第一章
第一幕 氷室 涼一の再来と氷室 涼一を超える逸材
私は優れた人材を捜して飛び回った。
だけど、そうそう巡り会えるようなものじゃない。
類は友を呼ぶ。
探している人間が涼一君だったならば、惹き付け合うように優れた才能も現れるだろうけど、私じゃ、そうそう巡り合わせは回って来ない。
だけど、私には――私だけは解る。
ずっと涼一君の側にいたから。
彼と同じ匂いの人間――、氷室 涼一の再来を見つける事は必ずできるはずだと信じている。
こんな話を涼一君にしたら笑われるとは思うけど。
私にできる事はそれだけだから、彼の再来を探し続けている。
同じ総監督という立場にいる涼一君だったら、自分の再来を探そうとはしないだろう。
彼はきっと、自分を超える逸材を求めるだろうから。
彼はずっと今までの自分を超える者を、イメージを求め続けたからこそ、圧倒的な力を発揮できたんだと思う。
上に行く人間というのは恐らく、そういう者なのだろう。
少なくとも彼と同じ事をしないと彼に追いつくことさえできないのは解っている。
でも、私にはその見つけ方が解らない。
私が見つけられる原石は彼の再来か、それとも超える逸材か、それとも……。
私は私にできるベストを尽くして探し続けていた。
地球での有名な大会はあらかた見て回ったけど、やはり、これだと思える子は既に、Aランクチームが目をつけているし、私は途方に暮れていた。
途中から、涼一君の言っていた言葉を思い出した。
彼は常に言っていた。
本当に追い求めている答えは教科書には載っていない。
誰も見つけていない場所にひっそりと隠れ潜んでいるものだと――
だから、今はDランクチームの大会も見て回る事にしていた。
だけど、どうやら間違えて、通称、Eランクの町に来ていたようだ。
Eランク――
実際にはこのランクは存在していない。
実は、イマジネーション・キャンドルを作るには多少のお金がかかる。
タダでできる訳ではないからどうしても制作費というのがかかってしまう。
つまり、お金が無くて、イマジネーション・キャンドルを作る事ができない人間も存在しているのだ。
その人達を総称して、人々はEランクと呼んでいる。
キャラクターを想像するにはある程度の知識が必要になる。
差別する訳ではないけど、Eランクの人達はその知識を得る機会が殆ど無い。
だから、夢命戦の選手の候補としては除外されている。
ここは探しても無駄――
私の常識がそれを言っている。
だけど、涼一君との付き合いの経験がここは原石の宝庫だとも訴えてもいる。
普通の人が探さない場所にこそ、本当の宝は眠っている。
疲れていて気が迷ったのかも知れない――。
私は気分転換も兼ねて、Eランクの町をぶらつく事にした。
本当にただの気分転換のつもりだった。
だけど、居た。
存在した。
このEランクの町にダイヤの原石が確かにいた。
それも4人も。
フラっと立ち寄った廃墟の中のいちめんの壁の落書きがそれを物語っていた。
更に言えば、彼らと共に涼一君もいた。
「りょ、涼一君……」
「……久しぶり、温子。元気だったか?」
「ど、どうして、ここに?」
「ここに描かれているものを見てもわからないのか?」
「引き抜きに来たの?」
「そうだ。この4人は見所がある。上手く育てれば、必ず、俺を超える選手になれる」
涼一君も同じ人材を見つけていた。
私は偶然。
彼は必然として。
それで、私の中の何かがこの機会を逃してはならないと告げていた。
咄嗟に思いも寄らない言葉が口を出た。
「りょ、涼一君、この子達を譲って……」
「……何故?」
「な、何故って、この子達を育てたいから……」
「君に、この子達を育てられるのか?」
「解らない。でも……」
「……俺としては手ぶらで帰る訳にはいかないんだが……」
「お願い……」
涼一君は【帰る】という言葉を使った。
ここ(地球)はもう、彼のふるさとじゃないんだと寂しくも思った。
涼一君はしばらく考えた後――
「じゃあ、こうしよう。俺と君がこの子達を見つけたのは、ほぼ同時。だから、二人ずつ連れて行く事にしよう。その二人は君が選んで良いよ」
「えっ……」
涼一君の提案に私は戸惑う。
二人を選んで良いと言われてもどの子達を選べば良いのか私には全く解らない。
悩んでいると、4人の子の内の1人、リーダー格の男の子が口を開いた。
「黙って聞いてりゃ好き勝手いいやがって。俺達は物じゃない。連れて行くと言われてはいそうですかと素直に従うと思ってんのか?」
もっともな話だ。
彼らにも自身の事を決める権利がある。
私や涼一君よりまず先に本人達の意見の方が重要だ。
彼らにだって親兄弟がいるはずだ。
「僕は、お兄さんについて行きたい」
「恭起(きょうき)、お前、それで良いのか?俺達ずっと一緒だって言ってたじゃねぇか?」
「獣馬(じゅうま)、僕はこのお兄さんならこの掃き溜めのような生活から救い出してくれるって言っているんだよ。僕達を認めてくれるんなら4人全員で行けば良いと思っているしね」
「………」
「やめなよぉ、二人ともぉ」
男の子二人と女の子二人。
タイプは四人とも違う。
獣馬と呼ばれたリーダー格の男の子は勝ち気な性格のようだ。
逆に恭起と呼ばれた男の子は冷静沈着なタイプと言える。
女の子は身につけている体操服についている名前の通りなら、無口な方が聖良(せいら)、気を遣うタイプの子が揺花(ようか)と言う名前のようだ。
誰かなんて選べない。
この壁一面に描かれている絵を見れば、4人ともゼロからキャラクターを作り出す能力に長けている。
ここの環境から察するに、アニメや漫画などはろくに見ていないだろうし、神話や伝承などは聞いたこともないだろう事は容易に想像がつくのに、これだけの表現力をしめしているのは元々の想像力が豊かだという証だ。
どの子も才能があるように思えるし、この子達じゃないけど、できれば4人全員が来て欲しいくらいだ。
決めあぐねていると涼一君がこう告げた。
「男の子はどうするか決めたようだな。恭起君は俺と獣馬君は温子の方につくみたいだ。女の子達はどうする?」
と。
その言葉を聞いた瞬間、揺花ちゃんは獣馬君の方を、聖良ちゃんは恭起君の方を見たのが見えた。
それを涼一君も確認していて、
「決まりだな。獣馬君と揺花ちゃんはここに残って、温子の元で頑張れ。恭起君と聖良ちゃんは俺と一緒に来てもらう」
「待てよ、おっさん、俺達はそんなこと決めちゃ……」
「これは君達が決めたことだ」
「ふざけ……ん……なっ」
涼一君に文句を言おうと思った獣馬君が固唾をのんだ。
涼一君と恭起君、聖良ちゃんが突然消えたからだ。
