第一章タイトル

 01 仮想世界イミへようこそ


「こんにちはぁ〜、ぴくり・とーなです。よろしくおねがいしまぁ〜す」
「おぉ、変な名前のねーちゃんか、この世界、初めてなんだってな」
 ぴくり・とーな、15才。
 彼女は【仮想世界イミ】bP07の世界に来ていた。
 理由は彼女の名前の【とーな】の由来と同じ107番目の世界だからだ。
 彼女は性格的に縁というのを大切にする。
 名前もPQRI107という自分に割り当てられた名称から【ぴくり・とーな】と名乗ったし、仮想世界の選択も107と言う数字を選んだ。
 だから、この世界が気に入ったという訳ではなく、自分の番号と同じ番号の世界を選択したというのが正解だった。
 そのため、彼女はこの世界がどんな世界だか、解らないで訪れている。
 彼女に限らず、【遺伝子パーソン】と呼ばれる人間になる前の状態の生命体の中には何も世界を理解せずに、世界選択をする者も少なからずいる。
 その場合は大抵、世界の入り口に居る【ゲートキーパー】達に、今後の行動のヒントをもらおうとする。
 でも、【ゲートキーパー】は世界の入り口を守護するのが目的なので、質問事項は受け付けていない。
 そこで、【ゲートキーパー】が紹介するのは入り口に最も近い位置にある【世界役所(せかいやくしょ)】だ。
 ぴくりも例に漏れず、【世界役所】を紹介されて訪れたのだ。
 【世界役所】に所員には【ゲートキーパー】から訪れる【遺伝子パーソン】の特徴があらかじめ伝えられる。
 所員が把握した時点で、【遺伝子パーソン】は入り口から【世界役所】に通される。
 ぴくりの場合、【世界役所】の所員が把握した特徴は【変な名前】という事で通ったのだ。
「変な名前じゃないですよぉ。立派なぴくりだけのオリジナルネームです」
「そーか、そーか、悪かったよ。俺が悪かった。俺は、【世界役所】の所員、【ボーダー】だ。俺はいつもボーダーの服ばかり好んで着るからそう呼ばれている。ねーちゃんが、この世界を出る時はこの【世界役所】で手続き取ってくれ。担当は別に俺じゃなくてもかまわねぇけどな」
「了解です」
「じゃあ、手短にこの世界の説明すっから、メモ取るなりなんなりしてくれや」
「わかりました」
 こうして、【世界役所】の所員、【ボーダー】から、ぴくりは世界説明を受けた。

 大まかには、こうだった。
 【仮想世界イミ】は一一一の世界があり、一番から三番、四番から六番、七番から十番、十一番から二十番、二十一番から三十番、三十一番から四十番、四十一番から五十番、五十一番から六十番、六十一番から七十番、七十一番から八十番、八十一番から九十番、九十一番から百番、百一番から百十一番の十三区分に分かれている。
 十三の区分にはテーマがあって例えば、ぴくりの選んだ、百七番の世界は百一番から百十一番と同じテーマで世界構成がされている。
 この百一番から百十一番までの【第十三種世界】が最も数が多く、初心者はこの世界のどこかを選ぶ事を推奨している。
 【ぴくり】と同じ名前の百七番の世界もこの【第十三種世界】の一つだったので、彼女は迷わず選択したのだ。
 【第十三種世界】の特徴は特徴が無いのが特徴だった。
 【第一種世界】から【第十二種世界】までは、テーマとしての色合いが強いので、そのテーマと適応出来なかったら、とたんに、落ちこぼれるという危険性があった。
 そのため、色んな要素をまんべんなく取り込んでいてどれかのテーマには合い易い環境にある【第十三種世界】が作られたのだ。
 適材適所を見極める世界としてはこの【第十三種世界】が最も適しているという事になるのだ。
 【天才クリエーター】達が作ったとされる【プラチナ・キャラ】の数は、最も少ないが、キャラクターは【プラチナ・キャラ】だけではない。
 【プラチナ・キャラ】を気にせず、まずは、キャラクターとの関係を築く事だけに集中しやすい、【第十三種世界】はそういう意味でも初心者向けと言って良かった。
 それに、この【第十三種世界】のどれかの世界には【三大種世界】とされる【第一種世界】から【第三種世界】までの世界クラスの【プラチナ・キャラ】が隠れているという噂もある。
 一攫千金を狙ってその【プラチナ・キャラ】を探す事もできるのだ。
 世界レベルの低い、【第十三種世界】でそういう特別な【プラチナ・キャラ】を探す事が出来たら、まさに、【ワールドドリーム】を達成したと言って良い事だった。
 出会える可能性はかなり低くても、【第十三種世界】のどこかの世界にその【プラチナ・キャラ】は確実に存在するのだ。
 この事からも夢を追える環境でもあった。
 そのため、人気も高く、他の世界よりも数が多く作られているのだ。
 ぴくりの選択した百七番の世界に居るという保証は無い。
 だけど、十一の【第十三種世界】のどこかに居るという事は宝くじを買うような感覚として、【遺伝子パーソン】達の高揚感に一役買っていた。

