第002話 古怪(グーグワイ)編


01 古怪(グーグワイ)を探して


「ふぁ〜あぁ…」
イグニス編002話01 私は大きなあくびをした。
 ちょっと中だるみっていうか、何にもイベントがない日を何日かすごしているからかしらね。
 私、南条 朱理(なんじょう しゅり)は導造(どうぞう)君、ヘスティア、ブリジット、女神御(めがみ)エテレイン様と旅を続けているわ。
 時々、クリスティナが導造君に死のラブコールをしに来るけど何とかまいているという状態かしらね。
 はぐれた仲間、西川 虎児(にしかわ とらじ)と東 龍也(あずま りゅうや)と北島 武(きたじま たけし)の三人とはいまだに再会出来てない。
 それには、まず、上位絶対者、古怪(グーグワイ)の始末が必要になったからだ。
 前回、古怪を避けて下位絶対者の怨霊 暗鳴(おんりょう くらな)と戦う事にしたんだけど、仲間捜しにはやっぱり、火の神殿の姫巫女ビアナ・カルファンの占いに頼るしかない。
 ビアナは古怪にストーキングされているみたいなので、古怪の存在が邪魔みたい。
 ニュアンスから正確な占いは古怪を退治しないとしてくれないみたいだから、今はこの変態絶対者の事を調べているって訳。
 調べて行くとどうやら、死亡説も流れているのよね、こいつ。
 古怪は気に入った女の子を拉致して自分の支配下においているオート・ラブドールのモデルにして、モデルにした女の子は醜く成形して戻す、女の敵。
 そのオート・ラブドールの頂点に君臨しているのが26体のスペシャル・オート・ラブドールで、ニアリリスという名前にAからZまでをつけて呼んでいるらしいのよね。
 普通のラブドールに一般の男性の性処理をさせて、虜にしているみたいだけど、お気に入り中のお気に入り、ニアリリス達は自分のためだけに利用しているみたいなんだけど、ニアリリス達には能力も含めて何でも与え続けていたらしいわね。
 でもある時、そのニアリリス達が主である古怪を裏切って、悶絶死させたらしいという噂が流れている。
 ニアリリス達の力は絶対者に当てはめると中位絶対者クラス。
 上位絶対者である古怪を倒せるのか?という疑問は残るけど、さすがの古怪も26体の中位絶対者クラスの力を持つニアリリス相手では勝てなかったのかもしれないわね。
 となると、ビアナは古怪の首を求めている訳だから、古怪の代わりにニアリリス達の首でも持っていかないといけないのかな?という事になる。
 何にしても古怪の死が本当か否かを確かめないといけないわね。
「ちょっとみんな、良いかしら?」
 私は声をかける。
「どうしたの朱理ちゃん?」
 導造君がやってきた。
「なんでしょうか?」
 エテレイン様も続けて来た。
「すみません。低血圧なもので朝は弱くて……」
 ヘスティアも来た。
「ちょっと、眠いんだから、もうちょっと後にしてくれない」
 最後にやる気がなさそうにブリジットが来た。
 これで今居るメンバーは全員。
 時間は朝の4時半――
 確かに早いとは思うけど、ここフィアーの町では正確な情報はまず入らない。
 日暮れの事も考えると出発は早い方が良い。
 私は、状況説明と急いで、出発した方が良いという事を提案した。

