第004話
第八章 美女軍団
「どうですか?触って見て下さい、彼方さん」
「触ってって……」
「まて、夕愛、私の方が先だ」
「何でですか、奈朝ちゃん、私の方が先ですよぉ」
「いや、私だ」
「私ですぅ」
「喧嘩するなって、同時に触るから」
夕愛と奈朝は未来の真から送られてきた【ヌクモリ】を早速装備した。
ビジュアル的には薬のようなものを飲み込んだのだが、実際は、飲み込んだ様に見えた【ヌクモリ】は【転送装置】に外付けでセットされて、超音波を絶えず発生させて、そこにふれたものを自動演算し、触った様な感覚を持たせる。
と、同時に触られた夕愛と奈朝のホストコンピューターにもデータが送られ、彼女達も人に触られたような感覚を得ることが出来る。
彼方と触れ合う事が出来る様になると聞いて、二人は嬉しくて嬉しくて仕方ないと言った感じだった。
それで、いつもの様に、彼方を取り合って軽く口論をしているといった状態だった。
それが、日常化していた。
ふたりが彼方を取り合って、それを彼方が仲裁する。
彼方と夕愛だけだったら、進展しなかった関係が奈朝が加わる事によって、お互いに居場所を見つけたという感じだ。
四人のVRPが揃えば、幸せになれるというのも案外嘘では無いのかも知れないと思う彼方だった。
だが、未来の真は唯夜に気をつけろという言葉も残している。
警戒すべきことなのは間違いない。
唯夜は異次元の影響を受けているという。
別次元が絡んでくると何が起きてもおかしくない。
デレ状態の二人に代わって彼方は気を引き締めた。
一方、唯夜からの刺客となる何かは既に動き出していた。
唯夜の意思を乗せた六体のディメンションゴースト達は夜の町中を這い回り、取り憑く相手を捜し回った。
その内の一体が目をつけたのはネットアイドルのルナティックだった。
本名――片島 好子(かたしま よしこ)。
容姿に自信が無く、自身で作ったCGでネット上で人気となった女性だった。
ディメンションゴースト1は彼女の意識に進入し、彼女の卓越したCG制作技術を利用して、美女軍団を作り上げた。
容姿に劣等感を持つ彼女は女性の美に対して相当な執着を見せていて、作り出されるそれは細部にわたるまで美を追究したデザインにしていた。
それと、ディメンションゴースト1の指示から、どの美女にも一日の面影を少しずつ残している。
その作り出したCGデータをディメンションゴースト1は実体化させる。
すると、CG達はみるみる実体化していき、生身の女性と化した。
唯夜の持つ特殊能力だ。
美女軍団はそのまま外の世界へ飛びだして行った。
後には、何が起きたのか解らないでキョトンとしている好子だけが残された。
これはディメンションゴースト1だけでの事ではない。
他のディメンションゴースト達も同じように創作者を見つけては取り憑き、作り出したものを実体化させてそのまま消えたのだ。
彫刻家や絵師、アーティスト等がその標的にされ、取り憑かれている間はそのことを覚えていないが、彼らの持つその技術を盗まれていった。
目的はもちろん、彼方を誘惑するためである。
一日の要素を含む様々な美女を彼の元に差し向けようという魂胆である。
翌日の朝には登校中の彼方達の前に、美女軍団が現れた。
「な、なんなんですか、貴女たちは?」
夕愛が警戒する。
奈朝も同じだ。
美女軍団はそれだけ、彼女達にとって脅威に感じられた。
女としての脅威だ。
何しろ、自分達と同じ様な容姿を持ち、胸の大きさや腰のくびれなど、魅力をアップさせて来ているような美女達がたくさん現れたのだ。
彼方がそっちの方に行ってしまわないかと乙女心としては不安なのだ。
「私はKAZUHIタイプアルファ。お前達より魅力をアップさせている存在だ」
美女軍団の一人がそう言った。
「な、なんですってぇ!」
奈朝が怒鳴る。
夕愛は呆気にとられた。
何を言っているかよく解らなかったからだ。
「我々は唯夜様に初体験をプレゼントするために存在する」
「我々は唯夜様によって作られた存在」
「唯夜様の邪魔になる存在は排除する」
美女軍団は次々に口を開く。
会話からもこちらに好意的という訳ではなさそうだ。
だったら、話は早いとばかりに――
「先手必勝!【女だらけの格闘大会】起動」
奈朝が新たなネットゲームを立ち上げる。
彼女はウイルスとしての力は失ったが、ネット上のゲームの力を借りるという力は失われていなかった。
オンラインゲームから【女だらけの格闘大会】を選択し、その中のプレイヤーキャラクターを召喚した。
ただ、キャラクターの実体化となると、奈朝自身の【ヌクモリ】を媒体とするので、その分、奈朝自身のスペックが落ちてしまうのが難点だった。
明らかに生身の身体を持っている美女軍団の方が有利だった。
向こうは、【ヌクモリ】のスペックなど関係無いからだ。
奈朝は味方キャラクターを増やせば増やす程、生身のように見せている【ヌクモリ】は分散される。
そのため、奈朝は主人公の明日香、ラスボスの希美、隠れキャラの楓の三キャラだけを実体化させた。