 でも、【ぴくり】にとっては【プラチナ・キャラ】も普通のキャラも関係無かった。
 その時出会って仲良くなって、一緒に楽しく過ごせたら、それで良いという感覚だった。 【プラチナ・キャラ】に対して全くの無欲。
 それが吉と出るか凶と出るかは今後の彼女の行動次第だった。


02 初めてのキャラクターとの出会い


 【ぴくり】はbP07の世界を飛び回る。
 初めての世界巡り。
 【ぴくり】にとってはどれもこれもが物珍しかった。
 【ぴくり】は
「すごいです、すごいです、すごいです〜。私、すっごい感動です〜」
 と言ってはしゃぎ回った。
 【ぴくり】はまだどんなキャラクターとも出会って居ないし、当然契約も出来ていない。
 出会ったのはお役所やゲートキーパーなどのキャラクターだけだ。
 彼らは【ぴくり】が契約出来るキャラクターとはまた別物だ。
 ここで言うキャラクターとは【ぴくり】が契約することが出来、経験を追体験させてもらえるキャラクターの事を言う。
 特別なステータスを持つ【プラチナキャラクター】はおろか、普通の【キャラクター】にさえまだ、お目にかかっていないのだ。
 【ぴくり】が現在飛び回っているのは大自然のエリアだ。
 見渡す限り大きな森林が広がっている。
 目に入るところではまだ、キャラクターは居ない。
 居るのは動物とか虫くらいだろう。
 中には動物とか虫とかのキャラクターも居るが、残念ながら、ここには契約出来るキャラクター生物も居ないようだ。
 居れば、【ぴくり】の目から見ると頭の上に【!(びっくりマーク)】が確認されるはず。
 すでに他の【遺伝子パーソン】と契約していたら【!】は出ない。
 つまり、少なくとも【ぴくり】と契約出来るようなキャラクターはこのあたりには見当たらないという事になる。
 【ぴくり】は
「早く、キャラクターさん達のいるところに行こう」
 と言って、森林エリアをさらに進む。

 しばらく進むと遠くの上空に何やら二つの影が見える。
 二つの影はそのまま、【ぴくり】に近づいてくる。
 近づいて来るのでそのまま待っていると、二つの影は彼女のすぐそばまでやってきた。
 影の一つが【ぴくり】に声をかける。
「よお、お前も【遺伝子パーソン】か?」
 と。
 【ぴくり】は
「そうです。私、【ぴくり・とーな】って言います」
 と答えた。
 影の一つは、
「そうか、俺も【遺伝子パーソン】だ。名前は、【トム太】だ。よろしくな。こっちは、俺が契約した【キャラクター】の【スカイフライ】だ。俺は飛ぶのが好きなんで、飛ぶことに特化したこいつと契約させてもらったんだ」
 と言った。
 【ぴくり】は、
「私も早く契約したいな〜。ねぇ、【トム太】君、どこ行ったらキャラクターさん達いっぱいいるかな?」
 と聞いて見た。
 【トム太】は、
「馬鹿だな〜お前、それじゃ誰でも良いみたいじゃねぇか。そうじゃなくて、自分は何をしてみたいか考えて見ろよ。すると、自然にどこに行けば良いかわかってくるからさ」
 と説明してくれた。
 【ぴくり】は、
「なるほどね〜。考えもしなかったよ。ありがとう【トム太】君。参考になったよ」
 とお礼を言った。
 【トム太】は、
「おいおい、しっかりしろよな〜。お前、ぽーっとしてそうだから気をつけろよ。【キャラクター】の中には変なのだっているんだからな」
 と忠告した。
「変なのって?」
「変なのは変なのだよ。俺たち【遺伝子パーソン】が全然理解できない行動するやつとかの事だ」
「ふぅ〜ん……でも、キャラクターさん達のよくわからない行動を観察して私達はお勉強するんじゃないの?初めから全部わかっていたらお勉強にならないと思うけど……?」
「う……と、とにかく、変なのは変なのなんだよ。よくわかんねぇと怖いだろ?」
「そうかな……何かびっくり箱みたいで楽しいかも知れないよ」
「お前、やっぱり変なやつだな」
 などと、話していたらそれまで黙っていた【スカイフライ】が
「おい、【トム太】、いつまで無駄話してんだ、行くぞ」
 と言ってきた。
 【トム太】は
「わ、わかったよ、【スカイフライ】、怒るなよ。じゃ、じゃあな、【ぴくり】」
 と言ってそそくさと会話を終了させた。
 どうやら、【ぴくり】の前だから良い格好をしていたが、本当は【スカイフライ】に頭が上がらないようだ。
 【ぴくり】は、
「うん。ごめんね、【トム太】君、長話になっちゃって。【スカイフライ】さんも。私頑張るよ。じゃあね」
 と言って、二人と別れた。
 【トム太】は口が悪いし、【スカイフライ】はぶっきらぼうだったが、【ぴくり】にとっては良い参考になった。
 【キャラクター】との信頼関係を築くことも大切なんだという事がよくわかったのだ。


