第002話


第三章 最後の一枠




 五周目からはそれまでの四周とはうって変わり、様々な刺客が襲いかかって来た。
 とにかく、五周目の女をゴールさせまいとする者が後を絶たなかったからだ。
 花梨は、リーファと出会い、クリスチーヌ達の妨害を受けた地点を通り過ぎた。
 が、はりつけにされているはずのクリスチーヌ達が見あたらなかった。
 失格と見なされて撤去されたのかとさして気にしていなかった。
 それが、後で、彼女の運命を左右するギリギリの所にまで関わってくるとはその時、思いもしなかった。

 花梨は歩を進めた。

 彼女の前に立ち塞がったのはジャリスという女だった。
 レースの途中で足に怪我をしてしまい、ゴールまでたどり着けないでいる選手だった。
 ジャリスも五周目でとにかく、他の五周目の選手を潰して、自分がゆっくりと進んで、ゴールするのを狙っているらしい。
 スライムハーフのこの女は自分の両腕を液体化させる事が出来る。
 それにより、相手を絡め取って動けない様にしていっているらしい。
 既に、何人か、突破されていて、花梨にまで先を越されたら後がないと焦っているらしかった。
「すみません、どいていただけますか?」
「こっちはトーナメント出場がかかっているんでね。そうもいかないんだよ」
「仕方ありませんね。ここは力押しで通らせていただきます」
 花梨の体力もかなり限界が近づいていた。
 ここに来るまでにかなりのバトルを戦って来たからだ。

 出る杭は打たれる。

 花梨の行動は才能が足りない者に取っては脅威に映るらしく、彼女を止める為に、より多くの選手が刺客として、立ち塞がった。
 それだけ有望という事なのだが、その分、いろいろと体力を使う事が多かった。
 バトルだけで言えば、間違いなくレース参加者の中で一番戦っているだろう。
 それも二番目に戦っている選手より、三倍以上は戦っている。
 最下位から凄い勢いで、ごぼう抜きして行ったのだから仕方ない事ではあったがそれにしても敵が多かった。
 彼女の繰り出す~術は関係ない選手にとっても脅威に映り、次の周ではその選手が刺客になるという事も少なくなかった。
 それだけ目立ちすぎたのだ。
 このレースの台風の目と言っても過言では無かった。

 それまでの戦いで疲労はかなり蓄積されていた。
 体力的にもそんなに~術は繰り出せない。

 睨みあいが続いた。
 その隙に、五周目の他の選手が通り過ぎて行った。

「あの……他の選手が通り過ぎて行ったんですけど?」
 花梨がつぶやく。
「あんたのせいだ……」
 ジャリスもつぶやく。
「は?」
「あんたが、目立ち過ぎるから、私はあんたを警戒して、優勝を逃してしまった。こうなったらやけだ。あんたに予選は突破させない。私と一緒に予選落ちだ。さっきのがゴールしたら、予選敗退が決まる」
「何言ってんですか?じゃあ、抜かさないといけないじゃないですか」
「私はこの足だ。もう、追い越せない」
「そういう後ろ向きな考え、私、嫌いです」
「好きに思え。どちらにしろ、あんたは私と仲良く、負けだ」
「あなたはそうでも私は違います。通らせていただきます」
「通さない」
 ジャリスは両腕をコースいっぱいに広げ邪魔をした。
 抜け道は見えない。

 ――が。

「~術、無想身」
 花梨は残りの体力が心配だったが、強力な無属性の技を使ってすり抜けた。
 そのまま、風の属性、超速走で一気に駆け抜ける。
「くそぉ〜」
 後ろからジャリスの悔しがる声が聞こえた気がしたが、すぐに聞こえなくなる。

 体力的に超速走がもったのは一キロまでだった。
 後は自力で走り抜けるしかない。

 幸い、おそらく三十二位辺りになりそうな選手の背中が見えて来た。
 その選手を抜けば、ギリギリで、トーナメント出場権を得ることが出来そうだ。
 体力的にも残り少ない。
 ~術は後、一回か二回が限度だろう。

 花梨は無心になって走り続けた。
 そして、ついに、三十二位の選手を抜く。
 ゴールまでは後、五百メートルを切った。

 勝った。

 そう思った。
 ――が、足を引っ張る人間がここで現れた。
 クリスチーヌ達だった。

「待ってたわ。あんたに予選突破はさせない」
「ここでリタイアしな」
「ゴール寸前で負けるなんて、こんな悔しいことないよなぁ」
 嫌らしい事を口々に叫ぶ。
 花梨はクリスチーヌ達をリタイアさせておかなかった事を後悔した。
「~術、火炎陣」
「ぎゃああ」
「ひぎゃあ」
「ひいい」
 花梨の~術に苦しむクリスチーヌ達。
 だが、その隙に選手に抜かれ、花梨は三十三位だった。

