第002話


第三章 ファースト・ステージ



 二十四時間という時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
 カウンターが〇になったとたんにそこにあった食料は全てレーザーで焼き切られてしまった。
 この場所に居ても飢え死には免れない。
 生き残りたければ、ステージをクリアしていけ。
 ――そういう事か。

虎狼「やぁ、元お友達の諸君、疲れは取れたかい?」

尊志「………」

虎狼「返事はどうした?何ならここで全員死んでもらってもいいんだぞ」

大「ま、まて……悪かった。話を聞くよ」

虎狼「――まぁ……いい……じゃあ、話を続けよう。お待たせしたねぇ、ようやく、ファースト・ステージの準備が整ったよ。アタッシュケースを各自一つずつ用意した。それを開けてみようか?」

 俺達は虎狼に言われるまま、アタッシュケースを開けた。
 中にはごつい拳銃のようなものが入っていた。
 まさか、これで、殺し合いをさせようってことなのか?
 そんなの嫌だ。
 俺の不安を余所に話は進む。

虎狼「じゃあ、ファースト・ステージ、リロードエンジェルオアデビルの説明をするよ。一度しか言わないからちゃんと聞けよ」

 【リロードエンジェルオアデビル】……聞いたことの無いゲームだった。
 リロード――その言葉は銃の再充填という意味だろうか。
 どんなゲームなんだ一体……

虎狼「簡単に言えば、変則リバーシビンゴだ。ゲームマスターはリバーシ、お前達はビンゴをやることになる」

 虎狼の説明によるとそれは複雑なゲームのようだった。
 簡単に言えば、ゲームマスターは8×8マスのリバーシ(オセロ)をやっていく。
 ただし、白も黒も順番にどちらもゲームマスターがやっていく事になる。
 ゲームマスターが8×8マス全てを埋めてしまえば、俺達が敗北する事になる。
 その前に、縦横斜めのビンゴをどれか三列揃える事が出来れば俺達が勝ちという事になるというゲームで、リバーシとビンゴは対応しているというものだ。

 細かいルールは聞かなくても結構だが、あえて言うなら以下のようになる。

 ゲームは8×8の六十四部屋が用意された建物で行われ、部屋と部屋の間には通路があるので、別の部屋に渡るにはその通路を利用して移動する。
 ただし、通路には十分経つと電気が流れる仕組みになっているので、それまでに別の部屋に入らないと俺達は黒こげになるという仕組みだ。
 俺達は一人ずつ、順番に建物に入ってビンゴを埋めていかなくてはならない。
 ゲームマスターはあらかじめ、リバーシをプレイしていて、その順番通りに入室できる部屋が増えていく。
 つまり、ゲームマスターが置いたマスの部屋には入れるが、置いていないマスの部屋には置くまで入る事は出来ない。

 六十四の部屋にはそれぞれ天使か悪魔が居て、それを倒すにはアタッシュケースの銃が必要となる。
 天使を倒すには黒い弾丸、悪魔を倒すには白い弾丸が必要となり、それはリロード(再充填)によって切り替えられる。
 ただし、一度、リロードしてしまうと部屋の天使か悪魔を倒すか、部屋の中央にあるボタンを押して、部屋から出るかしないと二度目のリロードは出来ない。
 天使と悪魔はゲームマスターのリバーシに対応していて、リバーシで黒になったマスの部屋には悪魔が、白だったら天使が出現する。
 そして、基本的にゲームマスターのリバーシを見れるのはゲームをプレイしていない間の待機している時間で、部屋に入らないといけない時は見れないため、ゲームマスターの打つ手を予想して、リロードをするかしないかを決めないといけない。

 一度は部屋に入らないと交代する事が出来ないため、一度は天使か悪魔と戦わなくてはならないという死のゲームだ。

 この難解で、ふざけたゲームが終わる条件は俺達がビンゴを揃えるか、ゲームマスターが全てのマスを埋めるか、あるいは、俺達の中の誰かが一人、死ぬかの三択だ。

虎狼「説明は以上だよ。それと、プレイヤーの順番はお前達で話し合って決めるんだ。良いな」

笙「あぁ、解った」

 俺達はまた、話あった。

 順番を決める話は平行線をたどりそうだったし、そうなると虎狼がいらつくだろうから、俺達はあみだくじで順番を決めた。

 決まった順番は――
 一番手 笙
 二番手 節理
 三番手 大
 四番手 俺
 五番手 美竹
 六番手 忠司
 七番手 佳桜
 八番手 松里
 九番手 心理
 十番手 小梅
 だった。

