第二章


第二章 第一幕 7名が出揃う


 私は温水 温子(ぬくみず あつこ)。
 地球においてのBランクチームの一つ、チーム昴(すばる)の総監督をしている。
 現在、地球代表戦に向けて、着々と準備をしている所だ。
 だけど、今のままでは地球代表にはなれても宇宙戦ではまず勝てないというのが予測できる。
 理由は戦力となる人材の不足だ。
 私が養子として引き取った温水 獣馬(ぬくみず じゅうま)君と温水 揺花(ぬくみず ようか)ちゃんの二人と最近入った新入部員、二階堂 諷太(にかいどう ふうた)君は選手として申し分ないと言える。
 だけど、その他のメンバーの実力が全く足りてないのだ。
 地球戦ですら勝ち残れない実力しか持ち合わせていない。
 私は想像力というものはある程度鍛えられると思っている。
 例え、最初はものになっていなくとも、その後見聞きした経験などを通して、いくらでも伸びるものだと思っている。
 要はどうやって想像力を伸ばすかという事が重要だと思っている。
 好奇心、向上心、夢、闘争心、知識、体験、等々、想像力を伸ばす要素というのは数多くある。
 素養はあったけど、何も情報を得ていなかった獣馬君と揺花ちゃんもそれらを想像力アップのきっかけとする事によって、飛躍的な成長を遂げた。
 諷太くんの成長過程は知らないけど、恐らく彼も似たような経験をしているのだろう。
 だけど、他のメンバーにはそれらが欠けている。
 まず、好奇心、向上心というのが足りない気がする。
 想像力では敵わなくても束になってかかれば倒せると思っている彼らは想像力による工夫があまり無い。
 それでは強いIC(イマジネーション・キャンドル)は作れないし、夢命戦(ゆめいくさ)では勝ち上がっていけない。
 このまま彼らと獣馬君達を一緒にしても強いチームは作れないと判断した私はチーム昴を二部門に分ける事にした。
 それは強さを求める夢命戦チームとお祭り騒ぎ、見た目の完成度重視の夢命祭(ゆめまつり)チームにだ。
 獣馬君達三人には夢命戦チームとして、地球代表戦に参加してもらい、他のメンバーには夢命祭チームとして、楽しくイベントなどに参加してもらう事にするというものだ。
 選手の適正にあった棲み分けというのが必要だと判断した私はオブラートに包んでメンバーに説明した。
 結果、大体のメンバーは納得してくれた。
 ただし、1名を除いて。
 その1名の名前は林水 みら(はやしみず みら)ちゃんだ。
 彼女は夢命戦チームを希望した。
 実力的には夢命祭チームの方が合っていると思われるみらちゃんだけど、彼女は強く、夢命戦チームを希望した。
 本人が希望しているのを断る訳にも行かず、了承したが、彼女が夢命戦チームにいることでバランスが悪くなってしまっている。
 このまま参加すれば、彼女はチームメイトの足を引っ張るという形になってしまい、彼女自身が気まずい思いをする事になってしまう。
 総監督としては彼女に夢命戦チームで鍛える事をお願いするか、それとも夢命祭チームへの移動を選択するか、そのどちらかを決めなくてはならない。
 勝ちを意識するのであれば、彼女には降りてもらうのが一番なのだが、それだと、彼女を傷つける事になってしまう。
 私は悩んだ。
 悩んで、悩んで、悩んで、悩み続けた。
 結論が出ないままもたもたしていたのだが、それは知らない内に解決していた。
 子供達が子供達で問題解決のために動いていたのだ。
 私は子供達の問題解決能力というのを軽んじていた。
 彼らは彼らで、一生懸命悩み、そして、正解ではないかもしれないけど、良いと思う方向に進んでいくんだと感じた。
 みらちゃんは実力こそ足りてないが、向上心とかは十分にある。
 ただ、ものの考え方、想像の仕方がよく解っていなかっただけだった。
 女の子同士、揺花ちゃんがみらちゃんの相談に乗ってくれていた。
 みらちゃん自身も実力が足りていないのは理解していた。
 理解していた上で、揺花ちゃんに、ものの考え方というものを教わっていた。
 女の子は男の子に比べて共感しやすい性別だ。
 揺花ちゃんの考えが伝染するというのに近い形でみらちゃんは小さくではあるが変わった。
 大化けこそしなかったが、小化けした。
 油断していたとは言え、練習相手をしてくれた諷太くんを良いところまで追い詰めて見せたのだ。
 想像の仕方がよく解って居なかった女の子が想像する楽しみというのを覚えたら、成長は早かった。
 彼女はメキメキと実力をつけてきた。
 夢命戦チームの3人には敵わないものの、夢命祭チームからは頭一つ飛び抜けるまでには実力をアップさせて見せたのだ。
 向上心というのはやっぱり凄いなと思った。
 実力によってチーム分けするのではなく、やる気のある無しでチーム分けするのが、ベストだったんだなと思った。
 彼女の実力が足りてない部分は他の3人が上手くカバーしているし、チームワークから考えて、今の4人で夢命戦チームにするのが一番だなと思った。
 そう考えると、後、最低1人、探し出せれば、宇宙戦を視野にいれて夢命戦を戦っていく事が出来ることになる。
 まぁ、戦いは連戦になるので、どうしてもリザーバーは最低でも1人は欲しいところだけどね。
「よし、気合い入れるぞ」
 私は目標が見えてきた。
 そして、4人目のメンバーが揃ってから5人目が見つかるのは早かった。
 というか、向こうから来てくれた。
 その5人目を地球チームに入れても良いということであるならばだ。
 そう――5人目は地球人じゃなかった。
 彼の名前はショーベン。
 れっきとした宇宙人だ。
 獣馬君達がショーベンとはおしっこという意味だと言ったら怒っていたが、宇宙人的には【勇猛なる戦士】という意味らしい。
 彼は、第三大会出身者で氷室 恭起(ひむろ きょうき)君と氷室 聖良(ひむろ せいら)ちゃん、つまり、獣馬くん達の幼馴染みに敗れた事があるらしかった。
 第三大会という言わばエリート大会に参加出来る資格を持っていた彼は恭起君と聖良ちゃんに手ひどく負けたらしい。
 負けた時、恭起君に言われた台詞は【恵まれた立場でぬくぬくとやっているような奴に負ける気はしない】だったらしい。
 ショーベン君はあんまり悔しくて、だったら自分も最低ランクから這い上がってやると言って地球にやって来たらしい。
 最低ランク扱いされているのはちょっとカチンとくるけど、不利な条件から勝ち上がって来ようという精神は尊敬出来るなと思った。
 練習試合をしたら、実際、第三大会で戦っていただけあって、獣馬君達よりもやや実力はあった。
 獣馬君と揺花ちゃんが協力してようやく勝てたというレベルだったし、彼がチームに加わってくれるのであれば、心強いチームメイトになるだろう。
 私はショーベン君の地球チーム参加の申請を出した。
 が、書類手続きには多少時間がかかり、ショーベン君が参加出来るのは宇宙戦が始まってからになりそうだ。
 でも、地球戦では3名が参加出来れば良いので、それは関係ないだろう。
 宇宙人1人が認められると解ってからは、私は視野を宇宙にまで広めた。
 考えて見れば諒一(りょういち)君も地球に恭起君と聖良ちゃんをスカウトに来たように、地球外からスカウトしても良いんだって事を今更ながら理解した。
 そして、更に男の子と女の子を1人ずつ、スカウトした。
 男の子の方はジェック君。
 とても紳士的な少年だった。
 亡命して来たと言って地球人への帰化を求めて来た子だ。
 強い決意がこもった瞳が印象的な男の子だった。
 女の子の方はジェック君が守るべき対象、主君に当たるお姫様、フィリアちゃんだ。
 彼女はよっぽど酷い目にあってきたのか感情が乏しい表情をしていた。
 それを思うと、どこか、聖良ちゃんを思い出す。
 彼女も自己表現が苦手な女の子という印象だった。
 フィリアちゃんと居れば、揺花ちゃんも妹の聖良ちゃんと一緒にいる気持ちになれるかも知れないと思ってつい連れて来たけど、私が評価したのはジェック君の才能だった。
 宇宙に飛んだ私はめぼしいICバトルを見て回ったけど、これとと思える人材には出会えなかった。
 諦めて帰ろうとした時、声をかけてきたのがジェック君だった。
 自分が役に立てたら、自分とフィリアちゃんを地球に帰化させて欲しい――そう言ってきた。
 手ぶらで帰りたくなかった私はそれでも何かのヒントになればと思い、彼の戦いを見た。
 感想はもの凄いのただ一言だった。
 どこか鬼気迫るものがあった。
 生きるためには何が何でも――そんな気魄を感じた。
 私はジェック君だけを評価したつもりだったけど、ジェック君が言うにはフィリアちゃんは自分とは比べものにならないくらいの才能を持っていると言っていた。
 その才能のために星を追われたのがフィリアちゃんだとも言っていた。
 その話が本当なら、凄い逸材が内のチームに……とは思ったけど、それは、ジェック君がフィリアちゃんを評価して欲しいためについた嘘、方便かも知れないと思った。
 フィリアちゃんは感情らしい感情が感じられず、とても凄い想像力を持っているとは思えなかったからだ。
 何にしても、戦力としてはジェック君の才能は大変魅力的でもある。
 私は二つ返事で二人のチーム参加を認めた。
 獣馬君。
 揺花ちゃん。
 諷太君。
 みらちゃん。
 ショーベン君。
 ジェック君。
 フィリアちゃん。
 これで、7名が揃った事になる。
 みらちゃんとフィリアちゃんにはリザーバーに回ってもらう事になるとは思うけど、これで、宇宙戦を戦う事が出来る。
 私はこの7名での地球戦参加申請をした。


