タティー様。お風呂はまだでございましょうか?もうかれこれ1時間は……」
 と言った。
 タティーはいつも長風呂をするのだ。
 ある程度で、出さなければいつまでも入っているかも知れない。
 タティーは
「あ、はーい、もうちょっとであがりま〜す」
 と返事はするものの、これからも長い。
 それから更に30分はかかるだろう。
 タティーは、他の事は弱気なのだが、事、お風呂に関してだけは強気だった。
「お風呂は外せません。絶対に」
 と言い張り、毎日入るのはもちろん当然のこととして、多いときは日に3、4回は入るのだ。
 タティーに与えられた力を使えば、風呂に入らなくても汚れを取る方法はいくらでもある。
 だが、お風呂に入らないと気持ち悪いと言い張り、それだけは譲らなかった。
 まるで、お風呂のために生きている様なものだった。
 せかさなければずっとお風呂で生活しているかも知れない。
 【めがねさん】は
「そろそろ、彼女が見える頃ですよ」
 と言った。
 タティーは、
「また、あの人ですか……はぁ……」
 とため息をついた。
 タティーの言う【あの人】とは正確には【人】ではない。
 元が人間である彼女とは比べものにならないくらいの超生命体だ――とその人は言っている。
 【あの人】の名前は【クインスティータ】――【クアンスティータ】ではない。
【ク【イ】ンスティータ】だ。
 これは本名ではなく、本名は【スウィート・ピュア】という名前がちゃんとある。
 だが、【スウィート】は本名は名乗らない。
 それよりも【クアンスティータ】をリスペクトした【クインスティータ・クェンスティー】という名前を名乗って居る。
 完全に【クアンスティータ】と名乗るとかたりになってしまうから一字外しの【クインスティータ】と名乗り、さらにもう一つ、【クェンスティー】とまた、クアンスティータに近い姓を名乗っている。
 本人が嫌うので、【スウィート】よりも【クインスティータ】と呼ぶが、彼女は【クアンスティータ】が大好きすぎる存在なのだ。
 好きすぎて、偽クアンスティータの仕事を手伝いたいと申し出たくらいだった。
 他の偽クアンスティータにはいらないと断られたため、仕方なく、ポッと出の偽クアンスティータのさらにもどきでもあるタティーにつくことにしたのだ。
 【クインスティータ】は【クアンスティータ】のPR活動をするために何度も水着撮影会をして、アピールしてきたという自負を何故かもっており、宣伝部長を自称している。
 そんな彼女は他の偽クアンスティータの事も【偽クアンスティータ様】と呼ぶのだが、タティーについては【タティーさん】と呼ぶ。
 つまり、偽クアンスティータとして認めてないようなのだ。
 そんな【クインスティータ】はことあるごとにタティーに勝負を申し込む。
 それは勝負に勝ったら自分が主体で、偽クアンスティータとしての仕事をさせなさいというものだった。
 そんな彼女も最初はタティーの事を【偽クアンスティータ様】として扱っていた。
 だが、タティーが将来結婚して偽クアンスティータの仕事を寿退社するつもりですと話したとたんに、態度が急変したのだ。
 彼女曰く、名誉ある仕事を引退しようだなんて身の程知らずも甚だしいと思ったようだ。
 それから、何かとつっかかってくるのだ。
 今日も、
「ちょっと、タティーさん。まだお風呂に入ってらっしゃるの?偽クアンスティータのお仕事は待ってはくれないのよ。とっとと出て来なさい」
 という具合にタティーが上がるのを待っていた。
 タティーにとってはせっかくの憩いの時間を邪魔されて面白くないが気の弱い彼女は迷惑ですとは口が裂けても言えなかった。
 タティーは、
「お、お待たせしましたね、【クインスティータ】さん。今日は何の御用ですか?」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「なんでじゃありません、タティーさん。すでに三件もクアンスティータ様に対して無礼を働く存在が現れましたのよ。早速出動ですわ」
 と言った。
 タティーは、
「なんで【クインスティータ】さんが、それを……別に関係ないんじゃ……」
 と言ったら、【クインスティータ】にキッと睨まれたので、
「そ、そうですね。クアンスティータ様に無礼を働くなんて、なんて失礼な方達でしょうねぇ」
 と言い換えた。
 【クインスティータ】は、
「無礼者に【方】なんてつける必要はありませんわ。【奴】で十分ですわ」
 と付け加えた。
 それを聞いたタティーはこっそりため息をつくのだった。
 実は偽クアンスティータにタティーの仕事を監視されている訳では無いので、てきとーにやっていこうと思っていたのだが、こうも毎日【クインスティータ】がやってくるので、やらざるを得ないのだった。
 【クインスティータ】にせかされるように比較的手早く着替えを済ませて、【めがねさん】を着用、今日も自分の席につく。
 彼女が着いた席は署長席だった。
 タティーは惑星ファーブラ・フィクタにおける特殊警察署長という地位にいた。
 警察署長と言っても犯罪を取り締まる警察は他に存在する。
 彼女が取り締まっているのはクアンスティータに無礼を働く存在を捕まえたり罰を与えるという仕事だ。
 【クインスティータ】がなりたくてなりたくて仕方が無い役職にタティーはついているという事になる。
 この特殊警察は惑星ファーブラ・フィクタからいくらでも署員として採用することが許されているのだが、何故か、【クインスティータ】がふさわしくないと言って、片っ端からクビにしていた。
 その権限はタティーに与えられているのだが、彼女がそれを行使したことはただの一度もない。
 それらは何故か全て、【クインスティータ】がやっていた。
 なので、この特殊警察に署員は今のところ最低限の数しかいない。
 そんなにやりたければ、譲ってあげますとタティーは思っているのだが、実力でその座を奪えない限り、【クインスティータ】はこの署長の席には着かなかった。
 【クインスティータ】はこの特殊警察の署員ではないのだが、何故か毎日、この特殊警察にタティーと共に訪れて朝から晩まで働いていた。
 数少ない署員達はもう慣れっこで【クインスティータ】が居る事に疑問を持っていなかった。
 半分署員だと思っているので、クアンスティータに無礼を働いた者の情報を彼女にも教えていたのだ。
 【クインスティータ】はこのエネルギーを他で活かしたらさぞや大物になったであろうバイタリティーがあるのだが、彼女にとってはクアンスティータこそが絶対、そして全てだった。
 彼女にとってはこの特殊警察という環境は天職とも言えるものだった。