 リバーシと同じで中央の四マスは先に埋まっているので、残るは六十マス。
 全部埋まるなら六回ずつ、均等に回ってくる計算だ。
 だけど、複雑すぎて、俺にはよく解らないけど、何となく先にやる方が条件が悪いような感じがするのは俺の気のせいだろうか。

 悩んでいる暇は与えられず、俺達は強制的にゲームをスタートさせられた。
 一番手の笙がまず、プレイする事になった。

 まずは、笙が六十四の部屋の間の通路に足を踏み入れる。
 すると、入り口が閉じられ、笙は通路の中に閉じこめられる。

 俺達はモニターでゲームマスターがやるリバーシを見る事が出来るが、それを笙に伝える術はない。
 ゲームマスターが5マス目にコマを置き挟んだマスの白と黒が入れ替わる。
 笙は五マス目の配置から白か黒かを考えて、五つの部屋の中の一つを選び、入る事になる。

 銃の弾丸の初期設定では白だが、リバーシでは黒が先手となる。
 つまり、五つのマスの内、四つが黒で一つが白となるので、悪魔が出る確率は八十パーセントだし、中央の四マス以外の一マスは確実に黒。
 つまり、白の弾丸のまま、リロードしないで、部屋に入れば、その部屋の悪魔を倒せる事になる。
 位置関係を把握すれば、何のことはないはずだ。

 問題はゲームが進んで行くと部屋の色が白か黒か覚えるのは至難の業となる。
 白と黒がどんどん入れ替わっていくのを場所から判断して推測していくのは普通の生徒である俺達にとってはかなり荷が重い。
 とてもじゃないが、三つのビンゴを揃えるまで全員が白か黒かを理解する事などあり得ない。

 十中八九どこかで、つまずき、白の弾丸の時に天使か黒の弾丸の時に悪魔で部屋に入る人間が出てくるだろう。
 虎狼はそれが解っていて、このゲームを作ったんだ。
 いや、ゲームマスターという言い方をしていることを考えると虎狼とは別の誰かかも知れない。

 笙は慎重に進み――

 がシャッ
 とリロードした。

尊志「ば、バカ、そこはリロードしたら……」

 俺は思わず叫んだ。
 笙はこのゲームを理解していない。
 複雑なゲームだから、無理も無いが、勘だけでゲームをやろうとしている。

 リロードしたことで笙の銃は黒の弾丸が装填されてしまっている。
 つまり、二十パーセントの確率の白の部屋に入らないといけない。
 俺ならそれでも位置関係から白の部屋を当てる事が出来るが、あいつは位置関係を理解していないみたいだ。
 案の定、俺達の心配を余所に笙は黒の部屋に入ってしまった。

虎狼「おいおい、最初っからやられちゃうのかぁ?つまんねぇぞぉ〜」

 好き勝手言いやがって。
 笙だってやりたくてやった訳じゃねぇよ。
 いきなりゲームを始めさせられて、ルールが良く理解出来てないだけだ。

 笙が黒の部屋に入ったとたんに、部屋の扉は閉まった。
 中に閉じこめられてしまった。
 同時に部屋の中央にスイッチが出現する。
 また、さらに同時に悪魔も出現する。

 部屋から出るにはそのスイッチを押すしかない。
 が、悪魔が陣取っていて、スイッチを押せない。
 笙は悪魔の攻撃をかわしながら、スイッチを押して、部屋の外に出るしかない。

大「笙、逃げろ!」

美竹「あぁだめ、そっち行ったわよ、避けて!」

 俺達は笙を応援するが、その声はあいつには届かない。
 生きて帰るにはあいつは一人で何とかするしかないのだ。

 悪魔が襲いかかり、笙はギリギリの所でかわしてスイッチを押すタイミングを計っていた。
 笙は運動神経は良い方だが、既に肩で息をしている。

 まずい――

 このままでは笙が殺されてしまう。
 何とか出来ないのか。
 俺達は無力感に囚われた。
 それを見た虎狼の楽しそうな表情がモニターごしに映し出される。
 くそっ、今すぐ、奴の元に行ってぶん殴ってやりたいけど、それは今は不可能だ。
 奴は安全な場所でぬくぬくと俺達が苦しむ様を見て楽しんでいるんだ。