第二章 第二幕 初戦


 7名の顔合わせも終わり、私は地球代表戦でのプランを発表した。
 チーム昴・夢命祭チームの方は副監督として、新たに雇った、ボニー・オルコットさんに一任している。
 応援部隊として、何やらチームの広報活動をしてくれている。
 大変ありがたいことだ。
 私はチーム昴・夢命戦チームの監督として、これから戦っていくICでの戦いのルールを教え込まなければならない。
 宇宙戦を意識して、多少、ルールに変更はあるが、基本的には先鋒、中堅、大将の3人で戦って行くことになる。
 地球戦では4人がリザーバーという事になる。
 宇宙人の、ショーベン君、ジェック君、フィリアちゃんの三人は地球チームへの参加手続きがあるので、地球戦では戦えない。
 なので、地球戦ではその3人を除いた4人で戦って行くことになる。
 実力から考えるとやはり、みらちゃんにはリザーバーになってもらって、獣馬君、揺花ちゃん、諷太君の三人をレギュラー選手として登録するのが妥当だろう。
 みらちゃんを傷つけないように言ったつもりだったけど、
「監督、実力が足りてないのは解ってるから気を遣わなくても良いよ」
 と逆に気を遣わせてしまった。
 ダメだな、私も。
 地球代表戦への出場チームは1万5千チームを超えている。
 最低ランクの烙印が押されているとは言え、地球代表になるにはこれだけのチームを負かしていかなければならない。
 最近では、夢命戦発祥の星というプライドが選手自体のレベルを引き上げても来ている。
 如何に才能があってもそう簡単に勝ち上がれるという訳にも行かなくなって来ている。
 地球はそういう意味でも埋もれた才能の宝庫となりつつあった。
 だから、最低ランクと言われようが何だろうが、本家本元の地球が宇宙から下に見られ続けている訳にはいかないのだ。
 必ず宇宙の鼻をあかしてやりたい。
 見返してやりたい。
 それが地球人の総意でもある。
 地球人の手で注がれてしまった汚名は、地球人の手で晴らす。
 それが私の気持ちだ。
 宇宙人3人は味方にしてるけど、彼らも心は地球人だと思っている。
 思いは一つ。
 いつか、最強大会での優勝。
 それしかない。
 私は気合いを入れた。

 地球代表戦参加チーム数1万5千以上……。
 とは言っても、最低ランクの宇宙戦に参加出来る地球枠は3つある。
 なので、1万5千を3つの地区に分けて、戦う事になる。
 その地区の頂点に立てば、残る2チームに勝たなくても自動的に地球代表の1チームとして、参加する事が出来る。
 とは言っても、その最初の宇宙戦では優勝しないと18大会には参加資格が得られないというのも事実。
 手堅く行きたいとは思わず、思い切って、対戦相手全てに打ち勝つつもりでいかないと途中で負けてしまうだろう。
 私だけじゃなく、チームのみんなにも気を引き締めて貰わないといけないわね。