 フィアーの町は嘘つきの町。
 いくらか滞在しやすくなったけど、やはり信用するには足りない町なのよね。
 このフィアーの町を起点に探索していたけど、やっぱり別の町を起点にした方が良いと思った訳なのよね。
 フィアーを起点にするとあまり、遠くまでは行きにくいから出発するなら早い方が良いと考えて朝早くたたき起こしたって訳。
 フィアーの町を起点にするのにふさわしくない理由は他にもあって、町の回りには難所と呼ばれる場所がいくつもあるから、歩いて行く場合はそこで時間をくってしまうのよね。
 かといって、朱雀を呼び出して上空を行くのも難があって、古怪のエリアに入ると下から迎撃される恐れがあるわ。
 飛行術を身につけているのは私とエテレイン様だけみたいだし、他のメンバーを運びながらだとどうしてもアクションが遅れてしまいがち。
 古怪という上位絶対者は一部抜けてはいるけど、基本的には用心深いと言われている男で、自分のエリアの各場所に多彩な罠を仕掛けていると言われているし、フィアーの町も情報操作がはびこっていて正確な情報が聞き出せなくなっている。
 正直、私達は吟侍(ぎんじ)君ほどの戦闘能力を持ち合わせていない。
 私達が束になっても吟侍君なら片手でいなせるだろう。
 いや、私達が気づいていないだけで、本当の実力差はもっとあるかもしれない。
 それくらい実力は離れている。
 力不足の私達に出来る事は吟侍君とは違う。
 あくまでも持てる力を駆使して挑んでいくしかないんだ。
 でも、つい、吟侍君ならどう考える?ってような事を考えちゃうんだけどね。
 彼なら、例え力が弱くても、弱いなりに工夫をするはず。
 だから、数々の支配者達が彼を恐れるんだと思う。
 今、うちには彼の頼りない義弟がいるだけだし、ここは私がしっかりしないといけないわね。
 虎児達も探し出せれば、少しは戦力強化に繋がるんだけど、いない人間の事を考えても仕方ないわね。
 セカンド・アースを出発する時、ジョージ神父は私達の班に仕送りとして、アイテムを送ってくれると言ってくれたけど、宇宙船と離れている今の状況ではそれが届くとも思えない。
 やっぱりどう考えても古怪の包囲網をなんとか突破して、ビアナに占ってもらうしかないわね。
 そうしないと先が見えてこないわ。
 っていう様な事を考えていたんだけど、一人の知恵じゃどうしようも無くなったので、他の頭の切れるメンバー……特に、ヘスティアの知恵を借りたいと思っているのよね。
 何となく古怪の事も知ってそうだったし。
 ここは一つ、何かヒントになる事でも言ってもらいたいっていうのが本音よね。
 ってことで早速、
「ヘスティアさん、何か古怪の事、ご存じないんですか?何か、少し知ってそうだったし」
 私は尋ねた。
「古怪は上位絶対者の中では異質な趣向を持っている者ですね。女性に対して、妙な感情を持っていると言われています」
「妙?」
「はい。一方では処女性を求め、もう一方では娼婦のようなテクニックを求めていると言われています」
「また、下の話しですか?」
「朱理さんは嫌がるようですが、古怪という者を語るのには彼のフェティシズムは切り離せませんよ」
「え〜、そうなの?嫌だなぁ、そんな相手……」
「古怪という男は女性を人形のように思っています。飾っておきたいと……その反面、快楽も求めます。ほぼ、相反する感情が内在した男なのです。私も出来ればあまり近寄りたくはありません」
「ヘスティアさんでさえ近づきたくない男なの?」
「女性を独占したいというのは男性の本能の一つなのでしょうが、彼はそれが特に強いのです。それが禍して、彼は実力はあるのに中央から遠ざけられたのです。女性と見れば見境ないですからね。そういう者はいずれ、女性に足元をすくわれます。オート・ラブドールに殺されたといううわさ話もあながち嘘とも思えない節はありますよ。いつか彼は女性に殺されると思っていましたから」
「結局の所、死んでるの?生きてるの?」
「それはわかりません。火の姫巫女ビアナさんにつきまとっていたという事からも解るように彼はストーカー気質ですから。どこかに隠れているのかも知れませんし、人知れず、殺されたかもしれません」
「ビアナさんの話からすると占うのは古怪の首を取ってきたらっていうニュアンスがあるんだけど、何とか見つけられないかな?」
「見つける方法はあると思いますよ」
「どんな?」
「彼はスペシャル・オート・ラブドールのニアリリス達が欠けるのを極端に嫌がります。彼が必死で集めた美人達をモデルにした集団ですからね。ニアリリスを倒そうとすれば、出てくるかどうかはともかく、何らかのアクションは仕掛けてくると思いますよ」
「な、なるほど……そういう手もあるか」
「この方法をとるんでしたら、導造さんは行かない方が良いと思いますよ」
「何で?導造君にエッチな事でもさせれば案外出てくるんじゃない?こいつらは俺のもんだ〜とか言って」
「ニアリリスをなめてはいけません。彼女達は触れるだけで男性はエクスタシーを感じるといいます。言ってみれば性のスペシャリスト、性物兵器(せいぶつへいき)です。男性とは相性が悪いとおもいますよ」
「男は触れないって事?」
「匂いもだめです。男性を惑わせるフェロモンが常に発生しているそうですから」
「……じゃあ、導造君なら思いっきり足手まといになるか……」
「そうですね」
 私は導造君は連れて行くべきじゃないと判断した。
「え?僕だけお留守番?」
 もちろん、彼は反対したのだけれど。

「じゃあ、留守番よろしくね」
「え?朱理ちゃん、ホントに?」
「お土産持ってくるわ」
「ブリジットさん、お土産は良いから僕も連れてってよ」
「ダメですよ導造さん」
「そんなヘスティアさんまで」
「大丈夫です。彼には私がついています」
イグニス編002話02 「エテレイン様は一緒に居てくれるの?」
「はいです。私は貴方のお兄さんを導きに来たのですから」
「ありがとう〜」
 という訳で、私とヘスティアとブリジットが古怪とニアリリスの討伐に出て、クリスティナに狙われている導造君は留守番でエテレイン様が守って下さる事になったって訳ね。
 足手まといがいなくなっただけでも私達には十分助けになるわね。
 さて、変態絶対者を見つけて倒してきますか。
 私達は早朝六時前にはフィアーの町を出発した。


02 留守番達の災難


 えーと……どうも、エテレインです。
 この度は、導造さんの守護役として、彼と一緒にお留守番をさせていただく事になりました。
「エテレイン様、エテレイン様」
「何でしょう、導造さん?」
「あの、こんな場所まで、刺客が……」
 あら、どうしましょう。
 朱理さん達が出かけて一時間もしていないのに、もう刺客さん達が宿屋に現れました。
 あっという間に人質にされる導造さん――本当に吟侍さんのご兄弟なのでしょうか?
 女神御(めがみ)の私としては救出した方が良いのかどうか、ちょっと迷っています。
 私の役目は導く事であって窮地に陥った彼を助ける事ではないんですよね。
 でも、殺されちゃったら困りますし……どうしましょう。

 見ると、刺客さん達は三人組みたいですね。
 男性二人と女性一人。
 オート・ラブドールさん達は全員女性ですから、どうやら古怪さんの刺客さんではないような感じもするのですが、どういった方達なのでしょう?
「あの…、どちら様でしょう?」
 私は尋ねてみました。
「俺達か?俺達は秘密結社ズーのメンバーだ」
 ズー?聞いた事ないですね。
「悪いが来てもらおうか?」
「何故ですか?理由をお聞かせ下さい」
「黙ってついてくりゃ……う、動かねぇ……」
 私はズーの皆さんの動きを止めさせていただきました。
 クアンスティータ誕生の刺激になってしまうからあまり派手な力は使えないのですが、素人さん達の動きを止める程度の力なら使っても問題ないでしょう。
「おー、すごい、エテレイン様。何やったんですか?」
「ちょっと動きを止めさせていただきました。ズーの皆さん、質問に答えていただけるまで動けませんよ」
「くそっ、放しやがれ」
「ちくしょう、動かねぇ」
 ズーの皆さんは必死にもがきますが、普通の人間の力ではまずほどけませんよ。
 観念して、理由をお話下さいな。
 三十分ほど頑張っていたようですが、諦めたのか理由を話して下さいました。