03 【ぴくり】が選んだキャラクター


 【ぴくり】はひたすら前に進み、森林のエリアを出た。
 出たところは牧草エリアになっていて、ちょっと進んだところに小さな村のようなものが見えた。
 そこで、【ぴくり】は【トム太】の言った言葉を思い出す。
 【トム太】は自分が何をしたいかを考えて、そこを目指して飛んでいけと言っていた。
 では、【ぴくり】は何をしたいのだろう?
 バトル?
 違う、【ぴくり】の柄じゃない。
 芸能活動?
 違う、【ぴくり】はそんな事をしたい訳じゃ無い。
 冒険?
 してみたいけど、何を指して冒険と言うのだろう?
 【ぴくり】はじっくり考える。
 うーん……
 うーん……
 うーん……
 よく考えたけど、【ぴくり】には冒険がどんな事を指すのかよくわからない。
 だけど、まてよ……
 【ぴくり】が今、最も求めていることは【新しい】事をいろいろ知りたいと言うことだ。
 【発見】――そうだ、【新しい発見】をしていきたい。
 いろんなものを見つけてくれる【キャラクター】――そういう【キャラ】と契約したい。
 そう感じた時、うっすらと薄い光の帯が【ぴくり】から出てきた。
 光の帯の先は、まっすぐ、目の前の小さな村を目指している。
 そこで、【ぴくり】は確信する。
 【トム太】が言っていたのはこのことなのだ。
 自分が何を求めているかを考えた時、近くにそれに適した【キャラクター】が居たら、光の帯という道がその【キャラクター】の居場所への道案内をしてくれるのだ。
 【ぴくり】は一つ賢くなった。
 【ぴくり】は小さな村に到着した。
 見たところ、小さな村は寂れていた。
 人が住んでいる気配はあまりしない。
 廃村に近い村であると言える。
 もちろん、これはクリエーターが作り出した設定なのだが、それにしても、なんとも寂しそうな村だった。
 誰も居ないという事は無い。
 光の帯が村の中を示しているという事は最低でも一名は【キャラクター】が居るという事を示しているのだから。
 【ぴくり】は村の中を見て回る。
 何だが、怪物にでも襲われた後のような感じだった。
 しばらく歩くと、一つの家に着いた。
 光の帯はその家の中を指している。
 【ぴくり】は、
「こんにちはぁ〜どなたかいらっしゃいますかぁ〜」
 と言った。
 数秒待つ。
 すると、
「……誰?」
 という声が返ってきた。
 【ぴくり】は、
「私、【遺伝子パーソン】の【ぴくり・とーな】って言います。まだ、私、【キャラクター】さん達と契約した事無くって……あの……良かったらお話だけでもさせてもらえませんか?」
 と言った。
 しばしの沈黙。
 少しすると戸が開き、中から一人、出てきた。
 毛むくじゃら――ではなく、動物などの毛を服にまとわりつかせているような野性味のある服装をしている男性が現れた。
 男性は、
「僕の名前は【オージャ】、仲間をみんな皆殺しにされて何も出来なかった臆病者さ」
 と自虐的な自己紹介をした。
 【ぴくり】は、
「こ、殺されちゃったんですか?」
 と言った。
 彼女にとってはあまりにもとてつもない設定だったからだ。
 【オージャ】は、
「そういう設定になっているよ。僕は誰かが連れ出してくれるまで、引きこもっていじいじしているだけの【キャラクター】さ。笑ってくれて良いよ」
 と言った。
 言葉が投げやりだった。
 夢も希望も持っていない駄目【キャラクター】……そういう事をアピールしたいようだ。
 【オージャ】の元にはこれまで何人かの【遺伝子パーソン】が訪れていた。
 だが、彼のこの言葉で、【遺伝子パーソン】達は、彼との契約を諦め、他の【キャラクター】を探しに行っている。
 【ぴくり】もその一人だと思っているからこういう話し方をしているのだった。
 だが、彼女は違った。
「それじゃ、駄目だと思いますよ、【オージャ】さん。【オージャ】さんの名前の由来はたぶん【王者】ですよ。チャンピオンさんがそんなにいじけているなんてらしくないですよ」
