第001話 怨霊 暗鳴(おんりょう くらな)編


01 導造という人間

 はぁ…
イグニス編01話01 いきなり、星の支配者である絶対者、ジェンド・ガメオ・ファルアに挑み、追い返された導造君は仲間とはぐれてしまったのよね…。
 かろうじて、南条 朱理(なんじょう しゅり)、つまり私が彼についていたんだけど、ほっといたらこのバカリーダー、何処で野たれ死んでいたか解ったもんじゃなかったわ。
 ほんと、誰がリーダーにしたんだか…って、面倒だから私達が彼をおだててリーダーにしちゃったんだけどね。
 何にしても導造君の迷走はしばらく続きそうだわね。
 ヘスティアとかいう変な女を仲間にした事も含めてね…

 ヘスティア…おそらく、偽名だろうけど…確か伝説の地球という星の神話の一つで竈の女神がそんな名前だったような…
 この女…ドラゴンの群れから逃げ回っていた私達の前に突然現れたのよ。
 出てきた場所が問題で溶岩地帯のど真ん中にいた。
 あんな所で暮らしている人間はいない…。
 どう考えても怪しい…
 私は当然、そう思った。
 だけど、導造君ときたら…
「笑顔の素敵な女性に悪い人はいないよ」
 だって…
 アホか。
 笑顔が素敵に見える女なんてそこら中にいるわ!
 女の笑顔にうっかり騙される君のようなお馬鹿さんもね。

 状況から見て思いっきり怪しいじゃないの。
 ちったぁ疑えっての。
 まったく…私達がサポートしてあげないとなにしでかすか解らないんだから…

 愚痴で始まってごめんなさい。
 私達、導造チームは火の星、イグニスに来ています。
 他の星に行ったチームと同様に私達のチームも友達の救出。
 これが、第一目的ね。
 第二目的としてはこの星を支配している絶対者・アブソルーターから奴隷達の解放ってのもあるけど、私達のチームには荷が重いかも知れないわね。
イグニス編01話02 導造君…彼は私達の故郷、セカンド・アースでは英雄となっている吟侍君、それに琴太君の義理の弟なんだけど、彼は、良いところを全部お兄さん達に持っていかれたんじゃないかというくらい何というか頼りない男の子なんだよね。
 まぁ、義兄弟だから、似て無くても仕方ないんだけどね。
 彼らや私はジョージ神父の孤児院で育った家族の様なものなのよね。
 子供の頃から知っている仲間。
 だから、子供の頃、友達を攫いに来た絶対者達を追い払った吟侍君の事も知っているし、導造君の情けない所も十分知ってる。
 知ってはいるんだけどね。
 こうも、吟侍君と違うとね…どうしても比べちゃうのよね。
 私、吟侍君に助けられた事もあるから余計思っちゃうのよね。
 この旅はそんな彼でもやれば出来る…と思いたい冒険になると良いな…

02 怨霊教

 私達はとりあえず、はぐれた仲間とあわなくちゃいけないと思って、仲間の居所を占ってもらうため、火の神殿の姫巫女、ビアナ・カルファンを訪ねる事にした。
 ヘスティアによると、火の神殿の姫巫女は星見というものが出来る人間らしい…
 火の神殿に住む人間は絶対者の星見をする事で生存を許されている集団みたいね。
 他の星にも姫巫女や神殿はあるみたいね。
 冒険の基点の一つとしてイグニスを含む四連星では定番として定着しているそうよ。
 ただ、ここからだと火の神殿に行くにはフィアーって町を通るのが一番の近道なんだけど彼女が言うには…
「あまり、このフィアーの町はお勧め出来ませんね…」
イグニス編01話03 との事…。
 何でも、怨霊教(おんりょうきょう)という宗教に町の人が入会していて人間関係がギスギスしているというんだけど…。
 【怨霊】という響きにすっかり、萎縮した導造君は…
「朱理ちゃん、迂回しようよ」
 と言ってきた。
 ゴーストが怖くて、つい最近までおねしょをしていた導造君ならまぁ仕方ないかな…
「ヘスティアさん…だったわね。迂回すると安全なの?」
「安全かどうかまでは…近くに上位絶対者、古怪(グーグワイ)がいますからね」
「上位絶対者?」
「このイグニスには化獣(ばけもの)の加護を受けた8名の上位絶対者、神御(かみ)や悪空魔(あくま)の加護を受けた21名の中位絶対者がいます。それ以外の絶対者は下位絶対者、及び怪物と呼ばれます。上位や中位の絶対者は下位のそれとは圧倒的に潜在能力が違ってきますね」
「ちなみに、ジェンドって奴は…」
「上位絶対者です。この星は8名の上位絶対者に支配されています」
「なるほどね…で、それを知っているあなたは一体何者…」
 ちょっと聞いてみる。
 …が、
「古怪の能力は不明ですが、彼はラブドールを使います…」
 無視かい…って何ぃ?
「ラブドール?」
「主に、男性の性処理をする人形の事です」
「うわっ最低…」
「そうですか?」
「そうですかってあんた…」
「男性のそれは生理現象の一つですからね。ため込むのはあまり良くないと思いますよ。それを処理してくれる人形ですから…」
「ま、まぁそうなんだけど…ちょっと女性から見たら…ねぇ…」
「何か問題でも?」
 うわっこの人とはとことん気が合いそうにないわ。
「い、いえ、別に…」
 価値観の違いなのか…うーん、私には理解できないわ…。
「古怪の使うラブドールはオートラブドールと呼ばれ…」
「い、いや、その古怪さんの話はもう良いですから…怨霊教の事を教えて下さい…」
 ほっとくとラブドールの話を延々と聞かされそうだったので、私は怨霊教に話しを誘導した。
 ヘスティアの話では絶対者、怨霊・暗鳴(おんりょう・くらな)というのがいて、そいつを崇めるのが、怨霊教という事らしい…。
 暗鳴自体は下位絶対者で力自体はそれほど強くはないのだが、厄介なのは実体がないという事だった。
 また、怨霊教の信者達は他の絶対者に虐げられている人達と違い、無理矢理強要されてという訳ではないと言う。
 みんな、心の隙間を暗鳴に利用され、進んで信者になっているという。
 そして、怨霊教の教義は【他人を陥れた者は幸せになれる】というものだった。
 だから、そこに住む者達の間には他人を騙す、脅す、殺すは当たり前の様にあり、自分が幸せになるためには他人を蹴落とすのは当たり前という人達だという…。
 いわゆる【他人の不幸は蜜の味】というやつなのだろう…。
 聞いているだけで、嫌な気分になった。
 他人を騙し続けて生きている限り、自分も他人に騙されないかという不安を持って生きる事になる…。
 そんな人生で楽しいのか…
 他の人を信じるという事から信頼というのは生まれてくる…
 そんな簡単な事にも気付かないのか…
 そう思う。
 だけど、病んでいる人というのはそういうものなのだろう…。
 周りが見えていないのだ。
 そんな町に飛び込むのも確かに嫌だ。
 いつ後ろから刺されてもおかしくないのだろうし…。
「ちょっと、怖いけど、古怪って奴の方が戦いやすいと思うよ」
 あ、こいつ、ラブドールが気になってんな。
 導造君の鼻の下がかなり伸びて来ていた。
 彼はすぐ顔に出るからなぁ…。
 分かり易い奴…
 私としてはどっちも嫌なんだけど…どちらかって言うと…
「却下、今の私達の戦力からいうと当然、暗鳴の方でしょ。ジェンドに相手にもされなかったのを覚えてないの。古怪はそのジェンドと同じ、上位絶対者なのよ。いきなり挑むには危険な相手よ」
「えぇ〜」
「おのれはラブドールが見たいだけでしょうが。駄目よ、そんなの…」
 主人に相手にされなかった子犬の様にシュンとする。
 ダメダメ、そんな一生のお願い的な目で見られても駄目なものは駄目なのよ。
「だって、お化けとラブドールだよ。どっちに行くかなんてはっきりしてるじゃないか」
「だだ捏ねるな。お化けとラブドールじゃなくて、下位絶対者と上位絶対者で、暗鳴の方を選んだの。文句ある?」
 私は凄んで見せた。
「あ、ありません…」
 導造君は快く了解してくれました(笑)