 くだらない者達に足元をすくわれギリギリの所で負けてしまった。
 最後の力を振り絞って、~術、超速走を繰り出したが間に合わなかった。
 身体一つの差で負けてしまった。
「そ、そんな……」
 絶望感に包まれる花梨。
 こんなに頑張ったのに。
 何で?
 そんな気持ちが強く残った。

 あの時、ああしておけば良かった。
 この時はこう。
 後悔だけが後から後から湧いてくる。

 そんな時――

「ギリギリだったね。トーナメント進出、おめでとう」
 リーファが声をかけてきた。

 ――違う。
 リーファは勘違いしている。
 私は三十三位。
 トーナメント進出は叶わなかった。
 そう思った。

 が、勘違いしていたのは花梨のほうだった。

「バトルロイヤルの方では三十一人が残ったので、こっちのアスレチックレースは三十三位までがトーナメント進出だってさ」
 リーファが理由を説明してくれた。
「え?……そ、そうなの?」
 花梨の瞳に希望の光が灯る。
「そう。同時に二人、倒れたから、残ったのが三十一人だったらしいよ。はは、悪運強いね、花梨さん」
「へ、へへ……そうみたいね。何かどっと疲れが出たわ」
「目立ってたからね。とにかく、お疲れ様」
「う、うん……くかぁ……」
 安心した花梨はそのまま眠ってしまった。
「やっぱり、君は、ボクの最大のライバルになりそうだね。トーナメントが楽しみだよ」
 リーファは花梨を抱えて医務室まで連れていった。
 花梨はギリギリの戦いに何とか勝ち残った安心感からか深い眠りについた。




第四章 予選トーナメント




「やあ、起きたね」
「リーファさん、ここは?」
「ここはね……」
 花梨が再び起きた時――
 それは既に時間が進み、予選トーナメントの抽選が行われている最中だった。
 爆睡している花梨を除き、全員がくじを引き、余った一つが花梨の枠となっていた。
 結果は花梨はAブロック、リーファはDブロックだった。
 このトーナメントは最後の一人になるまで戦う訳ではなく、残り四人になるまでのトーナメントなので、花梨はリーファと戦う事は無い事が決まった。
 決着は全国大会でという事になるのだろう。
 予選トーナメント参加者は六十四名。
 それが四名になるまで戦うので、合計四回勝ち抜けば全国大会への出場権を得る事になる。
「じゃあ、ボクはDブロックだから、君との決着は全国大会でって事になるね。また、会おう。全国大会で待っているよ」
「あ、うん。そうだね。全国大会で」
 花梨はリーファと別れた。
 と同時に……
「うむ、あの娘、良い腰つきをしておる。かなりの選手じゃな」
 祖父の覇仁が激励に現れた。
「おじいちゃん」
「ふむ。三十三位とは不甲斐ない成績じゃが、今は予選突破を祝おうか。ほれ、ぽていとうちっぷすじゃ、喰え」
「あ、ありがとう。おじいちゃんが私に食べ物くれるなんて槍でも降るんじゃないかしら?」
「心配するな、外は快晴じゃ」
「あ、そ」
 祖父とのいつものやりとりもそこそこにAブロックの予選会場に向かった。

 花梨のAブロックでの初戦の相手は、ある意味、恩人だった。
 バトルロイヤルにおいて、最後の二人を同時に倒した選手だからだ。
 彼女が二人倒さなかったら、花梨は予選敗退していた。
 だが、恩人とは言っても勝負は勝負。
 勝ちにいかせてもらおうと思っていた。
 その選手の名前は竜龍。
 主の居なくなった元式神だった。
 竜龍の目的は優勝して、夫となった者に自分の新たな主となってもらうという事だった。

「悪いが、あんたには負けてもらう」
「そうはいきません。私にだって幸せになりたいという夢がありますので」
「そんなもの私の夢に比べればちっぽけなもんさ。私は夫と二人で天下を取るんだ」
「夢にでっかいも小さいもありません。それぞれ、人にとっては大事なものなんですから。他人の夢を卑下しているようではあなたの夢も大したことありませんね。夢を大切にする人ならば、相手の夢だって尊重するものですからね」
「ふん、ぬかせって感じね。あんたと押し問答しても始まらない。さっさと勝たせてもらうわ」
 挑発をしあう二人。
 戦闘態勢はどちらもバッチリだ。

