序章


「あぁ……俺のオーディーンがぁ……」
「見たか、おれのルシファー、堕天モードサタンを」
 二人の選手が戦っている。
 片方の選手が勝ったようだけど、残念ながら、この二人は彼らには遠く及ばない。
 想像力が低すぎる。
 正直、全く話しにならない。
 自身の想像力をキャラクター化させて戦うイメージスポーツ、夢命戦(ゆめいくさ)――
 黎明期から、イマジネーション・キャンドルシステムという一つの進化を経た。
 想像したものをフィギュアのように、形づくり、その頭頂部にろうそくの芯のようなものをつけている。
 これの名前をイマジネーション・キャンドルと呼ぶ。
 夢命戦は元々、想像力を使って戦うギャンブルとして始まったが、敗れた場合、想像力を傷つけるという欠点があった。
 だけど、イマジネーション・キャンドルに想像力をコピーすることによって、選手本人の想像力を傷つけるという欠点を解消した。
 負けたらショックは受けるが想像力に負担をかけるという事は無くなったという事でそれは爆発的に次世代娯楽スポーツとして浸透した。
 それは、地球を飛びだし、宇宙規模での大会にまで成長した。
 地球発祥の娯楽として、宇宙人達の間でも広まったのだ。
 だけど、それが、地球人の傲慢さを産んだ。
 その結果、ただ、一人の例外を除き、宇宙規模での大会では地球人は全く勝てないという無様な醜態をさらすことになった。

 私の名前は温水 温子(ぬくみず あつこ)――
 氷室 涼一(ひむろ りょういち)のいとこだ。
 彼のおかげというべきか、彼のせいというべきか、私は微妙な立場にいる。
 例外とは涼一君の事。
 今では彼、ただ一人だけが、宇宙でその存在感を示している。
 地球では彼の事を英雄と評価する者と裏切り者と罵る者の二つに意見が分かれている。
 いとこである私が微妙な立場だというのもそのためだ。

 地球戦は別として、宇宙戦大会は5人一組で、行われる。
 リザーバー(補欠)として2人が認められている。
 私と涼一君はリザーバーとして、唯一、宇宙戦大会で好成績をおさめた大会に出場した。
 地球での対戦成績は涼一君は完全無敗。
 どのようなハンディキャップマッチにも負ける事はなかった。
 文句なしの最強選手だった。
 だけど、地球側は彼をレギュラー選手としては決して認めなかった。
 理由は各国が多額の予算をかけて育てた5人の選手が他にいたからだ。
 その5人をレギュラーとして、私と涼一君はその補佐として、大会に参加した。
 結果はレギュラー5人は全く勝てず、諦めた時、最後に補欠として出た涼一君だけが勝ち続けた。
 結局、対戦成績はベスト128まで進んだ。
 それも今までは最後の最後に涼一君が出て5人抜きして勝ち上がって来たそれまでの試合と違い、レギュラー5人が出場してストレート負け、逆に5人抜きされての無様な敗北だった。
 涼一君は全く負けていなかったので、もし彼が出ていたら、もっと上の成績も夢では無かっただろうと私は思っている。
 彼の考えた【なれの果て】というキャラクターは本当に強かったからだ。
 とは言え、宇宙戦でのベスト128とは驚く程の好成績。
 地球では英雄扱いを受けた。
 地球での放送が無かったのを良いことに手柄は全部、レギュラー5人に持って行かれたが。
 涼一君と私はあくまでもリザーバーでしかなかった。
 そこまで徹底的に差別されたら涼一君が怒るのも無理はなかった。
 彼は地球を飛びだして、宇宙へと旅立っていった。

