第一話 妄想勇者 考史洋(こうしよう)

00 俺は最強の勇者、僕は……


 ギカンッ!
 ガンガンガン!
 ドキュウン!
 ガガガガン!!
 ふぅ……。
 今日もかっこよく決まったぜ。
 今日は魔王クイイタシウキョをぶちのめしてやったぜぇ。
 何をやっても上手く行く。
 俺は最強の勇者。
 俺の名は考史洋(こうしよう)。
 異世界を旅する冒険者でもある俺は――
「もうそう……」
 今日も魔王達を倒してまわり、女の子達にキャーキャー言われ――
「もうそう……」
 あぁ、うるさい。
 俺は10人の妻を持ち――
「毛爪 考史洋(もうそう こうしよう)、起きなさい。授業中よ」
「あ、は、はい。すみません……」
「あなたという人はさっきも体育の時間、先生に注意されていたでしょ。ぼーっとしない、ぼーっと」
「は、はい。志村(しむら)先生」
「はい、次、37ページから毛爪君、読んで」
「あ、あの……教科書忘れました」
「しょうがないわね、隣の人、見せてあげて」
 畜生、俺に恥をかかせやがって……
 お前は女魔王、シムーラーに決定だ。
 後で、ぶっ飛ばしてやる。

 ――邪魔が入ったが、俺は普段、毛爪 考史洋というかりそめの姿で生活をしている。
 本渡河(ほんとか)中学2年という偽の肩書きだ。
 この俺は俺じゃない。
 世を忍ぶ仮の姿というやつだ。
 この世の中は悪意に満ちている。
 人間の皮をかぶった悪魔共が世の平和を乱そうとしているのだ。
 人知れず、世界の平和を守るのが俺の仕事ってやつだ。

「毛爪君、また忘れたの?じゃあ、はい……、あ〜やだやだ」
 隣の席の宮田 道江(みやた みちえ)だ。
 嫌そうな顔をしやがって。
 誰もお前に教科書を見せろとは言っていないぞ。
「あ、あの……宮田さん、いつもありがとう」
「早く席替えして欲しいわね」
「ご、ごめん」
「ごめんって言うくらいなら教科書持ってくるくらいして欲しいわね」
「そ、そうだね。気をつけるよ」
「あんたって、何やったってダメね。何か得意な事とかってないの?」
「そこ、うるさいぞぉ」
「すみませーん、毛爪君が話しかけるもんで〜」
 こ、この、掃き溜め女がぁ。
 絶対、後で、下働きとしてこき使ってやる。
「す、すみません」
 俺は大人だからな。
 とりあえず、女に恥をかかせないように罪をかぶってやる。
 俺は、女教師と隣の女生徒を斬り殺さないように気をつけるのだった。
 ぶちぎれた俺は怖いぜぇ。

 邪魔が入ったが、傷ついた俺の心を癒すには俺の嫁達に癒してもらうより他にはあるまい。
 ふふふ、紹介しよう。
 宮田のようなバカ女とは全然違う。
 俺の嫁10人も世を忍ぶ仮の姿として、本渡河中学の二年生として、正体を隠して生活しているのだ。
 だが、俺と同じく、美しさというのは隠しても隠しきれるものではない。
 俺の嫁は10人とも超美人なのだぁ〜。
 だが、俺は普段彼女達との接触を避けている。
 俺との接触がばれてしまうと、嫉妬に狂った男達によって、彼女達に危険が迫るかもしれないからだ。
 だから、普段は無関係を装っている。
 決して、声をかける勇気がないという訳ではないからなぁ。

 ――オホンッ

 気を取り直して、俺の嫁を一人ずつ紹介していこうかな。

 まずは、水元 玖美(みずもと くみ)。
 俺の嫁だ。
 彼女は学校では生徒会の書記を務めている。
 成績も非常に優秀だ。
 英語も堪能で、うわさではドイツ語とフランス後とイタリア語もマスターしているらしい。
 将来、通訳になりたいらしい。
 さすが、俺の嫁。
 本当の世界ではプリンセスをしている。
 メガネがプリティーな女の子だ。

 次は、鈴本 聖美(すずもと きよみ)。
 俺の嫁だ。
 学校ではテニス部とバレー部を兼任している。
 スポーツウーマンというやつだ。
 女子共の噂では、既に大学からスカウトも来ているという噂があるみたいだ。
 さすが、俺の嫁。
 本当の世界では女武闘家をしている。
 健康美な女の子だ。

 次は、遠藤 珠希(えんどう たまき)。
 俺の嫁だ。
 学校では保健委員をしている。
 なんと、貧血で倒れた俺を保健室まで付き添ってくれたのだ。
 そして、保険の先生を呼んでくれたという。
 きっと俺に気があるに違いない。
 本当の世界では僧侶をしている。
 白衣の天使な女の子だ。

 次は、矢島 司紗(やじま つかさ)。
 俺の嫁だ。
 学校では図書委員をしている。
 そして、なんと言っても巨乳だ。
 あれが、タップンタップン揺れるだけで、俺の心は癒される。
 本当の世界でも、冒険の書を管理する図書施設の管理人をしている。
 おっとりな女の子だ。