宇宙の科学力からすればこれは不思議な事でもなんでもなく、転送装置で一瞬にして、涼一君の現在、住んでいる星に飛んでいったんだろう。
現れた時も逆の要領で来たに違いない。
だけど、Eランクの町で暮らして来た獣馬君達にとってはビックリするような大事だった。
「っぐすっ……聖良ちゃん……」
「泣くな、揺花、死んだ訳じゃないんだ。あいつらは俺が取り戻す。んで、あのおっさんをぶん殴る」
私としてはこの残った二人を慰める事しかできなかった。
「ごめんね。でも生きて居れば必ずきっとまた、逢えるから……」
「勝手な事言うな。揺花と聖良はずっと一緒だったんだ。双子の姉妹が離ればなれになる事がどんなに辛いか解るのかよ」
「ふ、双子だったの?そう言えばよく似ていたなぁと……そう、本当にごめんね。私達勝手な事しちゃったね」
「責任取れよ」
「責任?」
「そうだよ。あんたと居れば、いつかあのおっさんの所にたどり着くんだろ?」
「そうだね。頑張って勝ち上がって行けば必ず、恭起君と聖良ちゃんにも逢えるよ」
「恭起の奴もぶん殴ってやる。あいつ勝手な事、言いやがって」
「私はね、獣馬君、君達をスカウトに来たの。涼一君――あのおじさんも同じ。ちょっと行き違いがあって離れちゃったけど、君達の舞台で勝ち上がっていけば、必ず再会出来るよ。私と一緒に頑張っていこう」
「何を頑張るんだよ?」
「夢命戦、それが君達を最高に輝かせる舞台だよ」
「ゆめいくさ?聞いた事ないぞ」
「そうだね。聞いたこと無かったんだね。これから私が一から、いえ、ゼロから教えてあげる。君達は絶対凄い選手になれる。私はそう信じている」
正直に言えば、私に自信がある訳じゃなかった。
ただ、あの涼一君も同じく探していた存在だった。
それが私のかりそめの自信だった。
元々持っている才能は同じであろう4人。
それをどう育てていくか。
それによって、私と涼一君の監督としての真価が問われることになる。
それに、私が探している才能は7つ。
獣馬君と揺花ちゃんだけじゃない。
他に5人。
少なくとも後、3人は探さないと勝ち上がって地球代表選手になることさえできない。
仮になれたとしても宇宙戦大会の予選大会での優勝が絶対必須。
優勝できたとしても十八番の大会では十八番大会への参加が認められるだけだろう。
涼一君達の居る三番大会に上り詰めるにはそれらの大会でも上位入選が必要となる。
それくらい涼一君達と私達の置かれている立場は違う。
天と地の差があると言っても良い。
だけど、やるしかない。
地球での最低ランクとされるDランクにもなれないEランクからの劇的な成り上がり。
私はその目撃者になれるかもしれないのだ。
涼一君と一緒に戦った、あの熱い日のように……。
私は獣馬君と揺花ちゃんを養子に迎えた。
この日から彼らは温水 獣馬と温水 揺花となり、氷室 恭起と氷室 聖良となった。
運命の歯車は回りはじめた。
そして、時は流れる。
第二幕 獣馬と揺花
「獣馬、てめぇ、温子監督の養子だからっていい気になるなよ」
「別にいい気になってなんかねぇさ」
「じゃあなんで、ICでいつも落書きみてぇなので戦ってんだよ」
ICとはイマジネーション・キャンドルの略だ。
選手ではICとして広まっている。
成長した獣馬君は度々、他の選手と問題を起こしていた。
「しょうがねぇだろ、俺はまだ想像力が安定してねぇんだからよ。でもそれでも毎回、俺が勝つからそれが不満なのか?」
「そうだよ、何かてきとうにあしらわれている気がしてムカツクんだよ」
対戦相手の芹川 祥吉(せりかわ しょうきち)君が怒るのも無理はない。
獣馬君の想像力が安定していないというのは嘘だからだ。
彼は、既に飛び抜けた力を身につけている。
ただ、それだと他の選手と実力に差が有りすぎるので、イメージ力をぼかして、イマジネーション・キャンドルの力を落として使用している。
その上で、なるべくばれないように手加減して戦っている。
それで、ギリギリの状態で勝ち続けていた。
彼なりの気配りなのだろう。
だが、それは他の選手にとっての侮辱と受け取られてもしかたがない。
最初の内は祥吉君達も惜しい所までいったけど僅かに及ばなかったと思っていたが、彼も想像力が成長していく内に、獣馬君との圧倒的な想像力の差に気づく。
「こんなとこ、辞めてやる」
祥吉君はその言葉を最後にCランクチームから去っていった。
「ごめん、温子、また、選手に逃げられちまった」
「獣馬君、お母さんでしょ」
「温子は温子だよ。お袋だなんて呼べるか」
「もう……それはいいとして、ごめんね、獣馬君。いつも気を遣わせてしまって」
「仕方ないだろ。めぼしいやつなんてみんなAかBに持っていかれるんだから。俺や揺花の相手になるやつなんてここには来ねぇしな」
私が獣馬君と揺花ちゃんを引き取ってから早、5年が経つ。
だけど、いまだに、Cランクチームとして、地球戦の予選大会にさえ出場できていない。
理由は獣馬君と揺花ちゃんとバランスが取れる他のチームメイトがいないためだ。
二人が他の選手に合わせてレベルを落とせば、地球戦さえ、勝ち上がるのは不可能になる。
だから、どうしても獣馬君と揺花ちゃんと釣り合いの取れるチームメイトが必要だった。
私が獣馬君と揺花ちゃんと出会えたのは奇跡。
そうそう、これほどの逸材に出会える訳はない。
だけど、そのせっかくの逸材も活躍させてあげることができていない。
私は才能を腐らせているのかも知れない。
風の噂で、恭起君と聖良ちゃんは涼一君の後継者として宇宙戦大会で活躍していると耳にしている。
宇宙戦大会では地球戦とは比べものにならないライバル達がひしめきあっていて、想像力を鍛えるには最高の環境と言える。
だから、幼い頃を同じ様に育ったのに、その後の引き取り手の差でここまで差が開くのかと内心ショックを受けてもいる。
選手としてだけじゃなく、監督としても涼一君には遠く及ばないのかと思ってしまう。
現に、獣馬君と揺花ちゃんは二人が戦う時でしか本気になれない状況だ。
出会った時より格段に成長はしているけど、それは獣馬君には揺花ちゃんが、揺花ちゃんには獣馬君が居たからで、私のお陰じゃない。
引き取ったのがもし一人だったのなら、私はその才能を枯れさせていたかも知れない。
何とか二人に舞台を用意してあげたいと思う私はできることは何でもした。
その一つとして、先日、非公式ながら、かつてのレギュラー5人とICで私は対戦して、勝つことができた。
レギュラー5人はすでに現役選手ではなく、引退しているため、勝ったからと言って、私の方が強いという証明になるかと言えば正直、ならない。
だけど、唯一のCランクチームだったうちのチームのBランクへの昇進が検討されている。
