第001話


 序 契約



「では中洲 一太(なかす いった)さん……ここにサインと拇印を」
「――ホントに彼女を解放してくれるんだな?」
「えぇ、そうよ、出来るものならね。――でも、あなたに彼女の無敵無敗伝説に傷をつけられるとも思えないけどね」
「やってみなきゃわからねぇよ」

 俺は今、株式会社 獏喰天(ばくてん)の副社長秘書とある契約を交わそうとしている。
 契約内容はゲームにも見えるが、それは違法オンラインカジノでのプレイヤー登録だ。

 プレイヤーと言っても競馬に例えれば、金をかけるギャンブラーと競走馬を操る騎手のような立場の二種類がある。
 前者をマネープレイヤー、後者をドリームプレイヤーといい、俺は後者の方の契約だ。
 俺は、ドリームプレイヤーとして、文字通り夢を賭けて【夢命戦(ゆめいくさ)】というオンラインバトルフィールドで戦う事になる。

 【夢命戦】――こいつが何故、違法かというと、かつて無い程の多額の金が動くのと、ドリームプレイヤー達が抱える問題、末路にある。

 ドリームプレイヤー達は文字通り【夢】を賭けて戦う。
 勝てば良いが、負ければ、その大切な【夢】は泡と消えちまう。
 その【夢】を支えに生きている人間は【夢】が絶たれる事によって希望を失い、鬱病となり、やがて命を絶つ。
 生きていても仕方ないと思うようになるからだ。
 このカジノが出来て、三年……【夢】を失ったと思われる自殺者が後を絶たなかったからだ。
 政府はこれを重く見て、【夢命戦】を違法とした。

 だが、このゲームの潜在的なコアなファンは多い。
 ギャンブル特有の依存症に陥るものがかなりいると聞く。
 俺は、別に依存症にはなっちゃいない。
 だが、俺にはこのギャンブルに参加する理由がある。
 それだけだ……

 株式会社 獏喰天――この会社は元々、俺の親友、歌舞伎町 達也(かぶきちょう たつや)が中学生の時に立ち上げた会社だ。

 よく俺と夢を語り合っていたあいつは、夢そのものを擬人化出来るシステムを作り、会社を立ち上げた。
 会社名は【バク転】に【悪夢を食べる獏に喰うと天】と書いた当て字で俺が作った。
 まだ、学生だった社長の達也は経営をクラスの女子の父親、北新地(きたしんち)副社長に任せて大学を卒業した時に本格的に始動するために動いていた。
 獏喰天は俺と達也が夢を叶えるための会社であったはずだった。

 だけど、あいつは俺に手紙と手引き書、ブラックボックスUSBを残して行方不明、会社は副社長に乗っ取られちまった。
 獏喰天は暴走を始め、今じゃ違法ギャンブルにより悪の代名詞にまでなっちまった。
 稼いだ額は天文学的数値に跳ね上り、今じゃ、違法と知りつつも政府も迂闊に手が出せない存在にまでなった獏喰天――
 そんなやりたい放題の奴らだが、喉から手が出る程、欲しがっているものがあるらしい。
 それが、達也から受け取った3つのUSBメモリーだ。
 その内の1つが会社の不正が事細かく書かれたデータになっている。
 これをしかるべき所に持っていったら、獏喰天はとりつぶされる程のものだ。

 本当なら、こいつを持って行ってといきたいところなんだが……

 俺には出来ない理由がある。
 それは、俺と達也の好きな女の子、薄野 瑞希(すすきの みずき)を人質に取られているからだ。
 薄汚ねぇこいつらは、彼女の父親を騙して、マネープレイヤーとして【夢命戦】に参加させ、一生かけても返せない程の借金を作らせ、娘である彼女をドリームプレイヤーとして強制参加させていた。
 天真爛漫で明るかったのに、夢を根こそぎ取られた彼女はまるで人形のようになっちまった。
 こいつらは彼女を元に戻すかわりに俺の持っているUSBをよこせと言ってきた。
 そんな取引には応じられない。
 だが、USBを警察に持っていけば、彼女は人形のままだ。
 それで、今までは話が平行線をたどっていた。

 だけど、今回、奴らが提案を持ちかけてきた。
 それが、俺の【夢命戦】への参戦だ。
 俺はドリームプレイヤーとして、参加し、ファイトマネーで彼女の父親の借金を返していくか、奴らの指定するボスキャラを倒して、一気に返すかの二択だ。

 正直、通常のファイトマネーだけで返すのには利息もあるし、何十年かかるかわかったもんじゃない。
 そんなに長く薄野を放っておくことは出来ない。
 だけど、もう一つの条件も俺にとっては辛いものでもある。

 それは、やつらの指定するボスキャラというのが薄野本人だからだ。
 薄野を倒せば、解放される。
 だが、彼女の夢を一つ、破壊してしまう。
 その夢が彼女にとってかけがえのないものなら俺は生きる目的を一つ奪ってしまうことになるからだ。
 危険な賭でもその後、何十年もの人生を失う事を考えれば、俺は彼女の夢を一つ奪うしかない。
 俺は悩み抜いた末、苦渋の決断で、薄野を倒す決心をした。

「そう睨まないで欲しいわね。私はビジネスをしに来たのよ、ビジネスを」
 副社長秘書、北新地 早苗(きたしんち さなえ)が冷笑を浮かべる。
 こいつは副社長の娘であり、薄野の親友だった女だ。
 この女と彼女が親友という事もあり、彼女の父親と副社長もプライベートで親交があり、そして、親娘揃って騙されたんだ。
「よくもまぁ…ぬけぬけと…この糞女が…」
「あなたのそういう顔、そそるわねぇ。素敵よ」
「地獄に落ちるぞ、お前」
「そうね…そうかもね。でも、好きな女の子の夢を打ち砕こうとしているあなたも地獄行きかもね?死んだら一緒に地獄で仲良くしましょ」
「誰がお前なんかと」
「ふふふ」