 地球代表戦はまず、トーナメント戦を作るための予備戦が行われる。
 5千チーム以上のチームで最も多いトーナメント戦に適したチーム数は4096チームとなる。
 それ以外のチームは余分なチームとなるので、その数を減らさないといけない。
 なので、チームはクジを引くことになる。
 それで抽選で、4096チームに減るまで、予備戦を行う事になる。
 予備戦に当たる確率はだいたい5分の2という事になる。
 どうか当たりませんようにと思っていたら、当たってしまった。
 日頃の行いが悪かったのかしら……。
 当たらない様にと後ろ向きだったのがいけなかったのかも知れないわね。
 どんどん戦うつもりでいた方が逆に外れていたかも知れないわね。
 とにかく、当たってしまった以上、1試合多く戦う事になるわ。
 初戦の相手は、チームウォーリアー。
 ランクで言えばDランクチームだ。
 だが、Dランクと言えば、隠れた実力者の宝庫とされるランクだ。
 このチームもどんな伏兵が隠れているか解らない。
 先鋒、裕吾(ゆうご)君。
 中堅、ユギョンちゃん。
 大将、ファビアン君。
 この三人が対戦相手となる。
 この三人に対して二勝すれば、チーム昴は4096チームの1チームとして認められる事になる。
 こっちのオーダーは、
 先鋒、諷太君。
 中堅、揺花ちゃん。
 大将、獣馬君。
 という事になる。
 男の子対男の子、女の子対女の子という図式で戦っていく事になる。
「諷太、負けたらアイスな」
 獣馬君が彼なりのエールを送る。
「ぬかせ、お前こそ、負けたら、キャベツな」
 なんで、キャベツ?
「なんでキャベツなんだよ?」
「別に良いだろ、おれっちはキャベツが大好物なんだよ」
「変な奴」
「お前に言われたくねぇよ。それより、揺花ちゃんにくっつくなよ」
「くっついてねぇだろ」
「二人ともやめてよ、みっともない」
「揺花ちゃんが言うなら……」
「何で揺花の言う事だけ聞くんだよ」
「お前と違って揺花ちゃんは特別なんだよ」
「ふん。このスケベ野郎が」
「スケベじゃねぇよ。おれっちはただ、ファンなだけで……」
「どうだか」
「もうやめてってばぁ〜」
 三人のチームワークはバラバラだ。
 チーム戦とは言え、これは1対1の試合だから良いものの、チーム戦だったなら、大きなハンデとなる。
 これは、その内、仲間同士でのコミュニケーションを図ってどこか泊まりがけで合宿とかした方が良いかしらね?
 ちょっとごたごたしたけど、両チームとも配置について、お互いICをセットする。
 諷太君は新しいICだ。
 キャラクター名は【メダリスト】、諷太君のオリジナルキャラクターだ。
 対する裕吾君の方はクランクアップという物語の【バックヤード(?)】というキャラクターだ。
 【バックヤード】の後ろに【(?)】がついているのは【バックヤード】というキャラクターの中に別のキャラクターを隠しているという意味でついている。
 つまり、【バックヤード】は外皮で中に別のキャラクターが隠れているという事になる。
 【バックヤード】自体は借り物のキャラクターなので、問題視していないけど、中に何が隠れているか解らないというのは何だか気持ち悪いわね。
 わざわざ別のキャラクターを隠れ蓑に使っているんだから何かしら意味があるとは思うけど、何なのかしらね?
 私があれこれ悩んでいても仕方ないわね。
 戦うのは諷太君なんだから。
 私は諷太君の勝利を信じて、応援するだけだわ。
 両選手とも準備が済み、戦いの火ぶたが切って落とされた。
 バトルエリアは砂漠だ。
 黙っているとズブズブ砂に埋もれて行って、足の動きが鈍ってしまうという特徴がある。
 諷太君の【メダリスト】はその砂漠エリアをどんどん進んで行く。
 【バックヤード(?)】の姿は見えない。
 設定通りだとすれば【バックヤード】というキャラクターはずんぐりむっくりしているキャラクターでパワー重視のタイプだ。
 とてもこのバトルエリアで俊敏に動けるとは思えない。
 だとすれば、まともに姿を現したら、諷太君の攻撃の格好の的にもなりかねない。
 裕吾君としては、【バックヤード】のパワーで攻めて、隙を見て、【バックヤード】の何かで攻撃を仕掛けるというパターンを期待して考えたのだろうけど、はっきり言って作戦ミス。
 この砂漠エリアではそんな戦法は通じない。
 選手はバトルエリアがどんな状態になるかはあらかじめ知らされていない。
 自分のICにあったバトルエリアになるかどうかは運も関わってくる。
 バトルエリアによっては弱いキャラクターが強いキャラクターに勝ってしまうという番狂わせがあっても不思議じゃないのだ。
 今回は諷太君に有利に働いたようだ。
 だけど、裏を返せば、うちのチームに不利なバトルエリアが出てくる場合もある。
 どんなバトルエリアでも無難に戦えるキャラクターなんてそう簡単に思いつくものじゃない。
 私達もそれは覚悟しておかないといけないわね。

 諷太君の【メダリスト】は砂に隠れている【バックヤード(?)】を発見。
 そのまま、中に隠れている、正体の解らないキャラクターもろとも【メダリスト】の能力を使うこと無く、一発で勝利を納めた。
 結果的には諷太君の圧勝だった。
 思うように戦えず涙する裕吾君。
 一歩間違えば、これは諷太君が涙していたかも知れない。
 それだけは心にとめておこうと思った。