03 疑惑の町 フィアー

「怖いよーお化けがでるよー」
 フィアーの町につくなり、導造君は私にしがみつく。
 えーい、情けない。
「鬱陶しいわね。まとわりつかないでよ。まだ、何も襲ってきてないでしょうが」
「だって、怨霊だよ。夜中に1人でトイレにも行けないよぉ〜」
「じゃあ、行かなきゃいいじゃない」
「おしっこ漏らしちゃうじゃないか。ついてきてよ」
「子供か、あんたは」
「まだ、子供だよ、成人してないよ」
「子供ったってもう大きくなってんのよ。いくつよ、あんたは」
「知ってるくせに…」
「知ってるから言ってんのよ」
「すぐ、怒る」
「あんたが怒らせるような事言うからでしょうが」
「くすっ…」
「そこ、笑わない。言っておきますけど、ヘスティアさん、あなたが、導造君を脅かすような事を言うからこうなったんですからね」
「はい、すみません。つい、おかしくなって…可愛いなと」
 可愛いねぇ…確かに導造君の行動は母性本能をくすぐるのかも知れないけど…見ようによってはね…

 日も暮れて来たし、私達はとりあえず、今晩泊まる宿を探した。
「すみません、今晩、泊まる宿を探したいんですけど、どこか近くに宿屋はありませんか?」
「ありますよ。ここから…」
 親切な女性に道を聞いて、宿屋に…
「あれ?」
 やられた…早速、嘘つかれた…。
 戻って文句でも言ってやろうと道を聞いた元の場所に戻って見ると、さっきは影になっていて気付かなかったが、すぐ近くに宿屋はあった。
 あの女…今度あったら、しばいてやる…。
「良かったね〜すぐ近くに宿屋があって…」
イグニス編01話04 お気楽男は宿が見つかった事を素直に喜ぶ。
 野宿しなくてすんだと思ったのだろう。
「あのね、導造君、私達は余計な遠回りをさせられたの。良くなかったの」
「そ、そうだね。それより、きょ、今日は一緒に寝ようか…」
「はぁ?何言ってんのよ、あんたは…別々に決まってんでしょ」
「そ、そんなぁ〜僕だけ別?ヘスティアさん、一緒に寝ましょうよ」
「そうですねぇ…どうしましょうか…」
「甘やかさないでください。導造君、これから冒険を始めようという人間が宿屋で1人で寝られないなんて言わないわよね」
「言います。1人で寝るのが怖いです」
「ヘスティアさんが現れなくて、仲間とはぐれて居なかったら、女の私が1人で寝てたんですけど。でも、例えそうでも私は1人で寝れたけど」
「そんなぁ…」
「まぁまぁ、朱理さん。野宿だった場合は貴女も見張りを立てて男性と一緒に寝ていたと思いますよ。だから、今夜くらい、一緒に寝てあげましょうよ」
 私は反対だったんだけど、多数決で負けてしまい、結局、三人一緒の部屋で眠る事になった。
「言っておくけど、私のベッドに潜り込んできたら、はっ倒すからね」
「わ、わかってるよ。だけど、僕が真ん中のベッドで寝て良い?」
 あぁ…情けない…。
「はいはい、良いですよ…どーぞお好きなように…」
「楽しい夜になりそうですね」
「そうですね。これで、僕も安心して寝れます」
 こうして、私達は宿屋で一泊するのだった。
 夜食に毒物が混じっていたり、部屋に爆発物が仕掛けられていたりと安心してぐっすりという訳にはいかなかったけど、少しは仮眠が取れた。
 ヘスティアは何処まで信用して良いのか解らなかったけど、とりあえず、今の所は何かをするという事でもなさそうだったので、少し、気持ちの上で頼らせてもらった。
 導造君とじゃ、こうはいかないからね。
 次の日、フィアーの町を抜けて火の神殿に…は行かなかった。
 私が提案し、フィアーの町の絶対者、怨霊 暗鳴を倒すか、追い出すかしようという事にしたのだ。
 もちろん、導造君は反対した。
 が、私としては安全地帯をある程度確保したかったからだ。
 このフィアーの町が安全な場所になれば、この町と火の神殿で安全な地域となるからだ。
 それは、私達が乗ってきた宇宙船のあるベースキャンプが何処にあるか解らないという事も関係していた。
 恥ずかしながら、ジェンドに挑んで、ドラゴンに追いかけ回されたからどこがどこだか解らなくなってしまったのよね。
 拠点となる場所を持たずに行動するのは危ない…。
 私はそう判断した。
 その点、このフィアーの町の絶対者は下位だと言うし、追い払う事でも出来れば何とか、この辺りを拠点として仲間を捜しにいけるのではないかと考えた。
 だからこそ、このフィアーの町を何とか大掃除したい。
 それが、私の目的だった。
 だけど…
「いないわね…暗鳴…」
 日中、暗鳴の捜索をしたのだけど、何処にもいないのよね…。
「すみません、この辺りに…」
「悪いけど、この辺の者じゃないんで…」
「えぇ…わかってますっよっ…くっ」
「はいはい、ご苦労様。次は敵と認識しますからねっと」
「い、いたいけな老人に何を…」
「いたいけなご老人はこんな物もってませんよ」
「くそっ…」
 道を尋ねて来た老婆が刃物を隠し持っていたんだけど、払いのけた。
 暗鳴はいないけど、その信者の刺客はしょっちゅう襲ってくる…と。
 確かに厄介だわ、これは…
 敵の親玉は全然、顔を出さないし、隙を見せたらそこら中から刺客が襲ってくるし…。
 例え、出てきても、さわれないっていうし…どうやって料理しようかしら…
 という訳で今夜も泊まる事にした。
 あらかじめ仕掛けられていた盗聴器やトラップは外させていただいた。
 こう、しょっしゅう狙われていると、段々慣れて来たわね。