それ以上だと一キャラあたりのスペックが落ちるからだ。
本体である奈朝のスペックで回せるのは三キャラが精一杯という所だ。
対して、美女軍団は総勢、四十名近くいる。
まともにぶつかれない戦力差だった。
「奈朝ちゃん、協力します」
夕愛も戦闘態勢に入り、連鎖を作るべく音珠をたくさん作り出す。
これも、夕愛自身の【ヌクモリ】を媒介するため、限度がある。
デジタル・データ上での戦いの場合と違い、実体化に伴う戦闘には制限がついてしまうのが難点だった。
そして、女だらけのバトルが開始される。
キャットファイトを期待して野次馬が集まる。
仕掛けたのは奈朝からだった。
明日香、希美、楓と連携して美女軍団に突っ込んで行った。
美女軍団は応戦する。
が、元々、戦闘用に考えて無かったのか、美女軍団の戦闘力は低かった。
夕愛のサポートもあり、数分で美女軍団を残らず生け捕りにして見せた。
「ふふん、どんなもんよ」
勝ち誇る奈朝。
「やったね、奈朝ちゃん」
夕愛も同意する。
だが――
「なるほど……ただ、綺麗なだけじゃだめか……強くなくてはお前達を引き離せないか」
ディメンションゴーストがその戦いを見ていた。
そして、捕らえた筈の美女軍団がみるみる土塊の様に崩れて行った。
この戦いは夕愛と奈朝の実力を見るための茶番劇に過ぎなかったのだ。
唯夜は考えている。
じっくり見ている。
その上で何かを仕掛けてこようとしているのだ。
簡単には仲間に引き込めないんだと理解した。
翌日には、新たな美女軍団が現れ、また、夕愛と奈朝に挑んで来た。
昨日と比べると明らかに、美女軍団の一体、一体の実力が上がっていた。
更に翌日には更にまた美女軍団が現れ、前日よりも苦戦して倒していた。
更に、翌日――
「お前達の戦力は大体見させて貰った。しばらくしてからまた挑戦させてもらう」
とディメンションゴーストが告げに来た。
それだけ言うと、ゴーストは消えてしまった。
それから何日も何も無かった。
それが、かえって不気味だった。
そして、ディメンションゴーストが消えてから二週間後、再び動きがあった。
第九章 唯夜を引きずり出せ
現れたのは二体の影だった。
長いロングストレートとポニーテール――
夕愛と奈朝そっくりだった。
「……ありがちな同キャラ対決って訳?」
奈朝がつぶやく。
「そんな……」
夕愛は不安そうだ。
「私の名前はN」
奈朝そっくりの方が答える。
「私はY」
夕愛そっくりの方も答える。
NとY――どうやら奈朝と夕愛のイニシャルのようだ。
「どうやら、こいつらを倒さないと唯夜にはたどり着かないみたいね」
「ど、どうするの奈朝ちゃん」
「私はこのNとか言う偽物を倒すからあんたはYって方を倒しなさいよね」
「えー……でも同じ力を持ってるんでしょ?」
「まだ、そうと決まった訳じゃないわ。それに、同じ力を持っていたって戦い方次第で勝利に持って行くことだって出来る筈よ」
「ど、どうやって?」
「自分で考えなさい。行くわよ、たー」
「えー……」
夕愛と奈朝は同キャラ対決を始めた。
力はおそらく五分と五分。
だけど、全くの互角――にはならなかった。
よくある、全く同質の力を持っている者同士の戦い――
同じ力を使い、全く同じ考えを持っているから互角の戦いが続くと思われがちだが、実は大きく違う。
そもそも、敵と味方に分かれている段階でそれぞれが考えている事自体が違う。
対面して戦っているということで立ち位置も違う。
風上もあるだろうし、風下もある。
それによって有利不利というのも微妙に違ってくる。
つまり、全く同じという事はあり得ないのだ。
全く同じなら敵対も出来ないし、別々に存在もしていないはずなのだから。
その辺の条件の違いでも戦いに微妙な変化をもたらす。
それに、それぞれが考えている事の正当性から考えると夕愛や奈朝の方が、正統な思考を持っている。
相手は、夕愛や奈朝に合わせているだけなのだから。
その点から見ても、状況は夕愛と奈朝に有利に働いた。
所詮、偽者は偽者。
いくら真似ても本物の持つオリジナル性には決して勝てないのだ。
その証拠に――
「ど、どうしよう、勝っちゃった」
「バカ、良いのよ、勝って。オリジナルの私達の方が強いんだから」
多少、苦戦はしたが、見事、夕愛も奈朝も勝利をおさめた。
偽者には夕愛ならどう考える――奈朝ならどう考えるという二呼吸目のタイムラグがあり、そこをついて夕愛達が勝ったのだ。
続けて、夕愛の偽者と奈朝の偽者も三十体ずつ出たが、夕愛達は数での不利を逆に活かし、引っかき回すという事で攪乱した。
逆に偽者達は同じ存在同士の協力という事には適応していなかった。
奈朝の偽者達はどうしても自分が前に出るという姿勢をどの偽者も主張し、夕愛は逆に、譲り合うという事をしていて、偽者同士の連携が取れなかった。
連係プレイが出来ないという事は逆に、数が多い分、足かせにしかならない。
夕愛と奈朝はさっきの戦いで、自分と同じタイプとの戦いに慣れたため、それほど、苦もなく、全滅させた。