 こうして俺は、悪魔との取引をした。

 俺は、USBを隠し、俺のキャラクターが全滅した時に、その在処を書いたメモを残す事になっている。
 逆に薄野の夢を具現化したキャラクターを一体倒せば、彼女は解放される。
 これが、俺と獏喰天側で取り決めた折衷案だったからだ。



 一 登録



「――以上でノンヘリカルイメージスキャンを終了します。それではキャラクター登録をおこないます。よろしいですか?」
「あぁ、良いよ」
 俺は、【夢命戦】に参戦するために、CTスキャンの様な装置で頭の中のイメージを探られた。
 俺から夢を取り出すのに必要な作業だからだ。
「あなたが現在、夢として認識されているものは三つです。お笑い芸人になりたいという夢、ご自身の理想像、理想の異性像の三つです。この中からキャラクター化して欲しい夢をお選び下さい」
「じゃあ、お笑い芸人になる夢で」
「後戻りは出来ませんが宜しいですね」
「あぁ、良いよ、やってくれ」
「キャラクター化を開始します」
 オペレーターの案内に従い、俺は自分の夢のキャラクター化の作業を行っている。

 キャラクターは一つの夢に対して一つ作れる。
 だから、たくさんの夢を持っている奴はそれだけ多くのキャラクターを持つことが出来る。
 だが、夢と認定されるからには、かなりの気持ちがそれに入っていないと駄目らしい。
 やりたいことは結構あったんだが、夢にするには弱かったらしい。

 三つの夢の内、どれを選択するかは始めから決めていた。
 俺は俺でいたいから、自分の理想像は選択出来ないし、理想の異性像ってのも薄野に対する気持ちだろうから、やられる訳にはいかない。

 すると、必然的に最後に残るのは、お笑い芸人になりたいって夢になる。
 この夢は薄野をずっと笑わせたいって事から持った夢だし、彼女にはかえられない。
 何が起きるか解らない【夢命戦】で、下手な夢を使う訳にはいかない。

 お笑い芸人になる夢を捨てなきゃいけないかも知れないが、俺も、薄野の夢を一つ壊すんだ。
 自分の夢一つ、潰す覚悟がなくてどうするって事で迷わず選択した。
 ――二十分後、俺の夢をキャラクター化させたやつが出来た。

「こいつが、俺のキャラクターか」
「はい、お笑い芸人になる夢をキャラクター化させたブレイバーになります」
「ブレイバー……つまり、勇者って事か?」
「いいえ、この世界においてはブレイブ・ヒーローが勇者という事になっています。ブレイバーはその卵、勇者を目指す者という立場です」
「ふーん……で?こいつの能力とかはないの?」
「それはプレイヤー様の方でカスタマイズして下さい。その夢に見合った能力程、高い効果を生みます」
「なるほどね」
 俺は、出来たばかりのキャラクター――ブレイバーだっけか、こいつを見た。

 六頭身から十頭身が一般的なようだが、俺のブレイバーはどう見ても三頭身…
 あまり、戦闘向きじゃないなと思えた。
 コロコロしていてゆるキャラみたいな感じだ。
 なかなか良いアイディアが思い浮かばなかったが、お笑いと言えばネタが大事でもある。
 俺は、頭の引き出しから絞り出して、ブレイバーのカスタマイズを行った。

 後は、薄野に挑戦するだけだ。

「じゃあ、オペレーターさん、薄野瑞希に挑戦したいんだけど、セッティングしてくれないか?」
「残念ですが、薄野瑞希様に挑戦する事は出来ません」
 何ぃ? 話が違うぞ、どういう事だ?
「何でだよ?」
「彼女の夢のクラスは一つを除き、全て、ラスボスクラスです。現在のブレイバーでは挑戦出来ません」
「なら、どうやったら挑戦できるんだよ?」
「【夢命戦】の世界においてはボスクラスは4種類存在します。下から小ボス、中ボス、大ボス、そして、薄野様が多く使用されていますラスボスクラスになります。ボスクラスに挑戦するには、自分以外のブレイバーのコアを集める必要があります。他にも条件はありますが、最低でも小ボスには三つ、中ボスには五つ、大ボスには七つのコアが必要で、ラスボスには十のコアが必要となります」
「じゃあ、俺は他のブレイバーを十人倒さないと挑戦出来ねぇってのか?」
「いいえ、他のブレイバーが更に別のブレイバーのコアを所有していた場合、同等のコアを賭ける事を双方のプレイヤーが承知すれば、複数のコアを一度に手にする事も可能です」
「――って事は、ブレイバーのコアを九つ以上持っている奴を倒せば、一気に挑戦権を得ることも可能って事だな」
「それは……相手プレイヤーが承知するとは思えません。何しろ、あなたが現在所有している他のプレイヤーのコアは〇なのですから。コアは等価交換が基本ですから、よっぽどのお人好しでも無い限り、それはないと思います」