 次は、桐生 菜緒(きりゅう なお)。
 俺の嫁だ。
 さばさばした性格で俺にもきさくに声をかけてくれる良い女だ。
 学校では、数学が得意で、俺も答えを教えて貰った事がある。
 スレンダーな事を気にしているが、俺は、巨乳もスレンダーもどちらでもオーケーだ。
 本当の世界では、女忍者、くのいちをしている。
 気さくな女の子だ。

 次は、坂本 七保花(さかもと なほか)。
 俺の嫁だ。
 男が苦手なのか男には近寄らない。
 俺に操をたててくれているに違いない。
 学校では吹奏楽部に所属している。
 ピアノは素人の俺でも上手いなと思ったぞ。
 本当の世界でも楽器を弾いている。
 音楽家だ。
 儚げな女の子だ。

 次は、里中 陽菜(さとなか ひな)。
 俺の嫁だ。
 アイドル志望なのか、よく、七保花の居る音楽室に通っている。
 俺は彼女のサインを十四枚ももらったことがある。
 彼女は失敗したからあげると照れ隠しに言っていたが、俺に、気があるに違いない。
 学校では合唱部に所属している。
 本当の世界では歌姫をやっている。
 スターな女の子だ。

 次は、荻野 苺穂(おぎの まいほ)。
 俺の嫁だ。
 アーティストなのか、よく解らないが、美術の賞をたくさんもらっているというのを女子が噂していたのを聞いた事がある。
 学校では美術部に所属している。
 彼女は俺が落とした分度器を拾ってくれたという親切な女の子だ。
 本当の世界では、軍師をしている。
 天才肌な女の子だ。

 次は、武井 愛葉(たけい まなは)。
 俺の嫁だ。
 見た目はちょっと怖いが、姉御肌の頼れる美人だ。
 なんと、俺の事を助けてくれた事がある。
 「弱い者イジメしてんじゃねぇ」って台詞にはしびれたなぁ。
 きっと彼女は俺を守りたかったんだな。
 学校では遅刻早退の常習犯だ。
 だが、彼女は優しい。
 俺は知っている。
 俺だけが知っている。
 本当の世界では傭兵をしている。

 最後は、木原 茉由佳(きはら まゆか)。
 俺の嫁だ。
 彼女は双子だ。
 つまり、双子の片割れがいるのだが、はっきり言って余計だ。
 彼女と結婚したら、もれなく弟がついてくる。
 しかもその弟が怖い――いや、悪いやつと言われているのだ。
 俺は双子の弟から彼女を救い出してやらねばならないと思っている。
 学校では、陸上部に所属している。
 本当の世界では魔法使いだ。

 以上が俺の嫁だ。
 どの嫁も捨てがたい、大事な嫁だ。
 さぁ、俺を癒しておくれ。
 俺は、本当の世界へ旅立とうとしていた。
 それをとどませたのは、女魔王シムーラーのかりそめの姿、担任の志村の言葉だった。

「はい、みんな静かにして、転校生を紹介します。筧(かけい)さん、入ってきて」
「はい、失礼します」
 来たぁ〜!!
 ついに11人目の嫁の登場だ。
「おぉ〜可愛い〜」
「美人だぁ〜」
「綺麗〜」
 えぇい、外野どもうるさい。
 言わなくても解っている。
 彼女は俺の嫁10人ともひけをとらない。
 さぞかし、良い嫁になるだろう。
「初めまして、筧 涼風(かけい すずか)と言います。何も解らない事ばかりですが、よろしくお願いします」
 ズッキューン。
 俺のハートは撃ち抜かれた。
 さっそく、本当の世界で結婚しなくては。
 俺は旅立つ支度をしていると横を通った彼女は――
「私は11番目ですか?」
 と言った。
 え?
「え、あ、あの……」
「何でもありません。冗談です」
 な、何で、俺しかしらない本当の世界の事を――
 まさか、俺の心を読んで……?
 いや、いや、いや、そんなはずは……。
 だって、これは俺が考えた……
 いや、いや。
 み、ミステリアスだ。
 なんなんだ、彼女は……。
 俺は動揺した。
 そして、鼻血が出た。
「せんせぇ〜、毛爪君が鼻血出して倒れましたぁ〜」
 宮田が志村に言った。
 もうちょっとソフトな言い方はないのか?
 これでは、彼女の前で俺が恥をかくではないか。
 俺の意識は遠くなった。


