序章タイトル

 序章 転生


「破壊~よ。そなたはこの聖戦に勝利した――それにも関わらず、無かった事にしろ。そう申すのか?」
「ああ、そうだ。天秤~よ。俺はそれを望む。次はこの創造~の元で戦いたい」
 破壊~はその胸で目を閉じる創造~を見つめた。
 破壊~は創造~を愛してしまった。
 創造~に勝利を――
 それが破壊~が求める願いとなった。
 だが、それは叶わなかった。
 自分が創造~を倒してしまったからだ。
 出来ればやり直したい。
 今度は主~(破壊~)ではなく、主~(創造~)をささえる最強の盾であり矛として。

 神話の時代――

 破壊~は聖戦に勝利をおさめ、9柱の神々~(かみがみしん)の頂点に立った。

 9柱の神々~――
 それは、大地を司る陸陽~(りくようしん)と陸陰~(りくいんしん)、
 大海を司る海陽~(かいようしん)と海陰~(かいいんしん)、
 天空を司る空陽~(くうようしん)と空陰~(くういんしん)、
 物事の判断を司る天秤~(てんびんしん)、
 破壊を司る破壊~(はかいしん)、
 創造を司る創造~(そうぞうしん)
 からなる。
 覇権を巡って神々~達は太古の昔より戦い続けていた。
 そして、ついに、破壊~が勝利をおさめたが、それを自ら否定した。
 本当の勝利者とは創造~であるべきだと。
 聖戦の審判を司る、天秤~に申し立て、聖戦のやり直しを希望した。
 全ては彼が愛した創造~エレリアのために。
 天秤~はそれを受け入れ、聖戦は現世へと持ち越された。

 時は現世へと移る。

「小早川、小早川 神唯(こばやかわ かむい)はいるか?」
「先生ーっ、小早川君は今日もさぼりです」
「またか、しょうがないやつだ」
「あいつは変わり者だから、仕方ないですよ」
「落第するぞ、このままなら」
「いいんじゃないですか?」
 とある学校では教師と生徒が神唯の噂をしていた。
 会話からも読み取れるようにあんまり評判の良い生徒ではない。
 学校では浮いていた。
 良い学校を卒業して、エリートサラリーマンになるという出世コースからはすでに外れていた。
 このまま、世の中の歯車の一つとして生活していって良いのだろうか?
 この年頃ではありがちな悩みを抱えていた。
 何もかも捨てて、世界を旅に冒険してみたい。
 自分は他の奴らとは違う――
 その気持ちが強く、他の生徒とつるむ事を拒絶していて、いつも一人でいる事が多かった。
 神唯は今日も裏山で空を見上げながら昼寝をしていた。

 最近、ある夢をよく見る。
 女の子の夢だ。
 女の子は無数の刺客に襲われていて、自分はそれを守ろうとしている。
 女の子は見たことない子だ。
 少なくとも学校では見ていない。
 だけど、無性に守りたくて仕方がなかった。
 刺客は人外だ。
 そう、人間じゃない。
 とても人間である自分に対抗できるような相手には思えない。
 だけど、自分も人外の力を発動して対抗していた。
 それが不自然には映らなかった。
 その力は自分自身の力。
 何の違和感も感じていなかった。
 ただし、その力を受け入れた時、自分はもう二度と、人の生活には戻れない。
 そんな気がした。
 覚悟はある。
 そのつもりだ。
 だけど、何かが引っ掛かった。
 それは命だ。
 その女の子を守るためには、自分は命を賭けなくてはならない。
 敵は人間ではないのだから。
 ぶっ飛ばして自分には勝てないと示して終わりという訳にはいかないのだ。
 当然、殺し合いになる。
 人を殺した経験もない自分が、まして、人外の怪物を相手に戦えるのか?
 経験していない事をする事になる、その事に対する不安もぬぐえなかった。
 普通ならやらない。
 他人のために、そんな事をやるいわれは一切ないからだ。
 だけど、夢の中の女の子は違う。
 自分が守ってやりたい。
 彼女は逃れられない運命にまとわりつかれている。
 黙って見過ごしたら彼女は殺されてしまうだろう。
 それだけは嫌だ。
 だから、自分は戦わなくてはならない。

 神唯はまだ、出会ってもいないその女の子の事が自分の行動の全てを決めると確信していた。
 その女の子は近いうちに自分の目の前に現れる。
 現れたら、そのまま戦いが始まってしまう。
 そうしたら、周りの人間を巻き込んでしまう。
 だから、授業には出られない。
 落第したっていい。
 退学だってかまわない。
 気兼ねなく、自分がその冒険に足を踏み出すにはなるべく人は居ない方が良い。
 そっとで良い。
 そっと消えよう。
 神唯はそう考えていた。

 だが――
「あ、いたいた。やっぱ、ここに居たか」
 一人の少年が神唯の元にやってきた。
 少年の名前は松村 宗雪(まつむら むねゆき)。
 神唯の数少ない友人、いや親友だった。
 優等生でもあった彼は神唯の事をいろいろ気にかけてくれていた。
 心残りがあるとすれば、この親友との別れくらいだろう。
「宗雪、俺の事はほっとけって言っていたろ」
「そういうな、僕はお前と一緒に行動したいんだ。黙ってどっか行ったりされたらたまらないからな」
「なんで、そう思うんだ?」
「何となくさ。どっか行くなら僕も連れていけ。そう思っているよ」
「やめとけ。お前にゃ無理だ」
「神唯が大丈夫なら、僕だって大丈夫さ」
「どうなっても知らねぇぞ」
「僕はお前に興味がある。ただ、それだけさ」
「勝手にしろ」
「あぁ、勝手にするさ」
 二人の少年はそのまま、昼寝を続けた。
 永遠の少女が現れるまでの僅かな時間を――

 しばらくして、二人の少年の運命を変える少女が現れる。
 エレリアと名乗る不思議な少女が。

 聖戦が再び始まろうとしていた。


キャラクタータイトル

001小早川 神唯(こばやかわ かむい)

 本作の主人公。
 神話の時代の記憶を持つ少年。
 自分が何者かもわからずモヤモヤとした毎日を過ごしている。
 いつか自分は冒険に出ると思っていて、夢の中に出て来た運命の少女が現れるのを待っている。



002松村 宗雪(まつむら むねゆき)

 神唯の親友。
 優等生でもある。
 素行不良気味の神唯がいつか出て行ってしまうのではないかと思い、常に神唯を気にかけている。
 神唯が出て行く時は自分も出ていく時と思っている。



003エレリア

 創造~と同じ名前の謎の少女。
 彼女が神唯と出会った事で物語が動き出す。



ダミーイラスト

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