02 お仕事


 席についたタティーは【クインスティータ】からクアンスティータ関連の事件について報告を受ける事にした。
 他の署員に聞くよりもよっぽど的確に教えてくれるからだ。
 本当に彼女が署長になれば良いのにと思ってしまう。
 【クインスティータ】
「とりあえず、ドスケベ4人衆がまた忍び込んであんたの風呂覗こうとしてたからつかまえておいたわ」
 と言った。
 ドスケベ4人衆とはそれぞれ、タティーの胸、腰、くびれ、足を気に入りつきまとっている4人組の事だ。
 あの連中また来てたのかとタティーは軽く嘆息した。
 続けて、
「アホ共の話は置いておいて、今朝話した3件の内2件は大した事無い問題外レベル。問題は残る1件ね。恐らくステージ2もどきが出ている案件よ」
 と言った。
 【ステージ2】?と言われてもタティーには何のことだかわからない。
「あの……【クインスティータ】さん……」
「何かしらタティーさん?」
「その【ステージ2】もどきっていうのは……?」
「決まってますわ。【ステージ2】まではいかないものの、【ステージ1】でも危険レベルのものですわ」
「ですから、その【ステージ1】とか【ステージ2】というのは?」
「まさか、偽クアンスティータなのにそんなこともお知りになりませんの?」
「……すみません。なって間もないものですので……」
「仕方ありませんね、では一から説明して差し上げますわ」
 タティーは【クインスティータ】からその【ステージ】の事についての説明を受けた。

【クインスティータ】の言う【ステージ】とは最も大きく区分けされたレベルの事を言っていた。
 要素としては土、風、火、水、雷、光、闇と主に(例外もあるが)7つに分類される。
 その中の一つ【火】を例に挙げて説明する。
 なお、他の要素も【火】と同じようなものとなる。
 【火】の場合、例えどんなに火力が強い力――現界(げんかい)の宇宙世界の端から端まで熱が届いたとしてもそれは【ステージ1】に分類される。
 クアンスティータが誕生する前の現界で顕現(けんげん)される力はその【ステージ1】であることを守られている。
 【ステージ1】であればいくらでもクアンスティータの関係者達によって修復が可能だからだ。
 だが、【火】には、【ステージ2】以上の威力を持つものがある。
 【ステージ2】は存在ごと消えてしまうレベルとされている。
 【ステージ3】も存在し、それはQOHと呼ばれる存在が使うレベルとされていて、そこに属するはずのクアースリータもその力を持つ事になると言う。
 クアースリータとはクアンスティータの兄でもあり姉でもある存在だ。
 それはさすがと言わざるを得ない。
 だが、クアンスティータ自身はその、さらに上を行く。
 【ステージ4】以上の力を持っているとされている。
 今の時点でわかっているのは【ステージ7千9百億】以上の【ステージ】の力を出せる事まではわかって居るが、クアンスティータの限界は全くわかっていないという。
 それよりも遙かにでかいというだけはわかっている。
 クアンスティータは全くの別物であるが、現界は【ステージ2】でそれを維持できなくなるレベルに達する。
 クアンスティータの誕生の場所ともなる現界を維持するためにはその【ステージ2】の力の放出は防がねばならない。
 だが、この惑星ファーブラ・フィクタの闇市場ではその【ステージ2】に近いレベルの【ステージ2】もどきの力が売買されているという情報が入ったのだ。
 偽クアンスティータとしての役割はクアンスティータに仇なす者だけでなく、クアンスティータが生まれる地である現界を不当に傷つける存在も排除する役目があるのだ。
 なので【ステージ2】もどきの流出は防がなくてはならなかった。