 彼らは普通の人間の犯罪組織だったようです。
 元々、絶対者達に奴隷として攫われた人間だったようですが、脱走して、組織を作ったみたいですね。
 絶対者の皆さんにも非があるので、単純に悪い人と決めつけることも出来ませんね。
 問題はこの方達から出た【ティアグラ】という名前です。

 ティアグラ――神話の時代より伝わる13核の化獣(ばけもの)の1核。
 クアンスティータとその姉、クアースリータは別格として、それ以外の化獣の中で2強と呼ばれています2核の化獣の1核。
 吟侍さんの心臓になっている七番の化獣ルフォスのライバルにして一番最初に生まれた化獣――それがティアグラです。
 神話の時代、ルフォスとティアグラは戦って、両者共に力の大半を失ったとされています。
 ルフォスの方は吟侍さんという共存する心強い味方を得て今にいたりますが、ティアグラの方も復活して来ているのでは?
 だとしたら、非常にまずい事態ですね。
 ティアグラなんかに暴れられたら、一発でクアンスティータは目覚めてしまいます。
 私だけじゃ、とてもじゃないですが、ティアグラの相手なんて出来ないし、困りましたね。
 いけない――落ち着かなきゃ。
 彼らの話ではティアグラが出たのではなくて、ティアグラに関係する何かが影で動き出しているという事。
 ティアグラの使徒達なのでしょうが、それならば、ライバル同士……ルフォスの使徒とも呼べる導造さんや朱理さん達でも十分戦えるはず。
 でもティアグラが動いているとなると慎重に行動をしなくてはなりませんね。
 それこそ絶対者どころのお話ではなくなりますからね。
 ズーの皆さんのお話ではティアグラの使徒の組織名は【フォーユー】……あなたのために……あなたとはティアグラをさすともティアグラが執着するクアンスティータをさすとも言われています。
 ティアグラがクアンスティータを手に入れるために作った組織の一つとも呼ばれています。
 導造さんや朱理さん達が、ルフォスの所有する世界で修行して異能力を手にしたように、フォーユーのメンバーもティアグラの所有する世界で修行して、異能力を手に入れた人間達です。
 とりあえずの脅威である絶対者ではありませんが、ティアグラに忠誠を誓う危険思想の人間達だと聞きます。
 ズーの皆さんはフォーユーへの選抜テストに落ちた人達です。
 フォーユーでの脱落者であるズーの皆さん達が生き残るにはルフォスの使徒達を連れてくる事しかありません。
 優秀な能力者である朱理さんを狙うには分が悪い。
 そこで目をつけられたのが導造さんという訳ですか。
 私もなめられたものですね。
 仮にも女神御ですよ、私は。

 私がちょっとムッとしていると、ズーさん達の身体に変化がありました。
「ぎうぐがががぁぁがぁ……」
「ぎゃうひぅ……」
「ぎぃぎぃあががが……」
 三人とも苦しみだします。
「な、なにやってるんですかエテレイン様?」
「ち、ちが……私じゃないです」
 導造さんと私が動揺しているとズーさんのお一人がなにやらブツブツと言い出しました。
「ひひゃへひひひぁ……我々は【フォーユー】のメンバーだ。出来損ないのルフォスの使徒の君へ、宣戦布告させてもらおうかな?我々はまず、君を潰す。首を洗って待っていてくれ」
「あぁ、あんな事言ってますよ、エテレイン様。ここは神御の神罰を」
 真っ青な顔の導造さんが私に助けを求める視線を送ってきます。
 でも、私としてもどうしたら良いのか……
 と、とにかく……
「導造さん、逃げましょう」
 言うが早いか私は導造さんをつれてテレポートしました。
「ななな、何がどうなってるんですかエテレイン様ぁ」
 私に状況説明を求めてこられているようですが、どうやら最悪の光景は見せずに済んだみたいですね。
 ズーの皆さん達は風船の様に膨らんで、破裂して全員亡くなりました。
 私達の居た部屋は天井も窓も血糊でベットリになってしまっています。
 ここまでするとは……。
 私も気を引き締めてかからないといけない見たいですね。
 このイグニスにはきな臭い匂いがプンプンします。
 自身の戦闘に興味を持っているルフォスと違い、ティアグラは数多くの配下を持っていると言われています。
 単純に兵力の差ではティアグラの方が圧倒的に勝っています。
 ですが戦力的には不利であってもルフォスの使徒には心が通っていると私は思っています。
 心を持たない兵より心の通った兵の方が強いと私は信じています。
「いたぞ、こっちだ」
 新たな追っ手がテレポートした私達を発見したようです。
「うわっ何だ?」
 動揺する導造さん。
「こっちです」
 私は彼の手を引き、さらにまた、テレポートで逃げます。
 力を抑えているから近くにしかテレポート出来ないというのが、追っ手を上手くまけない理由ですね。
 でも何度かのテレポートジャンプを繰り返していると、そこに居合わせた子犬型のロボットが声をかけてきました。
「こっちじゃ」
 私達はその子犬型のロボットの指示に従うように指示された方向に逃げました。
 逃げた先は硫黄の匂いが充満している地域。
 独特の匂いがする場所ですが、どうやら追っ手には見つかっていないようです。
「あの、ありがとうございますね、わんちゃん」
「やつらは匂いをロックオンして追ってきていたようじゃ。硫黄の匂いでそれを誤魔化したから、やつらは追ってこれなかったようじゃな」
「だ、誰なんだ?」
「わしじゃ、わし。ジョージじゃよ。元気にしとったか、ばか息子」
 どうやら、導造さんのお知り合いのようですが、どなたでしょう?
「ぱ、パパ。助けに来てくれたの?あ、エテレイン様、この犬は多分、パパ、ジョージ神父が送ってくれたアイテムだよ。パパは凄いんだよ」
「バカ、よせ、どうも息子がお世話になっております」
「はじめまして。エテレインと申します」
「エテレインさんか、よろしくお願いします」
「パパ、エテレイン様は女神御様なんだよ」
「なんと、それはまた、失礼しました」
「いえ、かしこまらないで下さい。見ての通り、あまり、息子さんのお役に立ててないみたいですし」
「いえいえ、滅相もない。女神御様が近くにいらっしゃるというだけで、どれだけ心強いか。仕送りをしたんですが、どうやらいらなかったみたいですな」
「いえ、助かります。あの、どのようなものを送っていただいたのでしょう」
「はい。見ての通り、今は子犬型ロボットを使って、匂いセンサーで倅を追ったのですが、途中で同じく匂いで倅を追っている追っ手に気づいたものですから、こんな形で失礼します。仕送りは宇宙船の方に届けたのですが、生憎誰もおらなんだので、とりあえず、アイテムを一つだけ持って参りました。それがこのエンジェル・ユニットになります」
 見ると、子犬型ロボットが首輪の所にひっかけて持って来ている環状の何かが確認できます。
 恐らく、これがエンジェル・ユニットなのでしょう。
「パパ、どんなアイテムなの?」
「うむ、それはコンプレックスが多い、お前にはぴったりのアイテムじゃ。このアイテムを装備するとウィークポイントを一つ、徹底的にガードしてくれる」
「え?それだけ?」
「それだけとは何じゃ。これはお前が勇気を持って前に踏み出すためには必要じゃと思ったから送ったのじゃ」
「え〜、だって、弱点を守ってくれるだけでしょ?」
「お前に足りないのは勇気じゃ。勇気は自分の意思で示すもの。アイテムにはならん。じゃが、コンプレックスを一つ無くせば、お前も一歩前に出れると思うてな」
「それじゃ全然、助けにならないよ」
「お前は黙っとれ。これは装着してから一週間起動します。ですが、ウィークポイントをガードする度に1時間ずつ起動時間が減っていきます。エテレイン様、どうか、このバカタレを導いてくだされ」
「解りました。ありがとうございます。必ずやこの貴重なアイテムを有効利用してもらいますので安心なさって下さい」
「ありがとうございます。女神御様にそう言っていただけると安心です」
「勘違いして、吟兄ちゃんの所じゃなくて僕の所に来た女神御様だけどね」
「お前は黙っとれと言ったじゃろがぁ〜」
 ガブッ!
「あいたぁ〜っ」
 子犬型ロボットに導造さんはお尻をかまれました。
 何にしてもこのアイテムは大変、助かります。