 くそっ……近道は無いって事か。
 少なくとも十のコアを集めるまで、薄野には挑戦出来ないって事か。

 考えてみりゃ、薄野はボスキャラだ。

 簡単に挑戦できると思う方がどうかしているか。
 まぁいい……やるだけやるさ。
「じゃあ、早速、プレイさせてくれ、出来るだけ、条件の良い相手が良い」
「お待ち下さい。まだ、ブレイバーに名前が決まっていません」
「【いっちゃん】で良いよ【いっちゃん】で」
「はい、【いっちゃん】ですね。次にバトルフィールドを選択して下さい」
「何でも良いよ、早くしてくれ」
「中洲様、適当に決められると【夢命戦】ではすぐにやられてしまいますよ」
「俺は、早く薄野に挑戦したいんだよ」
「――わかりました。御武運を」
「とっとと終わらせてやる」
 俺は薄野を助けて、この馬鹿げたギャンブルからとっととおさらばしたいんだ。

 簡単な説明だけを受けて、俺はバトルフィールドにブレイバーを送り込んだ。



 二 初戦



 まず、【いっちゃん】が立った戦場は何もない荒野だった。
 俺は、ここを歩き回り、対戦相手となるブレイバーを探すことになる。

 なるのだけど……
 あまりここは人気が無いのか、ブレイバーもパラパラとしか存在していない。
 適当に相手を見繕って挑戦したいんだけど、どいつにすれば良いのか正直、迷うところだ。

 あれこれ悩んでいる内に、相手のブレイバーから挑戦してきた。
「お前と戦いたい」
 そう言ってきた奴を見ると道着を来ているブレイバーだった。
 恐らく、空手や柔道の夢を持っている奴のブレイバーだろう……。
 黒帯をしているが、こいつは素人だろう。
 構えがなっちゃいない。
 有段者ってのは構えが美しい。
 だから、仕草を見れば、こいつの腕が大したことないってのはよくわかる。
 まぁ、元はただの夢だからな、強い弱いは別だろう。
「いいぜ、やろう」
 俺は、挑戦を受けた。

 両者が同意した事で、俺の【いっちゃん】と空手ブレイバー【黒帯】のカードが決定し、俺達のバトルが賭けの対象となり、マネープレイヤー達が【いっちゃん】か【黒帯】に賭けていく。
 【いっちゃん】が一に対し、【黒帯】が九。
 まぁ、【いっちゃん】の見た目からすると勝てるとは思いにくいんだろう。
 【黒帯】のプレイヤーも同じ気持ちで、俺がカモだと思って挑戦して来たに違いない。

 だけど、この【夢命戦】は夢の強さを競うものだ。
 見た目は関係ない。
 空手素人の奴の方がカモだ。

 マネープレイヤー共のベット(賭け)が済み、俺達はいよいよ、対戦する事になった。
 先手必勝って事で突進する【いっちゃん】。
 だが、三頭身だから、なかなか前に進まない。
 コミカルな動きになってしまっている。
 マネープレイヤー達の笑い声が響く。
 【黒帯】はそれを見て正拳突きを放つ。

 バカめ、これは芝居だ。
 ウケを狙っただけだ。
 俺はサッとかわし攻撃をよけ……
「ぐっ……」
 何?ヒットした?
 どういう事だ?
 【黒帯】の素人パンチが【いっちゃん】にヒットしダメージを受けた。
 もっともヘロヘロパンチだから大したダメージは無いが、何であんな素人パンチがヒットしたんだ?

「トドメだ」
 【黒帯】が追撃をしてきた。
 【いっちゃん】はギリギリの所でかわし……きれなかった。

 また、ヒット。
 奴は、トドメとは言ったが、倒せる程、攻撃力は高くないのか【いっちゃん】は無事だ。
 だが、また、ヒットしちまった。
 あんなへなちょこパンチが何でヒットするんだ?
 わからない。
 どういう事だ。
「何だ?どういうからくりだ?」
「ふん、解らないだろう。今度こそトドメだ」
 三度攻撃を仕掛ける【黒帯】。

 交わせないなら……
「くっ」
 俺は【黒帯】の攻撃に自ら当たりに行った。
 攻撃力は大した事無いんだ。
 二、三発くらい我慢すりゃ何とでもなる。
「悪あがきだな」
 呆れる【黒帯】。

 だが、俺は見たぞ。
 奴のからくりを。
 確かに【黒帯】だな、奴は。

「死ね」
「お前がな」
 【黒帯】がつっこんできた。
 だが、俺は冷静に対処した。
 奴の見えない攻撃の正体は影だ。
 黒帯が奴自身の影に混ざり、それが俺の背後に回り込み、影から黒い帯が飛び出て、俺に攻撃を仕掛けていた。
 避けていたから影からくる黒帯の攻撃が死角になってしまって見えなかったんだ。
 からくりさえ解ってしまえば、簡単だ。
 目で影を追えば奴の攻撃は届かない。

 今度はこっちの番だ。
 【すってんころりんアタック】をお見舞いしてやる。
 こいつは、敵を巻き込んですっ転ぶ、【いっちゃん】の必殺技だ。
 【いっちゃん】はダメージを負わないが敵が大ダメージを受ける。
 かけ声はもちろん
「おっと、滑ったぁ〜」
「ぐわぁ〜」
 【いっちゃん】は派手に転び、【黒帯】を巻き込んだ。
 【黒帯】は予想通り、大ダメージを受けた。
 よし、後、一歩だ。

「コアはもらった」
「くそっ、いきなり切り札を使う事になるとは」
 何だと?
「むにゃもにゃむにゃもにゃ……」
「げ、何だ?」
 いきなり、妙な言葉を口走りやがった。
 奴の言葉に反応して、【黒帯】の胴体が大蛇の様にぐにゃ〜っと伸びる。
 そして、伸びた胴の至る所から腕が生えてきた。
 その姿はまるでムカデの様だ。