 竜龍と対峙する花梨。
 相手の身長は花梨より三十センチは大きい。
 体格差は歴然だ。
 だけど、花梨にはそれをカバーする~術がある。

 初戦のフランソワ以来となるタイマンでの戦いの火ぶたが切って落とされた。

 竜龍は腕を金属に変えてその破壊力で無数のパンチを繰り出した。
 金属には金属と花梨も~術、金爆掌で立ち向かう。
 拳と拳がぶつかり合い金属音が辺りを木霊する。

「ふふふ、レースの方で一番目立ってたってのは伊達じゃないね。だが、そんな攻撃じゃ私には致命的なダメージは与えられない」
「それは私も同じ事です。今は様子を見ているだけです。あなたが何かを隠してないかとね」
「へぇ、気付いてたか。私が隠しているものの事を」
「えぇ。そうですね。この程度の小手先の技でバトルロイヤルを勝ち残ったとは思えませんので」
「じゃあ、早速、切り札の一つでも見せようかね」
「一つってことはまだ、他に?」
「そいつはこいつを防ぎきってから考えな」

 そういう竜龍は上にジャンプしたかと思うと姿かパッと消えた。
 ――と思った瞬間、巨大な龍が花梨めがけて突っ込んできた。
 そして再び消える。
 別の位置に竜龍が再び出現する。

「危ない……。何だったの、今のは?」
 花梨は間一髪、攻撃をかわしたが服が少し破けてしまった。
「よく避けたな。次はどうかな?」
 竜龍が側転していく。
 途中でまた、姿が掻き消える。

 ――と、同時にまた、見当違いの方向から巨大な龍が花梨めがけて突っ込んでくる。
「くっ……」
 花梨はまた避ける。
 だが、全く予想外の所から突然、出現する龍の動きに予測がつかない。
 こんな攻撃はいつまでも避け続けられない。
 いつかは捕まってしまう。

「どうした?続けてどんどん行くぞ」
「そこか」
「惜しい、今度はこっちだ」
「うっ」
 今度はかすった。
 竜龍と巨大龍が交互に出現しては消える。
 竜龍の居た位置と巨大龍の出現位置に法則性が無いので、全く読めない。
 早く、その秘密を解かなくては。
 そう思って、花梨は考える。

 だが、敵は待ってくれない。
 次々と巨大龍の突進を受けてダメージが蓄積される。
 生傷が増えて来る。

「どうした?息が上がって来たぞ。そろそろトドメと行くか」
「はぁはぁはぁ……」
「言葉も出ないか、行くぞ」
「はぁ〜…は!」
 また何とか避けられた。
 が、足にダメージを受けた。
 今度は避けられそうもない。

 だが――

「……よく解ったな」
「はぁはぁ……えぇ……なんとか……解りました」
 突然、竜龍の動きが止まる。
 懐から、千切れた紙の様な物が落ちる。

「結構自信があったんだけどな」
「あなたのその技の秘密。それは置換召喚ですね」
「バレちゃ仕方ない。確かにそうだ」
 竜龍は舌をペロッと出す。
 まるで悪戯がバレたかのようだ。

 竜龍が出した技、置換召喚とは――
 それは、元々、召喚された存在である竜龍は自分を媒介に別の物を召喚するという物だった。
 だから、別の物が出ている間は竜龍が傷つく事も無いし、体力も温存出来る。
 花梨にとっては二対一で戦っているようなものだ。
 これを攻略するには置換召喚の媒介となっている紙を破くこと。
 それで、置換召喚は出来なくなるというものだった。

「まぁ、良い。切り札は後、二つある。次はこうは行かない」
「次も同じです。破ってみせますよ」
「行くぞ」
「どうぞ」
 ジリジリと間合いを詰める竜龍。
 花梨も間合いを詰めて行く。

 殆ど、お互い手の届く距離にまで縮まった時、動きがあった。
 また突然竜龍が消えたのだ。
 と同時に背後から手刀が飛んできた。
 すかさず、それを察知して避ける花梨。