「どうよ、劣化コピー程度に私達を倒す事なんて出来ないのよ」
奈朝は鼻息をならす。
「でも、自分と同じ顔をしたのを倒すのはあんまり気持ち良くないね」
夕愛は控えめだ。
でも、彼女達はもはや偽者をぶつけても敗れる事はないだろう。
それだけ、自信もついたし、力もつけたのだ。
偽者達は彼女達のスキルアップを手伝ったに過ぎなかった。
「出て来なさい、唯夜、お灸を据えてあげるから」
「奈朝ちゃん、そんな好戦的に言わなくても――唯夜ちゃんにも協力してもらわないといけないんだし」
「仕掛けて来たのは向こうなんだから良いのよ。喧嘩売って来た以上は覚悟は良いわねって感じよね」
「奈朝ちゃんの時も奈朝ちゃんから仕掛けて来たもんね」
「う、うるさいわね。過ぎたことをゴチャゴチャと。良いでしょ、すんだことだし」
「そうだね、唯夜ちゃんの事も早く済んだ事にしようね」
「そ、そうね」
「うん」
「な、なんか、調子狂うわね。これからが正念場なんだから、気を引き締めなさいよね」
「うん、わかった」
もはや、夕愛と奈朝はベテランのコンビの様に息がぴったりだった。
対して、唯夜の方は――
六体のディメンションゴーストが現れる。
美女軍団を作り出したゴースト達だ。
ディメンションゴースト達はフードをかぶっていて姿が良く見えなかった。
謎の存在と言った感じだ。
その六体は地上に降り立った。
「我々六体を倒せば、唯夜様が出ていらっしゃる」
ディメンションゴーストが告げる。
「――ってことは一人、三体ずつ倒せば言い訳ね。上等じゃない。夕愛、良いわね」
「えー、三体も倒すのぉ?」
「えーい、いつもいつも愚痴が多いわね、あんた」
「おーい、あまり無理するなよぉ〜」
夕愛と奈朝の漫才に存在を忘れ去れられがちな彼方が声をかけた。
「はい、彼方さん、私、頑張ります」
「何よ、私だって。彼方、しっかり見ててねぇ」
「私の方を見て下さい」
「何よ私よ」
「こら、喧嘩するな」
「でも」
「だって」
「はぁ……お前達は……」
ため息をする。
彼方は声をかけた事を少し後悔した。
応援したかっただけなのだが、どうも彼方が絡むと夕愛と奈朝はもめるようだ。
逆に二人だけの時は協力する。
なので自分の存在が二人の妨げになっているのではないかと不安に思う。
だが、共通の敵を持てば、二人は協力するのだろう。
まずは、この六体のディメンションゴーストを倒すことに集中してもらおうと思う彼方だった。
まずは、奈朝の相手の一体目は――
正体を現したそれは、人間の姿の様に見えた元のかっこうとはうって変わり、十本の首を持ったヒドラの様な姿だった。
ただ、頭の部分が、龍ではなく、女性の上半身となっていた。
その巨体は十数メートルにも及び、一種の怪獣映画の様にも思えた。
夕愛の相手の一体目は――
背中から無数の触手が生えている獣人といった感じの姿をしている。
触手の先には見るからに毒針に見える禍々しい突起物がある。
腕は四本あり、男性型と女性型が合わさっているような感じだ。
どちらのディメンションゴーストも強そうだった。
前者は【ガギグギガ】、後者は【ベベロデダ】と名乗りなおした。
おそらくそれは異次元の言葉で、日本語に直すと、意味不明の言葉になるのだろう。
【ガギグギガ】も【ベベロデダ】もかなりトリッキーな動きを見せた。
走ったかと思うと突然、割れたり、溶けたと思うと上空に出現したり等、一見意味が解らない攻撃を仕掛けて来ている。
異次元では普通の動きでも現実世界では良く解らないと言った感じの動きになる様だ。
だが、夕愛と奈朝の優秀な演算能力はそのパターンを割り出し、対応した。
慣れてくれば、どうということは無かった。
別々に戦っていた夕愛と奈朝は連携プレイをして、見事、二体を倒してみせたのだ。
続いて、奈朝が戦うディメンションゴーストは――
身体の右半分が鉱物で出来ている【ジャラディコフ】だ。
右側の部分がかなりアンバランスに出来ていてどうやって立っているのかよくわからない姿をしていた。
夕愛が戦うディメンションゴーストは――
首の位置に腕が生えていて、顔は背中に、足は五本とやはり、どうやってバランスを取っているのか解らない存在の【ビガヂセウ】だ。
夜に合ったらお化けと思って怖いと思うような姿だ。
現に、夕愛はビビっていた。
「しっかりしなさい、夕愛、相手はお化けじゃなくて、普通の生き物だと思えば怖くないでしょ」
「でもでも、奈朝ちゃん」
「でももしかしも無いわ。根性で倒しなさい」
「えー、そんなぁ」
怖がる夕愛を叱咤激励し、二戦目も難なく勝利をおさめるのだった。
そして、奈朝の相手の三体目は――
パッと見は美少女。
だけど、後頭部にも顔がついている。
いわゆる二口女のパターンだ。
声もしわがれた老人の様な声をしている。
名前は【ぴだえあわ】だ。
やっぱり訳のわからない名前をしている。
夕愛の相手の三体目は――
半透明人間とでも表現したら良いのだろうか?