 では、どうすれば良いのか?
 それは土、風、火、水、雷、光、闇の最大神殿に赴き、流出経路を探るという事になる。
 最大神殿とは土の惑星テララの土の神殿、風の惑星ウェントスの風の神殿、火の惑星イグニスの火の神殿、水の惑星アクアの水の神殿、雷の惑星トニトルスの雷の神殿、光の惑星ルーメンの光の神殿、闇の惑星テネブライの闇の神殿にエネルギーを送っている場所でもある。
 雷の惑星トニトルスはファーブラ・フィクタ星系を離れてしまったが、本来、それぞれの神殿の姫巫女達は最大神殿の神姫巫女(かみひめみこ)からエナジーの一部をもらい、星見の力を得ているとされている。
 一部の例外こそあるが、現界において【ステージ2】近くのレベルの力などそうそう出せるものでは無い。
 最大神殿がらみの事件という事でほぼ間違い無いと思われる案件だった。
 その説明を聞いたタティーは、
「へー、そうなんですかぁ〜全然知らなかったです〜」
 と言った。
 それを聞いた【クインスティータ】は、
「何をすっとぼけたことをおっしゃっているのかしら?あなたが取り締まりに行くのですわタティーさん」
 と言って一喝した。
「え?私がですかぁ?」(タティー)
「他に誰がいますの?」(【クインスティータ】)
「他の偽クアンスティータさん達とかは?」(タティー)
「他の偽クアンスティータ様方はお忙しいのよ、あなたと違って。これくらいご自分で生きなさいよ」(【クインスティータ】)
「これくらいって、結構凄い事だって聞きましたけど……」(タティー)
「【ステージ1】どまりなら大した事ありませんわよ。それでも偽クアンスティータですかあなたは」(【クインスティータ】)
「好きでなった訳では……」(タティー)
「なにかおっしゃいまして?」(【クインスティータ】)
「い、いえ、何でもないです。……行きます」(タティー)
「当然です。お供しますわ」(【クインスティータ】)
「ついてこなくても良いのに……」(タティー)
「さあ、張り切っていきますわよぉ〜」(【クインスティータ】)
「……はい……」(タティー)
「声が小さいですわ!」(【クインスティータ】)
「は、はいぃ〜」(タティー)
 という具合にタティーは【クインスティータ】にせかされて今日も仕事に行くのだった。


03 13の最大神殿


 【クインスティータ】はタティーへの説明に最大神殿の数は七つと話したが、実はその数は七つではなく、十三あった。
 七つの属性――土、風、火、水、雷、光、闇は現界においては七大属性原素(ななだいぞくせいげんそ)と呼ばれ、現界の存在はこの七つを元に出来て居ると言っても過言では無い。
 例えば氷なども水の属性を固めたものであり、無属性も風の属性で説明が出来るとされている。
 また、金属や木などは土の属性に含まれるとされてもいる。
 だが、この惑星ファーブラ・フィクタにおいては別だった。
 現界には存在しない属性原素があと六つ存在する。
 クアンスティータ関係の存在はよく認識出来ないダメージを与える事があるが、それはこれらの属性に属するダメージと言える。
 現界では説明がつかない属性原素であるため、現界の力では治す事がほぼ、出来ないのだ。
 例えば、火の属性原素でのダメージで焼死する事がある様に、その六つの属性原素でのダメージも蓄積すれば死にいたる。
 その六つの属性原素のダメージはその六つの属性原素の反作用で治さなくてはならならい。
 唯一、例外があるとすれば、光の属性要素と闇の属性要素となる。
 光に属する存在は光の属性要素で、闇に属する存在は闇の属性要素である程度ならば治す事は出来るがやはり限界はある。
 あまりにも大きすぎるその六つの属性原素でのダメージまでには対応していない。
 その六つの属性は現界では実在化が本来、されていないので仮の言葉で表現されている。
 それは、【変】、【幻】、【外】、【他】、【奇】、【妙】の六つの言葉で表記されている。
 もちろん、これらはその属性を的確に示した言葉ではないが、他に言葉として存在していないので、やむを得ずこれを使っているという形だった。
 この六つの属性は惑星ファーブラ・フィクタでは六大特殊属性原素(ろくだいとくしゅぞくせいげんそ)と呼ばれている。
 惑星ファーブラ・フィクタには七大属性原素と六大特殊属性原素を足した十三の属性原素が存在している。
 それの説明まではしていなかった。
 していないが、それは重要な事でもあった。
 普通の星出身のタティーは当然、七大属性原素の事までしか知らない。
 六大特殊属性原素の事など今まで聞いた事も見たこともないのだから。
 だが、この惑星ファーブラ・フィクタで取り締まっていたら、いつかは鉢合わせになる。
 今までの仕事ではたまたま用が無かったに過ぎない事でもあった。
 【クインスティータ】は【ステージ2】もどきの事件は七大属性原素のどれかだと決めつけていた。
 六大特殊属性原素は現界においては惑星ファーブラ・フィクタを出れば実現化しない属性と決めてかかっていた。
 クアンスティータが誕生すれば、十三属性原素どころかもっと多くの属性原素が出てくると言われている。
 最低でも二十四はあるとされていたのだ。
 なので、十三属性原素という事には【クインスティータ】はまったくこだわっていなかった。
 たまたま現界においては十三まで惑星ファーブラ・フィクタで実在化したが、それもクアンスティータが誕生してしまえば変わるかも知れない。
 そんな認識でとらえていたのだ。
 認識が甘いと言われても文句のつけられない事だった。
 【クインスティータ】の欠点の一つとして、何でも物事を決めつけてしまうという癖があった。
 これはこういうもの、
 あれはああいうもの、
 それはそういうもの――という様に何でも決めつけてしまう。
 だが、それでは、それらが持つ可能性を否定してしまうという事になる。
 どんどん新しいものが次から次へと吹き出してくるクアンスティータの考えとしてはあり得ない考え方だった。
 だから、彼女は偽クアンスティータにすらなれなかった。
 せいぜい、なりきりさんの宣伝部長が良いところなのだ。
 それを他の偽クアンスティータに指摘された事もあったのだが、癖というものはなかなか直るものではない。
 だから、いつまでも彼女はクアンスティータに憧れるただのファン止まりだった。


