第二話 フィオナの資格取得

00 フィオナの実績


 宇宙での就職活動を余儀なくされた少女フィオナ・ジョンソンは超A級のデンジャー・ハンターである。
 デンジャー・ハンターとは宇宙にはびこる危険な存在を刈り取る危険な仕事を担う者である。
 偶然とは言え、彼女は凄腕の者しかなれない超A級に認定されている。
 認定と言ってもそれはまだ、仮のものである。
 後最低、9回は組合が指定する依頼を成功しないと彼女は正式なデンジャー・ハンターとしては認められない。
 その後、9回の依頼を審査するのは1回目に引き続き、監察官のナマコミーだ。
 彼でもなく彼女でもないナマコミーは無性の性別の宇宙人でもある。
 優秀な監察官である彼(気性が男性よりなのであえて彼とさせてもらう)は最初の依頼でフィオナについて、カースネックという存在の始末を依頼した。
 カースネックは思ったよりも強敵だったが、彼女は何となくな状態のまま、倒してしまった。
 力で押し勝ったのではない。
 偶然や、他者の助けなどもあり、潜伏していたカースネックを突き止め、始末したのだ。
 カースネックは語祖(ごそ)と呼ばれる厄介な存在だった。
 語祖とは最強の化獣(ばけもの)であるクアンスティータ、その六番目の本体であるレアク・デが所有するとされている話祖(わそ)と呼ばれる存在の紛い物として有名な存在である。
 話祖とはその話術により、無から集団や世界を作り出す事が出来る存在で、数多くの存在を所有するクアンスティータの中でも最も有名とされる存在だ。
 語祖はそれに近い力を使うという事で話祖の紛い物と呼ばれる存在になっている。
 話祖のように雲の上どころではない、超越的存在と一緒にされても語祖としては困っていた。
 紛い物であるが故に本物に消されるのを恐れて隠遁生活する事を余儀なくされているのだから。
 そんな存在である語祖の人数は1500名程度と意外に少ない。
 だが、語祖1人居れば、その口が紡ぐ存在を出現させる事により、甚大な被害を発生させる事になる。
 そのため、超危険存在の1つとして認識されていた。
 カースネックはその末席に属する存在であり、彼を倒した事により、フィオナは語祖に喧嘩を売ったという状態となったが、彼女はそれを理解してはいなかった。
 それを理解しないまま、彼女は次の依頼にトライするのだった。