 と言った。
「ふん。放っておいてくれ。どうせ、僕なんか誰も相手にしてくれないんだから」
「そんなことないと思います」
「そんなことだよ。今までだって君以外にも尋ねてきた【遺伝子パーソン】はいたさ。だけど、僕が仲間を見殺しにされて、びくびく震えていたという初期設定を聞くなりみんな離れて行ったんだよ。どうせ、君だって……」
「【オージャ】さん。私は出会いを大切にしています。例え、どんな出会いでも少なからず、自分のためになっているんだって信じています。【オージャ】さんとの出会いだって、私にとっては大きな財産です。必ず、意味はあります」
「どうせ、君も去って行くんだろ?」
「いいえ、去りません。一緒に行きたいと思っています。私にとって【オージャ】さんは、最初に出会った契約出来るかも知れない【キャラクター】さんなんです。最初の一人……この事は私にとって大きな意味を持ちます。私、決めました。【オージャ】さん、私と一緒に冒険に出ませんか?」
「何を言っているんだよ、君は?僕は仲間のかたき一つ討てない臆病者だよ。こんな僕と一緒に行ったって何が出来るって言うんだよ?」
「私があなたを選んだ一番の理由はそこです。――何も持っていない。だから、あなたを選びました。何も持っていないという事はこれからいろんなものを手にできるという事ですよね。初めから何か持っていたら、それに対しては手に入れても何もうれしくないですもんね。何も持っていないからこそこれからいろんなものが手に入るかも知れないという事です」
「な、なんでそんな事いうんだ?普通はかたきを討てとか言うんじゃ無いの?」
「私はそんなに戦いは好きじゃありません。良くて勝負までですね。だから、かたき討ちとかにはそんなに興味はありません。良いじゃありませんか、逃げたって。怖いのに無理して戦ったって亡くなった人は帰って来ません。それより、たっぷり楽しんで生きてみてはどうでしょうか?お仲間さん達を殺したという【キャラクター】は【オージャ】さん達を不幸にしてやろうと思って、襲ったんだと思います。【オージャ】さんが悔やみながら生きていたらそれこそ襲った【キャラクター】の思うつぼだと思いますよ。逆に楽しんで生活することだって復讐の一つだと思いますよ。かたき討ちをしたいのであれば、その力を得た時で良いじゃないですか。【オージャ】さんにはいつ、かたき討ちをしても良いという自由だってあるんですよ。すぐにしろって事じゃないと思います」
「何なんだ、君は?変な奴だな……」
「へへっ、よく言われます」
「ずっと敵討ちしないかもしれないぞ」
「私が求めている【キャラクター】像は一緒にいろんな【発見】をしてくれる人です。敵討ちじゃありません。この世界だから認められているかも知れませんが、【地球】では敵討ちは法律で認められない国だってあるんですよ」
「お、おかしいよ、君……」
「それはさっきも言いましたよ。あ、早速、新発見です。私、【キャラクター】さん達の悩みとか知りました。【キャラクター】さん達って悩みとか何もないのかと思っていましたが、違いましたね。いろいろ悩み事とかあって、それが【キャラクター】さん達の深みを出している。考えてみれば、悩みとかも無い【キャラクター】さん達と親身になって話す事は難しいでしょうし、不謹慎かも知れませんが、良いきっかけになりそうです。【キャラクター】さん達と仲良くなるには腹を割って話す事が大事――一つ勉強になりました」
「………」
「それで、【オージャ】さん、お返事の方はどっちですか?オッケーですか、それとも駄目ですか?」
「……少し、考えさせてくれ」
「良いですよ。じゃあ、私はもう少し村を見て回ってきます。【オージャ】さんの事を知る意味でも重要な事だと思いますからね」
 と言った。
 【オージャ】を残し、【ぴくり】は村の探索を再開した。
 【ぴくり】は村を見て回りながら【オージャ】の悩みについて考えた。