Aランク、Bランクを指揮する監督に勝ったという事が一応、それなりに評価されたという事だろう。
選手としての力と監督業はまた別物なので、監督にICで勝ったから良い監督になるとは限らないのだけど、一つ解った事がある。
レギュラー5人が何故、宇宙戦大会で勝てなかったかだ。
それはとても簡単な事だった。
同じ題材のキャラクターを想像したら、私は彼らの足元にも及ばないだろう。
彼らは多額の資金援助を受けてそこの部分を徹底的に鍛えられていたのだから。
だからこそ、地球チームのレギュラーになれたのだ。
だけど、それは誰かが作ったものの二次創作という意味での話だ。
彼らは独自のオリジナルキャラクターというものを作った事がない。
神話や伝承、アニメや漫画、ドラマ等々、誰かが、一度制作した者の中からキャラクターをチョイスして、それに対して徹底的なアレンジを加える。
それが、彼らのICのスタイルだ。
だけど、想像力そのものを考えた場合、二次創作のものよりもオリジナルのものの方が圧倒的なパワーを秘めている。
二次創作ではオリジナルに勝つことはできない。
二次創作はあくまでもオリジナルの世界観あっての二次的な創作だからだ。
仮に、オリジナルを超えるものができたとしたら、それはもう、二次創作ではなく、独立したオリジナル作品と呼んで良い。
すでに二次創作ではなくなっているはずだ。
つまり、レギュラー5人の考える設定は確かに凄いとは思うけど、それはオリジナルの要素を活かしたものであって、オリジナルの領域を飛び越えた設定ではない。
オリジナルの存在感があってこそ、レギュラー5人の考えた設定が生きるのだ。
つまり、オリジナルの持つ底力はレギュラー達の考えたICにはない。
だから、地球戦では通用しても宇宙戦大会では全く通用しなかったのだ。
当時はその応用力に圧倒されてはいたが、地球にはレギュラー5人をしのぐ、オリジナル設定を考えられる人間はゴロゴロいるはずだ。
だけど、地球戦でのルールが、宇宙戦大会で通用する逸材が上に上がる事を阻止しているとも言える。
今まで、地球戦では、認知度というパラメーターが重要視されていたからだ。
つまり、有名なキャラクターを使えばそれだけステータスが飛び抜けて上がる。
そのため、オリジナルキャラクターを考えるより、誰かが考えて、アニメなどで広まって有名になった二次創作のキャラクターの方が優遇される土壌ができていた。
最近になって、地球でもオリジナル要素というのが評価されて、認知度と同等以上までパワーが引き上がるようになっている。
このままでは宇宙戦大会では全く勝てないとして、ルールが変更されたのだ。
そう――まだ、二次創作が優遇されている部分もあるが、かつてのレギュラー5人はこの新ルールのバトルでは勝てなくなって来ているのだ。
彼らは、監督業に退くことでしか、その存在を示せないのだ。
彼らは多額の資金で鍛えられた手前、使えませんでしたではすまされない。
そういう意味では私よりも追い詰められているのだろう。
今回も次第に評価されはじめた下のランクのチームの歯止めを考えて、当時のリザーバーだった私をレギュラー5人が倒す事によって、その存在感を示したかったのだろうけど、逆に評価を下げてしまったのだ。
獣馬君達は知らないけど、最近ではAランク、Bランクにこだわらない実力者が増えてきている。
つまり、Dランクにも良い逸材は居る。
むしろ、Aランクのブランドを気にしている方が質が悪くなっている。
このままだと逆転現象が起きるとも言われているのだ。
なのに、私達のチームに実力者が集まらない理由――
それは、本当の実力者に私もレギュラー5人と同レベルだと思われているからなのだろう。
かつてのレギュラー5人が実力的にいまいちだというのは想像力のある人間ならば、比較的容易に想像がつく。
そういう人達はAランクやBランクを嫌う。
問題はCランクのうちのチームも同じだと思われているという事だ。
どっちつかずの宙ぶらりん状態――それがうちのチームの現状だ。
獣馬君と揺花ちゃんの凄さを何とかアピールして、優秀な人材を――それがうちのチームの第一目標だ。
獣馬君は仲間とかそういうのはあまり気にしないタイプだから、うちのチームに来て欲しいというアピールには賛同しないだろう。
やはり、キーとなるのは揺花ちゃんの方だろう。
彼女の考えたアイドルICは良い宣伝材料になるはずだ。
普段の彼女は獣馬君と同様に他の選手とのバトルは自身の想像力をぼかしたものを使っている。
獣馬君が落書きのようなものなら、彼女はアイテムだ。
落書きのようなものは彼女の美意識が許さないのか、他の選手が身につけるサポートアイテムとしてのICを作っている。
強力な力を引き出すというよりはメインとなるICの欠点を補うような作り方をしているので、飛び抜けて凄いとは言えないICに上手くまとめている。
それなりに作りたい物を作っているという点では獣馬君よりも器用にやっていると言える。
だけど、彼女もまた、実力を思う存分に出せていない。
この環境は変えないといけない。
そこで考えているのは夢命祭(ゆめまつり)だ。
夢命戦から派生したイベントで、バトルは行わず、キャラクターの人気を競う、地球独自のICの祭典だ。
そのオリジナルキャラクター部門に揺花ちゃんのICを出場させる。
上位に食い込めたなら、それがアピールにもなるはず。
獣馬君と揺花ちゃんを知ってもらう。
彼らを前面に出して、彼らと共に戦ってくれるチームメイトを確保する事が私がするべき事だ。
揺花ちゃんにはアイドルIC最低3体の制作を依頼している。
ユニットを組ませて夢命祭に出場してもらうためだ。
獣馬君には道場破りと戦ってもらおうと思っている。
実は、CランクチームにはBランクやAランクチームに入るために実績を作る目的で挑戦してくる輩が結構、多く存在している。
今まで、獣馬君、揺花ちゃん以外のメンバーの自信喪失を懸念して、対外試合は禁止していたけど、考えて見れば腕に自信がある人が道場破りをするのだ。
本当の実力者はDランクに集中しているという噂もあるが、何も、全員がDランクにいる訳じゃない。
中には実力を示したくて、Aランクに入ろうとする実力者もいるはずだ。
上手くすれば、その挑戦者達の中からうちのチームに入ってくれる人達もいるかも知れない。
私はそう考え、方針転換することにしようと思っている。
それには理由が必要だ。
でもその理由はある。
うちのチームのBランク昇進だ。
今まではCランクチームは1チームだったので、チーム名もCランクチームにしていたが、Bランクへの昇進によって他にもBランクのチームがあることから名前をBランクチームにする訳にもいかない。