 笙はその後も逃げ続け、左肩に悪魔の爪による傷を負ったが、何とか隙をついて、スイッチを押して、ギリギリの所で、部屋を出る事に成功した。

虎狼「お見事。でも、ゲームはこれからだよ」

 てめぇに言われなくても、んなこたぁ解ってるんだよ。
 これで、笙の無事は確保されたけど、俺達はまだ、部屋の天使か悪魔を倒していない。
 倒さない限り、ビンゴは揃えられない。

 笙が通路を渡って俺達の元に着き、代わりに二番手の節理が建物の通路に入る。
 するとまた、節理が笙の時のように、通路の中に閉じこめられる。
 こうやって一人一人挑戦させられていく事になる。

 このゲームが終わるのは多分、俺達の内、誰かが失敗して、死ぬ時なのだろう。
 考えたくはないけど、それが、一番、可能性が高い。
 ここから去っても地獄。
 残ってゲームを続けても地獄。
 俺達の気分はそんなところだった。

 続く節理はしっかりルールを理解しているようだ。
 リロードして黒の弾丸を装填し、白の部屋を見極めて入っていった。
 部屋の中には3メートルの大きな天使が待ち受け、節理に襲いかかる。

節理「くっ――早い」

 とぼやくのも無理は無かった。
 天使のスピードは速く、なかなか銃の狙いが定まらない。
 さっきの悪魔をパワータイプと考えるなら今度の天使はスピード重視タイプのようだ。

虎狼「どうした?倒さないとクリアにはならないぞぉ」

 奴の嫌らしい声が木霊する。
 頑張れ、節理。お前ならやれる。
 そして、狙いを定め、狙い撃つ――

節理「外した?」

虎狼「残念だったな〜。一回のリロードで撃てるのは六発までだ。後、五発で天使に当てないとまた、脱出するのにスイッチって事になるぞぉ」

 ニヤニヤしやがって。
 例え、当たっていても倒せなきゃ、クリアにならない。
 とことん、俺達に不利な様に出来ていやがる。

節理「もう駄目……」

 それを聞いて諦めたのか節理はガクッとうなだれる。
 それを見た天使が真っ直ぐ彼女に襲いかかる。

節理「そこだ!」

 ガオンッ

天使「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 節理は諦めた訳では無かった。
 諦めたフリをして、天使の油断を誘い、近づいて来た天使に至近距離から撃ち抜いた。
 銃声と天使の断末魔の声が響き渡り【ルームクリア】の文字が俺達のモニターに映し出される。

尊志「やった!やったぞ」

忠司「うおぉぉぉぉ」

虎狼「……ちっ……まぁ、いい……まだ、一つだ。とりあえず、おめでとうと言わせてもらうよ」

 ざまあみろ虎狼。
 そうそう、お前の思い通りになってたまるかってんだ。

 節理が通路を渡り、建物を出て、次の三番手、大が通路に入る。
 七マス目が埋まり、大も部屋を選ぶ事になる。
 大はリロードせず、白の弾丸のまま、部屋を選ぶ。
 あいつもルールを理解しているようだ。

 ゲームマスターは白と黒のマスを順番に増やしていく。
 つまり、白が増えれば黒の弾丸を、黒が増えれば白の弾丸を使っていけば、正解の確率が高くなる。
 複雑なゲームだが、何となくルールは解る。
 俺は、みんなにその事を伝えた。
 大以外にはそれが共通認識として認知された。

 つまり、次の俺はリロードして黒の弾丸を用いて、天使と戦えば良いって事だ。
 何となくだが、このゲームの攻略が見えてきた。

 一方、部屋に入った大は悪魔と対峙していた。
 見た目からして笙の時の悪魔とはタイプが違うというのが解った。
 それは、悪魔の部屋に入っても、笙の時のようなパワータイプとは限らないということでもある。

 この悪魔は右腕が異常に長い。
 それも何か意味があるのか?
 それともフェイクでただの見せかけだけ?
 戦ってみないと解らない。

 悪魔は大きく振りかぶり、右腕を振り回す。
 右腕は関節を無視して鞭のようにしなり、大に襲いかかる。

 なるほど――あれは遠隔タイプの悪魔だ。
 ターゲットの大と一定の距離を取り、離れた位置であいつを攻撃すると見た。
 大は部屋に置いてある障害物を利用して、悪魔の攻撃をかわしていく。