01 謎の美少女 筧 涼風(かけい すずか)が誘う世界へ


 はっ……
 気がつくと俺は保健室で寝ていた。
「大丈夫、毛爪君?」
 さすが、珠希、俺の嫁だ。
 俺を心配してついてきてくれたのだろう。
「だ、大丈夫です。遠藤さん。ありがとう」
「それは良いわ。保険委員だし。顔色悪いし、今日は帰ったら?」
「も、もう大丈夫です」
「そう?じゃあ、私、教室戻るわよ」
「ありがとう」
「じゃあね」
 珠希を見送った後、俺は保健室の天井を見た。
 そして、さっきの自己紹介の情報を元に、本当の世界に旅立った。
 えーと、確か彼女の名前は筧 涼風で、彼女の職業は……
「私、ウェイトレスで良いかな?」
 そう、ウェイトレス……
 ってえぇ?
 な、何で、俺の妄想で彼女が俺の意思に反して行動出来るんだ?
「あぁ、ごめんねぇ。私、他人の妄想に入れるんだわ」
 なななな、なんで?
 俺はおかしくなったのか?
「なってないよ。私の能力だって。私もこの能力知られちゃうと人に気持ち悪がられちゃうから、内緒にしてくれると嬉しいな。その変わり、あなたが、美人さん10人を妄想の中でお嫁さんにしている事を黙っていてあげる」
 ちょっちょ、ちょっと待って。
「あ、それは信じてない感じだな。じゃあ、証明として私が、あなたの指定する行動を取ってあげる。あ、変なのはやめてね。それで、証明っていう事で」
「じゃ、じゃあ、逆立ちして……」
「それはダメ。あと、あなたはしゃべらなくても心で思えば、私と会話出来るわよ」
 え?
「そうそう、それで良いわ。逆立ちは出来ないけど、保健室から戻ったら机の中見て。消しゴム拾うふりして、手紙入れておいたから」
 う、嘘だ。俺は信じないぞ。
「信じないのは勝手だけど、私はあなたの見ている妄想を知っているわよ。手紙にはあなたのお嫁さん10人の頭文字だけ書いておいたわ。後で確認してね」
 そんなばかな。
 俺はあわてて戻り、机の中を確認する。
 すると小さな紙くずが。
 あけてみると【みすえやきささおたき】と書いてあった。
 み 水元
 す 鈴本
 え 遠藤
 や 矢島
 き 桐生
 さ 坂本
 さ 里中
 お 荻野
 た 武井
 き 木原
 ――間違いない。
 彼女は俺の秘密の楽しみを知っている。
 どどどどうしよう。
 このままじゃ、俺は破滅だ。
 俺は気が遠くなった。
 筧 涼風――恐ろしい女だ。
 迂闊に妄想出来なくなった。
 でも、無理だ。
 癖になっている。
 俺は妄想無しに生きてはいけない。
 どうしたらいいんだ、どうしたら……。
 ふと、涼風を見ると――
 彼女はにっこり笑ったように見えた。
 俺は背筋がゾッとなった。
 俺の生き甲斐が俺を追い詰める絶望に変わった瞬間だった。
(絶望だなんで思わなくても良いわよ。人の妄想はその人の勝手だし、私は気にしないから。でもエッチな事は勘弁してね)
 あ、悪夢だ……。
 俺は、出来るだけ無心で過ごした。

 けだるい授業を我慢して受けてから俺は早々と帰宅した。
 俺は家に戻ってから本当の俺の世界をリセットする事にした。
 俺が別の世界に引っ越せばあの女は追ってこれないはず。
 10人の俺の嫁を連れて行くのは忘れないが、嫁の設定を変える必要がある。
 一晩かけて俺は設定を見直した。
 まずは、新しい世界の世界観だ。
 何処が良いだろう。
 前の世界がファンタジー的な世界だったからSFっぽい世界が良いかも知れないな。
 えーと、時代は未来が良いだろう。
 1999年にノストラダムスっていうのがはやったらしいから2999年にしよう。
 終末を意識した世界設定で、人類は宇宙へと羽ばたき、異世界間での交流が始まった。
 俺はエリート外交官。
 各惑星へと渡りそこで出会った俺の妻達と恋をする。
 そういう世界にしよう。
 恋を繰り返す俺はやがて、宇宙最強の生物との最終決戦に向けて修行をしていく。

 次は俺の妻達の設定だ。
 まずは玖美だ。
 生徒会書記で通訳を目指している彼女は惑星ショキに住む交渉人、ネゴシエーターだ。
 外交官としてやってきた俺とたちまち恋に落ち、紆余曲折を経て結婚する。

 次は清美だ。
 スポーツウーマンの彼女は惑星スポーツンに住む軍人だ。
 外交官としてやってきた俺を侵略者と勘違いして、襲いかかるがやがて誤解が解け、その時の反動で恋に落ちて結婚する。

 次は珠希だ。
 保健委員の彼女は惑星ホーケンにすむ救世主だ。
 悪政をしいている悪者に反抗して、レジスタンスで戦っている。
 偶然、やってきた俺が悪者を倒して、やがて二人は恋に落ちて結婚する。

 次は司紗だ。
 保健委員で巨乳の彼女は惑星オッパイの巨乳チャンピオンだ。
 惑星でもっとも美しいオッパイを持つとされている彼女は占星術にあった運命の人、つまり、俺と出会って恋に落ち、結婚する。

 次は菜緒だ。
 スレンダーで数学が得意な彼女は惑星ナンバーで考古学をやっている。
 太古の歴史を探っていく内に、宇宙一、魅力的な男性の事が解り、それが、偶然俺と一致する。
 雌と化した彼女は俺を求めて来てやがて二人は結ばれ結婚する。

 次は七保花だ。
 男が苦手な彼女は惑星ハコイリに住む人間国宝で今まで男という存在を知らなかった。
 偶然、やってきた俺を初めて見た彼女は初めて見た男に操を立てるとして、俺との結婚を決意する。

 次は陽菜だ。
 アイドルである彼女は惑星オンガクで余りにも美しい声であるが故に声を奪われていた。
 そこにかけつけた俺が、見事声の封印を解き、感謝した彼女は俺との結婚を承諾する。

 次は苺穂だ。
 美術部の天才肌な彼女は宇宙の英雄を作り続ける彫刻家だ。
 ある時、英雄達の凄い要素だけを集めてイメージで作った彫刻が動き出した。
 それは俺とうり二つで、その彫刻と合体した俺は超絶パワーを手に入れる。
 俺の強さに惹かれた彼女は俺と結婚する。