万が一、Cランクチームのままでも、今後の地球の方針で、Dランクチームの優秀チームはCランクへの格上げも検討されているというし、ランク内唯一のチームという事にはならないだろう。
つまり、新しいチーム名が必要になる。
その新しいチーム名になった事を切っ掛けに方針を変更、対外試合も受け付けるという事にしようと思っている。
チームが生まれ変わるんだ。
新しいチーム名はもう考えている。
チーム昴(すばる)だ。
獣馬君達は何で昴なんだ?といっていたけど、
これは一つに集まるという意味の【統ばる(すばる)】にも通じている。
一つの目標に向かってチームが一つになってやっていくという私の願いも込められているこれ以上ないチーム名だと思っている。
これからは勝つためのチーム作りをしていく。
私は心に誓った。
第三幕 第三の少年
Cランクチーム改め、チーム昴となって早、一月が経った。
ランクも無事、Bランクに昇格した。
揺花ちゃん達女子5人は順調に夢命祭の予選を勝ち上がっている。
彼女が参加しているのは戦いがメインではないので、彼女の心配はいらないだろう。
あっちは楽しい祭典なのだから。
あくまでも、彼女の作ったキャラクターの魅力での勝負。
夢命戦ならともかく、夢命祭のイベントに私がアドバイスできるような事はない。
しっかり者の彼女の事だ。
ちゃんと自分の仕事をしてくれるだろう。
彼女の作った、アイドルICは素晴らしい。
フローエル、レディーナ、スヴァラシーナ、チャンミンの4体のICをメインにして、20体のサブICを使って、様々なユニットを組むという4トップアイドルシステムは完璧だ。
サブICの組み合わせでどのようなフォーメーションもできるし、彼女の考案した歌昇力(かしょうりょく)システムで歌を歌う事によってICを何倍もの戦闘力に引き上げるという戦い方は夢命戦で戦ったら他の選手にとって途轍もない脅威となるだろう。
もちろん、見た目も良いから、夢命祭でも十分、活躍できる。
既に、【24フェイス】として、実際のアイドルデビューの話も来ている。
彼女は【24アイドル】で行きたいみたいだけど。
余談だけど、やはり双子かと思うわね。
宇宙戦で活躍中の妹の聖良ちゃんも【24アクトレス】というICを使っているらしい。
何でも、コスプレシステムというのを考案していて着替える事で戦闘力を高める事ができるというらしいけど、いつか姉妹対決とかさせて見たいわね。
そんな揺花ちゃんがうまく引っ張って夢命祭はやっているみたいだし、心配はしていない。
それよりも、問題は挑戦者達の挑戦を受けている獣馬君達男子16人の方だ。
獣馬君以外は挑戦者達に全敗という体たらく。
お陰で、挑戦者達は獣馬君に集中することになる。
また、他の15名に勝てたとは言え、挑戦者達も獣馬君の相手にならない。
獣馬君もチーム昴が全敗する事だけは避けたいので、勝っているがまるで本気にはなっていない。
さすがに落書きICは使う事は無かったが、ずっと生活を共にしてきた私には解る。
かなり手を抜いて戦っている。
正直、獣馬君レベルの選手と戦える選手は地球上にはいないのではないかと思えてくる。
それに不甲斐ないのは他の15名だ。
もう少し、勝つつもりになって戦ってくれないかなと思ってしまう。
人数は足りている訳だから、彼らがもっと頑張ってくれれば、地球戦に出場することだって不可能ではないのだから。
だけど、彼らにはどうしても勝つという気持ちが欠けている。
夢命戦は勝つ事だけが全てじゃない。
だから、彼らの様に楽しんでやるという人達も居ても良いと思う。
だけど、獣馬君と揺花ちゃんはそれじゃだめだ。
あの二人は上を目指すべきだ。
だから、二人と共に上を目指す仲間を増やしてやりたい。
二人を引き取ったあの日から私はずっと思っている。
だけど、ここ一ヶ月、獣馬君は【ルート】というキャラクターを使っている。
ルート――
【冒険者ルート】というアニメのキャラクターだ。
本来、完全オリジナルキャラクターをメインで作るタイプの獣馬君らしからぬキャラクターだ。
つまり、彼が作りたいキャラクターで戦ってはいない。
彼が本気になれる挑戦者達が現れていないという事だ。
このやり方も失敗――
私はそう思い始めていた。
だけど、その日は違っていた。
今までは挑戦者達に適当に対戦の順番を決めさせていた。
「温子、今日は一人だけ順番決めて良いかな?」
獣馬君は確かにそう言った。
「い、良いけど、どうしたの?急に……」
「右から、3番目のあいつ……あいつは一番最初か最後にしてくれ。その時、ICを変える」
「どういう事?」
「ようやく、本物が来たって事かな。雰囲気で解る。あいつは持っているやつだ。【ルート】でやったら多分、負けちまう」
「右から3番目……名簿によると二階堂 諷太(にかいどう ふうた)君ね。彼はできるの?」
「わからねぇ。ただ、今までの奴は俺達のチームにはAチームに行くためのついでとして来ていた。だけど、あいつは俺と戦うのを目的として来ているようだ。他の奴とは目が違う。俺を敵視している」
「そうなの?私には解らないけど……」
「温子は鈍いからな」
「に、鈍い……」
「揺花が居ても同じ事言ったはずだぜ。あいつには手加減ICはいらねぇってな」
「解った。獣馬君がそういうなら、彼は手続き上の不備があったとして最後に戦ってもらうわ。他の挑戦者が貴方達の戦いを見て、戦意を喪失しないようにね」
「それで良いよ。【ホワイ】を持ってきてくれ」
「解った。彼との戦いの前までに持ってくるわ」
「頼む」
――【ホワイ】――
獣馬君が作った、最初の完全オリジナルICだ。
つまり、獣馬君が本気になって相手をしないと勝てない相手が来たという事だ。
これは勝ち負けに関わらず、後でスカウトをしなくては――
私はそう思った。
その後、他の挑戦者達と獣馬君のバトルが順番に開始されたが、私にとってはこれは消化試合。
今日の最終戦、獣馬君対諷太君の戦いに意識を持って行かれてしまっていた。
これは、夢命戦のチームの監督としては失格なのかも知れない。
だけど、獣馬君と揺花ちゃんの保護者としては彼らに日の目を与える事ができるかも知れない切っ掛けができたという事が嬉しかったのだ。
試合は順次進み、最後の諷太君との戦いを残すのみとなった。
「なぁ、あんた、何で、俺にそんな敵意をむき出しにしているんだ?」
獣馬君が尋ねた。
「決まってるだろ。おれっちは手抜きをして、バトル奴が大嫌いだ。おれっちには解る。お前、手抜きしているだろ?」
「してたとしたら?」
「ぶっ潰す!」
あら?
すんなり、スカウトという訳にはいかないかな……?