肌が透明で中の内蔵などが見えているのだ。
しかも、内蔵がどう見ても普通の人間のものとは異質な内蔵に見える。
透明じゃなくても人間じゃないなと思えるくらい、不思議な内臓だった。
でも、声は小鳥の様に可愛い。
名前は【ゴブザデバ】だ。
姿形が通常の生物と違っているとは言え、言葉が通じるだけでもありがたいと思うべきだろう。
夕愛と奈朝は苦戦しながらも【ぴだえあわ】と【ゴブザデバ】を倒した。
三体ずつ倒した事でいよいよ、唯夜が出てくる――と思われたが――
四体目――
獅子の顔が四つつながった化け物【ジャデビヨル】と本棚の様な怪物【ミョルエヲ】との戦いが待っていた。
六体しか居なかったはずのディメンションゴーストの七体目と八体目と戦う事になったのは何故か?
それは、二回目の戦い【ジャラディコフ】、【ビガヂセウ】戦が無かった事にされて新たに戦いが組まれたのだ。
【ジャデビヨル】と【ミョルエヲ】を倒しても、今度は九体目として夜をまとった魔神【ヤヤヤセリェ】と十体目として真っ赤なヘドロ【ヘリロロル】が、立ち塞がった。
また、戦いが無かった事にされたのだ。
現実世界での常識が通じない異世界の理屈で戦う夕愛達は次第に疲弊してきた。
こんな訳のわからない怪物達と戦闘を繰り返しても意味は無い。
とにかく、唯夜を引きずり出さなくてはと焦り出す。
十一体目と十二体目を出そうとする唯夜サイドの考えを打破すべく、奈朝は行動に移す。
「彼方ぁ、私を抱いてぇ〜」
奈朝は彼方に飛びつく。
「な、なんだ、突然?」
彼方はビックリする。
「あ〜、奈朝ちゃん、ズルイ。私もぉ〜」
夕愛も慌てて飛びつく。
そして、第三の影が……
「ボクが先……」
ボブカットの一日そっくりの少女――
唯夜だった。
彼女はとにかく無限に怪物を出して、出てこない作戦で行こうと思っていたのだ。
出てこなければ、倒される事も無いと考えて。
だけど、攻略法はやはり、彼方にあった。
基本的に一日をモデルに作られている唯夜も彼方の事になるとムキになる。
唯夜の司る【夜に恋人になった】という事を盾に取るように、奈朝は抱いて貰って恋人になるというふりをした。
もちろん、単純に抱かれたからと言って恋人になれるとは限らないが、唯夜の元のイメージが初な一日の為に、彼女の中のイメージでは抱かれるという事はイコール恋人になったという事を意味していた。
その事に奈朝は気付いていた。
対奈朝戦の時の応用で、彼女は自分が受けた衝撃を知っていたので、挑発すれば、必ず、唯夜も出てくると解っていたのだ。
夕愛の方は解っておらず、奈朝が突然、彼方に抱きつきに行ったので慌てて、自分もという気持ちでいたが、それも唯夜を慌てさせる良い材料となった。
引きこもって出てこない天の岩戸作戦を仕掛けて来ていた唯夜のもくろみはこれによってそしされた。
唯夜が出てきた以上、後は、唯夜を説き伏せて、仲間にするだけだ。
第十章 VS唯夜戦、そして、真昼
唯夜がとうとう顔を出した以上、唯夜との戦いは避けられなかった。
唯夜には色の違う七種類のしっぽが生えていた。
おそらく、それが、タイムマシンの事故の際、唯夜に取り憑いた異次元の何かなのだろう。
それが、唯夜に力を貸して彼女に実体化の力を授けたのだ。
その瞳には奈朝の時と同様に怒りの炎が見え隠れする。
かろうじて抱くという事はエッチをするという意味で、ただ、抱きついただけでは恋人にはなっていないととらえているのか、自分の司る部分を取られたという印象は薄い。
だが、何時、その立場を奪いに来るかも知れない危険な存在として夕愛と奈朝には認識しているようだ。
対奈朝戦の時の様に、彼方の鶴の一声で解決という訳にはいかないのだろうか?
エッチをするのが恋人になる絶対の条件かと言えば違う。
だけど、恋人になるという条件はどうやって出せば良いのか?