「ふはは、こっちは影だけじゃないんだよ」
「うげぇ、気持ち悪りぃ」
 ウネウネとたくさんの腕が動く様は見ていて気持ち悪かった。
 よく見ると今度は素手でもない、全部の腕にメリケンサックのような物をはめている。
「行くぞ、今度こそトドメだ」

 ちっ、何度目のトドメだっての。
 クネクネと変幻自在に胴体を揺らし、無数の腕から放たれるへなちょこパンチ。
 いくらへなちょこでもこれだけ数が多いとさすがに、ダメージが蓄積される。
 それに武装しているからさっきよりダメージが大きい。
 まずい、このままだとやられちまう。

 何か手は無いのか?
 そ、そうだ。
「ね、猫が寝込んだ、寝ころんだぁ!」
 俺は力の限り、オヤジギャグを叫んだ。
 俺の設定に間違えがなけりゃ……。

 ガン!
「ぎゃあ!」
 でっかい金だらいが落ちてくるって寸法よ。

 よし、また、さらにダメージを与えた。
 続け様に俺は叫ぶ。
「布団がふっとんだ!その囲いはかっこいーな!その鳥、おとり代えしましょうか!妖怪さん、何かようかい?その怖い話は怖いって言ったじゃん、ホラー見ろ!おしくらまんじゅうをしてたら何だかもよおしたよ、そうだよなぁ、おしっこしたもんなぁ!拍手してたらくしゃみがでたよ、はくしゅん!怨念がおんねん!」
 俺は思いつく限りのスベリギャグを言った。
 続けざまに金だらいがガンゴンガンドンゴンとどんどん落ちて行く。
 ドンガンガンと次々にダメージを与え、奴は弱っていった。

 そして
「トドメだ、何でやねん!」
 最後は俺の方が、裏張り手でトドメを与えた。

 ついに、【黒帯】を倒す事が出来た。
 思ったより、強敵だったが、得した事もあった。
 【黒帯】は、所有していた他のブレイバーのコアを二つ支払い、奴自身のコアのダメージを防いだ。

 敗北した場合、二倍のコアを支払う事によって、消滅を免れるらしい。
 ただし、これは二度目の敗北の場合は三倍のコアとなり、三度目の敗北では五倍のコアとなり、四度目の敗北は否応無しに消滅するようだ。

 負けたブレイバーは一回休みとなり、他のブレイバーを使用しなくてはならず、他に使用できるブレイバーが存在しない場合は命乞いは認められない。
 また、支払うコアが無い場合も同じだ。
 何にしろ、俺は、奴の命乞いによって図らずも、二つのコアを手にすることが出来た。

 待ってろ、すぐに、薄野に挑戦してお前を解放してやるから。



 三 敗北と再挑戦



 俺は続けて、相手を探した。
 バトル・フィールドは空中庭園に変更した。
 荒野では何もなかったが、バトル・フィールドを活かした戦い方もあると俺は考えたからだ。
 空中庭園なら、空中にあるから、【すってんころりんアタック】で敵を巻き込めば、うまく行けば、それが、一撃必殺になる。

 相手を落としてしまえば良いからだ。
 だけど、それは失敗だったかも知れない。
 俺の勉強不足だった。
 どいつもこいつも翼や飛行アイテムを持っている奴ばかりだ。
 これじゃ、落としてもすぐに戻って来られる。
 駄目だと思って別のバトル・フィールドに移ろうと考えている時、今度の対戦相手に適した奴を見つけた。
 見たところ、空を飛べそうな物は見あたらない。
 落とせば、勝てるかも知れない。

 もっとも、【黒帯】の様に変身する場合も考えられる。
 確実に勝てるという保証は無いがとりあえずやってみるか。

「ちょっと良いか?」
「僕ですか?」
「そうだ、あんたに勝負を申し込みたい」
「いいですよ」
「契約成立だな」
「よろしくおねがいします」
「あぁ、よろしく」
 俺の挑戦を受けてくれた今度の奴は性格は良さそうだ。

 エプロンをしている所を見ると、料理か何かの夢のブレイバーか?

 ブレイバーの名前の【クックマン】からしても料理関係の能力を使うのは推測出来る。
 どんな戦い方をするのかは知らないが、こいつを倒せば、三つ目のコアが揃う。
 小ボスには挑戦出来るようになるって事か。

 だが、俺が挑戦したいのはラスボスの薄野だ。
 彼女は一つだけ、中ボスクラスがあるらしいが、小ボスはない。
 ――って事で、小ボスに用はない。
 少なくとも五つコアを貯めないと彼女への挑戦権は無い。
 だから、ここもさっさと突破させてもらうだけだ。

「お手柔らかにお願いします」
「あぁ」
 生返事を返す。
 奴の言うように、お手柔らかにという訳にはいかないからだ。
 俺は、奴のコアをもらわないといけない。
 悪いが、本気で倒しにかからせてもらう。
 金の亡者共が俺達に賭け、戦いが開始された。

 【黒帯】の時と同様、先手必勝だ。
 こちらから行かせてもらう。
 俺は間合いを詰め、至近距離から――
「鳥をとりこんだ!馬は旨かった!猿が去る!イルカはいるか?バナナで転んだ?そんなバナナ!トマトを食べるのとまとってしまった!沙羅が皿と一緒に更に攫われた!もう一杯どう?いや、俺はもういっぱいだぁ!」
 金だらい攻撃をラッシュでしかけた。
 次々と落ちる金だらい。