04 調査メンバー招集


 とりあえず、七大属性原素の最大神殿を回る事にして、行くのがタティーと【クインスティータ】だけでは心元ないと思ったので、タティーは探査チームのメンバーとなる存在を招集することにした。
 招集すると言っても全く心当たりのないタティーは【クインスティータ】に
「【クインスティータ】さん、どなたか良い方、ご存じありませんか?」
 と聞いて見た。
 有望な人材も片っ端からクビにしていた【クインスティータ】に人材不足の責任があると言っても過言では無い。
 他の署員達は特殊警察署を守るのにあてなくてはならないので、人員が他に避けないのだ。
 かといって、署長なので自分が留守番をして他の署員に行かせると言う事も考えられるがそういう訳にもいかない。
 ろくな人材が残っていないからだ。
 事務作業などには向いているかも知れないが、調査やバトルにはまるでむいていない。
 それで、使えないと判断されて【クインスティータ】にまた、クビでも宣告されてしまったら、特殊警察署の運営もままならなくなる。
 それだけはどうしても避けたかったので、タティーが自分から行って解決していくというのがこの場合の最善の策と言えた。
 もちろん、留守番中、勝手に署員をクビにされても困るから【クインスティータ】も連れて行く。
 だけど、このままではタティーが【クインスティータ】に駄目だしされるだけだ。
 なんとしても【クインスティータ】を引き受けてくれそうな強靱な精神の持ち主がいればと思って聞いて見たのだ。
 【クインスティータ】自身が選んだ存在であれば彼女もそうそう文句は出ないのではないかと考えたのだ。
 署長なのに、特殊警察署で一番偉いはずなのに、署員でもない【クインスティータ】になぜ、これほど気を遣わないといけないのかとちょっとばかり不満はあるが、彼女に何か言えば100倍言い返して来るだろうし、これがベストな選択と言えた。
 これは【めがねさん】のアイディアでもあったので、【クインスティータ】の操縦法としては最適だろう。
 【クインスティータ】は、
「そうですわねぇ……約二名ほど心あたりはありますが、誘ってみようかしら……」
 と言った。
 どうやら心あたりがあったようだ。
 タティーは
「では、早速、その二人を紹介していただけますか?お名前はなんておっしゃるんですか?」
 とへりくだって質問した。
 怖くて【クインスティータ】には強気で話せないからだ。
 【クインスティータ】は気にするでも無く当然として受け止め、
「そうですわね。名前は、【ヴェルト・ハウプトシュタット】と【リセンシア・アジュダンテ】ですわ。まぁ、簡単に説明しますと体力バカと理屈バカですわね」
 と答えた。
 要するに力自慢と頭が良いタイプの二人だと言いたいのだろう。
 【クインスティータ】の評価はあてにならない。
 とにかく、その【ヴェルト】と【リセンシア】に会ってみないと果たして連れてっても問題ないのか、大問題なのかが判断つかない。
 タティーは、
「そのお二人のご都合のよろしい日っていつですか?出来ればすぐにでも会いたいんですが?」
 と聞いて見た。
 【クインスティータ】は、
「確か、明日は暇で、その後、一週間ほどの仕事が入っていますけど、その後の予定は決まっていないはずですわ」
 と言ったので、明日、その二人と面談することにした。
 最大神殿を回るのは早くとも9日後以降という事になりそうだった。
 とりあえず、今日のところは問題外の二件の案件をかたづけて……と、思って居たら、
 【クインスティータ】は、
「とりあえず、ドスケベ4人衆はお尻百叩きで釈放でよろしいわね?」
 と聞いてきた。
 忘れてた。
 自分のお風呂を覗いて来た懲りない4人組がいたのだった。
 タティーは、
「……はぁ……」
 と嘆息して、
「じゃあ、四人に会います。何故、こんなことを繰り返すのか?直接お聞きします」
 と言った。
 【クインスティータ】は、
「頭痛くなると思いますけどそれでもよろしいの?」
 と聞いてきた。
 タティーは再び、
「……はぁ……」
 とため息をついた。