04 復讐について


 【オージャ】は仲間を皆殺しにされている。
 されていると言っても実際に皆殺しにされた訳じゃ無い。
 そういう設定をつけられただけだ。
 だから、【ぴくり】は無理して敵討ちをする必要は無いと考えた。
 だけど、本当にそれで良いのか?
 これは仮想世界での設定であるため、敵討ちをしなくてもさして問題にはならない。
 だが、これが実際に起きていた事だと考えるとどうだろう?
 大切な仲間が無残にも皆殺しにされたのだ。
 仲間の無念を晴らす意味でも復讐は必要なのではないのか?
 だが、相手にだって身内は居るはずだ。
 復讐には復讐で返されるという事だってある。
 それではずっと終わらない。
 いつまでも復讐劇が続くことになる。
 どこかで断ち切らなければならない。
 だが、実際にそうなった場合、本当に復讐を考えなくて済むだろうか?
 今の【ぴくり】には問題が難しすぎてわからない。
 さっきは【オージャ】を説得するため、無責任に言ってしまったが、改めて考えて見るとすごく重い問題だ。
 【オージャ】はずっと一人で廃村で生活しているという設定になっている。
 他に誰も居ない。
 ただ、仲間を殺されたという悲しみと、襲った【キャラクター】と何も出来ない自分への憎しみを募らせているだけのキャラクター……
 【オージャ】は自分で言っていた。
 誰かが連れ出してくれるまで何も出来ない【キャラクター】だと。
 つまり、設定の奥深いところでは殻に閉じこもった自分を変えてくれる【遺伝子パーソン】との出会いを求めて居たという事では無いのだろうか?
 これは、【ぴくり】の都合が良い様に解釈しているだけかも知れない。
 それでも、このまま【オージャ】を残して、他の【キャラクター】を探しに行けば、彼はさらに閉じこもるだろう。
 放っておけない――
 その気持ちがますます強くなる。
 【ぴくり】の考えは間違って居るかも知れない。
 それでも、自分を信じて行動出来なければ、前に進めない。
 【ぴくり】は決意する。
 ただ、誘うだけじゃ駄目だ。
 一緒に【オージャ】の悩みも感じ取ろう。
 彼が背負った重みを一緒に感じよう。
 何も知らない【ぴくり】にとっては荷が重い【キャラクター】かも知れない。
 だけど、彼を見捨てて行けない。
 その気持ちだけは真実だった。
 この気持ちを彼に伝えたい。
 だけど、それを伝える言葉がうまく思いつかない。
 それでも……
 そんな悩みを抱えながら歩いていると、【オージャ】が近づいて来た。
 【ぴくり】は
「お、【オージャ】さん……」
 と驚いた。
 突然、出てこられてもまだ、考えがまとまって居ないのだ。
 なんと答えたら良いのかわからなかった。
 だが、【オージャ】は、
「行くよ、――一緒に。正直、敵を討つ勇気はまだ無い。……だけど、君に見捨てられたら、僕はまた一人だ。それは何となく嫌だ。君は珍しい。情けない僕を知っていてなお、僕と契約しようとしてくれている。君を逃したらもう後はない様な気がする。僕はそれの方が怖い」
 と言った。
 【ぴくり】は、
「じゃ、じゃあ……」
 と言った。
「一緒に行くよ。君は復讐じゃなくて、新しい【発見】を求めていると言った。それなら僕にも少しは出来そうだからね。だけど、僕は本当に何も出来ないからね。それでも良いっていうんなら……だけど……」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。実は、私も不安だったんです。こんな何も経験していない【遺伝子パーソン】が何を言っても説得力が無いんじゃ無いかって……何も出来ないというのなら私も一緒です。一緒に何か【発見】していきましょう」
「よろしく」
「よろしくです」
 こうして、【ぴくり】は初めての【キャラクター】と契約した。
 【プラチナ・キャラクター】どころか何も持っていない【キャラクター】と。
 だが、【ぴくり】は思う。
 何も持っていない事は無い。
 だって、服を着ているじゃないか。
 それだって、服を持っているという事になる。
 言葉だって話す。
 ちぐはぐだったかも知れないけどちゃんと【ぴくり】とコミュニケーションが取れていた。
 仲間を殺されたという思いも持っている。
 悔しいという思い。
 悲しいという思い。
 情けないという思い。
 いろいろだ。
 それだって持っているって事だ。
 だから、薄っぺらい【キャラクター】なんかじゃ無い。
 ちゃんと生きる意味を持った【キャラクター】なんだ。
 【ぴくり】がやった事と言えば【キャラクター】を説得して契約しただけ。
 ただ、それだけだけど、それだけでもいろんなドラマがあった。
 最初は契約を拒否された。
 それでも食い下がり、説得し、考え、お互いの気持ちがつながり、契約となった。
 それだけでも【ぴくり】にとっては大きな収穫だった。
 うれしい。
 本当にうれしい。
 こんな何も知らない自分でも契約してくれる【キャラクター】が居た。
 その事がうれしかった。
 物語は始まったばかり。
 さぁ、切り開こう。
 【オージャ】と【ぴくり】の二人で。
 二人三脚で頑張って行こう。
 まだ、何も手にしていない。
 手にするのはこれから先だ。