 次は愛葉だ。
 ちょっと怖い彼女は惑星ヤンキーを支配していた暴君だ。
 彼女の間違いを正した俺に対して好意を持つようになり、やがて二人は結婚する。

 次が茉由佳だ。
 双子の彼女は惑星ツインズに住む光の民だ。
 光の民にはそれにつきまとう闇の民がいて、命を狙っている。
 命の恩人である俺に対して、彼女は俺に惹かれ結婚は自然なものとなるだろう。

(次は?)
 次?
 次は無い。
(私は?今度は惑星レーサーに住む運びやっていうのはどう?)
 うわあぁぁぁぁっ、またでたぁっ!
 俺はまた突然、現れた筧 涼風に驚いた。
(酷いなぁ、人をお化けか何かみたいに。にしても全部考え終わるまで待ってたけど、結局、最後は全員と結婚なんだね。そんなに結婚したいの?)
 だ、黙れ黙れ黙れ〜俺は関係ない。
(まあまあ、落ち着いて。何も捕って食おうっていう訳じゃないんだし)
 俺は知らない。
 何も知らないぞ。
(だから、君の妄想でしょ?良いよ、妄想くらい好きに考えて。私も慣れてるから)
 俺は何にも考えてない。
(いやいや、ご謙遜を。それにしても凄いね。あっという間に新しい設定を作っちゃうんだから)
 俺は関係ない。
(私は君を非難している訳じゃないわ。むしろ君の妄想力を評価しているの。君の望み通り、君を妄想界の勇者としてスカウトに来たのよ、私は)
 な、何を言って……
(私は妄想界の女神。そして、大魔王の化身でもあるの)
 言っている意味がよくわからな……
(大魔王としての私を倒して欲しい。そう言っているの、私は)
 な、なんで……
(最初は綺麗な夢を持っている人に頼んで見たわ。妄想ではなくてピュアな夢を持っている人達にね。でも、彼らは脆かった。そして弱かった。邪悪な者に対する免疫が殆どなかった。そこで私は夢見る人から妄想にふける人を対象に夢の中を探していたのよね。大概の人は私が声をかけても無反応なんだけど、君はあからさまに動揺したからね。素質は十分あるわ)
 し、知らない、そんなの知らない……
 俺は筧 涼風の言っている意味が理解出来ない。
 俺は俺の考える俺だけの世界に居たいんだぁ〜。
(まぁまぁ、少し落ち着こうよ。君がどんな世界を作ったって私は入っていけるんだからさ。これも運命と諦めて、私の話を聞こうよ)
 や、やめてくれ。
 お願いだからやめてくれ。
(約束する。この事は誰にも言わないからさ)
 俺は関係ない。
 俺は無関係だ。
 出て行ってくれ。
 何も考えたくない。

 俺は次の日から学校に行くのをやめた。
 その後も俺は自分の世界を組み替えていったが、そのたびに筧 涼風は覗きに来た。
 どう思ったのか俺に声をかけるのをやめて手を振るだけになったが、それでも設定を変えても必ず現れた。
 どうやら、この女とはどっちが諦めるかの根比べになりそうだ。
 最初の内は俺は拒絶反応を示していたが、設定を変えても変えても現れる彼女に対して俺も慣れてきた。
 俺は自分の世界を作り続ける事をやめることは出来ない。
 やめたら俺の人生は終わったも同じだ。
 だから、自分の世界を作る事はやめられれない。
 死ぬことも出来ない。
 だったら、出来ることは筧 涼風に慣れるしかない。
 どうせ、筧 涼風が何を言おうと人間が人の考えている世界に入れる訳がない。
 そう思って吹っ切れた。
 吹っ切れたら、挨拶くらいは出来るようになっていた。
(今度の世界は地底世界かぁ。妄想力豊かだね)
 いつまで居たって俺はやらないぞ。
(でも、最初は私を拒絶していたけど、今じゃ声を聞いてくれるようになったよね?)
 あんたが何を言おうと、俺が考えている事の証明にはならない。
 俺は自宅で好きに考えるだけさ。
(好きにねぇ……でも、今じゃ、結婚、結婚言わなくなったよね。)
 それは、あんたが見ているからな。
 今は結婚なんかどうでもよく思えてきた。
(ふーん。でも複数の女の子との結婚は日本じゃ出来ないよ。妄想の中だけじゃないの?良いの、それで?)
 あんたがいるせいで、冷静に考えるようになったんだよ。
 夢見るのはやめようって。
(じゃあ、私のお陰で普通に考えられるようになったんだ?)
 いや、あんたのせいでなったんだよ。
(私のお陰と私のせいじゃ受けている印象が反対だけど、考え方を変えられるようになったのは良いことだね。でも、私は君の妄想力に期待しているんで、好きに考えてもらってかまわないんだけどね)
 俺がかまうんだよ。
 女が見ている所で考えられる訳ないだろ。
(十人の奥さんは女の子じゃないの?)
 実際の女が見ている所で妄想なんか出来るかと言ってるんだよ。
(妄想だって認めるんだね?)
 うるさい。
 この女がいると調子が狂う。
 俺が考える事もどんどん変わってしまった。
 一体、どういうつもりなんだ?
 このまま、居座るつもりなのか?
(違うよ、君が覚醒するのを待っているんだよ。覚醒とか君、好きでしょ?)
 好きとか言うな、恥ずかしい。
(君が普通に今まで考えて来た事じゃない。照れることはないよ。私の事、慣れてきたでしょ?私にとって君は宿敵でもあるけど、同時に白馬の王子様でもあるんだよ)
 な、何を言って……
(照れなくても良いよ。君は才能がある。私は君が活躍出来るようになるのを見守っているだけ。君が自然に動き出せるようになるまでね)
 す、好きにしろ……
(うん、好きにするよ)