 だが、奴はひょいひょいかわしていく。
 くそっ、やっぱり戦術を練らないとうまく当たらないか。
 なら、今度は……
「おーっとすべったぁ〜」
 【いっちゃん】を派手に転ばし、【クックマン】を巻き込んでダメージを与える。
「あいたたた……」
 よし、効いてる。
 これは有効だ。

 後は、奴をフィールドの外側に誘い出して、【すってんころりんアタック】を食らわせれば、奴を倒せるはずだ。
「おーっと……」
「それは、ちょっと危険だな」
 【クックマン】は距離を取る。

 【すってんころりんアタック】は相手との間合いが大事だ。
 あまり、距離を取られるとこの攻撃は成立しない。

 俺はジリジリと間合いを詰め、【クックマン】は間合いを調整して距離を取る。
 隙だ、とにかく、隙を作るんだ。
 俺は考えた末、ある方法を思いつく。

 このフィールドにはオブジェが転々と配置されている。
 俺の考えではこのオブジェにぶつかって更に転がれば、【すってんころりんアタック】の射程距離を二倍に出来ると思っている。
 後は奴に気付かれないように、手頃なオブジェと奴の位置、俺の位置を計算していけば良い。

 そして、俺が狙っているのは木のオブジェのある位置に奴を誘い込む事。
 上手く行けば、奴が飛ばされる先に、馬のオブジェがあり、それにぶつかる角度によっては場外に飛ばせるかも知れない。
 いける――いけるぞ、これなら大丈夫だ。
 完璧だ。

 俺は相手に意識させないように間合いを詰めて行き、そして、ピタリと狙い通りの位置に奴が来た時に仕掛けた。
「おーっとすべったぁ〜と思ったらまたすべったぁ〜」
 木のオブジェを利用して、一気に間合いを詰めて、いざダイレクトアタック……と思ったが、俺の前に信じられない光景が飛び込んできた。
「ぐあぁぁ……な、何故ぇ?」
 【クックマン】が居たはずの場所に馬のオブジェが移動していた。
 逆に吹っ飛ぶ【いっちゃん】から見た映像は馬のオブジェがにんじんを食べているものだった。
 【クックマン】の能力なのだろうか?
 作り出したにんじんにつられて馬のオブジェが移動するなんて事があるとは。

 カウンターを食らった形になり、大技である【すってんころりんアタック】のダメージはそのまま【いっちゃん】に跳ね返った。
 通常のダメージより大きなダメージを食らってしまった。
 それだけ、木のオブジェを利用した二段構えの【すってんころりんアタック】はダメージが加算されるのだろうけど、今はこっちがそのダメージを受けてしまった。

「大丈夫ですか?」
 【クックマン】が話かける。
 口調とは裏腹にニヤニヤしている。

 狙ってたのは奴の方だったんだ。
 俺の考えを見越した上で、誘っていたんだ。
 くそっ、騙された。

 クラクラしている【いっちゃん】に【クックマン】はたたみかける。
「残さず召し上がれ」
「◆○▽♪●▲□」
 いつの間にか作った料理を【いっちゃん】の口に放り込まれた。
 【いっちゃん】のステータスが滅茶苦茶に書き換わる。
 なんて、攻撃だ。

 グロッキー状態の【いっちゃん】だが、根性で持ちこたえる。
 が、無情にもトドメの一撃を受けた。
 最後はタダのビンタ――
 【クックマン】の得意技でも何でもない、通常攻撃であるただのビンタだった。

「【いっちゃん】は敗北しました。どうされますか?」
 オペレーターが俺に選択を迫る。
 このままだと【いっちゃん】は消滅し、俺の中からお笑い芸人になりたいという夢は消える事になる。
 こんな序盤から、俺は夢を失うのか――
 そんな――
 い、嫌だ。そんなの嫌だ。

 それから、しばらくは俺の記憶にない。
 結論から言うと【いっちゃん】は無事だった。
 【黒帯】から手に入れていた二つのコアを支払い、夢の破壊を免れたようだ。
 無意識に自分の夢を庇う様な行動を取ったという事だ。

 俺はこの敗北によって、相手プレイヤーから夢を奪うという事の重みと夢を失う事の怖さを再認識させられた。

 怖い――

 こんな怖い世界で薄野はずっと戦い続けているのか。
 俺はたまらず、【夢命戦】からログアウトして肩を振るわせていた。
 震えが止まらない。
 ヤバイ――
 逃げ出したい。

「そんなものなの、貴方の覚悟って?」
 北新地早苗があざ笑う。
 無理もない。
 俺は、【とっとと薄野を救い出してやる】と息巻いて、この女の前でプレイしていたんだ。
 それが、夢を奪われそうになって逃げ帰って来たんだ。
 笑いたくもなるだろう。
 情けねえ。
 涙が出てくる。
 悔しい――悔しいが、続けてプレイする事が出来ない。

「うぅっ」
 俺は嗚咽を漏らした。
 それを見ていた北新地早苗はいらついた表情で、
「情けない男、こんな男に思われるんじゃ彼女も哀れよねぇ、ナイトを気取ったのは良いけど、怖くて引き返して来たんだもの」
 何も言えない。

 俺は黙ってトボトボと外に出た。
 立て前では空気を吸いに外に、
 本音ではその場に居たくなくて逃げたんだ。

 俺は、USBを隠してある学校に向かった。
 薄野との思い出の場所にUSBを埋めてあるからだ。
 自分じゃ手に負えないから後は警察に何とかしてもらおう――
 そんな気持ちで向かっていた。