 続く、中堅戦は揺花ちゃん対ユギョンちゃんの戦いとなる。
 女の子同士の戦いだ。
 揺花ちゃんの方はメインとしている24フェイスは使えない。
 宇宙戦では当たり前となっている1人が複数のICを使うというバトルスタイルも地球戦では認められていない。
 裕吾君の様にキャラクターの中に何かを入れるという行為までがギリギリ認められている段階だ。
 そういう意味では地球戦は宇宙戦と比べて大きく遅れていると言える。
 なので、揺花ちゃんは代わりのキャラクターを地球戦では用意している。
 揺花ちゃんのICは【フラワ】だ。
 花の妖精をイメージしたオリジナルキャラクターだ。
 対するユギョンちゃんのICは【レディース】だ。
 ヤンキーの女の子をイメージしたこれもまたオリジナルキャラクターだ。
 【レディース】にはサポートとして、改造バイクが割り当てられている。
 レディースだから騎手と馬の様にセットとして考えられたからだ。
 一般的イメージがそうだという条件を満たせば複数のICを地球代表戦でも使う事が出来るが、一度でも離れれば、使用は認められなくなるので、【レディース】と改造バイクはずっとくっついていなければならない。
 この辺りが地球代表戦の面倒なところだと私は思っている。
 宇宙戦との区別でという立て前があるのだろうが、宇宙戦を意識するなら宇宙戦と同じ、複数のキャラクターの使用を認めれば良いのにと思う。
 花の妖精対総長。
 このバトルはそんなイメージだった。
 全く違うイメージのぶつかり合いとなる。
 この試合だが、私は心配していない。
 揺花ちゃんは結構しっかりしているから、【フラワ】もしっかりと作り込んでいる。
 【フラワ】は頭の飾りを変える事によって、戦闘スタイルが変化するICだ。
 現在つけている髪飾りはチューリップだ。
 チューリップタイプの戦闘プログラムにそって【フラワ】は戦う事になった。
 戦闘プログラムと言っても咲かせる花が変わるというだけの事ではあるが、【フラワ】が通った後はチューリップの色とりどりの花が咲いていく。
 揺花ちゃんのICの特徴は美しいという事だ。
 芸術的と言っても良い。
 戦いを見ているとついウットリしてしまう。
 それが、揺花ちゃんのバトルスタイルだ。
 【レディース】は花を踏みつぶして改造バイクで進んで行くが、チューリップの花が次第に改造バイクの車輪に絡まっていく。
 やがて、改造バイクの車輪が動かなくなった。
 が、改造バイクは改造エアバイクに変形した。
 空中を改造エアバイクが疾走する。
 今まで地面を駆けめぐっていたバイクが今度は空中を浮遊する。
 【レディース】にとって改造バイクの車輪はオマケだったみたいだ。
 私はバイクには詳しくはないけど、多分、あの構造だと、本当は走らない。
 ユギョンちゃん自身も詳しくないのだろう。
 その辺の作りが曖昧だ。
 だから、イメージだけで、車輪を動かしていたのだろう。
 今の改造エアバイクについても構造が適当だ。
 あの構造で実際に本当に空を飛べるかどうかは怪しい。
 だけど、夢命戦は想像力のバトルだ。
 本人が飛べると思ったら、例えどんな構造だろうと空を飛ぶことが出来る。
 それがICだ。
 だけど、ユギョンちゃんにとっては【レディース】は合っていないICなのだろう。
 夢命戦を勝つために強い存在をイメージして作ったのだろうが、ユギョンちゃんの【レディース】にはリアリティーが無い。
 想像だから、リアリティーは必要ないんだけど、【レディース】を作ったのであれば、モデルが存在する。
 ユギョンちゃんの考える【レディース】はこうだと言い切る自信や説得力がこのICにはない。
 なので、想像力勝負のこのバトルではそれが露骨に結果として出てくる。
 結果はか弱そうに見える花の妖精が総長を下すという結果となった。
 揺花ちゃんの勝利で2勝。
 これで、チーム昴がトーナメント1回戦に進む事が決定した。
 後は消化試合となるので、次の対戦選手である獣馬君かファビアン君のどちらかでも戦いを拒否すれば、対決は行われない事もある。
 だけど、二人は対決を選択した。
 獣馬君が勝っても負けてもうちのチームが次に進めるのは変わりないけど、どうせなら3連勝で勢いをつけたい所だわね。
 獣馬君が用意したICは【バッター】だ。
 これも獣馬君のオリジナルキャラクターになる。
 攻撃して来たものを何でもかんでも全部打ち返すキャラクターらしい。
 対するファビアン君は【最狂の戦士】という作品の【トラッパー】というキャラクターだ。
 オリジナル作品ではないが、【トラッパー】というキャラクターは10本の指に糸が結びついていて、その先に瓢箪が一つずつ結びついている。
 【トラッパー】の代表的な攻撃はその指と結ばれた10個の瓢箪を自在に動かして、瓢箪の中からレーザー光線が出てくるというキャラクターなのだ。
 本体以外の10方向からレーザー光線が飛んでくるというバトルスタイルはなかなか厄介ではある。
 それに【トラッパー】の名前の象徴であるトラップボールというサブアイテムが10個ついて来る。
 【トラッパー】は罠の仕掛けられたトラップボールをどこか10カ所に仕掛けて来るだろう。
 正攻法では来ないという事が予想出来るキャラクター。
 それが【トラッパー】というICだ。
 獣馬君にはトラップを見極める観察眼が要求される。
 瓢箪がどこから飛んでくるか解らない状態で罠の仕掛けられたトラップボールを探すのはなかなか大変である。
 力押しスタイルが通常の戦闘スタイルである獣馬君にはちょっと荷が重いかと思ったんだけど、そうでも無かったみたいだ。
 獣馬君なりに知恵を絞った戦い方をした。
 彼は、近くの小石を次々とバットで打った。
 等間隔で打ったので、小石が当たって何とも無かったところは必然的に罠が無いという事になる。
 それである程度足場を確保した【バッター】は死角から来るレーザー光線をそのままピッチャー返しならぬ、瓢箪返しで、次々と瓢箪を打ち落とした。
 面を喰らったファビアン君は残った6つの瓢箪を自分の手元に戻そうとした。
 その時、瓢箪と【トラッパー】の指を結んでいた糸を【バッター】は強く踏んだ。
 すると、【トラッパー】は両腕を地面につくことになる。
 その一瞬出来た隙を逃さず、【バッター】はトドメを刺した。
 これで危なげなく獣馬君も勝利して3人とも勝利で一回戦へとコマを進めた。
「やったじゃない、みんな」
「初戦からやられるようなら、初めから参加しねぇよ温子」
「でも強敵とぶつかる場合だってあるのよ。そうしたら負けちゃうことだってあるかもよ?」
「地球代表戦はぶっちぎりで優勝するからそんなことねぇよ」
「油断大敵、油断していると思わない相手に負けることだってあるのよ」
「はいはい、わかった、わかった」
「あ〜解ってないわね。こら待ちなさい」
「温子は心配性なんだよ」
 獣馬君は自信家でもあるけど、少し傲慢でもあるわね。
 慢心が敗北を産むことだったあるって教えておかないといけないわね。
 でも、とにかく、初戦突破おめでとう。
 一回戦は次だけど、今回が私達にとっての一回戦みたいなものだからね。
 一回勝つと自信も出てくるし、この調子で次の一回戦も勝ちたいわね。