彼方はその解決法を考えた。
何かイベントが無くてはそれが、恋人になったという結論に達する事が出来ないからだ。
しかも、まだ、朝だ。
唯夜が司る、夜には時間がある。
夜までに解決法を見いださなくてはと思うのだった。
彼方があれこれ悩んでいる内に、夕愛、奈朝対唯夜の戦いが始まってしまった。
夕愛の音珠、奈朝のゲームの具現化能力に対して、唯夜が持っているのは異次元の力による置換能力だ。
別の媒体の意味を変える事によって、別の意味を持たせる能力だ。
唯夜の能力はかなり複雑でこれだと思う事と違う意味を持たせる事が出来るので、迂闊には近寄れなかった。
バッタだと思って近寄ったら糊の塊だったり、銃だと思ったらびっくり箱だったりと攻撃方法に予測が立たないのだ。
対して、二対一とは言え、ディメンションゴーストを使って夕愛達の戦い方をしっかり研究した唯夜は数の不利を思わせない戦いぶりだった。
また、身体の実体化というものに夕愛と奈朝がまだ、慣れきっていないというのも唯夜を有利にしている要因の一つだった。
夕愛や奈朝は真っ向からぶつかっていくタイプなのに対して、唯夜は予測外の動きで敵を攪乱して攻撃するタイプだ。
唯夜の戦い方に慣れるにはまだ、時間が早かった。
が、それでも、連携プレイで夕愛と奈朝は何とか対抗していった。
一進一退の攻防が続いた時、その時が来てしまった。
「ちょこりんこ」
ショートカットの美少女が立っていた。
真昼だった。
ついに、真昼が現れてしまったのだ。
真昼は唯夜以上に不思議ちゃんタイプのVRPだ。
その力は三人がかりでやっと押さえ込める程の――
「彼方君は渡さない」
唯夜はそのまま真昼に襲いかかる。
本能の部分で、夕愛と奈朝以上の脅威と感じたからだ。
だが――
「ちょこりんこ」
意味不明のかけ声と共に一瞬で唯夜を気絶させた。
「なっ……」
自分達が二人がかりでやっと対応していた唯夜をあっさり片付けた真昼に驚く奈朝。
「そ、そんな……」
夕愛も驚きを隠せない。
戦慄が走る。
このまま戦えば、夕愛達も負けてしまうだろう。
それだけ実力差が感じられた。
敗北をイメージした二人だったが、真昼は興味なさそうに
「ちょこりんこ」
の一言を残したら、また、どこかに居なくなった。
後に残される一同。
「あ、あれが、真昼ちゃん……」
夕愛は焦った。
思っていたよりも遙かに強い。
全然勝てる気がしない。
夕愛以上に傷ついたのが奈朝だ。
プライドが高い彼女は真昼の圧倒的な実力にショックが隠せない。
何分、あっという間の出来事だったので、みんな驚く事しか出来なかった。
目を醒ました唯夜に彼方が告げた言葉は――
「今晩、デートしよう。それが恋人になった印だと思う」
だった。
恋人になるという事を確認するイベントとしては文句が無い事だった。
「う、うん」
唯夜は頬を赤らめた。
何はともあれ、一瞬、真昼の介入で青ざめたが、何とか、危機を脱出した。
安心したのか――
「あー、私も彼方さんとデートしたいですぅ」
「私のが先だ」
いつもの様に、夕愛と奈朝が話に割って入る。
「はいはい、お前達は唯夜の後でな」
彼方はそれを宥めるために夕愛と奈朝ともデートの約束をした。
そして、日も暮れ、夜のデートを彼方と唯夜はする事になった。
夜のデート――テーマパークのナイトパレードや、ディナー、ナイトクルージング、ナイトシアターなどを共に過ごした。
後ろにくっついてきてギリギリ歯を鳴らしている夕愛と奈朝はあえて無視して、二人だけの時間を楽しんだ。
そうでないと付き合っているとはとても言えなかったからだ。
最後にホテル――とは行かなかった。
夕愛や奈朝の手前もある。
だけど、けじめとして、夕愛、奈朝、唯夜、それに真昼との関係がはっきりしていない今、そんなことをする訳にはいかないと、彼方なりに出した結論だった。
最後に恋人の証が欲しいというので、唯夜のおでこにキスをした。
それが、彼方に出来る、夕愛、奈朝、唯夜に対して出来る精一杯の誠意だった。
後日、夕愛と奈朝のデートにも同じ事を要求されたのは言うまでも無いが。
決着こそうやむやになったが、これで、唯夜も仲間に加わることになった。
後は、最強のいたずらっ子、真昼を何とかする事だけだ。
それには夕愛、奈朝、唯夜の連携が必要不可欠。
何とか仲良くやって欲しいと願う彼方だった。
第十一章 真昼
「はい、あーんして、彼方さん、ハンバーグ弁当ですよ」
「彼方、それより、これは、焼き肉弁当だ。うまいぞー」
いつもの様に、夕愛と奈朝の彼方を巡る女のバトルが開始される。
これからは、それに――
「彼方君、それよりこれを食して欲しい。鶏そぼろ弁当だ」
唯夜が加わる事になる。
「お前達、いい加減にしろ。僕にだって選ぶ権利がある。僕はこの穴子丼を食べたいと思っているんだ」
彼方が別の弁当を出して食べた。
これは、彼方なりの愛情でもあった。
一度に三人分の弁当を食べる事は出来ないし、少しずつ食べて残すのは彼女達にも何だか悪い。
それなら、食べたい弁当は別にあって、それを食べる事にする。
そして、出来れば、作ってもらう弁当はローテーションか何かを組んでもらって食べるように持っていきたいと考えていた。