 そして、うまく、障害物の間に挟む事に成功し、余裕のピースサインと共に、トドメの一発を撃ち込んだ。
 これで、二つ目の【ルームクリア】だ。

 だけど、先は長い。
 三つのビンゴを作るには最低でも8×3の二十四部屋の【ルームクリア】が必要だ。
 俺達は笙の時に一つ【ルームクリア】を逃している。
 六十四部屋が埋まってしまったら、ゲームマスターの勝利になってしまう。
 だから、闇雲にやるのではなく、慎重に戦略を練って【ルームクリア】の数を増やしていくしかない。

 大が通路を渡って建物の外に出たので、ついに俺の番になった。
 俺はリロードし、それまでに見ていたモニターと新たに追加された8マス目の部屋の位置関係を考えて白の部屋を割り出し、見当をつけて部屋に入った。

 ビンゴ!
 やっぱり部屋には天使が待ち受けていた。
 最初は、複雑なルールに戸惑いもしたが、ルールをしっかり覚えていれば、それほど難しくは無いかも知れない。

 俺の前に立ち塞がった天使は足がケンタウロスのように四本足になっているものだった。
 翼は四本ある。
 どんなタイプだ一体?

 考える余裕はない。
 とにかく倒すしかないんだ。
 俺はじりじりと間合いを詰めた。
 すると天使は突然光った。
 まぶしさに目が眩んで一瞬目を離した隙に――

尊志「うおぉぉぉぉ…」

 天使が襲いかかってきた。
 それも天使の上半身と馬の下半身が分離してのコンビプレイだった。
 俺はなんとか初撃を交わせたが、次の連続攻撃では肩を脱臼しかけた。

 こんなの反則だ。
 馬の胴体の方にも翼がついていたのは分離するためだったのか。
 連係攻撃に、俺は防戦一方だった。

 逃げている内に躓き、危うくやられるところで、思わず、トリガーを引いてしまい、発射されてしまった弾丸にたまたま、馬の下半身が通りかかり、ヒットした。
 下半身がやられると上半身もやられた事になった。

 運も実力の内とは言うが、何とか助かった。
 一回目の俺の出番では、何とか倒す事が出来たって訳だ。
 情けない話だが、安心したら俺は腰が抜けそうになった。

 が、そうも言っていられない。
 このゲームに待ち時間はそれほど用意されていない。
 次々に次のプレイヤーと交代して行かないといけないのだ。

美竹「いや……いやよ」

 嫌がる美竹だったが、流れを途切れさせたら俺達の負けが決まってしまう。
 心を鬼にして、彼女を戦場に追いやった。

 五番手の美竹はリロードをしないで悪魔と戦う。
 一応、悪魔の出る黒い部屋には入れたが、気持ちで負けている。
 このゲームでは気持ちで負けてしまっていては、命にもかかわる。
 泥水をすすってでも生き延びてやるって気持ちが無いと即、死につながる。

悪魔「ぎゃぎゃぎゃぎゃ…」

美竹「く、くるな、来るなってばぁ……」

 悪魔の笑い声に冷静さを失った美竹は銃を4発連続で撃ってしまった。
 狙いはめちゃくちゃで、4発ともあさっての方向に飛んでいってしまった。
 だめだ、このままじゃやられちまう……

 俺達の誰もがそう思ったのだが、美竹は残る2発もさっさと撃ち尽くし、その後、出てきたスイッチを押して、部屋から逃げ延びた。
 擦り傷は大分出来たが、無事生還だけは果たした。
 火事場のバカ力というやつだろうか。

 だが、美竹も【ルームクリア】には失敗した。
 あまり、失敗を重ねる訳にはいかない。
 失敗を重ねるとその後でのクリアがどんどん難しくなってしまうからだ。

 泣き叫びながら建物を出てきた美竹に代わり、自称、天才ゲーマー忠司が六番手として建物に入った。
 リバーシだけのルールで考えるならば、素人も混じっているこの勝負では六十四マスの四隅を取った方が有利だが、俺達のやっているのはビンゴの方だ。
 四隅を取れば有利とか、そういう事はない。
 俺達はいかに、少ない手数でビンゴを揃えるかが求められる。
 しかも、それが、リバーシをやっているゲームマスターのルールに照らし合わせて考えないといけないので、イメージが複雑になっているのだ。
 だが、白と黒の部屋が切り替わるパターンをしっかり覚えておけば決して解けないゲームではない。
 ゲームが得意な忠司はその事をしっかり解っていて、みんなを安心させるためにはどうすれば良いかを考えた。
 通常であれば、忠司はリロードをして、白の部屋に入り、天使と戦うのがベストだが、あえて、リロードはしないで少なくなった黒の部屋に入る事にした。
 それは、例え、リロードするしないを間違えたとしても入る部屋を間違えなかったらどちらでも良いという事をみんなに証明するためでもあった。
 忠司は通路に入る前に、あえて逆で行くと宣言し、その言葉通り、黒の部屋に入って一瞬にして、悪魔を倒して見せた。
 一瞬というのも忠司が見つけたこのゲームの弱点をついた戦法でだ。