 そして、思い出の地、鉄棒近くの三番目の桜の木の前に立った。
 この木の根元にタイムカプセルにして埋めていたからだ。

 掘り起こしている間、色んな事を考えた。
 薄野との出会いから、親友の歌舞伎町も彼女の事を好きだと知って、殴り合った事等、楽しい思い出や辛い思い出などが次々と浮かんでは消えていった。
 そして、掘り起こしたタイムカプセルに書かれた文字を見て俺の気持ちはスッキリした。

 その文字は――
 ボーイズビーアンビシャス
 少年よ大志を抱け
 彼女の好きだった言葉だった。
 だけど、この言葉は俺には
 【男の子だろ、しっかりしなさい】
 という言葉に聞こえた。

 薄野に元気をもらった。
 そんな気がした。

 俺はタイムカプセルをそのまま埋め直すと自宅に戻った。
 北新地早苗は玄関の前で待っていた。

「待たせたな、クソ女、さっきまでの俺と一緒にしないことだな」
「その減らず口は瑞希を助けてから言って頂戴」
「【いっちゃん】は一回休みだったな、新しいブレイバーを作るぜ、とっとと準備しな」
「――その元気、いつまでもつのかしらね」
「薄野を助けて彼女と死に別れるまで続くさ」
「はいはい、それは行動で示してもらおうかしら」
 俺は気持ちを切り替え、再挑戦する事にした。
 今度は【いっちゃん】の時の様なテキトーな作り方はしない。
 慎重かつ大胆なカスタマイズをしてやる。
 俺は、再び、オペレーターの指示に従って新たなる夢のキャラクター化をさせる作業を行った。

「中洲一太様、では、こちらの理想の女性像のキャラクター化をご希望という事でよろしいですね?」
「あぁ、やってくれ。それが、一番強い気持ちなんだろ? やっぱり、彼女を助けたいって気持ちを正面からぶつけたい。俺はこれで行く」
「了解いたしました。では、これからキャラクター化を行います」
「あ、オペレーターさん、ちなみに、最後の一つ、自分の理想像ってのはどんなやつが出来るんだい?そっちの方が強かったとか?」
「プレイヤー様によってどの夢が一番大事かは変わって来ます。夢が大事という方はその夢のキャラクターが、ご自分が大好きな方は自分の理想像が、異性が最も大切な方は理想の異性像が最も大きな力を得ます。中洲様にとっては、現在、ご自分の理想像と理想の異性像の力は拮抗しています。前回は僅かにご自分の理想像が上でしたが、今は理想の異性像が上に変動しています。これは、ご本人様のお気持ちの持ち方が大きく左右しますので、力の増減はあります。」
 その言葉を聞いて、俺は薄野に対する気持ちが強くなったのを理解した。
 さっきまでは自分の安全を確保した上で戦っていた。
 だけど、今は――

 俺は、理想の女性像のブレイバーをカスタマイズしていった。
 新たなるブレイバー【MZK(エムズィーケー)】は薄野の名前【MIZUKI(瑞希)】からもじった名前だ。
 顔もどことなく彼女に似ている。
 よっぽど好きなんだな。
 そんな事を考えながら彼女に尽くすように丁寧に設定をしていった。

 好きな女の子を動かして――っていうと何となく照れくさいが、彼女を助けるために彼女の夢と戦うのであれば、俺も彼女に対する気持ちをぶつけるのが筋だと思ったんだ。

 出来たばかりの【MZK】を起動させ、バトル・フィールドを選択する。
 何処にするか――
 ……わかんねえや。

 俺はランダムを選らんだ。
 適当に選んだつもりはない。
 これからの戦いを占う意味で、運に任せてみるのも良いかと思って選択したんだ。
 つまり、ランダムという場所を俺は選んだってことだ。

 ――頼むぞ。

 選ばれたのは海岸のフィールドだった。
 砂浜に足を取られ動きにくく、また、すぐ近くには海、反対側には森があるフィールドだ。
 【MZK】は水着姿にチェンジしていた。
 薄野の身体をさらしているみたいでちょっと面白くない。
 が、それでも、彼女の抜群のプロポーションは俺を魅了した。
 他の女がカボチャに見える程の美しさだ。

 これは俺の理想の女性像なんだから仕方ないか。

「あの……」
 お、早速、挑戦者か?
「良いよ」
 俺は即答した。
「本当ですか。やったぁ〜じゃあ、あっちで写すって事で」
「写すって?」
「だから、あなたをですよ。ファンになっちゃいました。後でサイン下さい」
「何を言って?」
「前屈みになってもらっていいですか?」
「さっきから何を言ってるんだ?戦うんじゃないのか?」
「貴方と戦うなんてそんな勿体ない事出来ませんよ。貴方は最高のビーナスだ」
「ちょっと待て、そんなの聞いてな……」
「僕だけじゃありませんよ。ほら、あなたを撮りたい人はそこにもたくさんいるみたいですよ」
「な、何言って……」
 俺はふり向いたら一瞬ギョッとなった。

 カメラ小僧と化したブレイバー達が行列をなしてたからだ。
 何なんだ一体……。

 俺はデバガメ共を振り切った。
 灯台のエリアまで来たとき、新たに声をかけられた。
 口調からすると女の様だが、【MZK】の俺の様に中身が女とは限らない。

「ちょっとあなた、いい気になっているようね」
 【MZK】と同じ女性型のブレイバーが声をかけてきた。
「別にいい気になってねぇって」
「じゃあ、さっきのカメラ小僧はどういう事?」
「何だ、あんた、あんなのが良いのか?俺には理解出来ないな」
「浜辺の女王は私達三人なのよ、後からしゃしゃり出てくるんじゃないわよ」
 その女性型ブレイバーの声に反応して、残る二人の女性型ブレイバーも顔を出す。
 女の嫉妬ってやつか?
 そんなもんに関わっている程、俺は暇じゃない。