真昼も仲間にしたら、これに四品目が加わるのかとちょっとげんなりする彼方だった。
でも、真昼が加わって初めて、一日の全てが揃うのだ。
真昼だけ外す訳にはいかない。
出来れば、平等に愛したい。
どの子も一日の化身なのだから。
だけど、四又をかけるのは男としてどうか。
でも元は一人だし。
――などと日々考えていた。
何にしてもまずは、真昼を止めないとと思っていた彼方達はまた、真に会いに行った。
「何なんだよ、また、寝ろってか?そうそう簡単に寝れる訳ねぇだろ」
未来の真と通信するためには、今の真に眠って貰うしかない。
何かあるたびに寝てくれとお願いに来る彼方達に嫌気がさして来ていたのだ。
「ボクに任せてくれれば大丈夫。あ、みんなは離れてて」
唯夜が前に出る。
「何だよ、あんた?新入りか?あんたも姉ちゃんになんとなく……くかぁ……」
言い終わらない内に真が眠りについた。
異次元特産の眠りガスは真を深い眠りに誘ったのだ。
「任務完了。さあ、彼方君。あ、でも、これはボクの手柄なのでよろしく」
「私だって睡眠薬くらい持ってこれるもん」
「そうだ、そうだ、いい気になるな」
得意顔の唯夜に文句を言う夕愛と奈朝。
この三人の関係はそれぞれ、模索中と言った感じだろうか。
主導権をどうにか握ろうと手柄を求めているふしがある。
「おいおい、お前達、一応、生みの親なんだからよぉ、もう少し丁寧に扱ってくれよ」
どうやら、今の真が深い眠りについたので、未来の真が出てこれたようだ。
「真君、唯夜も仲間に出来た。異次元の影響でおかしくなっていた唯夜も戻ったみたいだ」
「ボクはおかしくなってない」
彼方の言葉に唯夜が反論する。
「解った。解ったから。とにかく、真君と話をさせてくれ」
「わかった」
「真君。真昼は何に取り憑かれているんだ?教えてくれ」
彼方は真昼も奈朝や唯夜の様に何かの影響を受けていると推測し質問したのだ。
だが、真の答えは……
「悪いが、真昼は何にも取り憑かれてない。あれが、地だ」
だった。
「え?何を言って……」
「真昼は昼間と楽しみを司っている。言ってみれば、病気がちだった姉ちゃんの夢が詰まったVRPだ」
「どういう事?」
「姉ちゃんは、ずっと、自由に遊びたかったんだ。だけど、病気で自由に身体が動かなかった。だから、姉ちゃんが、したかった事全てを叶える為に設計されている。精神もそこの三人より幼く設定されている。――子供の――色んな事を想像して、自由に遊び回る自由な子供のVRPに作ったんだ。それを抑える役目が理性を多く持たせた夕愛、奈朝、唯夜の三人だった。初めからそのつもりで生みだしたんだ」
「って、事は?」
「あぁ、自由に遊んでいるだけだ」
「そ、それじゃ」
「真昼には恋を知る前の子供の自由な発想力が詰まっている。言ってみれば真っ白なキャンバスのようなものだ。これから何色にも染まるし、どんな行動を取ってもおかしくない。人目を気にせず、何でもするだろうな。子供に言って聞かせるのは大人の役目。それが、真昼の場合は夕愛、奈朝、唯夜って事になる」
「えぇ、私達が?」
「どうやって、アレを?」
「ボクは自信ない」
不安を口にする三人。
「お前達の潜在スペックは真昼を制御出来るようにしてある筈だ。つまり、まだ、実力を発揮していないって事だ」
真はそう断言する。
そう、今はまだ、お互いいがみ合っているような間柄だ。
本来の力を出せるような状態ではない。
心の底からお互いを信じ合っているというレベルではない。
真は女性として、心の成長も見込めるようにこのようにプログラムしていたのだ。
成長は人として生きていくのに大事な要素。
初めから完成されている状態なら、それは生命として、終わっているということでもある。
一日の願いはそんな事ではない。
彼方と一緒に辛いことも楽しいことも共有して、共に成長していくと言うことでもある。
一日がVRPとして成長するには4人必要だった。
だから、初めからVRPが生み出されたのだ。
足りない部分をお互い補い合って成長していける様に。
それでも足りない部分は彼方が――、友達が――、未来の真達が補ってくれる。
それが、解っていたからこそ、一日は安らかな永眠についたのだ。
「姉ちゃんの残した言葉の一部を伝えるぞ――まずはかくれんぼ。真昼ちゃんを見つけてあげて――だそうだ」
真はそう言った。
「見つけるったってどうやって?」
「うーん……、解らないわ」
「奈朝ちゃんでも解らないの?」
「わからないものはわからないわよ」
「唯夜ちゃんは?」
「ボクもわからない」
三人はどうやったら真昼を見つけられるか解らない状態だった。
だけど――
「あのね、子供と向き合うには子供の目線で向き合ってあげることなのよ」
今まで黙っていた奈留が声をかけた。
もっとも真の声を利用していたからニューハーフの様に見えたが。
「奈留か?どういう事だ?」
彼方は未来の世界の妹に尋ねる。
「ここは、私達がアドバイスするわね。なんせ、私達は孫までいるくらいだからね。子供の育て方は十分承知しているわ」