諷太君の方は闘志メラメラという感じね。
とりあえず、彼の戦い方を見せてもらわないと。
「じゃあ、今日の最終戦、二階堂 諷太君対、うちの温水 獣馬君の戦いを始めます」
「ちょっと待ったぁ!」
「えっ?何、二階堂君?」
「諷太で、かまわねぇよ、お姉さん」
「そ、そう?じゃあ、諷太君、何かあるの?」
「おれっちのICはちょっと準備が必要なんで、準備するまでの間、みんな目をつぶっていて欲しいんだよな」
「え?どういう事?」
「ただでとは言わねぇよ。そっちはチーム全員、16人で良いよ。温水 獣馬も連戦で疲れているだろ?おれっちはそれで全然かまわねぇよ」
「俺は別に疲れてねぇよ」
「お前、一人が相手じゃ、おれっちの凄さは伝わらねぇっつってんだよ。良いから16人でかかってこいよ」
あくまでも勝ち気な諷太君だった。
それにカチンと来た15人は16対1の変則マッチに参加する事にした。
肝心の獣馬君は納得していないみたいだけど。
私としても諷太君の実力は見てみたい所だ。
とりあえず、彼の言うとおり、うちのチームは全員が目をつぶった。
何やらごそごそやっていたようだったけど、目を開けてビックリした。
諷太君はセッティングポジションの所に簡易性の囲いができていて中が見えないようにしていた。
セッティングポジションとはICをセットする場所の事だけど、それをわざわざ見えなくする意味が解らない。
変にいじくったら、エラーが出るはずだし。
彼はハッカーか何かなのかしら?
よく解らない事をする子ね……
「あの、諷太君、これは?」
「良いから、良いから、さぁ、はじめようか」
「悪いけど、俺はチームプレイは苦手なんだ。他の15人との戦いを別の場所で見させて貰うけどかまわねぇか?」
「あぁ、かまわねぇよ。他の15人にはおれっちの凄さを示すために参加して貰っているようなもんだ。15人を始末した後で、お前のICをたっぷりなぶって潰してやるよ」
「………」
諷太君の真意はわからないけど、とにかく戦って見ればわかる。
私は試合の合図をした。
うちのチームは男子16人全員がフル出場だ。
武斗(たけと)君のICが【エンジェル・ソウル】という作品の【プレス】というキャラクター。
竜輝(りゅうき)君のICが【魔神ダイゴーレム】という作品の【魔神ダイゴーレム】というキャラクター。
勇人(はやと)君のICが【スーパーナイト】という作品の【カッチューン】というキャラクター。
勲(いさむ)君のICが【マックスユニット】という作品の【モスキート】というキャラクター。
庄一郎(しょういちろう)君のICが【魔神ダイゴーレム】という作品の【魔獣キーマイラー】というキャラクター。
治(おさむ)君のICが【スペシャルメニュー】という作品の【ウィナーマン】というキャラクター。
忠治(ただはる)君のICが【機動マシンドラゴンフェイス】という作品の【ドラゴンフェイス】というキャラクター。
久嗣(きゅうじ)君のICも【機動マシンドラゴンフェイス】という作品の【ドラゴンフェイス】というキャラクター。
善之(よしゆき)君のICが【ハザードマップ】という作品の【クリーチャー(名無し)】というキャラクター。
衛(まもる)君のICが【なすときゅうり】という作品の【かぼちゃ】というキャラクター。
紀夫(のりお)君のICが【ストイック】という作品の【小磯 良介(こいそ りょうすけ)】というキャラクター。
昭三(しょうぞう)君のICが【機動マシンドラゴンフェイス】という作品の【ダンディー】というキャラクター。
幹生(みきお)君のICが神話から【ヒドラ】
智宏(ともひろ)君のICが神話から【タイタン】
裕弥(ゆうや)君のICがオリジナルキャラクター【ブレイク】
みんなここぞという時のためのとっておきのキャラクターを使っている。
ICは下手に負けたら、溶けてしまうので、みんな同じキャラクターを5、6体は持っているとは言え、対外試合では使ってこなかったのに……。
獣馬君もオリジナルキャラクター【ホワイ】を使うし、下手すると、諷太君、あっという間にやられてしまうのではないか……
――そう思ったけど、それは間違いだった。
「ば、化け物……」
幹生君がそうつぶやいた。
彼が使っている【ヒドラ】も化け物の部類に入るけど、その見た目が化け物を使っている幹生君がそうつぶやくのも無理は無かった。
タダでさえ大きい幹生君の【ヒドラ】や智宏君の【タイタン】が見上げる程の大きさを持つ諷太君のオリジナルIC【巨魁(きょかい)】はとにかく大きかった。
湖のエリアが水たまりに見えるくらいに。
それだけじゃない。
彼は、さっきまで、獣馬君が使っていた【冒険者ルート】の【ルート】のバリエーションを99体用意していた。
つまり、【巨魁】と【ルート】を合わせて、100体同時に操っているという事になる。
「わっはは、わっはぁ〜見たか雑魚共、おれっちの【巨魁】と【ルート】の連合軍はぁ」
高らかに笑う諷太君。
「汚ねぇぞ」
「100体も使うなんてずりぃよ」
「何が、汚ねぇもんか、宇宙戦じゃ、一人で複数体、同時に操るのは当たり前の事だ。悔しかったらお前らも使えばいいだろうが」
そう、諷太君の言う通りだ。
宇宙戦を視野に入れるなら、複数のICを使って戦うのはごく当たり前の事。
地球戦では一体のICの精度を上げるという事が重要視されているからみんな一体のICに自身の全ての想像力を注ぎ込んで作っているけど、それは宇宙戦では通用しない。
もっと幅広い想像力が求められるからだ。
自分達にできないからと言ってずるいというのは間違っている。
うちのチームの男子15人と諷太君の違いはそこにある。
間違いない。
諷太君はかなりの実力者だ。
言動は後でなおしてもらうとして、是非ともうちのチームに欲しい。
とは言え、今の時点では彼はうちのチームの敵。
チーム昴の監督の立場としては15人にもガンバって欲しい。
が、そんな願いも虚しく【巨魁】のひと薙ぎで、3人がやられた。
99体の【ルート】は森林エリアにいる獣馬君の【ホワイ】と戦うために移動させている。
つまり、15人を相手に【巨魁】だけで戦うつもりのようだ。
「じ、陣形を整えろ」
「囲め、囲むんだ」
勇人君や庄一郎君が立て直そうと指示をだす。
「わっはは、わっはぁ〜無駄無駄ぁ、それ、もういっちょお」
「うあっ」
「ぎゃあっ」
今度も2人やられた。
あっという間に三分の一が倒された。
「獣馬君、獣馬君はどうしてるの?」
「うははっ、あいつなら、今頃、99体の【ルート】と……」
上機嫌で、話した諷太君の動きがピタッと止まる。
「何?何がどうなっているの?」
状況が読めない、自分でも動揺しているのが解る。
「あんにゃろ、よくも俺の【ルート】を……」
余裕顔だった諷太君の顔が険しい顔に歪む。
私は別モニターに映し出されている獣馬君の戦いを見た。
獣馬君は99体の【ルート】とたった一人で戦っていた。
だけど、それを操っている諷太君はうちの15人のICをいたぶるのに意識を持っていっていた。
その99体のへの意識が薄くなっている隙をついて、次々と【ルート】を行動不能にしていった。