04 怪しい女がまた1人…

 暗鳴が見つからず、何日経ったっけ?
 今日で一週間くらいかしら?
 フィアーの町での暗鳴を探しながら刺客を撃退していくっていう変な日常も大分慣れて来たわね。
 さすがに、近づく人間の殆どが悪意を持っているので、接近する者に対して警戒すれば何とかなった。
 ヘタレの導造君も慣れて来たのか、相手が力を持たない人間と解ると彼の特殊能力、【見えないトリガー】で刺客を打ち落としていった。
 もちろん、相手は人間なんで、殺傷能力の無い、トリガーにしている見たいだけどね。
 【見えないトリガー】…導造君が吟侍君の心臓に宿っている化獣(ばけもの)ルフォスの所有する世界で身につけた特殊能力。
 要するに、見えない拳銃を持っているという事なんだけどね。
 拳銃にもいろいろあるみたいだけど、銃身自体が見えないので、どんな銃を持っているか解らないんだけどね。
 見えない銃は導造君の近くの空間の歪みに隠してあっていつでも取り出せるみたいね。
 持つ人が持ったら脅威となる能力だとは思うけど、導造君じゃあねぇ…

 私やはぐれた仲間の西川 虎児(にしかわ とらじ)、東 龍也(あずま りゅうや)、北島 武(きたじま たけし)の三人も同じ様にルフォスの所有する異世界で修行を積んで、それぞれ、特殊能力を持ってこの冒険に当たっている。
 今の所、私達の能力の出番は無いけど、その内、使う時が来ると思っているわ。

 話がそれたけど、私もいい加減、捜索が飽きて来た頃だったんだけど、導造君がまた、怪しい女を連れて来ていたのよね。
「朱理ちゃん、紹介するよ。彼女は、ブルシア・ヒューゲルさんと言って…」
「…イグニスに来ていたんですね。ブリジット・コルラードさん」
「あら、バレちゃった?お久しぶりね、朱理さんでしたっけ?」
イグニス編01話05 「え?、え?…どういう事?」
 導造君は気付いていないけど、このブルシアと名乗って現れた女の正体はブリジットという女なのよね…。
 導造君を【かもねぎ君】と呼んで、セカンド・アースでは何度も彼を騙してきている怪しい女って訳。
 正体を隠しているっていう怪しさでいったら、ヘスティアと良い勝負かもね。
 何だか知らないけど、ヘスティアと意識しあっているみたいだし…
 私達の命を狙う刺客じゃないのは解るけど、それにしても、ちょっと化粧の仕方を変えただけなんだから、少しは気付よ、導造君…
「まさか、私達のパーティーに加わりたい…なんて言わないですよね…」
「あら、冷たいわね。こんな危ない地で女の子を1人にする気?」
「…どうだか…近くに仲間が隠れているとか?」
「残念ながら、はぐれちゃってね。しばらくで良いからご一緒させて貰えないかしら」
「貴女を信用して、一緒にって訳には…」
「はい、喜んで」
「ちょっ…、導造君、余計な事を」
「大丈夫、僕を信じて」
「君を信じて、良かった試しがあって?」
「…良いじゃないですか朱理さん。私も別にかまいませんよ」
「決まりね。多数決で私もメンバー入りって事で。でも、ヘスティアさんでしたっけ?これで借りを作ったなんて思わないでくださいね」
「…えぇ、別にそんなこと思っていませんよ、ブリジットさん」
「ほほほ…」
「うふふ…」
 二人とも目が笑ってないって…。
 ヘスティアにブリジット…パーティーがだんだん、ややこしくなってくるわね。
 何かを隠していそうな二人に全く頼りにならない導造君…
 大丈夫かな、このパーティー…
 早く仲間を捜さないと…。