「子供の目線ってのは大人の理屈で考えるなって事さ。大人の理屈で考えても子供の無邪気な発想には敵わないからな。俺達大人は知識を得てきたが、逆に、自由な発想は捨ててきちまった。子供ってのは大人が思いもつかない所に隠れているもんだ」
「幼い子供の頃に戻ったつもりになって探してね、頑張ってお兄ちゃん達」
真の口から未来の真と奈留のアドバイスが語られる。
「幼い子供の頃に戻ったって言ったって……ぶっ」
何気なく適当に蓋のしてあるゴミ箱を空けて見たらオモチャの拳が彼方の顔にヒットした。
そう、既に、真昼はかくれんぼをして遊んでいたのだ。
そのサインに彼方や夕愛達は今まで、気付いてやれなかったのだ。
遊びは既に始まっている。
要はその事に気付いてやれるかどうかだったのだ。
真昼は未来の世界に行ったとき、未来の世界から色々遊び道具を物色して来ていた。
他の土地や時間も回って色んなものを仕入れて来ていた。
後は、かき集めた遊び道具で彼方達と遊ぶだけだった。
真昼が司るのは楽しみと昼間――そして、仲良くなる事だ。
後は、真昼と楽しく遊んであげれば、すむ話なのだ。
「真昼ちゃーん、何処ですかぁ?」
「ここかしら?出てきなさい、真昼ぅ」
「ボクの予想ではマヒルンはここにもいない。じゃあ、あそこだ!あいたっ」
探し回る三人とそれに反応して出てくる未来の世界のおかしなアイテム達。
それを見ている光景は本当に楽しそうだった。
考えて見れば、唯夜を倒した時の真昼は、彼女を正常に戻したとも考えられた。
真昼はただ、遊びたかっただけかも知れない。
彼方はそう思うと、何だかワクワクしてきた。
そして――
「夕愛、奈朝、唯夜、お前達のありったけをぶつけて真昼と遊んであげてくれ。僕もとっておきを用意する。仲良くなるにはそれが一番のはずだ。その準備をしてくるからしばらく席を外す。後は頼んだ」
と言って、どこかに行ってしまった。
その顔はみんなが一つになることを確信したような笑顔だった。
その表情を見た、夕愛達三人は自分の持てる力をフル活用して、真昼捜索活動に専念した。
その光景を見ていたギャラリー達も何だか楽しくなって一緒になって真昼を探し出した。
ここにも居ない。
そこにも居ない。
あそこにも居ない。
間違えたらバツゲーム。
ピコピコハンマーが飛んでくる。
ちょっと悔しいな。
じゃあ、今度はこっちの番だ。
夕愛は音珠を駆使して、自動捜索機を作り出す。
奈朝は探偵物語をダウンロードして、名探偵を捜索隊として派遣する。
唯夜はディメンションゴースト達にも捜索をさせている。
真昼捜索の虱潰し、ローラー作戦が始まった。
それでも真昼は見つからない。
何でだろう。
何となく、真昼は学校内に隠れている気がする。
そのルールは守っている。
そんな気がする。
遊びっていうのはルールがあって初めて成立する。
だから、遊んでいる真昼はそのルールを守っているはずだ。
真昼は学校を遊び場に選んだのだから。
ズルはしない子だ。
見つからないのを良いことに隠れてくすすと笑っているに違いない。
なら、何で見つからない?
答えは一つ。
真昼は移動しながら隠れているのだ。
時間差で隠れる所が変わるから見つからなかったのだ。
「めちゃくちゃに探して下さい。タイミングが合えば見つかるはずです」
その事に気付いた夕愛がみんなに指示を出す。
そして――
「見つかっちゃった」
真昼の潜伏先――それは、最初に彼方があけたゴミ箱の中だった。
真昼が見つかったのは朝からずっと探し回って午後の三時だった。
途中、先生達が何か言っていたけど、学校中で盛り上がり、みんなでわいわい真昼探しをしていた。
そして校内放送が流れる。
「夕愛、奈朝、唯夜、そして、真昼、今から家庭科室に集合」
彼方の声だった。
「あいつは、後でお仕置きだ。こってり絞ってやる」
先生が文句を言う。
だけど、何となく楽しそうだ。
ずっと暗かった彼方が明るくなったのが何となく嬉しかったのだ。
学校全体でのお祭り騒ぎ。
たまにはそんな日があっても良いかと思ってしまったのだ。
家庭科室に集まった四人にエプロンをした彼方が待ちかまえていた。
「三時はおやつって相場が決まってるだろ。だから、クッキー焼いて見たんだ。試食してみてくれないかな?」
彼方は少しはにかんで笑って見せる。
仲良く一緒に遊んだ後はみんなで楽しくおやつを食べる。
そうすれば、本当の意味で友達になれるだろう。
「クッキー?」
首をかしげる真昼に
「友達になろう、真昼」
と彼方は口にした。
「――うん、友達」
真昼も笑った。
それに呼応して、夕愛、奈朝、唯夜、真昼の身体が光った。
共鳴したのだ。
四人の気持ちが一つになった瞬間でもあった。
色々あったが、無事に四人は彼方の元へとたどり着いた。
そして、四人の立っている丁度中間地点に映像が浮かび上がる。
一日だった。
最終章 絆
「彼方さん――ちょっと恥ずかしいな。こんなおばあちゃんみたいな姿で話す事になるから……出来れば、若い内に貴方と再会したかったけどね。でも、こんな形でしか貴方と話せなかったの。ごめんなさいね」
「か、一日ちゃん……」
一日の肉声を聞いて彼方の頬から涙がこぼれる。
おばあちゃんみたいな姿だから?