「気にいらねえなら勝負しようか?言っとくけど、俺は手加減するつもりはねぇぜ」
「良いわねぇ、ではあんたにはバトルロイヤル形式で勝負を挑むわ」
「バトルロイヤル形式?」
「知らないの?オペレーターにでも聞けば?」
「わかった。ちょっと待ってろ」

 バトルロイヤル形式という新しい単語が出てきたので、俺はオペレーターに聞いてみた。
「バトルロイヤル形式ですか。それは、一度にたくさんのコアが欲しい時に行われるバトル形式です。三〜五のブレイバーで同時に戦い、生き残った最後の一体が負けたブレイバー全てのコアを総取りというバトルです」
「へぇ、それは良いねぇ、つまり、勝ったら一気に三つのコアが手に入るって事だな」
「そうですね。ですが、あまりお勧めは出来ませんね。一つの夢が複数の夢を超える事等ボスキャラでもない限りあり得ませんし」
「俺はそのボスキャラを倒すために戦ってんだぜ、こんな所で負けてられるかよ」
「解りました」

 俺は一通りやり方を聞いて理解した。
 バトルロイヤル――良いじゃねぇか。
 やってやるよ。

「待たせたな、良いぜ、受けてやっても」
「そう、じゃあ、私達三人とあんたの四人でのバトルロイヤルって事で良いわね」
「良いぜ、どうせ、お前らつるんで俺を攻撃するんだろ?」
「あら、解ってて引き受けるの?」
「あぁ、そうだ。その程度の安いプライドなら三対一でも余裕で勝てると思うからな」
「なんですってぇ。ズタズタにしてやるわ」
「はいはい、そうですか。頑張ってね」
「舐めやがって、ぶっ殺す」

 こうして、俺の三戦目となるバトルロイヤル形式での戦いが始められた。
 バトル・フィールドは海岸エリア。
 今まで戦っていない未知のエリアだ。
 加えて、【MZK】は初陣――
 わかんねぇ事だらけだ。

 だがよぉ、俺の気持ちはそんなヤワじゃねぇって事だけは解っている。
 こいつは俺の気持ちを確かめるための戦いだ。
 三対一くらいが丁度いいハンデだ。

 【MZK】VS女性型ブレイバー【聖母(マドンナ)】、【堕天使(フォーリン・エンジェル)】、【恋人(アムルー)】の戦いが認証された。
 マネープレイヤー達が賭ける。
 掛け率は4:2:2:2で、4が【MZK】だった。
 これは恐らく、人気度だろう。
 【MZK】の力は俺にとっても未知数。
 誰も実力はわからないのだから。
 それにしても対戦相手の【聖母】って、やってる事と名前が全然食い違ってるじゃねぇか。
 どういう基準で作ってるんだ?

 まぁいい、さて、どんな戦い方になるんだ?
 ワクワクしてきたぜ。

「良いこと、いつもの様にターゲットを倒したら、後はタイムアップまで、時間を稼ぐわよ」
「オーケー」
「了解」
 リーダー格の【聖母】の言葉に【堕天使】と【恋人】が頷く。
 ――なるほどねそうやって、ポイントを稼いでた訳か。
 獲物だけ倒して、後はポイントを山分けする。
 やってる事が三下そのものだな。

 俺が【MZK】のステータスを確認している隙をついて、三人娘が攻撃を仕掛ける。
 【堕天使】が黒い翼から羽根を飛ばす。
 【恋人】が髪の毛を飛ばす。
 【聖母】が光のかけらを飛ばす。

 うわっ……個性がない。
 俺は余裕を持って【MZK】を動かし、交わした。
 が――
「う、うわっ……なんだ、一体……」
 あまりにも早く動き過ぎて、一気に沖にまで吹っ飛んでしまった。
 【MZK】のあまりにも高い機動力に自分でビックリしてしまった。
 こ、こんなに違うのか……
 もし【いっちゃん】と戦ってたら瞬殺出来るようなレベルじゃねぇか。
 どうなってるんだ?
 思い入れ次第で、こんなに変わるものなのか?

 三人娘が追撃してくるのを【MZK】は右手で波を起こして反撃した。
 【MZK】は当然、水中用ではない。
 にも関わらず、波を利用してここまで相手にダメージを与える事が出来るなんて。

 す、すげぇ、凄すぎる。
 やれる、【MZK】ならやれるぞ。

「ひ、ひるむな、いつものフォーメーションでいくわよ」
 【聖母】が手を挙げて、合図する。
 三人娘は【MZK】を取り囲む様に包囲して、さっきの羽根と髪の毛と光のかけらをデタラメに飛ばす。
 いわゆるガチャプレイというやつだろうか。
 取り囲んで、適当に連撃して、倒すという素人戦法だろう。
 今までは数の有利でそのやり方で勝って来たという所だろうが……。

 だが、相手が悪かったな。
 俺の敵じゃない。
 実力を出すまでもなく勝てそうだ。

 【MZK】は大きく跳躍し、三人娘の包囲を上空に避けた。
 そして、海中から持ってきた大きなサザエを【恋人】にめがけて投げつけた。
 見事【恋人】の土手っ腹に命中し、上半身と下半身を分断した。
 これで、【恋人】は再起不能。
 そのまま、空中を蹴り、【堕天使】めがけてストレートパンチを放った。
 【堕天使】はきりもみ状に落下し水面に直撃し、四肢損壊した。