「よく避けたな」
「今度は蜃気楼ですか?」
「その通り。蜃気楼分身さ」
 そう言う竜龍の身体がいくつも現れる。
「気配を読めば良いだけです」
「蜃気楼に気配を与える事もこの技の一つさ。ダミーの気配はいくつでも作れる」
「それはちょっと厄介ですね」
「あんたは考えさせると色々と面倒そうだ。一気に行かせてもらうよ」
「そうは行きません。今度はこっちの番です。~術、水分身プラス邪影配」
 花梨も分身の術を行い、それに気配を含ませた。
「ちっ、あんたも同じ様な事が出来るとはね」
「うちの~術は色んな事ができますので。ちょっとしたペテン技なので」
「いいのかい?自分の技術をペテンだなんて言って」
「良いんです。ペテンはペテンですから。でもペテンはペテンでもご先祖様の中にある天才がいて、その方が、~技にまで昇華させましたけどね」
「ペテンの神技か。そいつは良いね。ペテン師がこの式神にどこまで対抗出来るか見てやるよ」
「ペテンでも極めればそれなりに凄いんですよ」
「どこがだ」
 そう言う、竜龍は全ての水分身を破裂させた。
 残ったのは竜龍のみ。
 花梨が居ない。

「どういう事だ?」
 竜龍は辺りを見回した。
 が、竜龍の蜃気楼達しか見あたらない。
 迷っていると、竜龍の蜃気楼の一つが突然、他の蜃気楼に攻撃を仕掛けた。

「まさか!蜃気楼に化けていたのか?」
 竜龍は攻撃を仕掛けた蜃気楼に攻撃を仕掛けた。
 が、蜃気楼は普通の蜃気楼だった。
「引っ掛かりましたね。チェスト!」
「ぐっ……な、何ぃ……」
 強烈な一撃が竜龍にヒットする。

 花梨が取った策はまだ続きがあった。
 蜃気楼に蜃気楼を攻撃させたように見せたのは水分身の水分を使った偽の映像で、襲ったように見えた蜃気楼は普通の竜龍の作り出した蜃気楼だったのだ。
 その偽の映像とは真逆の位置の蜃気楼に花梨は化けて、蜃気楼達の中で変わった動きをするものを観察していた。
 そして、不自然な動きを見せた蜃気楼こそが竜龍の本体。
 それをめがけて攻撃を放ったのである。

 正にペテンにペテンをかけた神技だった。

「や、やるじゃないか」
「お褒めにあずかり光栄です。っていうか、私も貴女と同じ、前の予選を突破して来たんですよ。舐めてもらっては困りますね」
「そうだったね。アスレチックレースの方だと思って舐めてたよ」
「そうそう。解ってもらえましたか」
「解ったよ。あんたには本気でかからないと負ける可能性があるってね」
「そうですか。私も油断して負けてもらっては困ると思っていたので、嬉しいです。あなたのお陰で私はレースを突破することが出来たので、これはせめてもの恩返しだと思って下さい。私なりの誠意です。本当なら油断している内に勝っちゃうんですよ、私」
「そいつはどうも。でもそのお陰であんたは勝機を逃したんだ。受けてもらうよ、私の最大の切り札を」
「出来れば最初から出して欲しかったですね。私も本気で行きます」

 二人のウォーミングアップは終わった。
 これからが本気のぶつかり合いだった。

「すぅ……」
 竜龍は大きく息を吸い込み、気を貯めていく。
 花梨も乱れた息を整えて行く。

 竜龍の身体に鱗が生えてくる。
 身体が竜の様に姿を変えて行く。
「こうなったら私は人間の姿には戻れない。だから、やりたくは無かったんだけどねぇ。覚悟は良いかい?」
 竜となった竜龍が言った。
「準備オッケーです。いつでもどうぞ」
 花梨は構えを取る。
 右手を前に出し、左手を後ろに隠すといった不思議な構えだ。
「おぉ、あの構えは……」
 戦いを見学していた覇仁がつぶやく。
 何やら大技の予感がする。
 蝙蝠の様な翼を広げ、花梨に飛びかかる竜龍。

 花梨は――

「秘奥義、虚無掌!」
 花梨は後ろに隠していた左手を回転させて右手に添えた。
 右手は一旦、引っ込めてまた押し出した。
 実はこの動きに意味は無い。
 関連性は全くない。
 だが、これは~術の二つの最強属性、無と虚の振動波だった。
 虚像を作り出して釘付けにして、本体の花梨は別の位置に移動して振動波を放つというものだった。
 派手な動きに見せられて構えている別の位置からの強力な一撃を放つ事によって、相手は抵抗する間もなくやられるという技である。