05 冒険=発見の始まり


 これからは、【オージャ】がメインで行動する事になる。
 契約が成立した以上、【ぴくり】はあくまでも追体験をすることしか許されていない。
 彼女自身が契約した【オージャ】の体験を自分の体験の様に――
 時には喜び、
 時には悲しみ、
 時には怒り、
 時には懐かしむのだ。
 【ぴくり】は
「じゃあ、【オージャ】さん、どうしましょう?」
 と言った。
 主導権はあくまでも【オージャ】にある。
 【ぴくり】はそれについていくという事になるからだ。
 【オージャ】は、
「どうするって聞かれても、今まで、僕は引きこもりだった訳で何をどうすれば良いのか全然わからないよ。怖くて今、復讐することなんて出来ないし……」
 と答えた。
 【ぴくり】同様、【オージャ】も外の世界の事を何も知らないのだ。
 知らない者同士が話し合っても答えは結局知らないという事になる。
 【ぴくり】は、
「と、とりあえず、どこか行きませんか?ここで話していても何もなさそうですし、とにかくどこかに行って何かを見つけましょう」
 と言った。
 【オージャ】は、
「そ、そうだね。とにかくどこかに寄ろう。ところでどっちに行ったら良いのかな?」
 と言う。
「え、えーと……」
「う、うーん……」
 答えが出ない。
 なんとも情けない二人だった。
 ちょうど田舎から都会に出てきたお上りさんが陥るような状況だった。
 右に左に何か無いかと見て回る二人。
 そうしている内に、【オージャ】はお腹がすいたので、何か食べようという事になった。
 何か食べるには自然に入って動植物を取って食べるか、町に入ってお店で食べるかの二択となる。
 自然を選択した場合は【オージャ】には狩りの経験が無いので山菜などを取って食べるという選択になる。
 町を選択した場合は、お金が必要となる。
 一人で生活していた【オージャ】には当然、お金が無い。
 彼は今まで家に生えている不思議なキノコを食べて生きてきたのだ。
 彼が町で食べるには仲間の遺品を売る必要がある。
 で無ければバイトだが、人見知りの激しい彼には接客業などは無理だ。
 それ以前に面接で落とされるかも知れない。
 謙遜抜きで本当に何も出来ない――それが【オージャ】というキャラクターだった。
 唯一、他のキャラクターよりも優れているというのは覚えるスキルのキャパシティーが大きいという事だが、それは技能を覚えたらの話だ。
 覚える前の彼は、まさに使えない【キャラクター】と言えた。
 悩む二人。
 結局、一番無難な、仲間の遺品を売ってそのお金で食べるという選択をした。
 だが、大切な仲間の遺品を売るという事は簡単な事ではない。
 何かを得るためには何かを捨てなければならない――
 その【発見】をかみしめる二人だった。
 契約により、感覚がリンクしているので、【オージャ】が抱える苦悩がそのまま【ぴくり】にも伝わってくる。
 生きている以上食べなくてはならない。
 だけど、それには犠牲にしないと行けない事も出てくる。
 今はそれが辛い。
 この感覚は【ぴくり】が初めて知る感覚だった。
 辛い気持ちを肌身に感じる。
 辛いって本当に辛い事なんだな……
 【ぴくり】はその辛い気持ちに苦しんだ。