05 VS暗鳴

 一応、ブリジットには感謝しないといけないかしらね…。
 彼女が加わった事で、事態が動いてくれたからね。
 正直、手詰まりだったからね。
 これ以上立ち往生したくないし、助かったと言えば助かったかしらね…。
 あんまり感謝したく無い相手なんだけどね。
 ブリジットがくれたヒント…
 それは、襲ってこない町民がいるという事だった。
 私達を見張っていて彼女が気付いたらしいんだけど、私達と一定の距離をとりただ見ているという町民がかならず、2、3人は居ると言っていた。
 襲ってくる町民しか気にして無かったけど…。
 確かに妙よね…
 この町ではほぼ100%敵ばかりと言っていいのに、襲わずにただ見ているだけなんて…
 そいつらが司令塔もしくは暗鳴の隠れ蓑と見て間違いないかもしれないわね。
 私達は敵が狙いやすいようにバラバラに行動した。
 と言っても、チーム内である一定の距離を取り、ただ見ているだけの町民をこちらからも見るためだ。
 計算通り、襲ってくる町民の影でただ、見ているだけの町民を発見、刺客には目もくれずにその町民へ向かってまっすぐ走る。
 すると、その町民は慌てて、その場を離れようとする…。
 逃がすか。
 同じように、ヘスティアとブリジットも似たような町民を見つけた見たいね。
 導造君はもたもたしているみたいだけど…。
「さぁ、覚悟を決めてもらいましょうか、フィクサー(黒幕)さん」
「な、何故、解った…?」
「チーム内の75%が頭の切れる人間なんでね。いつまでも隠れられると思ったら大間違いなのよ」
 残り25%とは導造君の事だけどね(笑)
イグニス編01話06 追い詰めた町民達の口から黒い塊があらわれそれが一つに集まった。
 ようやくお出ましってとこね。
 さぁ、行くわよ。
「おおお俺にはだだだ誰もさわれない…」
「さぁ、それはどうかしら?」
 言ってなかったけど、私、南条 朱理は聖獣朱雀の力を体内に宿しているのよね。
 西川 虎児は白虎の東 龍也は青龍の北島 武は玄武の力をルフォスの世界で手に入れて来ている。
 で、朱雀の力を持つ私は使えちゃうのよね、炎が!!
 正直、火の星だから、火の耐性を持つ怪物ばかりだと思っていたんだけどね。
 こいつは多分、火の属性とは無関係…
 だとしたら、燃やせちゃうんじゃない?
「朱理ちゃん、頑張って〜」
「はいはい、あんたもその内、戦ってもらうからね。行くわよ、火炎演舞!」
 私は炎をまとい、暗鳴に攻撃をしかけた。
 はい、とっととやっつけておしまい…
 って訳にはいかなかったみたい…
「いいい言ったはずだ…おおお俺には誰もさわれないと…」
「こんにゃろめ…」
 聖なる炎で燃やせない?
 どういう事、いったい…
 勝機を悟ったのか、この中で一番、取り憑きやすそうな相手…
 つまり導造君に取り憑いて攻撃を仕掛けて来た。
 【見えないトリガー】が私達を狙う。
 銃身が見えなくても指の向きからある程度の弾道は予想出来るけど、何が撃たれたか解らない所が厄介よね…
「どどどどうした。ささささすがに…ななな仲間からの攻撃ではどうしようもないだろう…」
 勝ち誇ったかのような表情…。
 生意気ぃ〜
 導造君の顔でされると悔しさも二割ましね…
 さて、どう料理するか…
「簡単、簡単…こうするのよ…チラッってね」
 ブリジットはスカートを少しまくってみせた。
 すると、私に攻撃をしかけていた導造君がよそ見をしてバランスを崩した。
 悲しい男のサガってやつね…
 倒れた導造君の首をヘスティアが片手で持ち締め上げ、口の中から出てきた暗鳴をさらに捕まえ…捕まえ?
「悪い子ね…お仕置きよ…」
「っぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ…」
 つかめないはずの暗鳴をヘスティアが平然と捕まえ、往復ビンタ。
 どうなってんのよ。
 やっぱり、ただ者じゃないわね、ヘスティア…
 こうして、絶対者、怨霊・暗鳴を追っ払う事に成功。
 町民達も元に戻り…って、言っても元々、暗鳴に心の隙間をつかれるくらいだから、まっとうな人間ではなかったみたいで、殺すとかそういうのは無くなったみたいだけど、相変わらず人を騙したり平気でやっているみたい…。
 人間、そんなに簡単には変わらないって事ね…。
 町民の人間性にはちょっと問題があるけど、とりあえず、一応、安全は確保出来たわね、これで。