 俺は、筧 涼風を妄想の世界の住民として認める事にした。
 彼女の存在は俺のイメージが暴走しないためのストッパーの役目を果たしているらしい。
 俺は今まで、10人の妻と幸せになる事ばかり考えて来たが、彼女が居るせいで、それを考えている機会が減り、別の事を考えるようになっていった。
 最初は大もうけして金持ちになるという事を考えたりした。
 次に、嫌な奴に復讐するという事を考えた。
 次は、俺がスーパースターになる事を考えた。
 そうやって、次々に、色んな事を考えるようになった。
 考えていく内に、段々、考える種類が増えて来て、何となくだけど、想像力が増したような気がした。
 考えて行く事を増やして行く内に、ワンパターンの設定に飽きて来て、新しい事を考えるようになっていった。
 同じ設定ばかりだとつまらなくなっていって、ネットとか本とか見て、新しい知識を得てそれを妄想に活かしたりして楽しむ事を覚えるようになっていった。
 いつしか、いろんな事が考えられるようになった。
 国語は苦手だからダメかもしれないけど、小説とか書いたら面白い話が書けるかも知れないと思うようにもなっていった。
 俺の妄想だから、書いて発表するなんて、恥ずかしくて無理だけどな。
(そんなことはないよ。君は十分、力をつけて来た。覚醒も近いと思うよ)
 覚醒か……。
 俺が覚醒したら本当に勇者になれるのか?
(私にとってはね……他の人にとっては知らないけど)
 でも、少なくとも一人の女にとっては勇者なんだな?
(まぁね)
 なれるものならなってみたいな……勇者。
(なれたよ、たった今)
 は?
(勇者に本当になりたいと思った時がその覚醒の時。そして、今、君は勇者になりたいと思った。違う?)
 違わないけど……?
(今までの君は自分では妄想の世界だから、その中では勇者になれると思っていた。でも、今は、違う。自分の自由にならない妄想の世界でも勇者になれる、なりたいと思った。その時こそが覚醒の時。私はこの時をずっと待っていたの。さぁ、本当の戦いの舞台へ行きましょう)
 えっ?えっ?えっ?
 俺の視界が一瞬暗くなり、次に視界が開けた時、俺の目の前の光景は自分の部屋のベッドの上ではなく、見たこともない異世界に変わっていた。
 色んな世界のたくさんの文化が混じり合ったようなおかしな光景だ。
 あまりにもちぐはぐな光景なので、ここが現実の世界じゃないという事は直感できた。


02 妄想界へ


「ようこそ、妄想界へ」
 大木の側で筧 涼風が待っていた。
 きらびやかな衣装だ。
 神話の世界で見るような感じだから、今の時代の服装じゃない。
「お、俺はどうしちまったんだ?」
 俺は動揺する。
 今まで居た世界から異世界に行くという妄想は今まで何回も考えた事はあるが、こうして本当に来てしまうとつい動揺してしまう。
「ここは妄想力が強い者ほど、その力を発揮する妄想界。ここでは私は筧 涼風じゃなくて女神ファンタジア。この世界の光を司る存在よ」
「め、女神ファンタジア……」
「そう。よろしくね、勇者コウシヨウ君」
 握手を求める筧 涼風改め女神ファンタジア。
 俺はそろっと握手に答えようと手を伸ばした。
 すると――
 パアア……
 俺に情報が流れて来る。
 俺の居た現実世界は今、脅威にさらされている。
 現実と虚構が入れ替わろうとしている。
 それを行おうとしているのは欲望の化身にして女神ファンタジアの半身、大魔王ディザイアだ。
 同一の存在である女神ファンタジアは大魔王ディザイアを止める事が出来ない。
 それを阻止するためには女神ファンタジアに認められる勇者、つまり俺の力が必要らしい。
 今まで、俺以外の者がセントナイトとして、大魔王ディザイアに挑んだが、邪なイメージを植え付けられ堕落していった。
 そのため、ピュアな心を持つセントナイトでは敵わないと判断した女神ファンタジアは邪なイメージを持つ者で大魔王ディザイアに負けないイメージ力を持つ人間を選びだし、その人間を勇者として育てる事にしたらしい。
 それで選ばれたのが俺という事らしい。
 女神ファンタジアはその力で現実世界で実体化し、筧 涼風として、俺に接触。
 俺を勇者として目覚めさせてこの妄想界とやらに運んで来たっていうのが大まかな流れだ。
 勇者って言っても俺は何をするべきなのかは解らない。
 だが、ラスボスの大魔王を倒すという目的ははっきりしている。
 女神ファンタジアとの関係が同一の存在ってとこがよくわからんけど。
 なんにしても俺はこの世界でなら勇者になれる。
 それは女神ファンタジアが保証してくれた。
 やるしかないのか……。
 俺にどうしろっていうんだ……。
 もしかしたら、死んじゃうかも知れない。
 死んだらどうなるんだろう?
 そんな事もふと頭をよぎるが、大魔王ディザイアを倒すまで俺は元の世界に帰れない。
 そして、一定の期間までに倒せなくても戻るべき現実の世界が崩壊する。
 その事実だけは知らされた。