 私は少し考えてから、思い描いている行動をまとめました。
「導造さん」
「あいたた、え?何ですか?エテレイン様?」
「朱理さん達と合流しましょう」
「合流って言ったって、今は古怪を探しているんだから、オート・ラブドールに近づけない僕が居たら足手まといだって話だったんじゃ……」
「大丈夫です。恐らくこのまま居たら、ティアグラの追っ手から導造さんをお守りするのはかなり困難です。ですが、朱理さん達と合流すれば、対策を取ることが出来ます。問題としていたオート・ラブドールの問題はこのエンジェル・ユニットが解決してくれます」
「どうやって?」
「あなたが元々持っているウィークポイントの女の子を指定すればいいんですよ。そうすれば快楽地獄はあなたにはききません。もし、朱理さん達がピンチを迎えていたら助けに入ればあなたはヒーローですよ」
「ヒーローって言われても……」
「ヒーローになる人には必要な要素というのがいくつかあります」
「いきなり、なんですか?その、例えばどんなことがあるの?って聞いた方が良い?」
「一つは悪に屈しない勇気です。でもそれだけじゃダメです。いざという時に動ける決断力と置かれている状況を判断出来る想像力も必要です。あなたにはその、どれもが欠けています。逆に吟侍さんには全部そろっています。何ででしょうね?」
「うぅ。そんなにはっきり言わなくてもいいじゃん。どうせ、僕は吟兄ちゃんには全然かなわないですよ」
「違います。そんな事が言いたいのではありません。吟侍さんとあなたの違いはそんなに大した事はないと思いますよ。ただ、吟侍さんは少しずつでも常に前に出ようとしています。失敗してもやり方を変えて、また再挑戦して――。失敗する事を恐れていないのです。逆に、導造さん。あなたは失敗する事を常に恐れています。また、失敗するんじゃないかと。挑戦しても途中で諦めて、もう自分には無理だと勝手に結論づけて最後までやり遂げずにリタイアしています。あなたと吟侍さんの違いはたったこれだけの差なのです」
「違うよ、吟兄ちゃんはルフォスに選ばれたから……」
「ルフォスは恐らく、吟侍さんが前に、前に行く人間だと思ったから認めたのでしょう。それを人は勇気と呼び、クアンスティータを恐れるルフォスはそれを補うために吟侍さんを選んだ」
「違うよ……」
「違わないと思いますよ。たったこれだけと言いましたが、殆どの人間がそのたったこれだけが出来ません。たったこれだけを出来る人間が英雄と呼ばれるのです。わかりますか?たったこれだけが出来ればあなたも英雄になれるのです」
「たった、これだけ……」
「たったこれだけと言いましたが、これには危険も伴います。だから、人はたったこれだけを恐れるのです。失敗を恐れるのです。成功する人は才能があるからという言葉で逃げて自分にはあってないからと挑むことを拒否するのです。ですが、才能があると言われている人も人が見ていない所で人がやらない努力というものを常にしているものなのです。失敗もします。失敗して、失敗して何度もくじけそうになりながら成功するための道を必死に探すのです。そして、たどり着いた先が人々から成功者と呼ばれるのです」
「そ、そんな事言われても……」
「すぐに理解してくださいとは言いません。ですが、これはあなたが生き残るために必要な事だと思うのであえて厳しい事を言わせていただきました。選択するのは貴方です。逃げるという道を選択する人生もあるでしょう。なんでもかんでも挑めば良いという訳ではありません。時には逃げる事も必要です。ですが、逃げてはいけない時があるとは思いませんか?」
「解らないよ……」
「吟侍さんは解っていると思いますよ。これが解るようになれば貴方も吟侍さんのようになることも出来ると思いますけどね」
「ずるいな……」
「え?」
「吟兄ちゃんの事出されると、僕は後には引けないからそんな事言ってるんでしょ?」
「そ、そういう訳では……」
「……いいよ、やるよ。僕には吟兄ちゃんの様になれと言われても無理だ。でも、出涸らしの三男って呼ばれるのは嫌だ。少しはやれるところを見せてやるよ」
「そうですか。応援しますよ、導造さん」
「じゃあ、行こうか」
「はい、そうですね」
 私、確信しました。
 痩せても枯れても、彼は吟侍さんの弟なんだなって思いました。
 足はガクガク震えていましたが、瞳は強く意思を示していました。
 きついことを言いましたが、そこで折れてします方はたくさんいます。
 怯えながらでも歯を食いしばり、一歩進もうという意思を持った人が二歩目、三歩目と歩みを進めて、やがて目標とする地点に到達する事が出来ると私は信じています。
 私と導造さんは朱理さん達を追いました。