そんなの関係ない。
どんな姿だろうと自分が全力で愛した女性なんだから。
「何から話せば良いのかしら……あれ?話したい事は山ほどあった筈なんだけどね。いざ、話そうと思うとなかなか言葉が出てこないわね。こまったなぁ……ふふ、でも貴方と話せる事を思うと嬉しくなっちゃうわねぇ……私、後悔はしてないわ。……だって、二度の人生で貴方を愛せるんですもの。こんな幸せな事ないわ。普通の人より多くあなたを慕えるんですもの。得しちゃった気分だわね」
一日は言葉の一つ一つを噛みしめる様にゆっくりと丁寧に話した。
と言っても未来の世界においては既に故人となっている。
生前に残した言葉に過ぎないので、一方的に話すという事になる。
だけど、一日にとってそれは問題ではない。
何にしろ、彼方に自分自身の言葉を残せるのだから。
「それからね……」
一日は言葉を続ける。
彼方と一日、それに四人のVRP以外は家庭科室を出て行った。
今、ここは、彼方と一日、四人のVRP達のためだけにある空間だからだ。
それに割って入るのは野暮、無粋というものだからだ。
しばらく経って教室を閉めなくちゃいけない先生が鍵を閉めに家庭科室に向かうと彼方と四人のVRPが抱き合って眠っている姿が見えた。
みんな涙を流した後がある。
泣き疲れたのだろう。
色々あったが、やっと気持ちを一つに出来たのだろう。
「やれやれ、お説教はまたの機会かな」
そう言うと、先生は優しい顔で五人を見つめるのだった。
次の日――
「彼方さん、今日、面白い映画がやってるんです。一緒に見に行きましょう」
「なら、私は彼方の隣な」
「ボクは反対側の隣を取った」
「真昼は膝の上が良い」
「ズルイです。私の座る場所が無いですよ」
「後ろが空いているじゃない」
「そんなの嫌です」
夕愛と奈朝の良い争いに唯夜が加わり、更に真昼も加わる。
「全く――、結局、お前達は四人揃っても変わらないな」
呆れる彼方。
「そんなことないですよ。ほら、胸だって3センチも大きくなって」
「私はウエストが二センチ小さくなった」
「ボクは英語がしゃべれるようになった」
「真昼はピーマンが食べられるようになったよぉ」
彼方と四人の関係はこのまま続くのだろう。
一日と過ごせなかった分、この四人と楽しく人生を謳歌するんだ。
彼方はそう心に決めたのだった。
完。
登場キャラクター紹介
001 春風 彼方(はるか かなた)
愛する一日と永遠の別れを経験してしまった少年。
生涯にわたって独身を貫くが、それを知った一日にバーチャルリアルパートナーを送られる。
002 大切 一日(おおぎり かずひ)
愛する彼方と永遠の別れを経験した少女。
不治の病にかかり、未来において特効薬が出来ると信じてコールドスリープすることになる。
40年後、完治するも彼方が独身を通した事を知り、過去に自身を投影した4体のバーチャルリアルパートナーを送ってもらう。
003 大切 真(おおぎり まこと)
一日の弟。
40年後には3つの会社のCEOを経験し、悠々自適な生活を送っていたが、姉が目を醒ました事をしり、姉の為にバーチャルリアルパートナーを作り、過去に送る事になる。
姉が大好きで40年前には彼方に対して、反発していた。
004 大切 奈留(おおぎり なる)
旧姓、春風で、真と結婚した。
彼方の妹。
彼方が大好きだったため、40年前は真と犬猿の仲だったが、彼方と一日の悲しい別れを共に悲しむ内、何時しか真と共に歩む人生を選択。
真同様に彼方と一日の為に未来の世界から協力する。
005 夕愛(ゆうあ)
一日の情報を元に作られたバーチャルリアルパートナー。
ロングストレートの女の子。
夕方と告白を司る。
006 奈朝(なあさ)
一日の情報を元に作られたバーチャルリアルパートナー。
ポニーテールの女の子。
朝と出会いを司る。
007 唯夜(いよ)
一日の情報を元に作られたバーチャルリアルパートナー。
ボブカットでボーイッシュな女の子。
夜と恋人を司る。
008 真昼(まひる)
一日の情報を元に作られたバーチャルリアルパートナー。
ショートカットで子供の心を持つ女の子。
昼と友達を司る。