序章タイトル

 序章 不器用な男

「ちょっと、何してんのよ?、あんた今日の主役でしょ」
 少し、気の強そうな少女が今日のパーティーの主役を誘う。
「いや、俺はここでいい……」
 が、当の本人はなんだかとても居づらそうだ。
 パーティーの主役の名前は仙硬(せんこう)という。
 本名ではない。
 目の前の少女、森入 胡桃(もりいり くるみ)が名付けた仮の名前だ。
 本名は別にある。
 彼は多くの虐げられていた人達を救った。
 今日はそのパーティーだ。
「何言ってんの。あんたが盛り上がらなくて誰が盛り上がるってのよ。さぁ、こっち来てってば」
「俺はこの場にはあわん。お前達で楽しめば良いだろう」
「だから、これはあんたの活躍を祝うパーティーなんだってば。あんたが居なくちゃ意味無いの」
「俺は俺の筋を通しただけだ」
 胡桃の誘いを断ろうとする。
 本当に居づらいのだ。
 自分はこんなに感謝されるような存在ではない。
 自分は多くの異能を持った化け物なのだ。
 今まで、散々、人に嫌われる様な事をして過ごしてきた。
 人もたくさん殺した。
 そして、多くの英雄達に狙われる身となり、追い詰められた。
 どうしようもなくなった時、死を覚悟した。
 自分の生き様はこんなもんだと諦めもした。
 だが、そんな自分に救いの手を伸ばした存在がいた。
 胡桃の姉だ。
 ろくでなしだった、自分を介抱してくれ、一生懸命人の道というのを説いてくれていた。
 仙硬は傷が癒えるまで、大人しくしていて、傷が治ったら、この姉を殺してしまおうと考えていた。
 だが、胡桃の姉はそれを見抜いていた。
 見抜いていた上で、傷が治るまで、追っ手からかくまってくれていた。
 そして、その結果、自分が愛していた者共々、追っ手によって殺害された。
 胡桃の姉は死の間際、仙硬の姿形を変える魔法をかけた。
 仙硬が改心出来ないのは人々から憎まれ続けて来たその姿形があるからとして、胡桃の姉はずっと、相手を変化させる魔法を習得するために努力を重ねてきたのだ。
 その事実を知った時、心まで凍っていたはずの仙硬の目から涙がこぼれた。
 初めて胡桃の姉を殺した追っ手を憎いと思った。
 負の感情とは言え、初めて他人を想うことが出来た。
 胡桃の姉の仇をうとうと動き出した仙硬を止めたのはいまわの際の状態だった彼女自身だった。
「おめでとう。相手を想う事ができたね」
 彼女はにっこりと笑い、そう言った。
 そして、理不尽な思いを憎むという感情があるのなら、妹を助けて欲しい。
 妹は正義感が強く、何でも突っ走ってしまう正確だから、悪い人に狙われやすい。
 守ってあげる事が出来なくなった自分の代わりに妹を導いて欲しい。
 そう言いながら、胡桃の姉は愛する夫と共に、追っ手が放った火の中に消えた。
 その時、仙硬は誓った。
 自分の名前と今までの経歴を全て捨てて、胡桃のために生きようと。
 そして、胡桃の姉からの情報の元に胡桃の前に現れた。
 自分に名前は無い。
 ただ、亡くなったお姉さんのために線香をあげさせてもらいたい。
 お姉さんに貰った恩を返したいから、勝手に守らせてもらう――
 そう告げて、胡桃の警護を始めた。
 胡桃は迷惑がっていたが、仙硬はただ見守り続けた。
 案の定、胡桃には敵が多く、多くの嫌がらせを受けていた。
 仙硬はただ、それを秘密裏に対処していった。
 しばらくした時、その対処が胡桃に見られた。
「あんた、何してんの……」
 胡桃の第一声はこれだった。
 ただのつきまといだと思っていた仙硬がずっと守っていてくれていた事を知った時の言葉だ。
 だが、この事が切っ掛けでただのつきまといだと思っていた仙硬の事が気になりだした胡桃は彼の名前を尋ねるがやはり無いとの返答だった。
 その時、
「あんた、たしか、お姉ちゃんの線香をあげたいって言ってたわね。じゃあ、あんたの名前は線香。線に香じゃ縁起悪いから、仙人に硬いで仙硬、お堅いあんたにはぴったりの名前ね」
 と彼の名前をつけた。
 それから一気に二人の距離は縮まった。
 不器用な仙硬は相変わらずのぶっきらぼうだったが、胡桃の方から彼に近づいて来るようになったのだ。

 そんな二人だったが、迷コンビとなってしばらくして、大きな敵が立ち塞がる事になる。 正義感に燃える胡桃はまたしても敵を作った。
 ゾンビドラッグを売りさばいていた犯罪組織だった。
 人の思考を破壊して、殺戮衝動にかられるゾンビの様な人間にしてしまう合成麻薬リビングデッド。
 この犯罪行為に真っ正面から立ち向かった胡桃は当然、組織から命を狙われる事になる。
 その時、たった一人で立ち向かい、組織を壊滅させたのが、仙硬だった。
 元々、多くの英雄に狙われる程、強大な力を持っている仙硬にとって、人間の犯罪組織ごときを壊滅させる事など訳は無かった。
 事務処理的に組織を壊滅まで追い込んだ仙硬だったが、それは組織によって、脅かされていた人々にとっては神のごとく映った。
 今日はその祝い、パーティーなのだ。
 仙硬にとっては血生臭い環境の方が似合っている。
 このパーティーの席は自分には似つかわしくない眩しい光景。
 だが、彼はこのパーティーに胡桃の姉が言っていた言葉を思い出す。
「胡桃といるとあなたが触れたいと思っている温かい世界に触れられるわよ」
 確かに姉の言うとおりにそれを感じられる。
 だが、自分には痛い世界だ。
 眩しすぎて痛い。
 自分はこの世界にふさわしくない。
 居るべきではない。
 そう感じられてならない。
 だけど――
「さーさー、このパーティーの主役の登場だよ。みんな拍手、拍手」
 自分をその世界に引きずりこもうとする少女が居る。
 パチパチパチ
 パチパチパチ
 パチパチパチ
 その少女の周りには温かい人達であふれている。
 胡桃の姉は自分にこんな世界を見せて何がしたかったんだろうと思う。
 答えは見えない。
 自分は奪ってしまった胡桃の姉夫婦の幸せの代わりに胡桃を守ると誓ったからこの場にいるだけなのに。
 自分は褒めてもらう様な存在ではないはずなのに。
 仙硬はその立場に戸惑った。




キャラクタータイトル

 001 仙硬(せんこう)

 本作の主人公。
 正体は多くの異能を持った化け物。
 命を胡桃の姉夫婦に助けられ、改心する。
 不器用ながら世のため人のために動こうとする。
 姉夫婦の遺言に従い、妹の胡桃を守ろうとする。


002 森入 胡桃(もりいり くるみ)

 本作のヒロイン。
 正義感の強い少女。
 心優しき姉夫婦に守られていた少女。
 危ない事件に首を突っ込みたくなる性分で、仙硬にフォローされるようになる。




 

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