 なかなか遺品を質屋に出せずに苦悩していると、近づいてくる影が一つ。
 影が声をかける。
「お二人さん、困ってそうだね。何を悩んでいるんだい?お兄さんに良かったら聞かせてくれないかい?」
 と言った。
 【ぴくり】と【オージャ】は
「「じ、じつは……」」
 とハモった。
 二人は話しかけて来た男性に事情を話した。
 話を聞いた男性は、
「なるほどね、そりゃ大変だね。あ、そういえば名乗ってなかったね。僕は【リーダス】っていうんだ」
 と言った。
「ぼ、僕は【オージャ】です」
「私は、【ぴくり・とーな】って言います。【ぴくり】と呼んでください」
「【オージャ】君に【ぴくり】ちゃんだね。よろしく」
「よ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「見たところ、【オージャ】君は僕と同じ【キャラクター】、【ぴくり】ちゃんは【遺伝子パーソン】だね」
「「そうです」」
「また、ハモった。仲良いね。僕は同じ【キャラクター】でも【チュートリアル・キャラクター】なんだ。だから、僕とは契約出来ないんだ。僕の役目は君達の様に困っている【キャラクター】と【遺伝子パーソン】のコンビを見つけると導いたり助ける役目を持ったキャラクターなんだよ。行き詰まっちゃったら進まないからね。旅の調整役みたいなもんだよ。だから安心して頼ってくれて良いよ」
「そ、そうなんですか、助かった」
「だけど、あんまり、僕のような【チュートリアル・キャラクター】のお世話になることは良くないんだよ。それだと成長しないからね。自分達の力でなんとかする――それが、君たちコンビの目指していく方向になるよ」
「な、なるほど、勉強になります」
「それで、【リーダス】さん、私達はどうしたら良いのでしょうか?」
「そうだね、それを三人で考えて行こう」
「「はい」」
「まず、簡単に仲間の遺品を売ることはおすすめしないな。何かの役に立つこともあるかも知れないからね。おすすめとしては山菜採りが良いと思うよ」
「でも、僕はどの草が食べられるかよくわからないし……」
「私もです……」
「そこでだ、じゃん!これを貸してあげよう。山菜図鑑だ。これをよく読んで山菜採りをして来なさい。そこで何かを見つけるかも知れないよ」
「「そ、そうなんですか?」」
「【オージャ】君の冒険は山菜採りから――そういうルートになっているよ。出直して来てね」
「「は、はい」」
 渡りに船とはこのことだった。
 【リーダス】は山菜図鑑の貸し出しに何も求めてこない。
 借りるだけだからと無償でという事になった。
 つまり、借金が出来る訳じゃ無い。
 オマケに、山菜採りで何かを【発見】するという事も教えてくれた。
 【発見】した何かでまた、新たにどこに行けば良いのかが見えてくるかも知れない。
 【ぴくり】はワクワクしてきた。
 【オージャ】もどうやら同じ気持ちのようだ。
 二人は早速自然地帯に戻り、図鑑に従って山菜採りをした。
 小さな一歩。
 だけど、二人は着実に進んでいる。
 ちゃんと前に向かって。
 二人は古ぼけた宝箱を発見した。
 さぁ、冒険=発見の始まりだ。


06 次の目的


 宝箱を開けると中にはいくつかのアイテムが入っていた。
 数えて見るとその数は7つ。
 言ってみれば七つ道具だ。
 一つ目は地図だ。
 二つ目はダガー。
 三つ目は水晶玉。
 四つ目は何かが詰まった小袋。
 五つ目は盾だ。
 六つ目は鏡。
 七つ目はリュックだった。
 一挙に七つの【発見】だ。
 この七つ以外にも一枚の手紙があった。
 手紙の内容は――
【このアイテムを手にした者に幸運あらんことを】と記されていた。
 何かの冒険の匂いがする。
 手紙の内容を見る限り、これらのアイテムを【オージャ】が取得する事に対して文句は無いようだ。
 復讐という目的ではない、新たな目標――それが、転がり込んで来てくれたようだ。
 地図上には5つのバッテン印がしてある。
 このバッテン印のところに何かあるという事を示しているようだ。
 地図から考えるとこの宝箱のある位置から東の方に五つのバッテン印がある。
 つまり、ここから東に向かって進めという事を示しているという事になる。
 この降ってわいた冒険――
 行くか行かないかは【オージャ】の自由だ。
 行くも良し。
 行かないで、他の【発見】を探すも良し。
 だけど、何もしないで帰るという選択肢だけは選択する訳にはいかない。
 戻ればまた、引きこもりに逆戻り。
 【リーダス】の好意も無駄にすることになるのだから。
 【オージャ】はちょっとだけ考える。
 だけど、【ぴくり】には答えがすでにわかっている。
 彼は前に進むと決めたのだから。
 【オージャ】は、
「じゃあ、【ぴくり】、一旦、町に戻ろう。図鑑返さなきゃ。その後東に向かおう。最初はここから一番近いこのバッテンだ。そこから行ってみよう」
 と言った。
 【ぴくり】は、
「了解です。道中、よろしくお願いします」
 と答えた。
「こちらこそよろしく」
「いよいよですね」
「何が?」
「わかっているくせに」
「そうだね、冒険だ。僕と君の」
「一歩ずつ進んで行きましょう」
「うん」
 二人は町の喫茶店で待っていた【リーダス】に図鑑を返し、東に向かう事を伝えた。
 【リーダス】は、
「二人とも最初から飛ばさないで、まずは、自分のペースをつかんで行ってください。スパートするのは今ではありません。時が来ればそれは自分で感じるはずです。その時は思いっきり走ってください」
 と言った。
「「はい」」
「相変わらず、仲が良いですね。影ながら応援していますよ。頑張ってください」
「「行ってきます」」
「いってらっしゃい」
 【リーダス】への挨拶を済ませた二人は進路を東に取った。
 宝箱の地図が示す最初のバッテン印――そこを目指して歩を進めた。