03 VSニアリリス


「ここがニアリリスの居城の一つかしらね?」
 私(朱理)とヘスティアとブリジットはニアリリスの居城と呼ばれる場所にたどり着いた。
 正直、足手まといになりそうだった導造君をおいてきて正解だったわ。
 途中、オート・ラブドールの襲撃を受けたけど、セクシーな衣装で襲ってきていたから女に免疫のない導造君がいたら、色香に惑わされていたでしょうからね。
 ただのオート・ラブドールには用は無いし、目標はニアリリスと呼ばれたスペシャル・オート・ラブドールを潰して、古怪をおびき出すこと。
 それ以外は単なるオマケ。
 とっとと、古怪倒して、仲間と合流するだけだわ。
「朱理さんは女性を好きになった事はありますか?」
 突然、ヘスティアが妙な事を言い出した。
「は?どういう事ですか?別に私は、ノーマルですよ」
「無いという事ですね。ですが、同性を美しいと思った事くらいあるでしょう」
 そりゃまぁね。
 お花ちゃんとか敵わないなとか思ってちょっと嫉妬した事とかもあるし……
「気をつけて下さい。男性ほどではありませんが、ニアリリスは女性にも多少変な気持ちにさせる事が出来るようですから」
「そうなの?」
「あくまでも噂ですけどね」
「噂ねぇ……」
「とにかく、古怪という男は何を考えているか解らないので、それによって作られたニアリリスも何かあると思った方が無難だと思います」
「ご忠告ありがとうございますって、ちょっとブリジットさん、あんた、なにやっているの?」
 ヘスティアとの会話中、チラッとブリジットの方に見やると、なにやらごそごそやっているのが見えた。
イグニス編002話03 「何かあるかなぁ〜って思って。ほら、私って、お宝とか大好きだから」
「大好きって、あんた、敵の居城で……」
「私はこの星にトレジャーハントしに来ているつもりなんで」
「トレジャーハントって……」
「私の目的は人命救助って訳じゃないって事」
 そりゃ、欲の皮がつっぱったあなたはそうでしょうけど、そう面と向かって言われると友達を助けに来ている私達としては面白くないんだけど。
「あっそ。じゃあ勝手にすれば?」
「そう?じゃあ、そうさせて貰って良いかな?カモネギ君も居ないし、女だけのパーティーで女倒しに行っても何にも面白くないしね。はりあいってものがないのよねぇ〜」
「なっ……」
「じゃあね〜」
 と言って、さっさと姿を消してしまった。
 ちょっとは戦力として期待していたのに、それは無いでしょ。
「まぁ、困りましたわね」
 全然、困ってなさそうな感じでヘスティアがつぶやく。
 チームワーク0だわ、このパーティー。