考えて見れば、いかに100体いようと動かしている人間は諷太君ただ一人。
諷太君が15人を相手にしているのならば、その隙に獣馬君は、前もって動きをインプットさせて動かすサブバトルオペレーションで攻撃させている99体の【ルート】が予測できない動きを【ホワイ】にさせて始末していった。
【巨魁】を使って15人と戦っている諷太君の【ルート】への意識の集中は半分以下。
そんな状態での諷太君の【ルート】は獣馬君の【ホワイ】の敵じゃない。
「くそったれがぁ」
慌てて、諷太君は10人を倒して、【ホワイ】の居る場所に【巨魁】を移動させた。
だけど、時、既に遅し――
残ったルートは30体を切っている。
獣馬君の力を侮った、諷太君の作戦プランミスだ。
獣馬君と一対一の戦いだったならば、彼をもっと苦しめられただろう。
だけど、諷太君の慢心が、獣馬君に【ルート】を倒させる切っ掛けになってしまった。
監督としての私がするべきことは諷太君がこのチームに来たら、この部分を変えてあげないといけないな。
慢心さえ捨てれば彼ももっと強くなると思う。
「よぉ、遅かったな。全滅させるのもなんだから、ちょっと残しておいたわ」
「ふざけやがって、よくもおれっちの【ルート】を……」
「手を抜いているのはお互い様だったな。お前も十分、俺を舐めてかかっているじゃねぇか」
「ぶっ潰す」
激昂した、諷太君は残った【ルート】と【巨魁】を使って波状攻撃をしかける。
だけど、動揺している諷太君は次々と残った【ルート】も【ホワイ】の手によって戦闘不能にさせられていき、焦り、また、犠牲を払うという悪循環のスパイラルに陥っていった。
気づいた時にはあれだけいた99体の【ルート】は全滅、【巨魁】だけが残っていた。
「俺達は俺以外は全滅、お前も99体の【ルート】は行動不能状態だ。ここらで痛み分けって事にしねぇか?」
「ふざけるな、帳尻があわねぇだろうが、そっちは15体、こっちは99体だ」
「数を言うならそっちは1人、こっちは15人だ」
「【ルート】を倒したくらいでいい気になるなよ、あんなのはお遊びで作ったただのオマケだ」
「だから弱かったんだな。それは俺と同じで手を抜いているって事じゃないのか?」
「お前に合わせたんだよ」
「これ以上やるんなら、その自慢の【巨魁】とやらも行動不能になるかも知れねぇよ?それでもやるのか」
「おれっちの【巨魁】は無敵だ。やられるのはお前のひょろくさい【ホワイ】の方さ」
「ひょろいか……こいつが何で【ホワイ】っていうか解るか?」
「知るか」
「こいつは俺が作った最初のオリジナルICだ。俺は温子に引き取られるまでICができない生活をしていた。ずっと誰かになりたかった。もっている誰かに――」
「何、訳のわからねぇ事言ってんだよぉ」
【巨魁】が突進する。
【ホワイ】はひらりとかわし、次の瞬間――
「え?」
私は思わずつぶやいた。
「ば、ばかな……何で……」
諷太君も驚いて動きが止まる。
目の前にもう一体【巨魁】が出現したからだ。
そして、その新たな【巨魁】が諷太君の【巨魁】を殴り倒す。
「何が、起きたかわからねぇってつらだな」
もう一体の【巨魁】の中から獣馬君の声がする。
すると、これは【ホワイ】なの?
もう一体の【巨魁】はすぐに【ホワイ】に戻った。
【巨魁】は今の一撃で、大ダメージを負った。
破壊はされていないがまともに動ける状態ではなくなった。
「説明しろ、何をした?」
「今度は話の腰を折るなよ。俺は当時、何も持って無かった。だから、温子をはじめ、いろんなやつから色んな事を教えてもらい力をつけていった。その過程で生まれたのが、【一瞬の魔法】って言う相手プレイヤーの力を一瞬だけコピーできる力を持たせた【ホワイ】だ。学は真似ぶだ。はじめは真似からやるもんだろ」
「な、猿真似なんぞに……」
「まぁ、最初に考えたICだからな、そんなもんだろ……お前だって、俺の【ルート】の噂を聞いて参加しているから【ルート】に合わせて作ったICだろ、この【巨魁】ってやつも含めて。そいつはでかくて怪力なだけだ。とても宇宙戦大会を勝ち残れるICじゃねぇ。お互い、本気のICを使ってないなら、もうこのバトルに意味なんてねぇと思わねぇか?」
「………」
「お前は性格はちょっとあれだけど、なかなか見所があるやつだと思う。今までは揺花としか本気で戦えなかったからな、お前がうちのチームに入ってくれると俺も嬉しいんだけどな」
「な、なんだよ、おれっちへの愛の告白かぁ?」
「スカウトっつって欲しいな」
手をさしのべる獣馬君。
雨降って地固まるじゃないけど、お互いを認め合った瞬間に見えた。
「ふんっ、まぁ良いだろう。本気じゃないお前を倒しても意味ないからな。本気になるまで、このチームに入ってやっても良い――ただし、条件がある」
「条件?……って?」
「よ、揺花ちゃんを紹介してもらおうか」
「は?」
「だ、だから、揺花ちゃんをだなぁ……」
「お前、ひょっとして、揺花の事……」
「ち、ちが……おれっちは純粋に彼女のファンというか……」
「何だよ、早く言えよ」
「それとお前が揺花ちゃんになれなれしいのが気に入らねぇんだよ」
「しょうがねぇだろう、俺と揺花は兄妹みたいなもんだしな」
「何も無いんだな。絶対、揺花ちゃんと何にも無いんだな」
「しつけーな、何だよ、急に」
「そこをはっきりしろ」
「何をはっきりすんだよ?」
「解るだろ?」
「解らねぇよ」
二人が言い合っているのを私はほほえましく見ている。
心配することは何もなかった。
諷太君は揺花ちゃんのファンになって同じチームに入りたかったみたいだ。
恋愛感情もあるみたいだけど、それは同じ年頃同士、本人達で何とかしてもらうって事で。
後で諷太君は15人の男子に謝った。
数々の暴言を吐いてしまったことをだ。
後、獣馬君に――
「温子は自分が不甲斐ないと思っているみたいだけど、俺にとっては十分、色んな事を教えてもらった大事な師匠だ。俺はこのチームに入れて楽しいよ」
と言われた。
私が気にしていたのを気遣って言ってくれたのだろう。
彼は優しい子なのだから。
何にしても、少しずつ、チームが動き出して来ている気がする。
獣馬君、揺花ちゃん、そして、新たに加わった三人目の諷太君。
宇宙戦を戦える戦力としてはまだ、最低でも二人は必要だ。
だけど、揺花ちゃんのPRが上手くいっているから諷太君も来てくれたのだ。
この調子で、少しずつ活動を大きくしていこうと私は思った。
第四幕 宇宙戦の舞台
俺は氷室 涼一――
かつて地球チームに在籍していた元地球人だ。
今は型星人(かたせいじん)としての市民権を得ている。
十八番と呼ばれる18の宇宙戦大会――
その第三位の宇宙戦大会の出場資格を俺のチームは得ている。
宇宙の各地から夢命戦を戦うにあたり優秀な人材を捜し回ってチームをつくった混成チームだ。
地球人としての未練からか地球人も二人、俺の養子として引き取り、チームのメンバーとして加えている。
一人は氷室 聖良。
双子の姉の温水 揺花と離して育ててしまったから、引き取った五年前はふさぎがちだったが、今は吹っ切れたのか独自の【24アクトレス】というICを考え出し、コスプレによって能力を変化させる事が宇宙戦大会でも評価されている。