「コウシヨウ君、ちょっと良いかな?」
 考え事をしていた俺に、女神ファンタジアが声をかける。
「な、何?」
「怯えなくても良いよ。ちょっとそこに花を咲かせて見てくれるかな?」
「は?どうやって?」
「花を咲かせるイメージをしてみて」
 イメージっつったって……
 俺は半信半疑で自分なりに花が咲くイメージをしてみる。
 すると――
「さ、咲いた。本当に花が咲いた……」
 本当に咲きやがった。
「この赤い花は現実の花じゃないよね。葉っぱは緑だけど、こんな形にはなっている花は存在しない。これはあくまでも君のイメージの中で生みだした花。つまり、君の妄想力が生んだ花なのよ。解る?」
「どういう事だ?」
「イメージが他の存在より勝っているというのが条件だけど、君はこの世界を好きに作り替える力を持っているの。ここは妄想界。妄想力が強い者ほど、大きな力を発揮する場所なの。現実世界ではなかなか役に立つ事が少なかった妄想でもこの世界では大きな力になる。だから、君はこの世界では勇者になれる素質があるの。どう、理解した?」
 じゃ、じゃあ……
「私を裸にしたくても今の君には不可能ね。私と大魔王は同一の存在。つまり、私も大魔王と同等の力を持っているの。今の君は大魔王にはまだ勝てない。だから、私を脱がす事も出来ないって訳」
「じょ、冗談だよ。本気で脱がそうなんて……」
「思っていないって事にしておきましょうか、とりあえずわね。私を脱がせる力を持てるようになったのなら、大魔王に対する攻撃も効果があるってことになるわね。お望みなら大魔王に対抗出来るかどうかを計るバロメーター代わりに私を脱がす特訓でもする?」
「い、いや、いいよ、別にそんなこと……」
「気持ちと意思が離れていると上手く力は使えないわよ。何が何でもっていう気持ちの強さも妄想力の助けになるんだから」
 うー……
 俺の気持ちが手に取るように解る相手とは正直、やりづらいな……。
 だけど、俺のイメージがそのまま世界に伝わるっているのは良いな。
 こんな夢のような世界なら現実世界になんて帰りたくないしな。
 と言ってもこのまま放っておいたら、現実世界が崩壊して、俺も死んでしまうからな。
 いつまでも居たいけど、それもままならない。
 ジレンマだな。
 とりあえず、この世界を楽しんで、時間が無くなりそうなら手っ取り早く大魔王を倒して、現実世界に帰るって事でいいか。
「良くないよ。放っておいても刺客はやってくるから、君は強いイメージを持つ訓練をしていかないといけない。イメージ力で負けたら、君はこの世界で現実世界の人達より一足先に死ぬ事になるんだから」
「じょ、冗談だろ?」
「私は世界が危ないから君に助っ人を頼みに来たのよ。君に良い思いをさせるためにじゃない。君は勇者になりたい。私は世界を救いたい。目的は一緒でしょ?」
「一緒じゃない。俺は戦うのは苦手だ」
「あら、どうして?いつも妄想で、敵と戦って打ちのめしてきたじゃない?」
「それは、100%俺の思い通りになっていたからだ。俺がやられるかも知れない危険な所でそんな真似が出来るか?」
「出来るよ。勇者になりたいんでしょ?勇者っていうのは勇気のある者って書くのよ。勇気を出せば何時だって勇者になれるわ」
「現実世界での俺の事、知ってるんだろ?」
「えぇ。知ってるわ。常にビクビクしてたわね。でも、妄想の世界では違う。君は他の人にだって強気でいられるじゃない。現に、筧 涼風としての私に対しての対応と今の私に対する対応じゃ随分、態度が違うじゃない」
「そ、それは、元々が俺の妄想の中でスタートしたから……」
「そう、元々は君の妄想がスタートなの。つまり、君のテリトリーなのよ。死ぬかも知れないけど、君はイメージしたものを力に変える事は出来る」
「そんな事、言われたって……」
「イメージしたものが出来るという事は一緒。違うのは安全な所か危険な所かの違い」
「その違いが大きいんだよ」
「でも、君が何もしなかったら、現実世界は崩壊して、君も死ぬ。行動してもしなくても死ぬなら、君はどちらを選ぶの?行動しなかったら、現実は変わらない。だけど、行動すれば上手く行けば、現実を変えられる。それでも君は行動しないの?可能性があるのに、その可能性から逃げて、何もしなくてうずくまるだけなの?」
 俺に、勇気とか言うなよ。
 俺は臆病なんだよ。
 俺は何も出来ないんだ……
「臆病になれないのは無謀だって事なの。臆病な自分を乗り越えた時、それが勇気に変わるの。それに何も出来ないことはない。さっき自分だけの花を咲かせたじゃない。何も出来ない人は花を咲かせる事は出来ない。花を咲かせたって事は君は有能な人だっていう証明なんだよ。気づいて、君自身の才能に」
 怖い……
 怖いんだよ、俺は。
「大丈夫。怖いのはみんな一緒。怖いから他者を攻撃するの。自分の方が強いと証明するために。大魔王だって怖がっている。だから、好戦的になるの。本当に強い者なら、他者に対して攻撃を加える事はない。攻撃を加えるのは自分が襲われるかも知れないという恐怖がそれをさせるの。大魔王と同一の存在の私だって震えている。怯えているの。私を感じて……」
 震える縮こまる俺に女神ファンタジアはやさしく抱擁する。
 その両腕が小刻みに震えているのが解る。
 彼女の心臓の音が高鳴っているのも解る。
 彼女も怖いんだ。
 俺が大魔王を倒せば、彼女は消えてしまうかも知れない。
 だけど、この世界の秩序を保つためには大魔王を倒すしか道はない。
 女神である彼女はそれを拒否する事が出来ない。