 ヘスティアと二人だけになった状態で、ニアリリスの居城を奥へ奥へと進んでいくとそこに待ちかまえていたのは一体の美しい等身大の人形――いや、恐らくこいつがニアリリスだ。
 私は身構える。
「………」
 ヘスティアは沈黙する。
 辺りは一気に緊張に包まれる。
 ニアリリスはゆっくりと目をあける。
「こんにちは」
 挨拶してきた。
 すかさず、私もかえす。
「こんにちは。私の名前は朱理。貴方のご主人様を捜しているんだけど、ご存じない?、ニアリリスさん」
「うふふふふ」
 笑われた。
 人形ごときに笑われてちょっとムッとしたけど、私はおくびにも出さずに……
「あなたのご主人様って生きているのかな?、それとも亡くなっちゃったのかな?」
 答える筈はないと思いつつ、一応質問してみた。
 すると
「生きてるし、死んでるよ」
 と答えが返ってきた。
 生きてるし、死んでいる……
 どういう事?
 意味が解らない。
「説明してくれないかな?どういう事?生きてるし、死んでるって反対の意味でしょ?どっちでもあるってよく解らないんだけど?ゾンビとかになったって事?」
「あはははは。解らないよね。じゃあ、ご主人様からご挨拶があるから、よろしくね」
「………?」
 何なの……一体?
 様子を窺っていると急にクネクネとしだすニアリリス。
 そして、次に口を開いた時、私は驚いた。
 さっきまでの小鳥のさえずるような声から反転、野太い男の声だったからだ。
 まさか、ニアリリスってニューハーフなの?とか思ったわ。
「はじめまして、お嬢さん。お隣の女性は初めてじゃないよね。たしか、ハイ……」
「私の事は良いので、続けて下さいな」
 ニアリリスの言葉を遮るヘスティア。
 ハイ……とか言っていたけど、やっぱり偽名なんでしょうね、ヘスティアっていう名前は。
 まぁ、ヘスティアの事は良いわ。
 今は、こいつ、ニアリリスの方が先決ね。
「まぁ、良いでしょう。貴女とは後で話し合うとして、朱理さんって言いましたっけ、貴女もなかなかお美しい。ニアリリスにはふさわしくありませんが、一般のオート・ラブドールのモデルくらいにはしてあげても良いですよ」
 あ、こいつ、失礼な事言った。
 敵決定。
 叩き潰す。
「それはどうも。人形のあなたじゃ話しにならないから、古怪さん連れて来て下さらない。その後であなたの相手もしっかりと丁寧にしてあげるから」
「やだなぁ。あなたの目の前に出てきたじゃないか。私が古怪ですよ、お嬢さん」
「は?あんた、ニアリリスっていうんじゃないの?」
「えぇ。そうですよ。この身体はニアリリスEです。でも古怪でもあるのですよ」
「ど、どういう事?」
「いえ、何、私は元々の身体にコンプレックスを持っていましてね。自分で言うのも何ですが何とも醜い姿をしていました」
「何を言って……」
「私は、どうにかして元の身体を捨てたかった。捨てて、美しい身体に入りたかった。どうせ入るなら美しい女性の身体が良い。私の求める究極の女性への愛し方は女性との完全同化ですからねぇ。綺麗でしょう、美しいでしょう、この身体」
 自分の胸を揉みしだきながら恍惚の表情を浮かべる古怪。
 いや、身体はニアリリスEなのだろうけど。
「つまり、ニューハーフになりたかったと?」
「全っ然違うよ、君ぃ。私はね、このニアリリスEも含めて26体のニアリリスの身体を渡り歩いて、愛し合う事に至上の幸せを感じているんだよ。誰にもニアリリスの事は穢れさせない。私だけのものだぁ」
 ニアリリスEの顔が醜く歪む。
 気持ち悪い。
 こいつも生理的に受け付けないわ。
「つまり、あんた達26体を潰せば、古怪、あんたを倒した事になるって訳ね」
「誰が、私のこの高貴な身体を使うと言った?お前の様などうでも良い奴の相手など誰がするか」
 ムカツク。こいつ本当にムカツク。
 ぶっ殺す。
「私も出来ればあんたみたいなキモイ男の相手なんかしたくないんだけどね」
「ならば、相手を用意しよう」
「は?何言って……」
 私は古怪の後ろの扉から出てきた集団を見て絶句する。
 数に対してじゃない。
 その中に知った顔があったからだ。
イグニス編002話04 「り、龍也……」
 東 龍也――行方不明だった、三人の仲間の一人、龍也が居たから。
「しゅ、朱理……俺を殺してくれ。身体が言うことをきかない……」
「ど、どうしたのよ、龍也。何があったの」
「虎児と武ともはぐれた所でこいつに捕まった。今じゃ俺は、こいつの性奴隷だ。意思に反して身体が言うことをきかねぇ」
 まさか、龍也まで……
「あははははは。東 龍也。南条 朱理を倒せ」
 古怪が命令する。
「に、逃げろ朱理」
 言葉では拒む龍也。
 だけど、その言葉に反して彼は私に襲いかかる。
「り、龍也、どうしたの」
「俺を殺せ、朱理」
「出来ないわよ、そんな事、やめて龍也」
「頼む、朱理」
 龍也は私の朱雀と同じ聖獣、青龍を吟侍君のルフォスの世界で身につけている。
 実力で言えば、私と互角かそれ以上。
 龍也が得意としているのは木の属性。
 状況的には火の星であるイグニスでは私の属性が一番強い力を発揮出来る。
 だけど、仲間を倒す事なんて出来ない。
 下手に手を出すと龍也を傷つける。
 そう思うと思ったような攻撃が出来ない。
 逆に身体の自由を奪われている龍也の方の攻撃には遠慮がない。
 どんどん、私は追い詰められていく。
 手加減して勝てる様な相手じゃない。
 一方、龍也以外の刺客は全部、ヘスティアに襲いかかっているから、彼女の手助けは期待できそうもない。
 悔しいけど、今の戦力だと勝てない。
 せめて、さっき分かれたブリジットが居れば、何とかなったかもしれない。
「あ、し、しまっ……」
 足を取られ態勢を崩す私。
 そこへ、龍也の龍爪脚(りゅうそうきゃく)が襲う。
 もうダメだ――そう思った時

「ぐわぁっ」
 龍也を何かの影が突き飛ばし私は一命ととりとめた。
 誰?誰なの?吟侍君?

「ふぅ。何とか間に合った。大丈夫、朱理ちゃん」
 え……?
 まさか……
「ど、導造君?」
「助っ人参上ってね」
「ば、バカ、あれほど来るなって念を押したのに……」
「女神御様にお尻を叩かれてね。参上しちゃった」
「敵の特徴を伝えたでしょ。男のあんたが来たって……」
「エテレイン様が言うには大丈夫みたいよ」
「そういう事です、朱理さん。ご無事ですか?」
「エテレイン様まで。どうしたんですか?」
 導造君とエテレイン様が助けに入ってくれた。
「ブリジットさんがお腹が痛くなったので、代わりに助けてあげてって言ってましたよ」
 ……あの女……
「エテレイン様、彼は龍也、私達の仲間です。敵に操られてて……何とかなりませんか?」
「わかりました。やってみましょう。朱理さんはヘスティアさんのサポートに回ってください。ニアリリスさんには彼が挑みます」
 彼って……導造君の事?
 大丈夫なの、彼で?
 私は半信半疑のまま、たくさんの敵と戦っているヘスティアの方に向かった。
 心配だから、導造君の事にも気を配りながら。