今では彼女のICを真似る選手も出てきている。
なんにせよ、その分野の開拓者、パイオニアであるという事は想像力においてかなりのアドバンテージが期待できる。
これからのプレイも期待できる十分な有望選手に育ってくれた。
感情の起伏が乏しいところがあって、それが、自身のICを活かしきれていないところがあるが、感情表現を覚えれば、彼女はもっと飛躍的に伸びるだろう。
もう一人は氷室 恭起。
五年前、彼は自ら、俺と来ると言ってきた。
だから、正直、期待もしたが、今は伸び悩んでいる。
温子の元に置いて来た、獣馬という少年が居てはじめて彼は伸びるタイプだったようだ。
獣馬少年が居ないこの環境では代わりのライバルを用意しなくてはならないとは思っているが、適度なライバルは見あたらない。
何にせよ、獣馬少年の存在に頼っている意味では真の強者にはなれない。
獣馬少年からあえて離れるという選択をしたのは評価に値するところではあるが。
だが、彼はずっとうちのチームのレギュラーを取れていない。
引き取った手前、地球に送り返す事はしたくない。
が、今のままでは彼に居場所はない。
聖良との差が開くだけだ。
彼には十分な情報を見聞きさせている。
元々持っている素質も悪くない。
だが、競いあえる同レベルの選手が近くにいないという事はそれだけ成長にも影響するようだ。
我が、チームオールフリーダムはチーム名が示す通り、全てが自由をモットーにしている。
束縛されない、自由な発想こそが、最良と考えているからだ。
だから、選手が欲しいと思ったものは可能な限り与えて来たし、適度な試練も与えてきた。
それを突破する事で、選手は成長していった。
聖良の例がそれだ。
だが、恭起は試練を突破できていない。
何時も投げ出してしまう。
第三位大会での三度の優勝にも全く貢献していない。
11人体制の少数精鋭でやっているうちのチームでは活躍していないという事は逆の意味で目立つ。
本来ならば、第二位大会への参加手続きを行いたいところだが、それを中断して、彼に活躍の場を与えるための舞台を探している。
第二位大会はこれまでの大会のようにはいかない。
第二位大会、そして、第一位大会は別格、超別格のチームが数多く出場している超激戦大会だ。
今のままのうちのチームが参加しても第二位大会ですら、ベスト2048位にも入れないだろう。
恭起には才能がある。
ただ、それを開花させる切っ掛けがまだ無いだけだ。
俺はそれを探してやる義務がある。
彼を引き取った保護者としての責任が。
彼が作り出したICを分析してみた。
彼が作っていったICはこの五年で118体。
どれもアニメや漫画、神話などの別の可能性を示したものだ。
基本的にはオリジナルではないが、あのキャラクターが別の人生、別の出会いを経験していたらどうなっていたかを考えるという事なので二次創作の部類に入る。
だが、彼の場合は出会うキャラクターをオリジナルで考えている。
孤独を売り物にしていた戦士に恋人を作ったり、一人っ子に兄弟を作ったりなどがそれだ。
既存のキャラクターに別の要素を加える事でオリジナルの部分を作り上げている。
また、別の作品のキャラクターをチョイスして、オリジナルの世界観で物語りを作り、その上で、改めてキャラクター構成を考えていたりもする。
その意味では半オリジナル創作とも言える。
だが、完全オリジナルの創作と比べるとどうしてもイメージ力で弱い部分が出てきてしまっている。
本当に作りたいイメージがまだ決まっていないという事なのかも知れない。
それを物語っているように、創作している118体には一貫性が無い。
まるで迷走しているかのようにバラバラだ。
恐らく、まだ、本当に好きなものが見つかっていないのだろう。
好きなものに傾ける情熱というものが想像力を引き上げる。
好きなものが解らない彼が、本当に作りたいイメージと出会った時、彼は大きな成長を遂げるに違いない。
俺はそう確信している。
そして、その確信は現実のものとなった。
一度、チームから離れさせ、氷室 恭起個人として、武者修行として、様々な夢命戦のバトルに参加させていった。
あるバトルで彼はそのヒントを掴んだようだ。
チームに帰ってくるなり、彼はIC制作ルームに一人籠もり、寝る間も惜しんで制作に没頭している。
近いうちに俺もビックリするようなICを完成させるのではないかと思えるような目力を感じた。
これで、氷室 涼一の息子としてではなく、チームオールフリーダムの正式な選手として、戦いに送り出す事ができるようになるのではないかと期待している。
子供の成長というものは嬉しいものだな――
選手時代、温子という悩みを相談できる存在はいたが、常に孤独を意識していた俺としては、我が子と呼べる存在ができたのを正直、喜ばしく思えるようになってきた。
今では、恭起と聖良を引き取って本当に良かったと思えるようになった。
最初は強い選手を獲得するための関係に過ぎなかったが、五年間、一緒に暮らし、育てていく内に、愛情のようなものが湧いてくるようになったのは俺自身も驚いている。
俺もまるくなったってことかな……。
一つの悩み事が解決しかけ、俺は次の思案をすることにした。
数日後、彼は俺の期待に応えるように完全オリジナルキャラクターのICを作ってきた。
【スターサモナー】――
圧縮惑星の中で召喚するモンスターを育て、バトルで召喚するというタイプのICだ。
召喚は珍しい言葉ではないが、ICをセッティングポジションに設置することでバトルする夢命戦においてはキャラクターの召喚という概念はほぼ無いと言って良い。
だが、圧縮惑星というものを作る事によって、中にいるキャラクターを隠した状態でプレイを開始する事ができる。
この意味では新たな開拓とも言える。
十分、うちのチームでレギュラーになれる素晴らしいICだ。
俺は彼を誇りに思った。
それでこそ、俺の息子だと。
俺にできる事は次の舞台を容易してやることだ。
第二位大会――
別名、原作者の大会――
二次創作を産み出す原作のある有名なアニメや漫画などで、オリジナルの要素を持つ場合がある。
それは原作者自らがICを作るという事。
たくさんのファンを持つ作品の原作者という事はそれだけ、オリジナルで強大なパワーを持つICが作れるという事でもある。
地球戦ではアニメなどの原作者は原則として、戦いに参加していない。
理由はアニメなどが持っている世界観を壊さないためだ。
だが、宇宙戦大会では原作者も参加する。
自分の作品のキャラクターに自信を持っていて、負けないと思えるからこそ自身の考えたキャラクターを夢命戦の戦いに参加させている。
夢命戦での敗北は自身の作品のイメージを破壊する事になるかも知れない諸刃の剣でもある。
だけど、宇宙ではそれが当たり前となっている。
第二位大会はその実力派原作者達が数多く参加する大会。
物語を考え出せる程、想像力の優れた猛者達がひしめく大会。
キャラクターを考えるだけの想像力とは比較にならない程、強大な想像力を持っている。
果たして、うちのチームで通用するのか……?