07 これからの二人


 何も無かった二人は七つのアイテムを手にして東に進んでいった。
 地図のバッテン印に何があるかは書かれて居ない。
 他の宝か?
 それとも罠か?
 あるいはそれとも別の何かか?
 倒すべきモンスターか?
 全然わからない。
 それでも二人は進む。
 結果がなんであれ、進む先には二人が求める何らかの【発見】があるはずなのだから。
 六つのアイテムは七つ目のアイテムであるリュックに入れて運んでいる。
 リュックの中には山菜採りで余った山菜も入れている。
 これでしばらくは食べ物には困らない。
 だが、まだ、水分の問題がある。
 何か水分を取らなければならない。
 果物も少し取ったので、しばらくはそれでしのげるかも知れないが、水の確保は最優先事項とも言えた。
 目的地にはまだ、しばらく歩く必要がある。
 途中のどこかで水分補給しようという事になった。
 幸い、水場はすぐに見つかった。
 綺麗な湧き水を発見したのだ。
 恐る恐る飲んで見たが、どうやら体に害のある水では無いようだ。
 だが、ここで水を飲んでもそれは一時しのぎに過ぎない。
 水を運べ無ければ旅を続けられない。
 何か水筒の様なもの――
 探すが、リュックの中にはその様な物は入っていない。
 入っているのは七つ道具と仲間の遺品と山菜などの食材しかない。
 町で水筒を買っておくべきだったと後悔する【オージャ】。
 考えなしに行動してもすぐに行き詰まるという事を【発見】する。
 だが、【ぴくり】は、
「【オージャ】さん、七つ道具の中に水を入れられるものって無いですかね?まだ、私達、これらのアイテムがどんなものかよくわかってないじゃないですか。ひょっとしたら、何かあるかも知れませんよ」
 と言った。
 確かにそうだ。
 まだ、七つ道具を正しく理解していない。
 本当に水を入れるアイテムがあってもおかしくはない。
 ここはそういう可能性が詰まった仮想世界なのだから。
 【オージャ】はリュックに入っている七つ道具を水に浸して見ることにした。
 すると、【ぴくり】の予想は的中。
 鏡が水を吸ったのだ。
 七つ道具の一つの鏡は水筒の役目を果たしてくれた。
 【オージャ】は湧き水から当分困らないだけの水を鏡に吸わせた。
 これで当面の水問題も解決した事になる。
 困っても二人で相談して行けばなんとかなるかも知れない。
 そういう【発見】もあった。
 二人はまた一つ成長した。
 二人はまだ、未熟者。
 まだ何も出来ていないし、何も知らない。
 だけど、協力して次々と情報を吸収して行く。
 二人は自覚していない。
 だけど、かなりのスピードで成長していた。
 二人の【発見】を探す冒険は始まったばかり。
 まだ、大きな成果は得ていない。
 それでも小さな成果はたくさんしてきている。
 これからの二人に期待大。
 そんな気持ちにさせる二人だった。


 続く。








キャラクタータイトル

 001 ぴくり・とーな

ぴくり・とーな この物語の視点の少女。
正式名称はPQRI107という遺伝子情報です。
地球から新たなる新天地に向かっている途中の存在で、架空の世界で経験値を積みますが、自らが主役になることを許されていません。
主役となりうる存在をスカウトして、その存在を間近で見ることで経験を得ます。



002 オージャ

オージャ ぴくりが最初に契約することになったキャラクターです。
仲間を皆殺しにされたという設定になっていますが、復讐に動けないでいるキャラクターでもあります。
ぴくりの誘いを受けて重い腰を上げて共に行動する事にしました。






003 リーダス

リーダス チュートリアル・キャラクターです。
遺伝子パーソンやキャラクター達が道に迷ったのをさりげなく忠告したりアドバイスをしたりするキャラクターになります。
契約は出来ないキャラクターになっています。







004 トム太

トム太 ぴくりが最初に出会った他の遺伝子パーソンになります。
ごつい体つきをしていますが、空を飛ぶ事に憧れていて、そのため、空を飛ぶ事に特化したスカイフライというキャラクターと契約していました。



005 スカイフライ

スカイフライ ぴくりが最初に出会ったキャラクターになります。
すでにトム太と契約済みだったため、契約は出来ませんでした。
ちょっと俺様的なキャラクターになります。
四枚の羽を持っています。



ダミーイラスト

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