05 懲りない四人組


 タティーは【クインスティータ】と共に、留置所を訪れた。
 ここに収監されている四人組に会うためだ。
 四人の罪状はタティーに対する覗き行為だ。
 人間の世界では大問題だが、惑星ファーブラ・フィクタの案件から見れば言うのが恥ずかしくなるくらいのみっともない事件だった。
 タティーは、留置所の前に立つ。
 すると、
「「「「おぉぉっ……」」」」
 と声が漏れる。
 彼女の美しいプロポーションに見とれた男四人が発した言葉だ。
 この四人こそがドスケベ四人衆――タティーのお風呂を覗いた罪人達だった。
 タティーが直接会うのはこれが初めて。
 今までは気持ち悪いと思ってお仕置きは他の署員に任せていたのだ。
 だが、その行為を止めようとしないので、何故繰り返すのか聞いて見ようという事にしたのだ。
 自分達の女神様のご登場に興奮する男子四人。
 よく観察するとその視線は彼女の顔に向けられていない。
 それぞれ、胸と腰とくびれと足を凝視していた。
 思わずぞっとなるタティー。
 変態とはこういう存在を言うのかと思わず思ってしまった。
 だが、逃げてばかりは居られない。
 特殊警察の署長として、毅然とした態度を示さなければならない。
 タティーは、
「こほん……」
 と咳払いをして、囚人達の名前を呼び上げる。
「えーと……【プライス・フィー】さん」(タティー)
「おしり大好きです」(【プライス】)
「う……それは……えと……【スコント・プレッツォ】さん」(タティー)
「おっぱい大好きです」(【スコント】)
「え……、えぇと、【ベネフィス・フォルテュヌ】さん」(タティー)
「自分はくびれに青春を注いでおりますです」(【ベネフィス】)
「う……、く、【クリエント・カントラークト】さん」(タティー)
「足こそすべて、御御足(おみあし)こそすべて」(【クリエント】)
(ひぃ〜……)(タティー)
 ドスケベ四人衆の自己紹介に総毛立つタティー。
 来るんじゃ無かったと後悔していた。
 だが、来てしまった以上、向き合うしかない。
「ど、どうして、そういう事を……」(タティー)
「そこに【お尻】があるから」(【プライス】)
「そこに【おっぱい】があるから」(【スコント】)
「そこに【くびれ】があるからであります」(【ベネフィス】)
「そこに【御御足】があるから」(【クリエント】)
 その言葉を聞いた時、タティーはめまいがした。
 【クインスティータ】の言っていたことは正しかった。
 【クインスティータ】は、
「まぁ、お下品ね……」
 と何だか我関せずとばかりの態度を貫いていた。
 彼女もこの四人組の熱意が自分に向けられていたならば、こんな態度は取らなかっただろう。
 もしかしたら、処刑していたかも知れない。
 そうしないのはあくまでも他人事だからだ。
 対岸の火事と言ったところだろう。
 タティーは早々にこの四人とのまともな会話を諦めた。
 【クインスティータ】の台詞では無いが、彼らには彼らに合った対処というのがあるのだと理解した。
 タティーはその後、彼らにそれは良く無いと言って聞かせたのだが、徒労に終わった。
 彼らには彼らの美学があり、それはタティーと言えども変える事は出来なかったのだ。
 そのまま、かれらはお尻百叩きの刑となり、その後、間もなくして釈放された。
 彼らはまた繰り返すのだろう。
 懲りない四人組であるのだから。