 簡単に言ってしまえば不意打ちである。
 どんなに屈強な人間も力の抜けた所から不意打ちを食らえば意外に脆いものである。

「が……な、何……」
 もんどり打って倒れる竜龍。
 苦戦はしたが、見事、花梨が勝利した。

「負けたよ。たしかにペテンだった。騙されたよ」
 握手を求める竜龍。
「良い勝負でした。どちらが負けてもおかしくなかった」
「そう言ってもらえると嬉しいよ!」
 花梨の手をギュウっと握る竜龍。
「痛い、痛い、もうちょっとそっと握って下さい」
「うるさい。よくも騙したね」
「騙される方が悪いんですよ。だから痛いってば」
「私に勝ったんだから負けんじゃないよ」
「はい、絶対、優勝します」
「女に二言は無いね」
「はい」
 全力を尽くした二人には奇妙な友情が芽生えた。

「よくやった花梨よ。あ、こーしーぜりぃ、おかわりね」
 覇仁は相変わらずだった。

 続く第二戦の相手は……

「勝者、ナオミ」
 ゴーストのナオミが勝ち進んだ。
 花梨の今度の相手は幽霊。
 触れもしない相手。
 またしても強敵だった。

「おじいちゃん、今度の相手は幽霊だって。どうしよう……」
「心配するでない、花梨よ。お前ならば、幽霊の一匹や二匹、物ともしないはずじゃ。あ、おれんじじゅーすおかわり」
「もう、おじいちゃんは……少しは孫娘の心配とかしてよ」
「大丈夫じゃ、地水火風金木雷聖邪無虚、全ての属性の奥義を究めたお前に敵などおらん。自分を信じておれば必ず勝てる。うむ、このおにおんすぅぷはいまいちじゃの……」
「人間相手ならそうかも知れないけどさ。相手は人間以外が多いんだよ、この先」
「うむ、最強のおなごならば、ゴリラだろうが、恐竜だろうがいとわんからのぅ、大富豪家は」
「そ、そうなの?」
「そうじゃ。それで、お前の母はゴリラに負けた」
「ご、ゴリラって……」
 花梨は自分が馬鹿馬鹿しい大会に参加しているのではないかと改めて思った。

 一通り、一回戦が終わり、二回戦が始まった。

 花梨はナオミとのバトルだ。
 一回戦での戦いは悪霊のナオミが相手を呪うという一方的な試合運びだった。
 誰だって呪われたくない。
 オマケに霊だから相手には触れない。
 これでは勝ちようがないとして為す術無く、相手は降参した。

 通常で言えば、とても戦いたくない相手である。
 だが、花梨には困った時の~術がある。
 なんだかんだでそれに対応した技がちゃんと存在するのだ。

 悪霊のナオミが相手の場合――

「~術、聖光拳」
「ぎぃやあぁぁぁぁぁあ」
 悲鳴を上げるナオミ。
 花梨にとっては割と相性の良い相手だった。

 聖なる光を放つ拳に悪霊ナオミは後退る。

「ううう、呪ってやるぅ、呪ってやるう」
 恨み言を言い放つナオミ。
「怖いからそんなこと言わないで欲しいな」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」
「怖い、怖い」
「じゃあ、くたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれくたばれ」
「怖いからやめてってば。大人しく成仏しなさい」
「ひぃぃぃぃぃ」
 攻撃をする花梨に逃げまどうナオミ。
 だけど本心は花梨の方が逃げたかった。
 花梨にとってナオミの存在は、かなり怖かったからだ。
「こら、逃げるな」
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる」
 この勝負のギャラリーは覇仁一人だった。
 それだけ、ナオミの事が怖かったからだ。
 女の子はみんな逃げ出して、他の会場の見学に行ってしまった。
 覇仁も
「なんまんだぶ、なんばんだぶ、ワシは無関係、ワシは無関係……」
 とつぶやいていた。
「おじいちゃん、孫娘のピンチだよ。何とかして」
「何を言っておる。優勢にしておるじゃないか」
「相手が逃げ回って呪いの言葉をかけてくるのよ。怖いでしょ」
「早く成仏させてやれ。ワシも怖いじゃろが」
「聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳、聖光拳」
 花梨は光属性の攻撃を連射する。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「ひぃぃ……もうやめたい。早く大人しくやられて」
「恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる恨んでやる」
 しばらく、逃げ回ったナオミは辺りに充満した光属性の光気により自然と浄化されていって――
「あぁ、心が洗われるようだわ。花梨さんありがとう。私は来世で幸せになります。ありがとう、ありがとう」