 その後どうなったか――
 地球ではレギュラー5人を評価したが、宇宙は地球を評価しなかった。
 夢命戦発祥の聖地から最低ランクの地に格下げされ、彼は逆に、評価されていった。
 宇宙戦大会の今では、彼が出した十八番(おはこ)という案が採用され、18大会が行われている。
 彼は、上から数えて3番目の大会の優勝チームの総監督としてその地位を確立している。
 逆に、地球側は十八番のどの大会にも参加が認められず、十八番に入らない予選大会の一つへの参加しか認められていない。
 十八番の大会に出場したかったら、その予選大会で優勝するしか参加資格が得られないという状態だ。
 こんな宇宙戦大会での状況をみたら、地球チームのレギュラー達の不甲斐なさと言うのは隠しても隠しきれるものじゃない。
 彼らはすぐに引退を余儀なくされた。
 彼らは監督業をする事で、自身達への疑念をかわした。
 また、地球側としては宇宙でただ一人、評価されている涼一君を英雄として、評価する人達と地球を裏切って宇宙に出て行ったと批難する人達の二つに分かれた。
 例え家族でも想像力というのは遺伝じゃないんだから、関係ないんだけど、涼一君といとこという事で、宇宙戦では全く活躍できなかった私もある程度の評価を得た。
 ただ一つのCランクチームの総監督としての地位が私の元に転がり込んできた。
 今、地球ではAからDの4ランクのチームが存在し、5つのAランクチームはかつてのレギュラー5人が総監督を務めるチーム、15のBランクはそのレギュラー5人が3チームずつ持っているサブチーム、Cランクは私のチーム、Dランクはそれ以外のチームという区分けだ。
 ランク付けはされているけど、AランクとDランクが力の差があるかと言えばそうでもない。
 要は本人達の想像力が実力に左右するからだ。
 Aランクのブランド力を求めて、想像力に自信のある選手はAランクよりに集まりやすいというのはあるけど、地球上でいくら評価を高めようと宇宙規模で見たら、地球チームはみそっかす扱い。
 カスにも劣るという評価すらあるくらいだ。
 所詮、井の中の蛙に過ぎないという事なのだろう。

 私の所に来る希望者も少しはいるけど、それは、私が涼一君のいとこだからという事に憧れてきているのであって、私自身のカリスマじゃない。
 今、来ている二人の選手の戦いを見たけど、正直、借り物のイメージ。
 ルシファーやオーディーンなんてのはメジャー中のメジャーなイメージ。
 地球では通用しても宇宙じゃ全く通用しない。
 必要なのはイメージ力。
 イメージの元になっている存在の力関係じゃない。
 イメージの仕方によってはスライムがドラゴンに勝つことだって簡単にできる世界なんだ。
 今の選手達はそこをはき違えている。
 本当に練り上げたキャラクターが力を発揮する世界だという事を解っている選手は少ない。
 そういう、私もそうだった。
 涼一君が気づかせてくれるまでは私も今の選手と変わらなかった。
 涼一君の存在が私を総監督ができるくらいにまでレベルを引き上げてくれたのだ。
 涼一君が居なければ正直、私は使い物にならなかったと言わざるを得ない。

 私にできる事――
 それは、涼一君が納得するようなレベルの選手を育てる事。
 いえ、育てる何ておこがましい。
 涼一君がうなるような選手は元々の素質が飛び抜けている。
 私はその選手を見つけて、余計な邪魔が入らないように守ってあげる事。
 そして、その才能を伸ばしてあげること。
 それだけ。
 涼一君のように辛い気持ちで出て行くような選手を作らないようにしたい。

 私は宇宙戦大会で戦えるレベルの5、いえ、7人の選手を見つける事が涼一君に対する恩に答える事だと思っている。
 私は選手を探し続ける。
 Cランクチーム総監督として。




登場キャラクター紹介

001 温水 温子(ぬくみず あつこ)
温水温子
 本作の語り部その1。
 元、地球チームのリザーバー。
 チーム昴の総監督を務めている。
 獣馬と揺花を養子として引き取ってはみたものの彼らに日の目をみさせるための舞台を用意できずに日々悶々としている。




002 氷室 涼一(ひむろ りょういち)
氷室涼一
 本作の語り部その2。
 かつての地球チームのリザーバーとして、最大の成績をおさめた優秀な選手だったが、地球では評価されず、宇宙で評価された。
 地球人としての生活を捨て、型星人(かたせいじん)としての生活を選択した。
 十八番(おはこ)という夢命戦(ゆめいくさ)の十八大大会の案を採用される。
 その後、第三位大会での優勝チーム、チームオールフリーダムの総監督として、その地位を不動のものとする。
 宇宙をまわり、精鋭を集めるが地球の事が忘れられず、地球からも聖良と恭起という二人を息子としてスカウトしている。