序章 二十四番目の太郎
「こ、ここは?」
少年が目覚める。
周りを見渡すと、どこかの実験施設、研究所のようだ。
多くの計器類に囲まれた状況で彼はそこに立っていた。
彼の胸のプレートには二十四番という数字がある。
その事からも他に二十三人の誰かが居たという事が推測される。
彼には、それまでの記憶がない。
記憶喪失とも違う。
元々から記憶が存在しないのだ。
よって、状況の把握は他の人間に聞くしかない。
現在、彼の目の前には、科学者らしき風体の数人と、この場には似つかわしくない、どこかのお嬢様風の女性が一人いた。
彼が、問うより先に、その女性が声をかけてきた。
「よろしくお願いしますわ。わたくし、あなたの権利を買い取った、姫島 紗雪(ひめじま さゆき)と申しますわ。まず、あなたの名前を決めなくてはなりませんね。二十四番目だから、当て字で二四(ふし)太郎というのはどうですか?不老不死みたいで強そうですわ」
紗雪と名乗った女性はにっこりと笑顔で彼に伝えた。
どうやら、少年は研究所で生まれ、この少女に買い取られたらしい。
続けて、科学者達から今、置かれている状況の説明が簡単にされた。
鬼を退治するのは太郎。
その事から、太郎プロジェクトと呼ばれる特殊な力を持つ人造人間が生み出された。
怨認(おに)と呼ばれる異形の鬼退治をさせるためにだ。
ラボ(研究所)で生まれた太郎達は次々に仲間を連れて、怨認退治に向かっていった。
だが、誰一人、太郎達は帰って来なかった。
怨認はそれだけ、強大な力を持っていたからだ。
怨認――怨みを認めると書く、その鬼共は元々は六人の彫り師によって、作られた、木彫りだ。
神の領域にまで達した六人の彫り師は生前、様々な芸術作品を生み出してきた。
だが、時の幕府に絶望し、怨みを込めた木彫りをいくつも残してこの世を去った。
それが長い年月を経て、現代で、怨認(おに)と呼ばれる彫り師の怨みを認めた鬼に変わり、暴れ出したのだ。
通常の兵器がまるできかない怨認に対し、たどり着いた対抗策は昔ながらの伝承に従って、太郎と呼ばれる存在を生み出し、怨認退治を任せる事だった。
そして、少年は二十四番目の太郎として生み出された存在なのだ。
紗雪は二四太郎と名付けたかったみたいだが、少年の名前はその存在の由来に適した名前を持たせる事ではじめて意味を持つ。
そのため、彼は【夢太郎(ゆめたろう)】と名付けられた。
夢太郎は夢を見る事によって、夢に出てきたアイテムが起きた時、出現し、それを持って戦うタイプの太郎だからだ。
また、太郎にはお供にする動物がお約束としてある。
桃太郎には、犬、猿、雉が。
金太郎には、熊が。
浦島太郎には、亀などがついてくる。
夢太郎にもまた、お供になる存在が必要だった。
夢には悪い夢を食べてくれる獏(ばく)が必要だからと獏の化身がまず、当てられた。
それと、紗雪は猫好きなので、猫又(ねこまた)。
また、紗雪の名前から雪女(ゆきおんな)。
この三名が選ばれた。
獏の化身の名前は耶美夜(やみよ)。
猫又は仁椰(にや)。
雪女は吹雪(ふぶき)
三人とも女の子だった。
三人の役目は夢太郎が眠っている間、彼の身体を守る事。
寝ている間は身体が無防備だからだ。
こうして、夢太郎と三人お供による冒険が予定された。
この冒険の報酬は紗雪との結婚。
これもお約束だ。
昔の伝承に添う形なので、これは紗雪も拒否出来ない事だった。
好き嫌いは別として。
夢太郎達はあれよあれよと言う内にどんどん支度を進められていった。
夢太郎は睡眠を取るように命じられた。
夢で戦う武器を手に入れるためにだ。
早速、夢太郎は夢を見る。
だが、夢の中で手に入れた武器はただの木の棒だった。
加工も何もされていないただの棒っきれだった。
夢太郎の夢はただ夜に見る夢だけではない。
希望の詰まった夢をも意味している。
強制されて見る夢は大した力を持たないのだ。
束縛される事もなく自由に見てこそ、その真価を発揮するのだ。
期待はずれのアイテムが出てきた事に落胆する紗雪や研究者達。
だが、落胆している状況ではなくなった。
太郎シリーズが生み出される研究所に怨認が攻めてきたのだ。
攻めてきた怨認の名前は【首狩り】。
大きな鉈のような物を持ち、人の首を狩る悪鬼だ。
その【首狩り】が首飾りのように首をつなげてさげている。
その首には見覚えのある首もいくつか混じっていた。
前に出発した太郎シリーズだ。
怨認退治に向かった他の太郎達は返り討ちにあい、無惨にも首を狩られていたのだ。
夢太郎は【首狩り】に挑んだが、ただの棒っきれでは相手にならず、吹っ飛ばされて気絶した。
ラボでは夢太郎以降の太郎シリーズ、拳太郎(けんたろう)、剛太郎(ごうたろう)、愛太郎(あいたろう)、盾太郎(じゅんたろう)、電太郎(でんたろう)等で立ち向かったが、全て、敗北した。
絶体絶命の大ピンチかと思われたが、夢太郎は気絶中に夢を見ていた。
その夢には負けて悔しいという彼の気持ちが乗せられていた。
そのため、リベンジを果たすべく新たな武器が彼の夢を通して現れた。
それは、剣だった。
急な睡眠のため、大した武器にはなっていない。
だけど、【首狩り】を倒したいという強い気持ちが込められている。
再び目覚めた夢太郎は一閃――
「ぐがぁぁぁぁあぁぁぁっ」
【首狩り】は絶叫を上げて、消滅した。
夢太郎が本領を発揮したのだ。
夢太郎はこうして、お供を連れて、怨認退治を任される事になったのだった。
一方、偵察に出て来ていた怨認を通して、【首狩り】の消失は他の怨認達にも伝えられ、夢太郎に迎え撃つべくてぐすねを引いて待ちかまえる準備を整えている。
夢太郎対怨認の戦いが始まる。
001夢太郎(ゆめたろう)
本作の主人公。
二十四番目の太郎。
夢を見る事によって夢で見た武器やアイテムなどを現実に出して戦う太郎。
お供として、三名の少女と共に怨認(おに)退治に参加する。
002姫島 紗雪(ひめじま さゆき)
夢太郎の権利を買い取ったお嬢様。
雇い主ではあるが、あまり、良い性格であるとは言えない。
怨認(おに)退治のあかつきには彼女は夢太郎と結婚することになっている。
003耶美夜(やみよ)
夢太郎のお供につく悪夢を食べる獏(ばく)の化身。
004仁椰(にや)
夢太郎のお供につく猫又(ねこまた)の少女。
005吹雪(ふぶき)
夢太郎のお供につく雪女の少女。
006首狩り
ラボを襲った怨認(おに)の先兵。
太郎シリーズや他の勇者の首を集めるなどかなり残忍な性格をしている。