06 面接1――元かれ、元かの


 翌日、タティーは【クインスティータ】が紹介する二人と面接をすることにした。
 その面接次第で、最大神殿への調査に同行してもらうかどうかを決めるという大事な事だった。
 今日面接を受けに来る【ヴェルト】と【リセンシア】はコンビを組んで仕事をしているらしいのだが、それぞれを単独で見てみたいというのと二人で来られたらタティーの方が緊張してしまうので、【ヴェルト】には午前、【リセンシア】には午後来てもらって面接をするという事になっていた。
 もう間もなく来るはずなのだが、ここで問題が一つ。
 昨日の今日で捕まったのだ。
 ドスケベ四人衆がである。
 容疑はまたしてもタティーのお風呂を覗いたという罪だ。
 とりあえず、手錠で四人を拘束していて、これから留置所に送られる事になったのだが、そこへ、面接にやってきた【ヴェルト】と鉢合わせした。
 ドスケベ四人衆のリーダー格、お尻大好きの【プライス】と彼女は目を合わせた瞬間に、
「「あぁ〜っ!!」」
 とお互いを指さした。
 タティーは、
「お知り合いですか?」
 と【ヴェルト】に尋ねると、彼女は、
「まぁ、ちょっと……ね……」
 と口を濁した。
 何かあるのか?と思って少々黙っていると、
「あぁ、もう……元彼よ。……悪かったわね。こんなのと付き合っていて……」
 と言った。
 タティーは、
「えぇ〜っ?」
 と驚いた。
 【プライス】に彼女がいたというのも驚きだったが、それが面接を受けにきた【ヴェルト】と恋人同士だったとは二重の驚きだった。
 【ヴェルト】は
「こんなろくでなしだとは当時、思っていなかったのよ。当時はお前のお尻が一番だって……」
 と言った。
 やっぱりお尻しか見てなかったんだと思ったがつっこむのは止めた。
 【ヴェルト】が傷つくと思ったからだ。
 すると、【プライス】は、
「お前のお尻は俺の彼女じゃない。お前のお尻は2ミリ後退した。お前のお尻は堕落した。失望したんだ俺は……」
 と言った。
 タティーは何からつっこんだらいいのか迷っていると、
 【ヴェルト】は、
「あんたは、私のお尻が最高だって言ったじゃないか」
 と激高した。
 【プライス】は、
「最高だったのは、2ミリ前進していたお前のお尻だ。今のお前のお尻じゃない。間違うな」
 と言った。
 タティーはその瞬間、別れて正解だったのでは?と思った。
 【ヴェルト】は、
「ふざけんなぁ〜」
 と言って、【プライス】に殴りかかった。
 するとその衝撃で、襲撃者がいても全く傷つかないほど強固なはずの所長室の扉が破壊された。
 【プライス】は、
「こ、殺す気かぁ〜」
 と言った。
 【ヴェルト】は、
「あんたを殺して、私も死ぬ」
 と涙目になって訴えた。
 あぁ、まだ、この人、このお尻好きの変態さんを好きなんだなと思った。
 タティーは、
「と、とりあえず、落ち着きましょう、お二人さん」
 と言って仲裁をはかった。
 だが、この【プライス】のアホたれは、
「俺は最高のお尻に出会った。彼女のお尻がそうだ」
 と言って、タティーを指さした。
 余計な事を……と彼女は思ったが、時すでに遅し、【ヴェルト】の顔はみるみる紅潮してくる。
 怒りの矛先が【プライス】からタティーに移ろうとしていた。
 まずい……殺される……タティーはそう思った。
 【ヴェルト】は、
「この泥棒猫……」
 と言った。
 違います。
 違います。
 私はこんな男の人になんて、全く興味ありません。
 そう言いたいのだが、果たしてそれを聞き入れてくれるのかどうか……。
 【ヴェルト】は、
「勝負よ。あんたが勝ったら、あんたのお尻が最高だって認めてあげる。だけど、あんたが負けたらあんたは私の一生のしもべよ。良いわね?」
 と言った。
 良く無いです。
 私は別に最高のお尻の称号は欲しくないです。
 とは言える雰囲気ではなかった。
 【クインスティータ】の紹介して来た女性の一人目は問題のある存在だった。
 【クインスティータ】も問題だが、彼女も十分、問題児だ。
 むちゃくちゃ頑丈な所長室の扉を破壊するほどのパワー。
 確かに【クインスティータ】の言うように体力バカのようだ。
 こんなのとまともに戦ったらタティーなどバラバラにされてしまう。
 タティーは、
「助けてください、【めがねさん】……」
 と救いを求めた。
 だが、【めがねさん】は、
「ご安心ください、タティー様。偽クアンスティータとしてのあなた様のお力はこのような者に引けを取るようなものではございません」
 と根拠の無い説明をしてすませた。
 【クインスティータ】に救いを求めるが、彼女は、
「自分で巻いた種は自分で狩り取りなさい」
 と言った。
 自分で巻いた種じゃありません。
 突然降ってわいた不幸です。
 と言いたいが聞いてもらえそうもない。
 そうこうしている内に時間も迫ってきている。
 早くしないと午後の面接に【リセンシア】が来てしまう。
 彼女まで問題児だった場合は手に負えない。
 早々に――少なくとも午前中までに決着をつけなくてはならない。
 なんでこんな目に……
 タティーは嘆くが、嘆いてもそれを解決してくれる者はここにはいない。
 自分でなんとかするしかなさそうだった。
 結果からみれば、タティーの圧勝だった。
 【クインスティータ】が挑んできた時と同様にタティーの背中についている背花変(はいかへん)と腰についている千角尾(せんかくび)が自動的に【ヴェルト】を制してくれた。
 背花変とは花ような形の万能細胞で、偽者でありさらにそのもどきでもあるクアンスティータである彼女のそれは本物より数が少ない。
 4つしかない。
 その中でも中央にある三角は背花変としての機能がないので、正確には3つしかない。
 それでも万能細胞でもあるので、彼女のイメージ通りに――時には意識しない状態でも千変万化して、敵を排除してくれる。
 千角尾は相手の最も弱い時間に出現してダメージを与えるという力を持っている。
 つまり、例えば人間が相手だった場合は赤ちゃんや母親のお腹の中にいる時、未来において死ぬ間際にも攻撃が仕掛けられるので、その気にさえなればクアンスティータと名のつく存在に勝てる存在など居ないのだ。
 それだけの力がタティーにもついているという事になるのだ。
 なので、署長室の扉を破壊する程度の力の持ち主を倒す事など容易――造作も無いのだった。
 【ヴェルト】は
「ちくしょう……」
 と悔しがり、
「悔しいけど、認めてやるよ。あんたのお尻は最高だ。あんたにはかなわねぇ。あんたについて行くよ」
 と言った。
 タティーは、
「あの……恥ずかしいから、そういう事言うの止めてください……」
 と顔を真っ赤にして訴えた。
 勝つには勝てたがなんだか大事なものを失った気がしたタティーだった。
 とりあえず、ついて来てくれるというのであれば、採用という事でも良いかと思うのだった。
 【クインスティータ】と【ヴェルト】――問題児二人。
 どうか、【リセンシア】はまともであってくださいと願うのだった。
 もう間もなく、【リセンシア】の面接も始まる。
 彼女は一体、どんなタイプなのだろうか?