それは解らない。
だが、グズグズもしていられない。
トップ大会、第一位大会では今、去年の大会が原因で三つに大会が分かれようとしている。
去年の決勝大会、超激戦を勝利した優勝チームと惜しくも敗れた準優勝チーム――
その判定を巡って、第一位大会は二つに割れた。
決勝での判定は微妙でどちらが勝ったとも言える状態だった。
だから、どちらのチームも自分の勝ちを主張した。
結果、最初の判定が覆る事はなかった。
それにより、優勝チームを擁護するチームと準優勝チームを擁護するチームの二つの派閥に別れ、優勝チームとそれを擁護するチームの大会を第一位陽大会、準優勝チームとそれを擁護するチームの大会を第一位陰大会で開催することになった。
更に、その二つに異を唱える派閥が出た。
それはどちらにも賛同しないチームと本当の強者は別にいるとするチームで作られた派閥だった。
去年の第一位大会――本当の最強とされるチームが参加を辞退していた事からトップ100に入る強豪チームは全て参加していなかった。
そんな中で優勝しても仕方がないと言う理由でだ。
その結果、本来ならばトップ100にも入らないだろうチームが優勝と準優勝になるという結果となり、滅多にとれない優勝の座を巡って、優勝チーム、準優勝チームが争う事になったのだ。
つまり、去年の優勝、準優勝は本当の優勝、準優勝ではないとするチームが数多く存在している。
そのチームが参加しなかったトップ100のチームを巻き込んで、さらに別の大会を作った。
それが、第〇位大会、もしくは真王者大会だ。
去年のこの事件は夢命戦始まって以来の大事件とされている。
残念ながら、うちのチームは蚊帳の外だった。
将来的な目標はこの最高の表舞台にうちのチームを立たせる事。
それまでは、挑戦あるのみ。
まずは第二位大会に殴り込みだ。
俺は、戦略を練りはじめた。
登場キャラクター紹介
001 温水 獣馬(ぬくみず じゅうま)
本作の主人公。
地球最低ランクと言われたEランクの町出身の少年。
想像力を評価され、温子にスカウトされる。
温子の養子となり、想像力を磨き、チーム昴の最強の選手の一人となる。
使うICはらくがきIC、【冒険者ルート】というアニメの【ルート】、オリジナルキャラクター【ホワイ】等。
002 温水 温子(ぬくみず あつこ)
本作の語り部その1。
元、地球チームのリザーバー。
チーム昴の総監督を務めている。
獣馬と揺花を養子として引き取ってはみたものの彼らに日の目をみさせるための舞台を用意できずに日々悶々としている。
003 温水 揺花(ぬくみず ようか)
温子が引き取った元Eランクの町で生まれ育った少女。
聖良とは双子の姉妹で、姉。
優しく気を配れる性格。
フローエル、レディーナ、スヴァラシーナ、チャンミンという4体のICをメインにし、20体のサブICを使って、様々なユニットを組むという4トップアイドルシステムを確立している。
歌う事によって戦闘力を引き上げる歌昇力(かしょうりょく)システムを考えている。
4トップアイドルシステムのIC【24アイドル】(または、【24フェイス】)としてはキャラクターアイドルとしての人気も出てきている。
004 氷室 涼一(ひむろ りょういち)
本作の語り部その2。
かつての地球チームのリザーバーとして、最大の成績をおさめた優秀な選手だったが、地球では評価されず、宇宙で評価された。
地球人としての生活を捨て、型星人(かたせいじん)としての生活を選択した。
十八番(おはこ)という夢命戦(ゆめいくさ)の十八大大会の案を採用される。
その後、第三位大会での優勝チーム、チームオールフリーダムの総監督として、その地位を不動のものとする。
宇宙をまわり、精鋭を集めるが地球の事が忘れられず、地球からも聖良と恭起という二人を息子としてスカウトしている。
005 氷室 聖良(ひむろ せいら)
氷室 涼一の養子となった少女。
揺花とは双子の姉妹で、妹。
感情表現が苦手。
コスプレシステムを考案し、それを活かした4トップアクトレスと20のサブアクトレスで構成される【24アクトレス】ICを考え出した。
女優として必要な感情表現がまだ、ICに活かす事ができていないため、伸びしろはまだある。
チームオールフリーダムではすでにレギュラーとして活躍している。
006 氷室 恭起(ひむろ きょうき)
氷室 涼一の養子となった少年。
獣馬のライバル。
涼一に引き取られて5年、長らくスランプ状態だったが、ある戦いを機会に自分のスタイルを見つけ、オリジナルIC【サモナー】という圧縮惑星で召喚するモンスターを隠してバトルに参加するスタイルを確立する。
007 二階堂 諷太(にかいどう ふうた)
チーム昴に入る事になる少年。
獣馬が使っていた【冒険者ルート】というアニメの【ルート】というキャラクターに対し、アレンジを加えた99体の【ルート】を全てバリエーションチェンジしたICと超巨大IC【巨魁】を駆使して獣馬と対決するも決着はつかなかった。
008 ホワイ
獣馬が初めて考えたオリジナルIC。
【一瞬の魔法】として、対戦相手のキャラクターに僅かな時間、一回だけコピーする事ができる。
009 巨魁(きょかい)
諷太が考えた見上げる程巨大なオリジナルIC。
耐久力とパワーはあるが、動きはそれほど速く無いため、宇宙戦大会では勝ち残れないレベル。