第二章 第三幕 一回戦


 予備戦も滞り無く進み、ようやく4096チームが出揃った。
 これから一回戦が始まることになる。
 当然だけど、これに勝つと2048チームで二回戦、1024チームで三回戦とどんどん半分のチームになっていく。
 それで考えると四回戦は512チーム、五回戦は256チーム、六回戦は128チーム、七回戦は64チーム、八回戦は32チーム、九回戦は16チーム、準々決勝は8チーム、準決勝は4チーム、決勝が2チームとなるので、あと12回勝てば、地球代表チームの1チームに選ばれる事になるわね。
 元々、天才肌じゃない私だからか、地球での強いチームは他の地区に行っていて欲しいと思うのはどうしてかしらね?
 獣馬君の様に強い奴を片っ端からぶったおすという感じの方が勝ち上がれるのかしら?
 私としては、出来るだけ、強敵とぶつからず、なるべく楽に勝ち進みたいという考えは、優勝するチームの監督としては心構えがなってないのかも知れないわね。
 でも、怖いんだもん。
 負けたら、そこで終わりでしょ?
 だったら、出来るだけ、強敵と出会いたくない。
 そう思うのが私なんだよね。
 だから、涼一君みたいに天才にはなれなかったんでしょうね。
 でも、獣馬君達は違う。
 私と違って才能があるんだから。
 どんどん勝ち上がって欲しいわ。
 天才じゃなくても監督という形でなら、私でも夢の舞台に参加する事が出来る。
 それが、夢命戦。
 私の実力では今の地球代表戦も勝ち上がれないだろう。
 だけど、獣馬君達のサポートを通して、栄光への道を私も味わう事が出来る。
 それが嬉しかった。
 私の事はそれくらいにして、次はいよいよ、1回戦、チーム昴対チームファイナリストの戦いの順番が回ってきた。
 予備戦でのレベルを考えてここで、一度、みらちゃんにもバトル体験をしてもらおうと思っている。
 今回は先鋒として、参加する事になる。
 すると必然的にレギュラーの誰かが降りないと行けないんだけど、獣馬君と諷太君はそれぞれ、【お前が降りろ】の一点張り。
 なので、【私が降ります】と揺花ちゃんが降りてくれた。
 そういう訳でうちのチームの今回のオーダーは、
 先鋒 みらちゃん。
 中堅 獣馬君。
 大将 諷太君。
 という事になった。
 前回は獣馬君が大将だったので、おれっちにも大将をさせろと諷太君が言ってきたので、この順番になった。
 対する、チームファイナリストのオーダーは、
 先鋒 アダム君。
 中堅 ルボミール君。
 大将 マルツェル君。
 だという事だ。
 全員男の子のチームだ。
 みらちゃんはこの戦いがデビュー戦となる。
 彼女には後に獣馬君と諷太君が控えているんだから、勝ち負けにこだわらずのびのびとやってきなさいと伝えている。
 みらちゃんのICは【黒板戦士チョーク】だ。
 これは彼女が考えた童話のキャラクターでオリジナルだ。
 左手の部分が小さな黒板になっていて、右手に持ったチョークで黒板に絵を描き黒板消しで消すとその絵が実体化するという特徴を持っている。
 黒板消しがスキャナの役目をしているという事になる。
 元々絵を描くのが好きな彼女は自分の描いた物が動くという事に夢を持っている。
 チョークの色は6種類。
 その6種類でどれだけ表現出来るかが彼女の表現力次第という所なのだが、それならば【スケッチブックマン】にでもした方がもっと色んな事が出来ただろう。
 だが、この【黒板戦士チョーク】には、黒板ならではの特性も追加されている。
 動くイラストの方は、ついでと言った方が良い。
 もちろんイラストも重要だが、黒板本来の使い道と言ったらやっぱり勉強だろう。
 そう、イラストが実体化させるのには2アクション――イラストを描いて消すという作業が必要だが、勉強の要素を持たせる事が出来るのだ。
 例えば、兎を描いたとする。
 普通に描いて消したら兎は1匹しか出てこないが、兎×3=Xと書けば、3匹の兎が召喚される。
 もちろん、同時操作という事になるので、みらちゃんの想像力が及ぶ範囲でしか数は増やせないが、それでもいっぺんに複数の召喚も可能となる。
 また、オタマジャクシは描けるけど蛙が描けなかった場合などは、オタマジャクシを描いて、オタマジャクシの大人は?という文章を書けば、オタマジャクシではなく蛙が召喚される事になる。
 つまり、文章をつけることにより、足りていない想像力を補える特性を持つという事になる。
 想像力が他のレギュラーより、少し劣るみらちゃんにとっては、これ以上ないくらい合っているICと言えるだろう。
 このICを見ていると解る。
 彼女は決して人数合わせのメンバーじゃない。
 立派な戦力の一人として申し分ない。
 私はみらちゃんの活躍にも期待した。
 対するアダム君のICは、【セクシーお姉さん】だ。
 ちょっと、この子何考えているのかしら?
 こっちが恥ずかしくなるようなデザインのICになっているわ。
 これはみらちゃんも気の毒。
 見るからに嫌そうな表情を浮かべている。
 年頃の女の子にとっては、こういうのはあまりいい顔出来ないのだろう。
 セクハラじゃないのこれ?
 私は審判に抗議した。
 競技は一時中断されたけど、残念ながら、相手のICは認められてしまった。
 ギリギリではあるが、わいせつ物陳列という事にはならないらしい。
 私は相手のICを認める代わりに対戦相手のみらちゃんを獣馬君に変えて貰えないかと申し出た。
 が、公式で順番を決めた後での順番変更は認められないらしい。
 みらちゃんが、
「監督、私、やります」
 と言ってくれたけど、同じ女として、アダム君のICには嫌悪感を覚えるわね。
 対戦が始まった。
 結果はみらちゃんが瞬殺した。
 よっぽど腹に据えかねていたのだろう。
 女の敵、アダム君のICをみらちゃんの【黒板戦士チョーク】の赤と白の二本のチョークが貫いた。
 結果的に、みらちゃんは能力を使わなかった。
 力押しで勝ってしまった。
 勝ったときの、
「出直してきなさい」
 という台詞はかっこよかった。
 私が言いたかったくらいだ。
 続く、中堅戦は獣馬君のIC【バッター】がセットされた。
 初戦に続くICだけど、みらちゃんと戦ったアダム君のレベルを見て、新作ICを使うまでも無いと判断したのだろう。
 対する、ルボミール君のICは【ザ・グレート弁慶】だ。
 牛若丸と戦ってその後、従ったという弁慶をモチーフにしたICだ。
 弁慶と言えば刀狩り。
 どうやら、腰に巻かれた縄のようなものに刀を結びつけている。
 1000本とか言いたいのだろうけど、せいぜい、十数本。
 そこまでがルボミール君の想像力の限界だったのだろう。
 【ザ・グレート弁慶】も【バッター】の前に瞬殺された。
 2連勝という事で、2回戦進出を決めたチーム昴だけど、諷太君とマルツェル君はどちらも対戦を希望したので、大将戦が行われる事になった。
 諷太君も初戦の時と同じIC【メダリスト】を使用している。
 対するマルツェル君は、オリジナル恐竜【マルツェサウルス】だ。
 正直、私の印象では【恐竜】というよりは【怪獣】と言った方がしっくりくるフォルムだ。
 だけど、ICは正確に表現すれば良いというものではない。
 本物にそっくりなイメージで出来たICはそれだけ、パワーがつくが、夢命戦ではそっくり=強いという事はない。
 そっくりさんがポイントで優遇されていたのはかつての地球であって今ではない。
 今はそっくりという事よりも、そのIC自体の説得力、想像力、独創性などがポイントとなる。
 だから、恐竜とは思えないからと言って、それが弱いという事にはならない。
 似ているという事もポイントにはなるが、それが絶対的ではないというのは今の選手であれば誰もが知っていること。
 だから、【これが恐竜?】という目で蔑むという事もない。
 本人が【恐竜】だと言い張れば、それはまごう事なきオリジナルの【恐竜】なのだ。
 これは恐竜だとは認められないとツッコムのはむしろ無粋であると言える。
 現に、敗れたとは言え、【マルツェサウルス】は【メダリスト】相手にかなり善戦したと言える。
 アダム君とルボミール君はちょっとあれ?って感じの実力だったけど、マルツェル君は大将としてふさわしい実力を持っていたと言えるだろう。
 アダム君達よりは実力的に何段階か飛び抜けた実力の持ち主だ。
 うちで言えば、夢命戦チームと夢命祭チームくらいの差はあるだろう。
 マルツェル君さえ良ければうちに来て貰っても良いとは思ったけど、彼らは彼らで楽しくやっているようだ。
 引き抜きは無粋だなと思った。
 危なげ無く、三連勝して、一回戦を突破した。
 次は、二回戦だ。