 それは、天使にせよ、悪魔にせよ、その姿で俺達に恐怖を植え付けるために、最初は部屋の中央で立っている。
 そして、部屋の扉が閉まってからその天使か悪魔が動き出すまで、一瞬の間がある。
 その棒立ち状態のタイミングに狙い撃てば、苦もなく、倒せるという寸法だ。
 部屋の配置から天使が出るか悪魔が出るかが解っていれば、部屋に入った瞬間に中央めがけてぶっ放せば、簡単に当てられるのだ。

 と、口では簡単とは言ったが、そのタイミングをはかるのは天才ゲーマーの忠司だから可能だった訳で、他の奴にとっては難しい注文でもある。

 忠司の次の七番手は佳桜だ。
 彼女には死んで欲しくない。
 忠司が建物を出たのと同時に彼女が通路に進む。

 頑張れ。
 死ぬな、佳桜。
 俺は心の底から願った。

 忠司のプレイに安心したのか彼女は冷静に部屋選びをしているように見える。
 彼女はオーソドックスにリロードしないで、黒の部屋を選び、悪魔との対決を選択した。
 そして、忠司のアドバイス通り、部屋に入った瞬間に撃ち、悪魔を倒した。
 もちろん、このことは虎狼には内緒にこそっと言い合った事なので、奴にバレてはいけない。

 バレれば、奴はルールを変更するかもしれない。
 だが、またしても松里がやってくれた。
 八番手として、入った彼女がタイミングを外し――

松里「嘘つき、当たらないじゃない」

 とつぶやいたのだ。
 それを聞いた虎狼が俺達の行動を怪しむ。

忠司「ば、ばか何言って……」

 慌てて忠司も口を滑らせた。

虎狼「お前達……何をやった?」

 奴は俺達に疑いの目を向けた。
 松里は結局6発全部撃ち尽くし、当たらなかったため、中央のスイッチを押して戻って来た。
 何やってんだ、あいつは。

 次の心理が虎狼の目を誤魔化すためにあえて出会い頭には狙わず、障害物を利用した作戦で、天使を倒してみせた。
 が、次の小梅も出会い頭に天使を倒したため、虎狼に気付かれてしまった。

虎狼「なるほどな……気付かなかったよ。これはゲームマスターに減点だなぁ、こんな盲点があるとはね。丁度、一巡もした事だし、一時間休憩させてやるよ」

 助かった。
 恐らく、奴はゲームマスターに言って、ゲームの調整をはかるんだろう。
 その間とは言え、俺達は休む事が出来る。
 正直、この緊張感はきつかった。
 休憩を挟んで冷静になりたいところだったんだ。

忠司「松里、お前、何、バラしてんだよ。作戦が台無しじゃないか」

松里「仕方ないじゃない。外しちゃったんだから」

忠司「仕方ないじゃないって、足引っ張んなよ」

松里「何よ、私が悪いっての?」

忠司「そうだよ、解らねぇのか」

尊志「まて、まずは、この一時間を利用して冷静になるのと、作戦を立てたりした方が良い。二人とも冷静になれ」

 口じゃ冷静になれとは言ったが、俺も気分的には松里の態度には辟易していた。
 ギクシャクとした空気が流れる。
 結局、ろくに対策も練れずに一時間という時間はあっという間に過ぎていった。

 ルールに変更を加えた二巡目がスタートする。

虎狼「待たせたな。こいつがファースト・ステージのゲームマスター、古道 勇人(こどう はやと)だ」

佳桜「こ、古道君?」

 佳桜が驚くのも無理は無かった。
 虎狼が紹介したのはクラスメイトの古道だった。
 一緒に修学旅行に参加しているはずの――

 すると、やっぱり、裏で糸を引いている奴がいたんだ。

虎狼「紹介してすぐだが、こいつにはペナルティーを払ってもらう」

 ガオンッ
 バタッ

 取り出した拳銃で虎狼は古道の眉間を撃ち抜いた。
 そのままピクリともしない古道。
 画面越しにも絶命したのが、解った。

尊志「何、やってんだ、お前」

虎狼「うるせーな、俺は完璧を求めてんだよ。こんな不完全なゲームを考えた奴は死ねば良いんだよぉ。不完全なゲームの修正をする時間を与えてやっただけでもありがたいと思えよ」