 ニアリリスE=古怪と対峙する導造君。
 龍也にやられそうになった時、助けに入ってくれた導造君が一瞬、昔、私を助けてくれた吟侍君の姿にダブって見えたんだけど、多分、気のせいね。
 気が動転していて、勘違いしたんだわ、きっと。
「よよ、よくもやってくれたな」
 精一杯の虚勢をはる導造君。
 その顔は恐怖で引きつっている。
 無理もないわ。
 敵の親玉と戦うんですもの。
 彼は吟侍君じゃない。
 ボスキャラと戦うだけの技量も度胸もないのだから。
 だけど、エテレイン様は大丈夫だと言った。
 今はそれを信じるしかない。
「何だね、君は?」
「ぼぼぼ、僕は、芦柄 導造。芦柄 吟侍の弟だ」
「あぁ、芦柄 吟侍ね。我々イグニスの絶対者が怖くてウェントスに逃げたっていう……」
「吟兄ちゃんの悪口を言って良いのは僕だけだぁ。お前なんかが言うんじゃない」
 あんたも言っちゃダメでしょ。
 でも、導造君は、吟侍君の悪口を他の人に言われるのが大っきらいなのよね。
 古怪は彼の地雷を踏んだみたいね。
 その言葉は彼が引くことが出来ない最後の一線。
 私が彼をかろうじて勇者として認めている部分よ。
 吟侍君をバカにされた後の導造君は強いわよぉ〜。
 覚悟するのね。

 導造君は見えないトリガーの構えをして、古怪に向かって突っ込んで来た。
 古怪は余裕面。
 そりゃそうね。
 だって、触れば、男はあいつの虜。
 だけど、見えないトリガーが得意の導造君はスナイパータイプ。
 距離を取って敵を狙うって、あれ?何で突っ込んでるの?
 あれじゃ敵に触ってくれって言っているようなものじゃない?
「あれで良いんです」
 エテレイン様、あれで良いって、どう見ても無謀に突っ込んでいるとしか……あぁ案の定触られて……
「はい、これで、君は私の虜……」
 導造君の顔を触り、したり顔の古怪。
 一方、導造君は。
「うおぉおおぉおおぉぉぉおぉおおおおおっ」
ガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッ
 超至近距離で見えないトリガーでの連射攻撃をする。
 え?どういう事?
 ボディの部分への連射でニアリリスEの身体は上半身と下半身に分断された。
イグニス編002話05 何が起きたか解らない私に、エテレイン様が解説してくれた。
「ジョージ神父さんからの仕送りでウィークポイントをある程度ガードしてくれるエンジェル・ユニットという装備を導造さんはしています。触れただけで、男性を従わせる力を持っているニアリリスならば、自らの力を過信して必ず、油断するはずですから、至近距離からありったけの攻撃を仕掛ければ、必ずや最大限の効果があると助言させていただきました」
 なっ……凄い。
 そんな事が。
 導造君の快挙じゃないの、これって?
「あぁ、あぁ……私の、私の身体がぁ……」
 真っ二つになった上半身が下半身を見ながら信じられないと言った顔で錯乱した。
 動揺している状態で、導造君は更にニアリリスEの下半身に向けて連射して、細切れ状態にした。
 これで、足は封じた。
 機動力の無くなった上半身とは一旦距離を取った。
 手負いの獣は何をするか解らないからだ。
「き、きぃさぁまぁ〜、許さん、許さんぞぉ〜。」
 元々美しかった顔が醜く歪む。
 かりそめで着飾っても所詮は醜い心の醜いけだもの。
 一皮剥けば、醜い素顔が顔を出す。
ガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッガオンッ
 怒りに震える古怪とわざわざ、会話をする必要は全く無い。
 とことんまで追い詰めて、上半身も削っていく。
 正直、見えないトリガーには弱点がある。
 ある程度の実力のあるものならば指の向きから弾道を予測する事が出来る。
 だけど、下半身を潰された状態の上半身だけでは、動きも鈍い。
 最後には首だけになった。
 最後の銃口を古怪の額に向けた。
「へひひひひひ……芦柄 導造……名前と顔を覚えたぞ。忘れないからなぁ。必ず殺してやる。まだ、私には25体の身体が有ることをわすれるなよ」
 ガオンッ
 古怪の負け惜しみを聞いた後、導造君は引き金を引いてトドメをさした。
 古怪の言う通りニアリリスの身体はまだ25体もある。
 あの変態との戦いはまだ始まったばかりなのだから。

 でも、何だかちょっとかっこよく見え……
「し、朱理ちゃん……どどどどうしよう」
 はぁ……
 最後まで決まらない所が導造君らしいと言えばらしいわね。
 私とヘスティアは敵を全滅させて、エテレイン様は龍也の治療を続けてくれていた。
 大変だったけど、何とか勝利をもぎ取った感じね。