第二章 第四幕 二回戦


 二回戦のオーダーはどうしようかと考えていると、獣馬君が、
「温子、俺は五回戦くらいからで良いや。しばらくみらにも経験積ませてやってくれ」
 と言ってきた。
 そうなると、みらちゃん、揺花ちゃん、諷太君の3人で戦うという事になる。
 一回戦の時の様にみらちゃんを先鋒として戦ってもらって、後の二人がフォローするという形も考えられるけど、先鋒で揺花ちゃんか諷太君に勝ってもらって中堅でみらちゃん、もしくは大将でも良いかなと思ってしまう。
 こうして見るとみらちゃんをお荷物扱いしている感じがするけど、実力から考えるとやはり、みらちゃんは揺花ちゃん、諷太君よりも少々レベルが落ちる。
 みらちゃんを傷つけないようにとは思っている余裕はない。
 如何にして、みらちゃんに経験を積んで貰ってなおかつ勝利するという事を考えて行かなければならない。
 私は一度、みらちゃんを大将にしてみようと思った。
 その前の二戦を勝利すれば、みらちゃんの勝ち負けに次の三回戦進出の影響はない。
 強そうな相手で自信を無くすようならば、二勝しているから戦いを辞退するという選択肢もあるからだ。
 私は試しに先鋒 諷太君、中堅 揺花ちゃん、大将 みらちゃんでオーダーしてみた。
 まだ、二回戦だし、ピンチになる事はないだろうと高をくくっていた。
 その判断が、監督としての私のミスだったと気づくのは先鋒戦だった。
 対戦相手のチームオアシス――思わぬ強敵チームの登場だった。
 先鋒戦諷太君がまたまた【メダリスト】を持ってきた。
 【メダリスト】は一回戦で【マルツェサウルス】との戦いでその真価を発揮した。
 【メダリスト】の力は身体能力の調整だ。
 例えば、腕の力を強化するために、身体の使っていない部分のパワーを割り振ったり、流れるように全体のバランスを取る事で攻撃力をアップさせたりする。
 身体強化型のICだ。
 【マルツェサウルス】の猛攻にあい、【メダリスト】は結構、傷ついた。
 今回の二回戦ではろくに修理もしないまま、同じ【メダリスト】を使用したのだ。
 私の油断が伝染したのか諷太君も油断していた。
 二回戦で強敵に出くわす訳がないと思っていたのだ。
 対するチームオアシスの先鋒フェイロン君は、【龍】を持ってきていた。
 オリジナル作品ではないが、素晴らしい出来のICだった。
 万全の状態で挑んできたフェイロン君に対して、完全に油断している諷太君――
 結果は火を見るよりも明らかだった。
 まさかの敗北に呆然となる諷太君。
 相手を完全に舐めきっていた彼は戦闘の時も相手を見くびっていた。
 その大きな隙をつかれ一挙に攻撃されあっという間に敗れてしまった。
 猿も木から落ちる。
 弘法も筆の誤り。
 どんなに優れたプレイヤーも時には敗れる事もある。
 増して、手を抜いていたらなおさらだ。
 これを機に、諷太君には反省してもらうとして、問題はここからだ。
 オーダーを発表してしまった後だから、メンバー変更は本当の緊急時でも無い限り出来ない。
 つまり、次の揺花ちゃんとみらちゃんは必ず勝たなくてはならないのだ。
 最悪でもみらちゃんにも引き分けにはなって貰わなければ、地球代表戦はここで終わりとなってしまう。
 大将のみらちゃんにいらない心配をかけてしまった。
 みらちゃんだけじゃない。
 この事態に動揺して揺花ちゃんまで敗れたら目も当てられない。
 ここは一つ、確実に一つずつ勝っていかないといけない。
 中堅の揺花ちゃんは【ストロベリードラゴン】。
 彼女のオリジナルICで、口から炎の代わりに大きなイチゴを発射するらしい。
 身体はファンシーなピンク色。
 彼女らしい作品だ。
 対するライト君は【ツインヘッドドラゴン】。
 これもオリジナルドラゴンだ。
 奇しくもドラゴン対決となった。
 パッと見の印象ではライト君の【ツインヘッドドラゴン】の方が強そうだ。
 だけど、見た目は関係ない。
 想像力の結晶として、どちらが完成度が高いかでそのICの戦闘力は決まるし、強いからと言って必ず勝てるという事もない。
 油断していたら負ける事だってある。
 今回はこの言葉を私自身に送りたい言葉ではあるが。