06 火の神殿へ

 ようやく、私達はフィアーの町を離れる事が出来た。
 結局、一週間ちょっと長居しちゃったわね。
 遅れた分、取り戻さないとね。
 道中、ヘスティアとブリジットが先を競って導造君の隣を歩きたがっているんだけど、二人とも下心ありと顔に出てるわよ。
 導造君がそんなにモテる訳ないでしょうが…。
「いやぁ〜モテる男はつらいなぁ〜」
 解ってない男が1人…
 勝手にやってなさいって感じね。
 アホはほっといて火の神殿へ急ぐ事にした。
 が、せっかく少し稼いでいたこの星の通過が入った財布をどっかのお馬鹿さんが掏られたと気付いたのは神殿に着く少し前…。
 もう、神殿が見えているのにまた、フィアーの町に逆戻りをする羽目になっちゃった。
 暗鳴戦で一番、役に立ちそうも無かった導造君に財布を預けていたんだけど、それが仇になっちゃったって訳。
 財布もまともに守れんのかこの男は…
 フィアーの町に戻ったのには訳があった。
 他の星の姫巫女もそうなのかどうかは解らないけど、このイグニスの姫巫女は占ってもらうのにお金がかかるらしいのよね。
 タダでは占ってくれないってこと…。
 そこで、少しだけど、フィアーの町で暗鳴を探している次いでに簡単なアルバイトをしていたんだけど、それが、一気にパー…
 何やってんのよ、全く…
 フィアーの町に戻った私達は早速、アルバイト…
 はしなかった。
「はいはい、ちょっとごめんなさいね。私達、スリにあっちゃってね。今、犯人を捜しているの。悪いけど、これから出す炎に触ってくれないかしら?【裁きの聖火】って言ってね…スリが触ると焼け死ぬんだけどね…あぁ、もちろん、無実の人は全然、熱くないって…」
「ひぃぃぃぃ、あのこれ少ないですけど…」
「ご、ごめんなさい…これ…」
「わ、悪気はなかったんだ…」
「後生だから…」
「か、勘弁してくれ…」
 頼んでもいない人達が次々とお金を渡してきた。
 明らかに元の金額より多くなっている。
 町民の殆どが、スリだって訳ね…
 今までかすめ取った事がある人がこんなにたくさん…
 呆れてものも言えないわ…。
 まぁ、くれるって言うんだからもらっときましょうかね。
 この先、何かと必要な事もあるでしょうし…
 私達は稼いだ額の30倍ちょっとの通過を手にして、再び、フィアーの町を出た。
 いや〜得したな〜(笑)
 ちなみに【裁きの聖火】は私はまだ、使えません。
 ハッタリで言っただけなんだけど、こんなに効果があるとは思わなかったわ。
「やるわね、朱理さん。スカウトしたいくらいだわ」
「ありがと、ブリジットさん。何のスカウトかしら…?」
「解ってるくせに…ほほほ…」
「ははは…」
 冗談じゃございません。
 人を騙して生計を立てるなんて私はまっぴらゴメンよ。
 これっきりよ、これっきり。
 私達は火の神殿へとついた。

07 火の神殿の姫巫女 ビアナ・カルファン

 火の神殿に着いた私達は早速、姫巫女の間へと通された。
 そこには、火の神殿の姫巫女、ビアナ・カルファンと思われる人物がマスクをしていた。
イグニス編01話07 「かんにんな、こんなかっこで。あたい、ストーカーに狙われてるんよ」
 なんか、思ったよりさばさばしてそうな巫女さんね…
「ストーカーですか?」
「そうやねん。古怪ってゆーケチな奴なんやねんけどな…」
「古怪!」
 古怪という言葉に導造君が敏感に反応する。
 まぁ、戦いたがってたしね…
 目的はラブドールを見たいからだろうけど…
「やはり…上位絶対者の不可侵条約…彼は破っているんですね…」
 ヘスティアがそうつぶやいた。
 不可侵条約…それに何か意味があるのかしら?
 ヘスティアと古怪って言う上位絶対者…何か関係があるのかしら…
「あいつ…あたいをモデルにラブドールを作りたいってしつこいねん…」
「そいつは変態ですね。許せん」
 闘志を燃やす導造君だけど…はいはい、もういいから…あんたはラブドールが見たいだけでしょうが…
「そいつを何とかしてくれるっちゅうなら占いの方はまけときまっせ」
 それでも、ただじゃないのね…
「大船に乗ったつもりでいて下さい」
 導造君は根拠のない自信を持って胸をはる…。
 あんたのは大船じゃなくて泥舟じゃないの?
 彼が張り切るのは大体解るけどね。
 巫女さん達、みんな綺麗だもんね、良いかっこしたいのよね…
 で、私にはいざとなったら頼りにしてますの視線を送ると…
 ったく、どうしようもないわね…
 吟侍君と交代して欲しいわよ…
 それにしても…
「ビアナさん…良いところに住んでますね…もうかりまっか?」
「ぼちぼちでんな〜」
「良い商売してますものね…」
「そんなことあらへん、一泊700カーチやし、良心的な価格やで」
 滞在費もとるのか…
 【カーチ】はこのイグニスの通過。
 1カーチは大体、駄菓子5つ分くらいの価値ね。
「そうなんですかね…」
「そうやでぇ〜この辺はずっと寝苦しいからな。エアコンもきいてるしなぁ、快適やでぇ」
「電力は無料で提供されてますよね…」
 ヘスティアがつぶやく。
 痛いところをつかれたのかビアナはギクッとした顔をした。
「お、お姉さん、詳しいね…ここの人?」
「いえ、ちょっと小耳にはさみましたもので…」
「かなわんなぁ〜よっしゃ300カーチにまけときまひょ」
「何で300カーチ?」
「サービス料やサービス料!そのくらいはいただきませんとなぁ…」
 姫巫女ってみんなこんななのかしら…
 どちらかっていうと商売人の方がむいているんじゃないかしら…。
「まぁ、良いわ…たっぷりもうけて来たし、一泊させてもらうわね…」
「じゃあ、4人で1200カーチになります。まけて1000カーチで良いわ」
「300カーチって1人分?」
「そうなります」
 聞いてないわよそんなこと…
 チラッと見ると
「朱理さん、よろしくお願いします」
「私もお願いねぇ〜」
 ヘスティアとブリジットも私に支払えと頼み込んできた。
 何で、あんた達の分まで私が…
「勇者、吟侍はんには私らも期待してまっせ。あんじょうたのんまっさ」
「…あの、ビアナさん、彼は吟侍君じゃなくて、弟の導造君なんですけど…」
「えぇ?…あはは、まだ、星見してないから勘違いや。あんま似てるから間違えたんや」
「義兄弟なんで、似てませんけど…」
 大丈夫か、この人?…
 吟侍君と導造君を間違えるあたりいまいち信用出来ないんだけど、とりあえず、彼女に仲間の所在を訪ねる事にした。
 彼女の星見の結果は…
 仲間の所在は今は解らないとの事…。
 何なのよそれは…
 変わりに解ったのは導造君に想いを寄せる女の子が現れるというものだった。
 恋占いかい…
 大体、導造君に想いを寄せるって誰よ。
 ヘスティアもブリジットもそんなタイプには見えないし…
 もしかして、私ぃ?
 ないない、それは無い。
 吟侍君とならあり得るかも知れないけど、あれにそれは無いでしょう…。
 で、それを聞いた導造君は…
「ほほほ、ほんと?僕に想いを寄せるって事は、僕の事好きなんだよね。その人綺麗?お花ちゃん見たいだといいなぁ〜」
 浮かれまくっている…
 お花ちゃんとは水の惑星アクアに向かったお姫様、カノン姫の事ね。
 吟侍君がつけたニックネームで、彼女は吟侍君とは恋人同士。
 お花ちゃんとじゃ私に勝ち目が無いんで吟侍君を諦めたんだけどね。
 訳あって、風の惑星ウェントスに向かった吟侍君とは別行動をしているんだけど、喧嘩した訳でもないし、私にはよくわかんないんだけどね。
 吟侍君にはお花ちゃんの双子のお姉さんのおそなちゃん、ソナタ姫が同行しているのよね。
 おそなちゃんも多分、吟侍君の事が好きみたいだし、三角関係って訳でもないのかしらね…
「誰です?お花ちゃんって?」
「あら、いやだ、あたしという者がいるのに…」
 ヘスティアとブリジットが彼に尋ねる。
 モテていると勘違いしている導造君が哀れでならない…
 すっとぼけてるけど、ブリジット、あんたはお花ちゃん、知ってるでしょうが…
 万人に慕われるお姫様…
 悔しいけど、吟侍君の隣には彼女が似合う…。
 っていかんいかん、つい感傷的になってしまった。
 私は私の王子様を見つけるんだから…。
 それこそ、吟侍君も霞む程のね。