 自分の不完全さを棚に上げて身勝手な事を言う下種野郎。

 何故、古道が虎狼に協力していたのかは全然わからないが、やっぱり単独犯じゃなかった。
 黒幕が虎狼だというのも怪しい。
 他にも後ろで操っている奴がいるんじゃないのか……。
 俺達は疑心暗鬼になる。

虎狼「そんな事より、二巡目を始めるぞ、準備しろ」

小梅「そんな事……」

 小梅は泣きそうだった。
 古道は佳桜に告白してフラレたという過去も持つが、同時に小梅の幼馴染みでもある。
 俺達をとことん嬲るつもりでいるんだ、この悪魔は。

 二巡目は順番を変えても良いという事になったが、小梅が取り乱しているので、彼女を最後にまわす事にした。
 不都合があれば、三巡目で変えるとして、とりあえず、一巡目と同じ順番でプレイすることにした。

 つまり、また、笙からプレイが再開される事になる。
 笙は一巡目で醜態をさらしてしまったので、汚名返上するべく、やる気になっていた。
 だが、古道の手でルールが一部変更になっているはず。
 そんな中での一番手というのはかなりのプレッシャーだろう。

 一巡目では【ルームクリア】に成功したのは節理、大、俺、忠司、佳桜、心理、小梅の7名。
 順調に行っていれば次にクリアする8つ目でビンゴが一つ完成となるのだが、残念ながら、バラバラの部屋の【ルームクリア】であるため、笙が【ルームクリア】してもビンゴは完成しない。
 簡単だと思ったら、難しい面もある。
 これが命に関わらないのであれば、面白いゲームになっていたかも知れないが、殺されるという事がある以上、これは残念なゲームには相違ない。

 笙はリロードしないで悪魔と戦う事を選択した。
 忠司のアドバイス通りに出会い頭には発砲しなかった。
 予想通り、悪魔の手前には透明の壁が出来ていて、悪魔が動き出してから、その透明の壁は消滅した。
 いきなり撃っていたら、多分、一発分、無駄にしたはずだ。

 今回の悪魔はケルベロスの様に口が三つある獣タイプだ。
 口からそれぞれ、酸を噴き出す。
 当たったら、最低でも大火傷は免れない。
 危険な怪物だ。

 が、笙はファインプレイをしてみせた。
 跳弾が悪魔に当たって【ルームクリア】を勝ち取ったのだ。

笙「うぉぉぉぉぉっぃやったぁぁぁぁぁ!」

 思わず、雄叫びを上げる。
 よっぽど嬉しかったのだろう。
 サッカー選手の様に服を引っ張って喜びを表現した。

 これで、8つだ。
 続いて、節理が再び、通路に入る。
 彼女は一巡目でも高い運動性を発揮して、【ルームクリア】を獲得している。
 今回も当然、期待がかかる。
 正直、戦力になりそうにないのもいるので、出来る奴には頑張って【ルームクリア】を増やしていって貰わないといけない。

 俺も、一つも落とせない。
 何が何でも、【ルームクリア】を勝ち取って来るしかない。

 だが、節理が通路に入ったとたん、俺達の目に信じられない光景が映った。
 ビンゴで【ルームクリアした】位置はそのままだが、リバーシとしての白の部屋と黒の部屋がシャッフルされたのだ。

尊志「き、汚ねぇ、これじゃ挑戦している奴は解らないじゃないか」

虎狼「汚いとは心外だなぁ〜ゲームを面白くしてやってるんだよ。感謝してもらいたいくらいだなぁ」

笙「ふざけんな、こっちが不利になっただけじゃねぇか」

虎狼「二巡目も同じと言った覚えはないが?それに、二巡目は順番を変えても良いと言ったんだ、こっちだって配置を換えてもかまわないはずだろう?」

 ニヤニヤしだした。
 俺達が悔しがる姿を見て楽しんでやがる。
 俺達はこの先、こんな状況のままゲームをクリアしていかないといけないのか。
 そう思っていた時――

心理「虎狼、賭けをしないか?」

虎狼「賭け?」

心理「そうだ、賭けだ、フィフティーフィフティーのルール変更なら問題ないだろ?」

虎狼「へぇ……面白そうだな、言ってみろよ、許す」

心理「妹にはギリギリの時間まで部屋に入るなと伝えている。だから、妹が部屋に入るまでの僅かな時間での賭けだ。妹が【ルームクリア】する方に八部屋分賭けたい。妹がクリアすれば、追加で八部屋【ルームクリア】にして欲しい。もちろん、【ルームクリア】と行かなかったら八部屋分のルームクリアは無効にして貰って良いんで」