 その後、私達はバラバラになったニアリリスEの身体を回収して、火の神殿に向かった。
 姫巫女のビアナにこれを見せて、状況説明するためにね。

「アホか。そら、古怪と完全敵対しただけやん。ますます危のうなったわ」
「ですけど、ビアナさん、彼らはあなたの為に戦ってきてくれたのですよ。一度くらい占ってあげてもよろしいんじゃないんですか?」
「やけど、女神御はん……」
「私は悲しいですね。受けた恩に対して何もなさらないような方が姫巫女であることが……」
「わかりました。わかりましたよ、やればいいんでっしゃろ、やれば」
 ビアナは渋々占ってくれた。
 龍也とは再会出来たから虎児と武の事を。
 占いによると龍也とはぐれた後、虎児と武もはぐれたらしい。
 ここから近いのは武の方らしいので、とりあえず武を捜しに行きたいんだけど、古怪に身体の芯まで自由を奪われた龍也が回復するにはまだ、少し時間がかかるみたいね。
 少しずつ、身体から、身体の自由を奪っているフェロモンを抜いていけないといけないらしいから、当分、龍也は戦力にならない。
 って事はしばらくは増員無しでやれって事よね。
 せっかく龍也が加わったっていうのに、残念だわ。
 龍也は火の神殿に残して行くことになったわ。
 そこで、しばらくはエテレイン様も治療に付き合ってくれるらしいから、後で龍也と一緒に加勢に来てくれるみたい。
 当分は、私とヘスティアと導造君の三人でって事になると思ったんだけど、ちゃっかりしたのがもう一人。
「へへへ、大変だったみたいねぇ」
「あら、ブリジットさん。お腹はもう大丈夫な訳?」
「あ、あぁ、お腹ね。もう大丈夫よ」
「お腹壊して当分入院でもしていたら良いのに」
「そんな事言わないでよ。ちゃんとカモネギ君達を向かわせてあげたでしょ」
「あなたが離れなかったらピンチの度合いも低かったと思うけど?」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。また、仲良く4人で旅をしましょう」
「良いんですかヘスティアさん、あなただってピンチだったじゃないですか」
「私はいざとなれば……」
「いざとなれば?」
「い、いえ、何でもないんですのよ、ほほほ」
「ほほほじゃないでしょ。何を隠しているんですか?古怪とも知り合いだったみたいだし、ハイ……何とかってなんですか?」
「気のせいですよ、気のせい」
「とぼけないで下さい」
「みんな仲良しだなぁ」
「何処が!」
 空気が読めない導造君が呑気な事を言う。
 バチが当たったのか……
「カモネギ君、後ろ……」
「え?なぁに、ブリジットさ……うわぁ……」
「ダーリン……」
 ブリジットに言われてふり向いた先にはクリスティナが導造君と心中しようと迫ってきていた。
 慌てて逃げる導造君。
「一緒に死んでくれるって言ったじゃない」
「言ってない、言ってない、助けてみんなぁ〜」
「モテて良いねぇ、カモネギ君」
「導造君にはお似合いですよ」
「いっそ、二人で同じ棺桶にでも入ってあげれば?」
「冗談に聞こえないよ、朱理ちゃん」
「あら、冗談だなんて、誰が言ったっけ?」
「そんなこと言わないで助けてよ」
「愛してるわダーリン」
「愛してるですって、良かったですねぇ」
「ヘスティアさんも助けてよぉ」
「助けてあげても良いけどいくら出す?」
「お金取るの?ブリジットさぁん」
 クリスティナに追いかけ回される導造君とそれをほほえましく見守る私達。
 チームワークがあるのかどうかはちょっと疑問だけど、一応、導造君を中心に私達のチームはある。
 ちょっとした事で壊れちゃいそうな微妙な間柄だけど、この危険な星、イグニスでは頼りにするべき仲間達。
 私達に、どんな未来が待っているかは解らないけど、今はただ、前に進むだけ。
 ただそれだけよ。

 続く。





登場キャラクター説明


001 芦柄 導造(あしがら どうぞう)
芦柄導造
 イグニス編の主人公。
 芦柄三兄弟の末っ子で、出涸らしの三男と呼ばれるヘタレな少年。
 恐がりで女性に弱いが内に秘めた闘志は兄二人にも負けない。
 義兄の次男、吟侍(ぎんじ)の心臓ともなっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で【見えないトリガー】という異能力を身につける。









002 南条 朱理(なんじょう しゅり)
南条朱理
 イグニス編の語り部。
 導造(どうぞう)のパーティーに参加するも彼の暴走で、いきなり、支配者のジェンドに挑み、仲間とはぐれてしまう。
 その後は導造と行動を共にするが、彼が次々と怪しい女性を仲間にしていくのに手を焼いている。
 吟侍(ぎんじ)の心臓、ルフォスの世界で修行を積み、その世界で三つのコアを集めて聖獣朱雀を創造し、自らの力とする。










003 ヘスティア
ヘスティア
 仲間とはぐれた導造(どうぞう)達の前に現れた謎の女性。
 イグニス編のヒロイン。
 正体を隠して導造のそばにいる。
 今回の敵、古怪(グーグワイ)の情報を知っている。











004 ブリジット・コルラード
ブリジット・コルラード
 導造(どうぞう)がセカンド・アースに居た頃から、彼を【カモネギ君】として利用してきた悪女。
 イグニス編のヒロイン。
 何度も騙される導造はお気に入り。
 導造達とは別の国出身で、別のパーティーを組んでイグニスまで来ていたが、仲間とはぐれてしまっている。











005 クリスティナ・ラート
クリスティナ・ラート
 魔薬アブソルートを飲んでしまった特殊絶対者の少女。
 イグニス編のヒロイン。
 元人間で、死にたがっている。
 が、アブソルートの影響で死ねない。
 導造(どうぞう)の事を気に入り、一緒に死のうとする。











006 エテレイン
女神御エテレイン
 イグニス編のヒロイン。
 女神御(めがみ)の一柱でドジである。
 火の姫巫女、ビアナに間違えた神託をした。
 本来、最強の化獣、クアンスティータ誕生を防ぐため、自らの力を封印して、吟侍(ぎんじ)に会いに来たが、彼と導造(どうぞう)を間違えたため、吟侍の居るウェントスではなく、導造のいるイグニスに来てしまった。
 力を封印しているため、星を渡る力が無くて困ってしまう。










007 ビアナ・カルファン
火の姫巫女ビアナ・カルファン
 火の姫巫女。
 守銭奴でもある。
 導造(どうぞう)を吟侍(ぎんじ)と間違えるなど、星見としての力量には少し疑問が残る。
 古怪(グーグワイ)にストーキングされている。











008 古怪(グーグワイ)
古怪グーグワイ
 イグニスを支配する上位絶対者・アブソルーターの1名。
 噂ではオートラブドールを操るという事が解っている。
 今回避けて通れないとして、狙うが生死がはっきりしていない。
 かなりの変わり者という噂もある。











009 ニアリリスE
ニアリリスE
 古怪お気に入りのオート・ラブドール26体の内の1体。
 普通のオート・ラブドールより高い攻撃能力を与えられている。
 男性に対して、特に有利に事を運べる、触るだけで、エクスタシーに達してしまう程のフェロモンを持っている。
 26体のニアリリス達にはある秘密が施されているが、それは謎である。
 主である古怪を殺したとも言われているが……。







010 東 龍也(あずま りゅうや)
東龍也
 はぐれていた導造達の仲間の一人。
 吟侍(ルフォス)の世界で修行して聖獣青龍を召喚する事が出来るようになっている。
 ニアリリスEの怪しい魅力の虜となった状態で再会することになった。
 助け出すことには成功したが、再び活躍するには少し時間がかかる。