 それを見た【聖母】は――
「ま、待ちなさい」
 待たない。
「バイバイ」
 お別れの挨拶をし、【聖母】に空中パイルドライバーを仕掛けた。

 終わって見れば、たった一分三十二秒の戦いだった。
 その気になれば、秒殺できたな、これは。

 三人娘の選択は手に入れていたコアを渡すのではなく、その夢事態を捨てる事を選択したため、一つずつ、手に入り、合計三つのコアを手にした。
 三人娘にとっても大してその夢自体に固執していないようだ。
 まぁ、薄っぺらそうな夢だったからな……
 何の夢だったのかもよく解らないような夢だったし。
 何にせよ、これで三つのコアが手に入った訳だ。


登場キャラクター紹介

001 中洲 一太(なかす いった)

中洲一太  この物語の主人公。
 瑞希を助けるために、オンラインカジノ、夢命戦(ゆめいくさ)でドリームプレイヤーになることを決意する。

















002 歌舞伎町 達也(かぶきちょう たつや)

歌舞伎町達也 一太の親友で、夢命戦のシステムを作った少年。
 訳あって姿をくらましている。

















003 薄野 瑞希(すすきの みずき)

薄野瑞希 夢命戦(ゆめいくさ)最強のドリームプレイヤー。
 殆どがラスボスとして登録されている。

















004 北新地 早苗(きたしんち さなえ)

北新地早苗  獏喰天副社長秘書。
 親友の瑞希を騙して、ドリームプレイヤーにしたとされているが、実は……

















005 いっちゃん

いっちゃん 一太が最初に作った夢命戦(ゆめいくさ)用のキャラクター(ブレイバー)。
 お笑い芸人になりたいという夢をキャラクター化させている。
 三頭身のお笑いキャラクター。













006 黒帯

黒帯  一太がいっちゃんで最初に戦う事になる敵ブレイバー。
 空手の黒帯をイメージ化させたキャラクターだが、ドリームプレイヤー自身の実力がともなっていないため、素人っぽい。
 攻撃力も大した事がない。














007 クックマン

クックマン 一太がいっちゃんで対戦し、初黒星となる敵ブレイバー。
 コックをイメージ化させたキャラクター(ブレイバー)で、したたかな一面がある。
















008 MZK(エムズィーケー)

MZK  一太の理想の女性像をキャラクター化させたブレイバー。
 どことなく瑞希に似ている。
 名前も瑞希→MIZUKI→MZKとなっている。

















009 おとことおんな

おとことおんな  最初に戦う事になる小ボス。
 おんなが先行して戦うがおとこが本体。
 おんなは鳥もちの用になったりするサポートタイプ。

















010 ジュエリーナ→ジュエリット

ジュエリーナ
ジュエリット  瑞希が操るブレイバー。
 十才くらいの女の子の姿をしているが元は宝石に憧れるという夢の部分をキャラクター化させている。
 ルビー、サファイヤ、エメラルド、パール、ダイヤモンドという原石のような欠片を操る。
 中ボスクラス(ジュエリーナ)だが、扱いは大ボスと同等の扱いを受けていた。
 やがて、戦績が認められ大ボスクラス(ジュエリット)になる。
 姿は大人の女性へと変貌する。










011 ジョーカー

ジョーカー 一太の自分の理想像をキャラクター化したブレイバー。
 切り札という意味でジョーカーと名付けた。
 パワーで言えばMZKと同等の力がある。

















012 ディアプレイ

ディアプレイ 一太のゲームを楽しむという部分をキャラクター化させた白ウサギ型のブレイバー。
 力で言えば、いっちゃんより強く、MZKとジョーカーよりは弱い、中間タイプのブレイバーでもある。
 ブレイブ・ヒーロー制作の為に欠場するMZKとジョーカーの代わりに一太をささえた。














013 ドラゴリエーレ

ドラゴリエーレ  ドラゴン型ブレイブ・ヒーロー。
 名前はドラゴンとゴンドラをあわせたものになっている。
 ブレイバーでは出せない戦闘能力を有する。

















014 風神(ふうか)

風神  風を操る風神型(ふうじんがた)ブレイブ・ヒーロー。
 双子型でもある。
 女の子タイプである。

















015 雷神(らいか)

雷神  雷を操る雷神型(らいじんがた)ブレイブ・ヒーロー。
 双子型でもある。
 女の子タイプである。

















016 一希(かずき)

一希  両性具有の天使型ブレイブ・ヒーロー。
 一太は自分と瑞希の子供という事をイメージして名前をつけた。

















017 ゾディアック

ゾディアック  12星座型の大ボス。
 三つのフラフープに四つずつ、星座の元があり、それにより、12パターンの変身が可能。

















018 歌舞伎町 虎夫(かぶきちょう とらお)

歌舞伎町虎夫 事件の黒幕。
 達也のおじで、彼の会社を乗っ取った悪人。
 傲慢な正確をしている。

















019 億万長者

億万長者  大仏を思わせるラスボス。
 千両箱をたくさんもち、その千両箱で他のブレイバーやブレイブ・ヒーロー、ボスなどを雇って攻撃させる他力本願タイプ。
 金こそ全てと思っている虎夫の野望をキャラクター化させたボスキャラ。










020 超天~(ちょうてんじん)

超天神  二千三百勝したブレイブ・ヒーロー。
 億万長者に雇われたと思われていたが……。

















021 姫帝(ひめみかど)

姫帝  大ボス百四十体倒したブレイブ・ヒーロー。
 億万長者に雇われたと思われていたが……。