 怖いのはみんな一緒――

 その言葉が俺を少し安心させる。
 この恐怖に打ち勝った方が勝つという事なんだろう。
 俺はしばらく、女神ファンタジアと抱擁して、気持ちを落ち着かせた。

 ――大魔王も怖がっている。

 その言葉が俺を安心させた。
 俺は、特訓を開始した。
 特訓と言っても妄想の特訓だから、特訓に入るかどうかは解らないが、この世界では妄想の力がものを言うらしいので、妄想し続ける事が俺の力になるって事だ。
 男の妄想の定番と言えば女の事だ。
 俺の嫁の事を考えて、嫁とのラブロマンスを色々考える事から始めた。
 このままじゃ、死んじまうかもしれないから背に腹は替えられない。
 女神ファンタジアに嫁との情事を見られるのは恥ずかしいが楽しくデートとかしている所なら恥ずかしくない。
 むしろ俺はこんなにモテるんだっていう自慢が出来る。
 そう思って、デートシーンを考える事にした。
 だけど、いざデートとなると何をして良いのか解らない。
 とりあえず、一緒に映画に行って、飯食って、カラオケ行って、遊園地行ってって感じでやってみたけど何が楽しいんだか俺にはさっぱりだ。
 出来れば抱き合って――
 と思うがここじゃ出来ない。

「とりあえず、お嫁さん10人はおいておいて、オリジナルで新しいお嫁さんとか考えてみたら?」
 行き詰まっている俺を見て女神ファンタジアは俺にアドバイスをしてきた。
 オリジナルかぁ……
 今まで考えた事無かったなぁ……。
 さて、どうやって作るか……
 ゼロからは考えられないな。
 だったらどうする?
 嫁の気に入ったパーツを組み合わせるか?
 司紗の巨乳に菜緒のウエストを足すとかか?
 おぉ……それなら楽しいかも知れないな。
 さて、どうやって組み合わせよう……。

 俺は嫁達の気に入っている部分を組み合わせて色々試した。
 嫁を一から作るという感覚が俺の新たな欲望をかき立てた。
 そして、一号から三号までの新たな嫁を作った。
 苦労してイメージしたからなぁ。
 どの嫁も俺の理想像そのものだ。
 そうだ、名前もつけてやろう。
 俺の好きな様に嫁の名前をつけられるという感動。
 新しい快感に俺は打ち震える。
 さて、一号……お前にはどんな名前をつけてやろうか……

 スパッ!