08 クリスティナ・ラート

 ビアナの恋うら…、もとい、星見に振り回されたけど、私達は火の神殿に一泊だけして、出発した。
 火の神殿も拠点として考えたいので、とにかく値段を下げてもらわないと話にならない…。
 という事で、上位絶対者、古怪の事を探ろうという事になった。
 戦うには戦力が足りないとは思うけど、古怪に対する情報の提供だけでもビアナはまけてくれるとの事。
 情報収集はあんまり得意ではないけど、探るくらいなら…と引き受けたのだ。
 仲間を捜すのはその後という事になるわね。
 私達はフィアーの町で準備をして、古怪の支配するエリアに足を踏み入れた。
 ここはマリアシティー…
 古怪の支配下にある地域の町はみんな女性の名前がついているみたいね…。
 町一番の美人の名前らしいわ。
 町毎に一番の美人を捕まえて、ラブドールのモデルにして、用が済めば、その美人を醜く整形させて帰すらしいわね。
 美人は自分だけのもの…ってところかしらね。
 紳士って言葉からはかけ離れた奴みたいだわね、古怪って奴は…

 で、どうでも良いんだけど…
イグニス編01話08 「あぁ、隠れなきゃ、見つかっちゃう…」
 多分、火の神殿に居た巫女さんの1人だとは思うんだけど…
 へったくそな尾行をしてきてくれてます。
 …それにしても…
「あ、ごめんなさい。尾行、じゃなくて、よそ見をしていたらつい…」
「ご、ごめんなさい…今急いでいますので…」
 バレバレなんだけど…こっちにまで、聞こえてますよ、声…
 チェイサー(追跡者)?さんはバレてないと思っているようなので、あえて放っておいてますけど、もっとましな人材、居なかったのかしら…
 尾行(のつもりだろうけど)しながら、道行く人達にぶつかるもんだから、かえって目立っちゃっているのよね…。

 それにしても、どこもかしこも男ばかりね…
 さっきから男が妙に言い寄ってくるから鬱陶しいと思っていたけど、この町には若い女性が1人も居ないわ…
 古怪を恐れて、町から女性がいなくなったと言ったところかしらね。
 と思ったら、私達とチェイサーさんを除いて、1人だけ居たわね…
 男共が群がっているから影になって解らなかったわ。
「ねぇ、君、可愛いね…」
「何処から来たの?良かったら俺と付き合わない?」
「いや、俺と…」
「いや、僕と…」
 何だか競争率激しそうね…
 まぁ、無理もないか…
「…寂しいの…」
 女性が口を開く…
 男を求めているのかしら…
 まさか、あれがラブドール…だったりしてね…
「お、俺が慰めてあげるよ…」
「いや、俺だって…」
 男共のボルテージが上がって行く。
 あんな事いわれたら、興奮するなって方が無理か…
 とか考えていたら…
「あの女性、どこか、おかしいですよ…」
 ヘスティアがつぶやく。
「人間じゃない…かもね…」
 ブリジットも同意する。
 敵なの?
「………」
 女性は小声で何かを言っていたような気がするけど聞き取れなかった。
「お、俺はいいや…」
「俺も…」
「ぼ、僕も…」
 その一言が原因なのか、男共は女性から離れて行く…
 何?何て言ったの?
 そこへ【女難】の伝道師、我らが導造君が近づく。
「…ねぇ…お願い…私と一緒に…」
 彼に女性がすり寄って来た。
 状況を理解していない彼は…
「喜んで。君と一緒に!」
 とにっこり笑ってかえした。
「ありがとう…」
イグニス編01話09 女性はそう言うと、テーブルについた導造君の手の甲に自分の手のひらを重ね、その上からナイフを突き立てた。
「いだいっ!」
 導造君が叫ぶ。
 無理もない。
 ナイフが刺さっているのだ。
 それにしても自分の手の上から…
「どうしたの…一緒に死んでくれるんでしょ…」
「い、いや、そんなことは…痛い、痛い…死んでしまふ…」
 動揺する導造君。
「ちょっと痛いわよ、導造君!」
「ぎえぇぇっ」
 私は女性を突き飛ばし、導造君から距離を取らせた。
 そして、突き立てられたナイフを外した。
 導造君はのたうち回る。
 痛そ…。
 まぁ、油断していた彼も悪いんだけどね。
「いだい、いだいよぉ〜朱理ちゃん〜」
「離れてなさい。彼女、普通じゃない…」
「…何をするの、帰してその人…」
「導造君は別に私の彼氏って訳じゃないけど、あなたに渡す訳にはいかないわね。あなた、何者?ラブドール?」
「…知らない…そんなの…その人は私と死ぬの…」
「じょ、冗談じゃないよ。ししし死ねないよ、僕は…」
「…じゃあ、殺してあげる…私の愛しい人…」
 ここでようやく、ビアナの星見が当たった事を知った。
 確かに、導造君に想いを寄せているみたい。
 彼女は心中希望で、かなり怖い意味だけど…
「あなたはクリスティナ・ラートさんね?」
 ヘスティアがまた、つぶやいた。
 また、何か事情を知っているの、この人?
「…そう、私の名前はクリスティナ・ラート…死ねないの…一緒に死んで…」
 クリスティナと名乗る女性がそう言った。
 それを裏付けるように、彼女の傷がみるみる塞がっていく。
 いわゆる不老不死という奴かしらね。
 自殺願望のある不老不死…
 つまり、一緒に死のうとしても死ぬのは相手だけ…って事になるわね。
 うわぁ…また、やっかいなのが出たわね…。
 この子なら、導造君と両思いになれるかも知れないけど、付き合ったら殺される…
 つくづく彼は女運ないわね…
 変な女ばかり近づいて来るし…
 とにかく一旦、態勢を立て直してからね…
 私は朱雀を召喚し、それに飛び乗った。
 ほら、みんな、早く乗って。
「了解。ほら、行くわよ導造君」
「ブリジットさん、痛い」
「痛いの痛いの飛んでけ〜はい、直った」
「直ってないよ〜痛いぃ〜」
「男の子だろ?我慢我慢」
 ブリジットが導造君を宥めて朱雀に乗せる。
 ヘスティアも乗った。
 …後は…
「そこの人、乗んなさい」
 私はチェイサーさんも乗せるつもりでいた。
「あ、大丈夫です。私、飛べますから…」
「そう、飛べるの…飛べる?」
 驚いた。
 チェイサーさんはてっきり巫女さんか何かだと思っていたけど、彼女も人間じゃなかったみたい。
 私達とチェイサーさんはマリア・シティーから3キロくらい離れた位置まで下がった。