07 面接2――腐女子


 とりあえず、ドスケベ四人衆は邪魔なので、留置所に入ってもらったのだが、その頃から彼らは震えだした。
 彼らは、一様に、
「「「「あの女が来る……あの女が来る……」」」」
 と怯えていた。
 それを聞いていたタティーだが、彼らが指す【あの女】とは次に面接に来る【リセンシア】の事を指しているとは夢にも思っていなかった。
 てっきり、さっきまで署長室で暴れていた【ヴェルト】の事だと思っていた。
 【ヴェルト】と【リセンシア】はコンビを組んでいる。
 つまり、【ヴェルト】が面接に来たという事は【リセンシア】もやってくるんだと察したのだ。
 彼らが何故、そこまで怯えるか?
 それは彼女が【地獄の仲人】と呼ばれるからだった。
 彼女はいわゆる腐女子。
 ボーイズラブ――男性同士の恋愛が何よりも大好物な女の子だった。
 ドスケベ四人衆はタティーというターゲットを求めているという事で同盟を組んでいる。
 だが、そこにはお互いに対する恋愛感情など、もちろん無い。
 彼らはそれぞれ――
 お尻が好きであり、
 おっぱいが好きであり、
 くびれが好きであり、
 足が好きなだけなのだ。
 それらの要素を全て兼ね備えたタティーという存在を追い求める同志に過ぎないのだ。
 そんな彼らに【リセンシア】が加わると男同士――ドスケベ四人衆同士をくっつけたがるのだ。
 彼らにそんな趣味は無いと言っても彼女は聞き入れない。
 強引にでもくっつけようとするのだ。
 女性の一部分が好きである彼らにとって、男同士のふれあいは正に地獄。
 そのため、必要以上に恐れていたのだ。
 男同士の恋愛の仲人――一見、タティーには関係ないようにも思える。
 だが違う。
 彼女は女の子同士の恋愛にも男同士の恋愛の次に大好物なのだ。
 好きな男性との結婚によって寿退社を狙っているタティーにとってはちょっと困ったことになる存在なのだ。
 【リセンシア】にかかれば、好きな男性を見つけるどころか女の子をあてがわれてしまう恐れがあるのだ。
 【リセンシア】自身の恋愛には興味は無く、あくまでも誰かと誰かをくっつけたがるので、もしも、このパーティーが成立したとなると、タティーは【クインスティータ】か、【ヴェルト】とくっつけられる恐れがあるのだ。
 噂では、【ヴェルト】と【プライス】が別れたのは【リセンシア】が画策した事だというのもあるのだ。
 それだけに、恋人もしくは結婚相手募集中のタティーにとっては都合の悪い相手と言えた。
 【リセンシア】は面接に来るなり、
「あら、可愛い。あなたが、タティー・クアスンさん?よろしくね、私、【リセンシア・アジュダンテ】よ。あなた、良いわぁ〜私の創作意欲をかき立てられるタイプよ」
 と言って近づいてきた。
 まさか自分がどう思われているか知らないタティーは、人当たりの良さそうな人が来たと思って安心した。
 【創作意欲】と言われても芸術家か何かだと思って居た。
 妄想の強要の事だとは夢にも思っていない。
 元、いじめられっ子のタティーは人とのコミュニケーションを苦手としていた。
 なので、彼女の本心には気づかなかった。
 だが、採用したとたんに気づく事になった。
 彼女のフェチに。
 男女の違いやフェチの違いはあるが、【リセンシア】もまたドスケベ四人衆とそう変わらないタイプだという事に。
 やっぱり、【クインスティータ】が紹介しただけはあった。
 類は友を呼ぶ。
 彼女もまた違ったタイプの問題児だった。
 後悔先に立たず。
 問題児三人との行動に一抹の不安を募らせるタティーだった。
 とにかく、時は待ってくれない。
 この三人と最大神殿探索に出るしか無かった。
 【ヴェルト】と【リセンシア】は翌日から一週間、別の仕事があるので、その更に翌日から出発することが決まった。
 タティーは、
「【めがねさん】、どうしましょう。――私、不安しかないんですけど……やっていけるのかなぁ〜……」
 と不安を吐露した。
 夜は更けていく。
 【リセンシア】が【ヴェルト】と一緒に仕事に出たと聞いた、ドスケベ四人衆は息を吹き返した。
 やはり、お尻百叩きの刑を受けて釈放された翌日にまた、タティーのお風呂を覗き、逮捕された。
 相変わらずの懲りない連中である。
 タティーは涙が流れて来た。
「ひーん……変な人ばっかり……」
 タティーは幸せを――結婚をつかめるか?
 それはわからない。
 先が全く見えてこないのだった。


08 いざ、調査へ


 一週間という時はあっという間に過ぎた。
 この一週間、ドスケベ四人衆が逮捕されたのは7回。
 つまり、毎日だった。
 毎日、タティーの入浴を覗いては逮捕され、百叩きの刑を受けて釈放され、翌日また、覗くというのを繰り返していた。
 ここまで来ると感心するくらいだった。
 刑を重くしては?という案もあったが、彼らが涙を流して訴えるので気の弱いタティーは刑を重くすることが出来ずに一週間経ってしまった。
 経ってしまうと本当にあっという間だったようにも思える。
 だが、それも昨日までの話だ。
 今日からは、タティーと【めがねさん】、【クインスティータ】と【ヴェルト】と【リセンシア】で、最大神殿の調査に出る事になっているのだから。
 旅支度をして、メンバーが揃うのを待って早速出かけた。
 留守は他の署員達に任せている。
 ドスケベ四人衆達などが問題を働いたら、適当に処理するように指示を出して行ったのだった。
 だが、タティーは肝心の部分を忘れている。
 ドスケベ四人衆のターゲットはタティー自身だったのだ。
 タティーが居なくなれば、当然、ドスケベ四人衆はついてくるのだ。
 【プライス】は言う。
「おのおの方、準備は良いか?」
 と。
 【スコント】は言う。
「最高のおっぱいを……」
 と。
 【ベネフィス】は言う。
「最高のくびれを……」
 と。
 【クリエント】は言う。
「最高の足を……」
 と。
 【プライス】が、言う。
「最高のお尻を求めて、俺たちはついて行く……」
 とまとめた。
 目の見える位置でついて行けば邪険にされる事はわかっている。
 だからこっそりとついて行く。
 タティー達に見つからないように。
 それぞれのパラダイスを求めて、タティーの中のパラダイスを求めてついていく。