虎狼「なんだと?」

心理「悪い話じゃないはずだ。そろそろ、このゲームにも飽きて来た所だ。一気に勝負を決めたいと思ってね。八部屋が無効になったら残りのマスでの三つのビンゴはかなり難しくなるはずだ。逆に有効になったら、俺達は三つのビンゴを作るのにかなりゴールに近づく事になる。たらたらゲームを続けるより良いと思うが、どうだ?」

虎狼「ふん、だが、お前の考えの通りというのが気に入らないな」

心理「例えお前が負けてもお前にはそれほど、傷手は無いと思うが?それとも、最初のゲームからこっちにチャンスを与える余裕もないのか?妹はルール変更を知らないんだぞ?それでものめない程、俺達が怖いのか?」

虎狼「こ、怖いだと?ふん、誰がお前達なんかに……良いだろう乗ってやるよ。仮に【ルームクリア】されたとしたって、節理が選んだ部屋に八つプラスしても合計十七部屋だ。どう転んでも一回ずつはまた、回ってくるぞ。その時、地獄に叩き落としてやる」

心理「約束だぞ」

虎狼「あぁ良いぜ」

 やった、さすが心理だ。
 うまく奴のつまらんプライドを刺激して、ゲームクリアに近づけた。
 だけど、それも節理が正解の部屋を選ばなきゃ意味がない。
 どうすんだ、心理……

心理「尊志……心配するな……俺達は勝てる」

尊志「え?どう言う意味だ?」

 俺は心理に問いかけたが、ウインクがかえってきた。
 その事が親友の俺には心理が何か仕掛けたという事を理解させた。
 こいつは昔から抜け目ないやつだったからな。
 俺達が虎狼と話している間、節理とコソコソ何かやってたんだろう。

 そして、節理は黒の部屋を当てて、見事悪魔を倒して見せてくれた。
 一気に十七部屋が【ルームクリア】となり、ビンゴも一つ出来た。
 虎狼は悔しさで顔が歪んでいた。
 ――が、ゲームマスターは奴が殺してしまったんだ。
 もう、ルール改変は出来ないはず。

虎狼「いいい、良いだろう。次からは三巡目としてまた、最初からやれ!ここをこうすれば変えられる所までは知ってるんだよ、はははぁ」

 虎狼は【ルームクリア】した部屋を移動した。

忠司「お、おい、何やってんだよ、【ルームクリア】した部屋はそのままじゃなかったのかよ」

虎狼「ははは、慌てるなよ。どうやら早くこのゲームを終わらせたいようだから次の三巡目で丁度一回ずつやれば三つビンゴが揃う様に変更してやったんだよ」

 見ると確かに、十カ所の部屋を埋めると三つビンゴが揃う配置になっている。
 だが、ここまでになってしまうと元のゲームの面影は全然無いな。
 こんなふざけたゲームの擁護をする気はさらさら無いが、せっかく作っていたゲーム性を台無しにしてるようなものだ。
 それまで積み上げてきたものは何だったんだと思いたくなる。
 センスの無い奴が作ったクソゲーそのものに見えた。
 その十カ所の部屋はモニターで見ると黒が五つ、白が五つに確定していた。
 誰かは建物の中に入っていないといけないというルールだったのに入り口が開いたままだ。
 つまり、全員、モニターからどの部屋に天使と悪魔のどちらがいるかまるわかりになってしまっている。
 ゲームとしては破綻したと言っていいだろう。
 一体何を考えているんだ?
 