09 女神御 エテレイン

 どうやったのかは解らないけど、チェイサーさんは導造君の傷を治してくれた。
 ある程度落ち着いた所で…
「さて、ヘスティアさんとそこのチェイサーさん…どちらから先にお話をお聞きしたら良いんでしょうかね?」
「では、私の方からさせていただきますわね。お知りになりたいのはクリスティナさんの事ですね」
「そうですね。出来れば貴女が何でそんなに事情通なのかも知りたいんですけど、それはどうせ教えてくれないんでしょ?」
「まぁ…女は秘密で着飾る生き物ですからね」
「はいはい、じゃあ、話せる事だけ教えて下さいな」
「はい、そうします。彼女は先ほども言ったように名前はクリスティナ・ラートと言います。魔薬(まやく) アブソルートを飲んでしまった哀れな人間ですわ。ですので、古怪の使うラブドールではありません」
「アブソルート?」
「はい…絶対者がその命を賭けて飲む薬で、適応すると上位、もしくは中位絶対者となります。人間が飲む薬ではない…と思います」
「人間が飲むと?」
「大抵、死ぬか、生きていても正気を失います。大変、危険な薬です。不老不死というのも副作用の一つでしょう…」
「なんで、そんなものが…」
「誰が作ったものかは解りません。ですが、それは、イグニス、テララ、アクア、ウェントスの四連星、全てに密かに出回っていると聞きます」
 何だかきな臭くなって来たわね…
 ヘスティアが怪しいのは今に始まったことじゃないけどね。
 じゃあ、もう一つ…
「チェイサーさん、貴女は何者なの?」
イグニス編01話10 「申し遅れました。私、女神御(めがみ)のエテレインと申します」
「そう、女神御様ね…って、女神御?あんた冗談も休み休み…」
「冗談じゃありません。光の星、ルーメンより、勇者、吟侍さんを導きに…」
 ビアナが変な勘違いしていたのは、こいつが原因か…
 いや、女神御様に対してこいつというのはあれなんだけどさ…