 え?
 俺の思考が一瞬、止まる。
 せっかく作った一号の首と胴が切り離されたからだ。
 一号はそのまま絶命。
 その事を理解するまでの間に二号と三号も首と胴を切り離された。
「あぁ、あぁ、あぁ〜っ」
 俺は声にならない悲鳴をあげた。
 怒りと悲しみがない交ぜになっていた。
 震えが止まらない。
 せっかく作った嫁を……嫁をよくも……
 俺の逆鱗に触れた奴の顔を見る。
 どこかで見た顔だ。
 どこでだ?
 そうだ、学校だ。
 学校一、モテるとか言っていた、いけ好かない男、内村 芳典(うちむら よしのり)とか言っていたな。
 今ので、余計許せなくなった。
 よくも俺の嫁を、嫁を、嫁をぉぉぉぉっ
 憎々しい。
 殺しても飽き足らない。
「我は、魔神エラストス」
「何が魔神だ、内村ぁ〜っ!」
「勇者コウシヨウ、命を貰い受ける」
 魔神エラストスとか名乗った内村が俺に攻撃を仕掛けてきた。
 嫁の敵。
 ぶっ殺してやる。
 ここでの俺は無敵なんだ。
 俺は大木から剣を作り出し、内村に斬りかかった。
ガギイインッ!
 金属音が響き渡る。
 内村の腰の部分から何かが出て、俺の剣を防いでいた。
 俺の剣は聖剣エクスカリバーっていう設定にしたのに、何で防げるんだ?
「それは、相手のイメージの力が強いからよ」
 駆けつけた女神ファンタジアが俺に助言をする。
「どうすれば、勝てるんだこいつに?」
「ひたすら妄想するの。得意でしょ、それ」
「妄想って言ったって、こいつ相手に何を妄想しろっていうんだ」
「モテる男子を君が倒すっていう妄想で良いんじゃない?」
「よ、よーし、こんな奴、あっという間に倒してやる」
「頑張って。君の妄想なら勝てる」
「やってやる――やってやるぞ、嫁の敵ぃ〜っ!」
 俺はありったけの事を考えた。
 色んな武器を考えて、辺りに生えてる木を片っ端から変えて、それを内村に投げつける。
 だけど、ムカツク内村はこれをヒョイヒョイかわしていく。
 俺は剣道とかはやってないから、武器は投げるしかできない。
「ふんっ、雑魚め」
 俺をあざ笑うかのように内村は不敵な笑いを浮かべる。
 悔しい。
 こんな奴にこの世界でも何も出来ないのか。
 涙が出てきた。
 悔しくて悔しくて悔しくてたまらない。
「うわあぁぁぁぁぁっ」
 俺は内村に突っ込んで行き、ゲームで言うところのガチャプレイ状態で攻撃をした。
 自分で自分がどんな攻撃をしているのか全くわからない。
 ただ、デタラメに、適当に、本能の赴くままに攻撃をし続けた。
 一時間経ったのか、それとも一分かそこらか――
 それさえも解らない。
 だけど、気づいたら、内村は倒されていた。
 俺の意識が戻った時には、内村は光の粒となって少しずつ消えて行くところだった。
「我に勝ったくらいでいい気になるな。大魔王ディザイア様の手勢はこんなものではない。必ずやお前は倒されるだろう」
 捨て台詞を残して、内村は消えて無くなった。
 何だったんだ?
 内村は自分の事、魔神エラストスとか言ってたな。
 エラストス――確かギリシャ語で恋人(男)とか言う意味だ。
 妄想するようになって、色んな国の言葉を探していたら、たまたま見つけた言葉だ。
 意味が全然解らん。
 そもそも何で、あいつが敵側にいたんだ?
「それは、この世界の森羅万象が君の妄想力からなっているからよ」
 女神ファンタジアが俺の疑問に答えた……のか?
「どういう意味だ?」
「この世界は君の思考を繁栄させているから、君の知らない事は出てこない。逆に、君の考えた事のある事は現実世界に存在しなくてもこの世界では肯定されるって事よ。君が咲かせた花が良い例。この世界は今、君の妄想とリンクしているの。私がそう導いたの。君は自分のイメージの力を使って、同じく自分のイメージと戦うの。言ってみれば自分自身との戦い。自分に打ち勝つイメージを持つことが出来るようになれば、君は間違いなくこの世界での勇者になれる。勝つも負けるも君次第なの」
「よく解らないよ?」
「君の人間としての成長が君を勝利者にするってこと。君はこの世界でひたすら考え続けるの。自分を高めるため、自分の行動の善し悪しを見定めるために。私は女神ファンタジア、君を導くために存在する」
「じゃ、じゃあ……」
「私は君のイメージの中にインプットされるために、現実世界で君に顔を見せたの。私は君が作り出したイメージ。君が望んだ姿なの」
「そんな訳……」
「無いと言い切れる?ずっと本心を隠して生きてきた君が何とかしたいと願って作り出したイメージというのは信じられない?」
「俺はどうしたら……」
「内村君に限らず、この先、君の知っている顔がどんどん現れるわ。君の10人のお嫁さん達も当然ね。世界が滅びるというのは半分本当で半分嘘よ。これは君自身との戦い。君は逃げる事を許されていない。この戦いで君が負ければ君は死を選ぶ。君が死ぬという事は君から見た世界が滅びるという事。だから本当であり嘘でもある。そして、君が自立するための戦いでもあるの」
 俺は女神ファンタジアの言葉に途方に暮れた。

 続く。






登場キャラクター説明

01 毛爪 考史洋(もうそう こうしよう)
毛爪考史洋
この物語の主人公。
妄想することが趣味で、自分の妄想の中で自分の好きな行動をとっていた。
ある時、妄想に入ってくる女の子が現れて……。














02 筧 涼風(かけい すずか)/女神ファンタジア
筧涼風女神ファンタジア
考史洋の妄想の中に入って来た謎の少女。
転校生として彼の前に現れたが自分は妄想界の女神ファンタジアだと名乗る。















03 水元 玖美(みずもと くみ)
水元玖美
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその1。
 普段は生徒会の書記を務めていて成績も優秀。
 英語も堪能。















04 鈴本 聖美(すずもと きよみ)
鈴本聖美
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその2。
 普段はテニス部とバレー部を兼任しているスポーツウーマン。















05 遠藤 珠希(えんどう たまき)
遠藤珠希
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその3。
 普段は保健委員をしている。
















06 矢島 司紗(やじま つかさ)
矢島司紗
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその4。
 普段は図書委員をしている。
 おっとりな性格の巨乳。
















07 桐生 菜緒(きりゅう なお)
桐生菜緒
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその5。
 さばさばした性格で数学が得意。
 スレンダーな身体の事を気にしている気さくな女の子。














08 坂本 七保花(さかもと なほか)
坂本七保花
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその6。
 男が苦手で男には近寄らない。
 吹奏楽部に所属している。
 ピアノが得意。















09 里中 陽菜(さとなか ひな)
里中陽菜
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその7。
 アイドル志望。
 合唱部所属。
















10 荻野 苺穂(おぎの まいほ)
荻野苺穂
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその8。
 アーティスト気質。
 美術の賞をたくさんとっている。
 才能がある。















11 武井 愛葉(たけい まなは)
武井愛葉
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその9。
 ヤンキーで姉御肌の少女。
 遅刻早退の常習犯。
















12 木原 茉由佳(きはら まゆか)
木原茉由佳
 考史洋の妄想の中のお嫁さんその10。
 双子の弟がいる。
 陸上部に所属。