 二匹のドラゴンが壮絶なぶつかり合いをする。
 可愛らしくても揺花ちゃんのドラゴンも強い。
 負けたら敗退が決まるこの試合に揺花ちゃんは手を抜いたICは持ってこない。
 油断しなければ、揺花ちゃんは地球レベルを大きく超えている逸材だ。
 危なげなく、彼女は【ツインヘッドドラゴン】を撃破した。
 これで一勝一敗、イーブンだ。
 問題は、次の大将戦だ。
 みらちゃんが負けたらそこで敗退するとあって、彼女はかなり緊張した様子だ。
 こんな時どんな言葉をかけてあげればいいのか解らないけど、
「負けても死ぬ訳じゃない。頑張って来て」
 と言うのが精一杯だった。
 この言葉が適切かどうかは解らないけど、彼女にチーム昴の三回戦進出の命運がかかっているのは確かだ。
「か、監督、これで良いでしょうか?」
 震えながらみらちゃんが聞いて来る。
 ごめんなさい。
 余計なプレッシャーをかけちゃってるね。
 監督失格だね、私。
 とにかく、私はギュッとみらちゃんの両手を握ってあげた。
 すると、少し落ち着いたのか、微かに微笑む。
 みらちゃんが用意したICは【武者侍(むしゃざむらい)】だ。
 彼女の理想の男性がモデルだという彼女の切り札とも言うべきICだ。
 それだけ、この勝負に全てを賭けていると言って良かった。
 対するチームオアシスのリンダちゃんのICは【竜騎士】だ。
 チームオアシスは【龍】、【ツインヘッドドラゴン】、【竜騎士】とリュウづくしだ。
 チームドラゴンとかにした方が良いのではないかと思うんだけど、彼女達なりにチーム名にはポリシーがあるのだろう。
 【武者侍】は侍で武士道、【竜騎士】は騎士で騎士道。
 武士道対騎士道の戦いになるのではないかと思ったけど、違った。
 みらちゃんの方は理想を形にしているだけあって、立ち振る舞いが武士道と言ってもしっくりくる。
 だけど、リンダちゃんの方は本当に女の子か?と思えるくらい、がさつな動きだった。
 騎士というよりはまるでゴリラが暴れているような戦い方だった。
 本人が【騎士】だと言い張るのであればあえて否定はしないが、【竜騎士】の戦い方からは私はナイトをイメージする事が出来ない。
 剣をブンブン振り回す【竜騎士】。
 それはさながら、棍棒というおもちゃを手にしたゴリラのようだ。
 それを【武者侍】は上手く捌いて行く。
 みらちゃんはプライベートで剣道もやっていたと言っていたし、さすがに体捌きとかは見事だと思った。
 そして、【竜騎士】のゴリラアタック(私が勝手に命名)を交わし、トドメの一撃を【武者侍】が入れた。
 が、破損した【竜騎士】の装甲の一部が【武者侍】にもヒット。
 大きく破損した。
 共倒れ?
 とも一瞬思ったが、立ち上がる事も出来なくなった【竜騎士】に対して、【武者侍】はしっかり地面に対して直立に立っている。
 これは間違いないでしょう。
 みらちゃんの勝利が決定した。
 彼女は大粒の涙を流し、
「せ、先生ぇ〜……じゃなかった、監督ぅ〜勝った。勝ったよぉ〜」
 と言ってきた。
 私の事を先生と言ってしまったのは動揺していたというのもあるだろう。
 よっぽど嬉しかったのだろう。
 チーム全員で喜んだ。
 獣馬君は、
「諷太のアホがやらかした時はヒヤヒヤしたけど、よくやった、みら」
 と言った。
 諷太君は、
「あれは、油断してだな……めんぼくねぇ。おれっちが悪かった。今回はそうだ、認めるよ」
 と言った。
 諷太君だけじゃない。
 私の采配も悪かった。
「ごめん、私も悪かった。よく考えて順番決めないといけないね」
 と謝った。
 お詫びとして、私はメンバー全員にランチをおごる事にした。
 給料日前でちょっと手痛い失費だけど、今回は私が悪かったんだし、素直に支払うわ。
 危なかったけど、二回戦も勝ち上がった。
 もう油断しない。
 考えて見れば、早い内に、油断の怖さを知れたのも良い経験かも知れない。
 ライオンはどんな相手にも全力を尽くすとか聞いた事あるし、獣馬君達の才能にあぐらをかくのではなく、どんな格下相手でも全力でぶつかって行こうと心に決めたのだった。


第二章 第五幕 三回戦


 次の三回戦からはみらちゃんには先鋒をお願いする事にした。
 獣馬君が参加するのは五回戦からと言っていたから、その次の四回戦までは彼女に先鋒をつとめて貰うことになる。
 中堅の揺花ちゃん、大将の諷太君も四回戦までは固定で良いわね。
 五回戦からまた、オーダーを考えましょう。
 とにかく、手堅く行きましょう。
 三回戦の対戦相手はチーム乱舞。
 チーム名の通り、激しい動きで勝ち上がって来たチームのようだ。
 チーム乱舞のオーダーは、
 先鋒 悠人(ゆうと)君。
 中堅 菜奈美(ななみ)ちゃん。
 大将 昭三(しょうぞう)君だ。
 早速、先鋒戦が始まる。
 みらちゃんは【手品師(てじなし)】を用意した。
 切り札である【武者侍】は使用しない。
 これは油断しているのではなく、前回の失敗の原因の一つとして考えられる連続して同じICを使用するという事を避けているためだ。
 【手品師】はそれでも【武者侍】に決してひけを取らないポテンシャルを持っている。
 対する悠人君のICは【YU−TO】だ。
 恐らく自分を投影したICなのだろう。
 自分そっくりなICを作るというのも一つの方法として確立されている。
 自分に色んな行動を取らせたいという願望もあるのだから。
 当然、それは成り立つのだ。