 イグニス、テララ、アクア、ウェントスの四連星の近くには3つの星があるとされている…。
 神御(かみ)が住まうという光の星・ルーメン、悪空魔(あくま)が巣くうとされている闇の星・テネブライ、そして、最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータが誕生するとされている謎の星・ファーブラ・フィクタの三つだ。
 彼女、エテレインはその中の一つ、ルーメンから来たと言う…。
 神御(女神御)と言えば、私達が敵対している絶対者、アブソルーターよりも上位の存在だ。
 そんな高レベルの存在がなんでまた、こんなところに…
 しかも勇者を間違えているし…
「なぜ、その様なお方がここに?」
「はい…我々、神御や悪空魔は力を極端に抑えて存在しています」
「何故です?」
「我々の強大な力はクアンスティータ誕生の大きな刺激になってしまいます。それだけはあってはなりません」
「はぁ…でもクアンスティータって本当に誕生するんですか?」
「このまま行けば確実に誕生してしまいます…それを止めるには勇者、吟侍さんのお力が絶対不可欠と私は火の姫巫女に神託しました…」
 私は俄には信じられなかった。
イグニス編01話11
 だって、クアンスティータって言ったら神話の中の架空の化獣だと思っていたから…。
 神御や悪空魔は神話の時代、化獣を倒し、崇拝されるようになった…。
 だけど、倒した化獣の中にクアンスティータは含まれていない…。
 クアンスティータが誕生していたら、今の世は無かったとされている、恐怖の象徴。
 最強という言葉はクアンスティータのために用意されている言葉だとセカンド・アースの子供達も童話という形で知っている。
 出たらおしまいの終末思想…
 私は信じてないけどね、クアンスティータなんて…
 同じ化獣でも吟侍君の心臓に宿っているルフォスやそれと引き分けたって言うティアグラの存在は信じるけどね。
 生まれてもいない化獣を信じろって言われてもね…
 だけどこれが、もし、本当にいるのなら、これほど絶望的な力を持った存在を私は他に知らない。
 それほどの化獣なのよね、クアンスティータって…
 とにかく…
「エテレイン様…お言葉なんですが…」
「はい、なんですか?」
「吟侍君をお求めならウェントスへ行かれるべきかと…彼、今、そっちに居ますんで…」
「えぇ〜っ!!」
 ビックリした表情のおっちょこちょいな女神御様…。
 この女神御様を崇拝している人達が可哀相になってきたわ…。
「どどど、どうしましょう…」
「どうしましょうと言われましても…私には何とも…」
 何か、女神御版導造君みたいな人、じゃなくて女神御様ね、この方…
「私、必要以外の力を封印して来ましたの。このままでは何も出来ませんわ」
 …やれやれ…
「なら、導造君でも導いて下さいな。彼、吟侍君の弟ですから、ひょっとしたら何か良いことあるかも知れませんよ」
「そうですね。そうします。導造さんでしたね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。やった、勝利の女神御様がついた」
 導造君は手を挙げて大喜びした。
 まぁ、棚から牡丹餅みたいなものだからね…
 ちょっとドジだけど、女神御様がついていてくれるならこの冒険も何とかなるかな?
 こうして、私達のチームは、私と導造君に加え、ヘスティア、ブリジット、エテレイン様と次々と女性メンバーが増えていった。
 導造君はこの女子率の高さにちょっと興奮気味だった。
「はい、あんたはあっちで寝て」
「えぇっ、一緒にじゃないの?」
「当たり前でしょ、獣(けだもの)と一緒に何度も寝れますか」
「け、獣って…そんな、一緒に…」
「もう、怨霊はでないでしょうが。1人で寝なさいって」
「1人にしないでよ〜」
 フィアーの町まで戻り、作戦を立て直す事にした私達。
 今夜は一泊してそれからまた、マリア・シティーを目指すつもり。
 導造君は相変わらず、こんな調子だけど、その内、頼れる男になってよね。
 何てったって、今度は女神御様がついているんだし…
 私はそう思いながら、深い睡眠へと入っていった。
 冒険はまた、明日…


登場キャラクター説明


001 芦柄 導造(あしがら どうぞう)

芦柄導造 イグニス編の主人公。
 芦柄三兄弟の末っ子で、出涸らしの三男と呼ばれるヘタレな少年。
 恐がりで女性に弱いが内に秘めた闘志は兄二人にも負けない。
 義兄の次男、吟侍(ぎんじ)の心臓ともなっている七番の化獣(ばけもの)ルフォスの世界で【見えないトリガー】という異能力を身につける。







002 南条 朱理(なんじょう しゅり)

南条朱理 イグニス編の語り部。
 導造(どうぞう)のパーティーに参加するも彼の暴走で、いきなり、支配者のジェンドに挑み、仲間とはぐれてしまう。
 その後は導造と行動を共にするが、彼が次々と怪しい女性を仲間にしていくのに手を焼いている。
 吟侍(ぎんじ)の心臓、ルフォスの世界で修行を積み、その世界で三つのコアを集めて聖獣朱雀を創造し、自らの力とする。









003 ジェンド・ガメオ・ファルア

ジェンド・ガメオ・ファルア イグニスを支配する8名の上位絶対者・アブソルーターの1名。
 既婚者でもある。
 かつて、導造(どうぞう)の故郷、セカンド・アースに人攫いに来ていた。
 当時は、ルフォスの力を得た吟侍に追い払われたが、力をつけ、イグニスに君臨するまでになる。
 たくさんのドラゴンを飼っている。








004 ヘスティア

ヘスティア 仲間とはぐれた導造(どうぞう)達の前に現れた謎の女性。
 イグニス編のヒロイン。
 正体を隠して導造のそばにいる。
 怨霊 暗鳴(おんりょう くらな)にお仕置き出来る程の力を秘めている。
 古怪(グーグワイ)の事も知っている。









005 ビアナ・カルファン

ビアナ・カルファン 火の姫巫女。
 守銭奴でもある。
 導造(どうぞう)を吟侍(ぎんじ)と間違えるなど、星見としての力量には少し疑問が残る。
 古怪(グーグワイ)にストーキングされている。











006 古怪(グーグワイ)

古怪 イグニスを支配する上位絶対者・アブソルーターの1名。
 噂ではオートラブドールを操るという事が解っている。














007 怨霊 暗鳴(おんりょう くらな)

怨霊暗鳴 下位絶対者・アブソルーターである。
 怨霊の化身で、触る事が出来ない。
 怨霊教をフィアーの町で広め、町民達を導造(どうぞう)達への刺客として使う。
 力はそう、大した事はない。











008 ブリジット・コルラード(ブルシア・ヒューゲル)

ブリジット・コルラード 導造(どうぞう)がセカンド・アースに居た頃から、彼を【カモネギ君】として利用してきた悪女。
 イグニス編のヒロイン。
 何度も騙される導造はお気に入り。
 導造達とは別の国出身で、別のパーティーを組んでイグニスまで来ていたが、仲間とはぐれてしまっている。









009 クリスティナ・ラート

クリスティナ・ラート 魔薬アブソルートを飲んでしまった特殊絶対者の少女。
 イグニス編のヒロイン。
 元人間で、死にたがっている。
 が、アブソルートの影響で死ねない。
 導造(どうぞう)の事を気に入り、一緒に死のうとする。











010 エテレイン

エテレイン イグニス編のヒロイン
 女神御(めがみ)の一柱でドジである。
 火の姫巫女、ビアナに間違えた神託をした。
 本来、最強の化獣、クアンスティータ誕生を防ぐため、自らの力を封印して、吟侍(ぎんじ)に会いに来たが、彼と導造(どうぞう)を間違えたため、吟侍の居るウェントスではなく、導造のいるイグニスに来てしまった。
 力を封印しているため、星を渡る力が無くて困ってしまう。