虎狼「全員、モニターごしに部屋の色は確認出来るな。じゃあ選べ。そして、十人同時に別々の部屋に入れ。全員倒せたらこのゲームはクリアだ。簡単だろ?」

 奴の血走った目が全然笑ってない。
 プライドを傷つけた俺達が憎くてたまらない目だ。
 どうやら、ゲームが自分の思い通りに行かなくて不服らしい。
 こんな事で傷つくなんて、なんて安いプライドだ。

 恐らく、十の部屋には最強の守護者が待ちかまえているんだろう。
 一気に勝負を決めるつもりのようだ。

虎狼「弾は一人二十発にしてやる。ただし、それぞれの天使や悪魔は【死】をイメージさせる四発を当てないと倒せない。どうだ、最後の勝負としては良い条件だろぅ」

 全く、気分でコロコロ、ルールを変えられたんじゃたまらないってのが正直な感想だ。
 言ったら更に逆上するだろうから言わないが……
 ちっさい男だ――器が知れるわ。
 チャンスを見つけたら必ずぶん殴ってやる。

 俺達十人はそれぞれ部屋を選び、ファースト・ステージ最後の部屋に入った。
 あれこれ考えても仕方ないので、男性陣は黒の部屋に入り、悪魔と戦い、女性陣は白の部屋で天使と戦う事にした。

 とは言え、待ちかまえている敵はそれまでより遙かに強い設定の天使や悪魔だ。
 とても俺達の力で勝てるような相手じゃない。
 となると、誰かが死んだら、そこでゲームが終わり。
 だから、誰かが、死ぬまで敵から逃げ続けなくてはならない。
 そんな悲壮な決意で入っていったんだけど、思わぬ結末でゲームは終了した。

 鼬の最後っ屁にでもしようとしていたのかゲームマスター古道の仕組んでいたバグが発動したのだ。
 恐らく、自分以外の者がプログラムをいじくったらゲームの存続自体が出来ないようにプログラミングしていたのだろう。

 俺の目の前に現れたのはまりもの様な形の黒いでっかい塊。
 そこに――
 ガオンッガオンッガオンッガオンッ
 と四発ぶち込んだら【ルームクリア】となった。

 動きもしない大きな的――
 至近距離から撃てば、外す奴はいない。

 部屋から出ると、隣の部屋から出てきた佳桜と目が合った。
 にっこりしているところから見ると彼女の部屋の敵も大したこと無かったらしい。

 少しすると――
 ごごごごおごぉごぉごごっごごっごぉごぉ……
 と音を立て始め、建物が崩れだしてきた。

尊志「佳桜、ここは危ない、外に出よう」

佳桜「うん」

 俺は佳桜の手を引き、建物から出た。
 残ったモニターにはゲームクリアの文字がでかでかと派手な演出で浮かび上がっていた。
 もともとコミュニケーションが下手な奴だとは思っていたが、最後の最後で共犯者にも裏切られたという所だろう。
 哀れなもんだぜ。
 十人全員が無事に戻って来た所を見て虎狼が悔しさを隠しながら冷静を装い俺達に話しかけてくる。
 もっとも、バレバレだけどな(笑)

虎狼「まずは、おめでとうと言わせてもらおうか。まさか、全員生き残るとは思っていなかったんでね。でも、次のステージで二人死ぬかも知れない。いい気になるなよ」

 いい気になってたのはお前の方だろう。
 次のステージで二人殺すつもりになったって事だな。

大「次はもっとマシなやつを頼むぜ」

 バカ、大、そんな事言ったら。

虎狼「図に乗るなよ。次はこんな風にはいかない。ちょっと待ってろ、一日やる。休憩でも何でもしてろ」

 それだけ言うと、虎狼はモニターから消えた。
 多分、次のゲームマスターと打ち合わせに言ったんだろう。
 何にせよ、また、助かったって訳だ。

 逆上しやすい奴の性格をついてこっちの有利な様に話を進めればクリアも難しくないかもしれないな。




登場キャラクター紹介

001 東郷 尊志(とうごう たかし)
東郷尊志
 主人公。


















002 宇崎 佳桜(うざき かおう)
宇崎佳桜
 ヒロイン。


















003 片瀬 心理(かたせ しんり)
片瀬心理
 尊志の親友。


















004 片瀬 節理(かたせ せつり)
片瀬節理
 心理の年子の妹。


















005 久住 大(くすみ まさる)
久住大
 尊志の友達。


















006 氷川 忠司(ひかわ ちゅうじ)
氷川忠司
 尊志の友達。


















007 反町 笙(そりまち しょう)
反町笙
 尊志の友達。


















008 山谷 松里(やまたに まつり)
山谷松里
 佳桜の友達。


















009 日向 美竹(ひゅうが みたけ)
日向美竹
 佳桜の友達。


















010 鈴村 小梅(すずむら こうめ)
鈴村小梅
 佳桜の友達。


















011 滝沢 彰人(たきざわ あきと)/虎狼(ころう)
滝沢彰人 虎狼
 殺人鬼。