 タティーは、ブルッとした。
「何かしら?……なんだか悪寒が……」
 というタティーに、【クインスティータ】は、
「気のせいですわ。さっさと行きますわよ」
 と言った。
 タティーは、
「本当に気のせいかなぁ……?」
 と疑問顔だった。
 【ヴェルト】は、
「姉さんは私が守るよ」
 と言った。
 すっかり、タティーの子分になってしまった。
 それを見ていた【リセンシア】は、
「良いわぁ、あなた達。もっとくっついて見てぇ〜」
 と言って恍惚顔だった。
 タティーは、
「くっつきません」
 と言って拒否した。
 こうして、不安だらけの珍道中が始まるのだった。


続く。



登場キャラクター説明


001 タティー・クアスン
タティー・クアスン
 ファーブラ・フィクタ/タティー・クアスン編の主人公で、元、ただの人間。
 両親にタティーという名前をつけられた事から彼女の人生は狂ってしまう。
 元いじめられっ子だったが、【めがねさん】に見いだされ偽クアンスティータとして惑星ファーブラ・フィクタに招かれ、クアンスティータに仇なす存在を取り締まる特殊警察の署長に選ばれる。
 クアンスティータとしての特徴である万能細胞、背花変(はいかへん)と自動攻撃尾である千角尾(せんかくび)を持つ。
 背花変はクアンスティータのものより少ない四つしかなく、中央のものは背花変として機能しないので、背花変としては3枚という事になる。
 三角形型の背花変。
 気が弱く、強く出られない。
 好きな男性といつか結婚し、姓が変わる事で偽クアンスティータという役職を寿退社するのが夢。


002 めがねさん
めがねさん
 タティーを偽クアンスティータとして見いだした存在。
 その正体はよくわかっていない。
 普段はタティーがしている伊達眼鏡として存在しているが本来の姿は別にある。
 タティーのサポートが主な仕事。


003 クインスティータ・クェンスティー(本名スウィート・ピュア)
クインスティータ・クェンスティー
 クアンスティータの事が好きすぎるファン。
 偽クアンスティータになることを夢見ていろいろ努力するが慣れず終い。
 ポッと出の偽クアンスティータに対して強いライバル心を持っている。
 署員ではないのだが、特殊警察の人事権を掌握している。
 かなり気が強い性格。
 しゃべり方は【ですわ】口調。
 宣伝部長としての立場を取っており、クアンスティータのPRのために水着撮影会なども何度もこなしてきた。
 クアンスティータこそが全ての問題児その1。
 本名はスウィート・ピュアだが、本人はその名前を気に入っておらず、クアンスティータのオマージュの名前であるクインスティータ・クェンスティーと名乗っている。
 自分は高度な生命体と言っているがその力は未知数。


004 ヴェルト・ハウプトシュタット
ヴェルト・ハウプトシュタット
 力自慢の問題児その2。
 クインスティータに紹介されて、タティーの元に訪れるが、そこに元彼のプライスと鉢合わせをして暴れる。
 お尻フェチのプライスとは彼の理想とするお尻の形ではなくなってしまったために、プライスにフラれてしまうという不幸な女の子。
 変態のプライスの事をまだ好きでいる。
 タティーにやられてからは彼女の子分として行動し、彼女を【姉さん】と呼ぶようになる。


005 リセンシア・アジュダンテ
リセンシア・アジュダンテ
 頭が良い問題児その3。
 ドスケベ四人衆にとっては恐怖の【地獄の仲人】と呼ばれている。
 ボーイズラブが大好きな婦女子。
 とにかく本人の気持ちは全く無視で男同士をくっつけたがる。
 ボーイズラブの次にガールズラブが大好きなので、タティーにとっても決して無関係ではない。
 自分自身の恋愛には全くと言ってもいいくらいに興味が無い。


006 プライス・フィー
プライス・フィー
 ドスケベ四人衆のリーダー。
 お尻フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 ヴェルトの元彼でお尻が2ミリ後退しただけで、彼女をフッたある意味、非情な男。


















007 スコント・プレッツォ
スコント・プレッツォ
 ドスケベ四人衆の一人。
 おっぱいフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。




















008 ベネフィス・フォルテュヌ
ベネフィス・フォルテュヌ
 ドスケベ四人衆の一人。
 くびれフェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男。
 自分は〜でありますというしゃべり方をする。


















009 クリエント・カントラークト
クリエント・カントラークト
 ドスケベ四人衆の一人。
 足フェチの男。
 タティーの入浴を覗くことを生きがいとしている。
 何度も捕まるが全く懲りない男