 そう言い残し、すぅっと消えた。

 こうして、花梨は勝利したが、
「しばらく、トイレに一人じゃいけなくなっちゃった……」
 彼女にはかなりのトラウマが残った。

 ある意味、かなりの強敵だったと言える相手だった。

「良くやった、花梨よ。お前ならやれると……あいたっ、何をする花梨、祖父を殴るな」
「孫娘が呪い殺されるかも知れなかったのに何もしてくれなかったからよ」
「心配するな、労をねぎらってこうして奈良漬けを持って来たではないか」
「そんなもので誤魔化されるか」
「千枚漬けもあるぞ」
「おじいちゃんはセコンドで来たんでしょ。きちんとサポートしてよ、もう」
「うむ。わかっておる」
「なんにもしてくれてないじゃない」
「ワシは応援したいんじゃが、胃袋が許してくれんのだ」
「口にチャックをしてやろうかしら」
「虐待はよくないぞ」
「孫娘を虐待してるんじゃないの?」
「そんなことはない。愛しておるぞ、孫よ」
「おじいちゃんが愛してるのは食べ物でしょ」
「お前もその次くらいに大事だぞ」
「はいはい……」
 毎度の事だが、呆れかえる花梨だった。


登場キャラクター紹介

001 神田 花梨(かんだ かりん)

神田花梨 この物語の主人公。
 ~術というペテン技を極めた女の子。
 佐和義との恋愛を成就させるために玉の輿バトルに参加することになる。
















002 神田 覇仁(かんだ はに)

神田覇仁 食い意地のはった花梨の祖父。
 ~術で美味しいものにありつこうと孫娘をたきつける。
 ~術を極めている。
















003 御祭 佐和義(おまつり さわよし)/大富豪 風彦(だいふごう かぜひこ)

御祭佐和義 大富豪風彦 花梨と恋愛関係になりつつある男子。
 突然、父親から大財閥、大富豪(だいふごう)家の三男風彦であると告げられ無理矢理跡継ぎを決める玉の輿バトルに関わる事になる。
















004 大富豪 花太郎(だいふごう はなたろう)

大富豪花太郎 大富豪(だいふごう)家の長男。



















005 大富豪 鳥助(だいふごう ちょうすけ)

大富豪鳥助 大富豪(だいふごう)家の次男。



















006 大富豪 月見(だいふごう つきみ)

大富豪月見 大富豪(だいふごう)家の三男。



















007 大富豪 華真生(だいふごう けまお)

大富豪華真生 大富豪(だいふごう)家現当主。
 息子達を無理矢理結婚させようとしている。



















008 フランソワ

フランソワ 2メートルの大女。
 花梨の最初の対戦相手。
 巨体の割には弱い。

















009 天神 結愛(てんじん ゆあ)

天神結愛 スーパー優等生。
 花梨と同じ学校に通う女生徒。
 佐和義と結婚を決意する。
 九州予選に参加する。

















010 祇園 綾里(ぎおん りょうり)

祇園綾里  大財閥の令嬢。
 花梨と同じ学校に通う女生徒。
 佐和義と結婚を決意する。
 関西予選に参加する。

















011 クリスチーヌ

クリスチーヌ  フランソワの友人。
 2メートル10センチの大女。
 見かけ倒し。

















012 リーファ

リーファ  元ダッチワイフの人造人間。
 ショートカットの女の子。
 高い身体能力を持っている。

















013 竜龍

竜龍  主の居なくなった元式神。
 その名の示すように龍の要素を色濃く持つ。

















014 ナオミ

ナオミ  ゴースト。
 成仏出来ずに玉の輿バトルに参加する。

















015 千佐子

千佐子  ゾンビ人間。
 花梨のトーナメント出場に異議を申し立てる。

















016 北方 譲(きたかた ゆずる)

北方譲  殺人鬼。
 異次元スカートを駆使して戦う。

















017 魔女ジャネット

魔女ジャネット  卑怯な手を使う魔女。
 実力的には分不相応な勝利を続けていた。

















018 ティアマト

ティアマト  古代兵器。
 敗者復活戦を勝ち上がって来た。

















019 サンディー・マーカー

サンディー・マーカー  アメリカ大会予選敗退者。
 日系人の友達に日本予選の事を聞いていた。