 勝負は接戦。
 だけど、みらちゃんの【手品師】がギリギリ勝つことが出来た。
 みらちゃんの活躍がその後のチームのムードも上げてくれる。
 立派なムードメーカーだ。
 続く、中堅戦は揺花ちゃんが、【着ぐるみ ぽふも】というキャラクター。
 これは、着ぐるみを着た女の子のICだ。
 今回の着ぐるみは犬のようだ。
 対する菜奈美ちゃんは【NANAMI】だ。
 どうやら、このチームは、自分を投影したキャラクターを出してくるつもりらしい。
 この勝負は力の差を見せつけた形で揺花ちゃんが大勝した。
 続く大将戦だけど、やる気満々で、前回の敗戦の汚名を晴らすために諷太君は【デスガイズ】というキャラクターを持ってきた。
 だけど、敗退が決定した時、戦意を喪失したのか、対戦相手の昭三君は戦闘を辞退。
 これにより、諷太君の不戦勝が決まる。
 諷太君は不満そうだったけど、こういう場合だってあるのだ。
 恐らく、昭三君のICの名前は【SYO−ZO】だろうとは予想出来るけど、残念ながらお披露目はないという事になった。
 一時は危ない場面もあったけど、順調に勝ち進んでいくのを見るとやっぱり嬉しいわね。
 トーナメント表は出ているんだし、そろそろ、次の対戦相手とかを研究した方が良いかもしれないわね。
 段々、強敵も増えてくるだろうし、相手もうちのチームの事を研究してくるでしょうしね。
 使うICを変えてもプレイヤーの癖というのは残るから、その辺りを研究して行った方がいいかもね。
 応援に回ってくれている夢命祭チームにお願いして、次の対戦相手のビデオを撮っておいて貰って、対戦前に研究しておいた方が勝つ可能性も増えてくるし。
 ――って感じで、私はあれこれ、監督として、次になにをやるべきか考えていった。
 失敗は誰にでもある。
 私だって例外じゃない。
 失敗を糧に次に成功して行けばいい。
 私は次の四回戦のための準備をする事にした。

続く。






登場キャラクター紹介

001 温水 獣馬(ぬくみず じゅうま)
温水獣馬
 本作の主人公。
 地球最低ランクと言われたEランクの町出身の少年。
 想像力を評価され、温子にスカウトされる。
 温子の養子となり、想像力を磨き、チーム昴夢命戦チームの選手の一人となる。
 使うICはらくがきIC、【冒険者ルート】というアニメの【ルート】、オリジナルキャラクター【ホワイ】、【バッター】等。


002 温水 温子(ぬくみず あつこ)
温水温子
 本作の語り部その1。
 元、地球チームのリザーバー。
 チーム昴夢命戦チームの総監督を務めている。
 獣馬と揺花を養子として引き取ってはみたものの彼らに日の目をみさせるための舞台を用意できずに日々悶々としている。





003 温水 揺花(ぬくみず ようか)
温水揺花
 温子が引き取った元Eランクの町で生まれ育った少女。
 聖良とは双子の姉妹で、姉。
 優しく気を配れる性格。
 フローエル、レディーナ、スヴァラシーナ、チャンミンという4体のICをメインにし、20体のサブICを使って、様々なユニットを組むという4トップアイドルシステムを確立している。
 歌う事によって戦闘力を引き上げる歌昇力(かしょうりょく)システムを考えている。
 4トップアイドルシステムのIC【24アイドル】(または、【24フェイス】)としてはキャラクターアイドルとしての人気も出てきている。
【24アイドル】は地球代表戦では使えないため、【フラワ】、【ストロベリードラゴン】、【着ぐるみ ぽふも】などを使用している。


004 氷室 涼一(ひむろ りょういち)
氷室涼一
 本作の語り部その2。
 かつての地球チームのリザーバーとして、最大の成績をおさめた優秀な選手だったが、地球では評価されず、宇宙で評価された。
 地球人としての生活を捨て、型星人(かたせいじん)としての生活を選択した。
 十八番(おはこ)という夢命戦(ゆめいくさ)の十八大大会の案を採用される。
 その後、第三位大会での優勝チーム、チームオールフリーダムの総監督として、その地位を不動のものとする。
 宇宙をまわり、精鋭を集めるが地球の事が忘れられず、地球からも聖良と恭起という二人を息子としてスカウトしている。


005 氷室 聖良(ひむろ せいら)
氷室聖良
 氷室 涼一の養子となった少女。
 揺花とは双子の姉妹で、妹。
 感情表現が苦手。
 コスプレシステムを考案し、それを活かした4トップアクトレスと20のサブアクトレスで構成される【24アクトレス】ICを考え出した。
 女優として必要な感情表現がまだ、ICに活かす事ができていないため、伸びしろはまだある。
 チームオールフリーダムではすでにレギュラーとして活躍している。


006 氷室 恭起(ひむろ きょうき)
氷室恭起
 氷室 涼一の養子となった少年。
 獣馬のライバル。
 涼一に引き取られて5年、長らくスランプ状態だったが、ある戦いを機会に自分のスタイルを見つけ、オリジナルIC【サモナー】という圧縮惑星で召喚するモンスターを隠してバトルに参加するスタイルを確立する。





007 二階堂 諷太(にかいどう ふうた)
二階堂諷太
 チーム昴に入る事になる少年。
 獣馬が使っていた【冒険者ルート】というアニメの【ルート】というキャラクターに対し、アレンジを加えた99体の【ルート】を全てバリエーションチェンジしたICと超巨大IC【巨魁】を駆使して獣馬と対決するも決着はつかなかった。
 地球代表戦では【メダリスト】、【デスガイズ】等のICを使用。





008 林水 みら(はやしみず みら)
林水みら
 戦力外だったが、仲間のサポートにより、成長した少女。
 地球代表戦では、【黒板戦士チョーク】、【武者侍(むしゃざむらい)】、【手品師(てじなし)】等を駆使して活躍する。






009 ショーベン
ショーベン
 温子がスカウトした宇宙人その1。
 元第三位大会出身者だが、恭起達に手ひどく負けて、地球代表としてゼロから再出発する事を決意した。
 今回の地球代表戦では地球人への帰化登録が間に合わないため、参加出来ず、宇宙戦からの参加となる。






010 ジェック
ジェック
 温子がスカウトした宇宙人その2。
 めぼしい相手が居ない状態で諦めて帰ろうと思っていた時に自らを売り込みにやってきた。
 フィリアを連れていて、彼女と一緒に地球に亡命して来た。
 今回の地球代表戦では地球人への帰化登録が間に合わないため、参加出来ず、宇宙戦からの参加となる。
 鬼気迫る強さを温子が感じていた。




011 フィリア
フィリア
 温子がスカウトした宇宙人その3。
 温子にとっては、ジェックのついででスカウトをしたのだが、ジェックが言うには、彼ですら比べものにならない力を秘めていて、そのため、星を追われて来たとのこと。
 よほどショックだったのか、感情が表に出ない状態になっていて、夢命戦が出来るかどうかに不安が残っている。
 どうやらお姫様らしい。