01 トントン拍子


「生ゴミさん、次の依頼はなんですかぁ?」
 フィオナはナマコミーに聞いてくる。
 彼女はナマコミーの事を生ゴミと間違えて覚えていて、何度訂正してもまた、間違える。
 仕舞いにはナマコミーは訂正する事を諦め、生ゴミで通す事にしていた。
「次の依頼ですか?本当に大丈夫なんですか?」
 ナマコミーは聞き返す。
 1回目の依頼を見る限り、彼女がまともな捜査ができるとは到底思えない。
 また、適当に動き出すのではないかと心配してしまっていた。
 本当にライセンスを得られるには後、最低9回の依頼の成功が必須条件となっている。
 とても、1回目の時の様な奇跡がまた、起きるとは思えなかった。
 なので、仕事の依頼を紹介する事は少々ためらわれた。
 それでも、しつこくフィオナはせびるので、彼は渋々紹介した。
 今回の依頼は、ニュースマンの捕縛だった。
 ニュースマンは本名ではなく、宇宙ネットでの通り名のようなものだった。
 ニュースマンの正体は誰も解らない。
 だが、重要機密情報を勝手に調べ上げ、発表してしまうという迷惑極まりない存在だった。
 ハッカーとも空き巣とも言われる存在だが、その隠密性の高い行動からプロのスパイ、エージェントではないかという噂まである。
 今の所、どんな情報にも引っ掛かっていないので、探しようがない。
 本来であれば、特A級に依頼する内容ではないのだが、他の部署が匙(さじ)をなげ、特別任務として、特A級に回ってきた仕事だった。
 他の特A級デンジャーハンター達は、割に合わない仕事として、敬遠しているため、フィオナにお鉢が回ってきたのだが、正直、フィオナの実力で、この正体不明のニュースマンを捕獲する事なんて出来ないと思って話さなかったのだ。
「ニュースマンの捕縛なんですが、まぁ、あなたには、恐らく、無理だとは思うのですが、一応、受けてみますか?」
 試しに聞いてみる。
 フィオナの返答は即答で、
「あ、受けるぅ〜」
 だった。
 ナマコミーは、
「解っているんですか?ニュースマンと言えば、見つける事はほぼ不可能だと言われている神出鬼没な……」
 と説明を始めるのだったが、フィオナが、
「あ、紹介するね。この人、ニュースマンさんですぅ。ほら、捕まえた」
 と言った。
 ニュースマンだと言われた小太りの男は、
「あ〜、捕まっちゃったぁ。これで、フィオナちゃん、大手柄だねぇ」
 と言った。
「え〜そーなのぉ〜?」
「だって、僕、大犯罪者だから。だけど、フィオナちゃんのためなら捕まってあげるよ。だって、フィオナちゃん可愛いんだもん」
「ありがとぉ〜、フィオナ、嬉しい〜」
「なでなでしてくれたら、色んな情報を話すよ」
「じゃあ、なでなでしてあげるぅ〜」
 などと、言い合っていた。
 ナマコミーは、
「ちょっと待て、ニュースマンがこんな男の訳ないだろうが」
 と割って入ったが、
 ニュースマンと名乗った男は、
「ちっ、生ゴミは黙ってろよな、今、フィオナちゃんと話してんだからよぉ」
 と言った。
 ナマコミーはこんな男がニュースマンの訳は無いと思っていたが、よくよく調べて見ると、この男がニュースマンでほぼ間違いなかった。
 ニュースマンは、誰にも気づかれないというのを誇りとしていたが、ある時、フィオナに一目惚れしてしまい、自分が捕まれば彼女の手柄になるのではないかと考えたのだ。
 それから、機密情報の漏洩を繰り返した後は、フィオナにそのハッキングテクニックなどを自慢していた。
 そして、自分を捕まえれば、手柄になるよと言ってきたのだ。
 まさかとは思っていたが、こんなにあっさりと任務を達成するとは思わなかった。
 世の中間違っていると思うナマコミーだった。
 世の中がフィオナに対して撃甘な状況を作り出しているとしか思えなかったからだ。
 だが、任務は任務。
 彼女は二つ目の課題もクリアしたことになった。
 こんな事は続かない。
 続くわけがないとは思いつつ――
 ひょっとしたら、また……と思ってしまうナマコミーだった。
 次こそは上手くいく訳はないと思いつつ、次の任務を伝えるのだった。
 3つ目の依頼は、大魔王ネーバ討伐だ。
 ネーバはかなりの数の配下を持っている悪名高い大魔王で、力もかなりある。
 今度こそ、上手くいく訳はないと思っていたのだが、今回も上手く行ってしまった。
 大魔王ネーバの支配する星の探索をしたフィオナ達の前には、ネーバの配下の死体の山が築かれていた。
 何処行っても配下が倒された痕跡ばかりが残り、ほぼ素通りで、大魔王ネーバの居城の玉座の間まで来てしまった。
 もぞもぞと動く気配があったので、フィオナが寄ってみると、ガバァっと大きな影が現れた。
 それにビックリしたフィオナが、
「キャーキャー、こっち来ないでぇ〜」
 と近くにおいてあった棍棒で影を殴った。
 すると、殴られた影は大魔王ネーバその人であることが解った。
 彼女がネーバにトドメを刺してしまった事でミッションクリアしてしまった。
 後で解ったことなのだが、大魔王ネーバは、同じく大魔王ズッコイの彼女に手を出したらしい。
 腹いせに、大魔王ズッコイは大魔王ネーバの配下を全滅させ、大魔王ネーバを瀕死の状態にまでしていたらしい。
 その時、タイミングよくやって来たフィオナによって、トドメを刺されたらしい。
 ついでに言うと、大魔王ズッコイも攻略対象になっていて、大魔王ネーバ軍との激戦で大魔王ズッコイの軍勢も疲弊していて、それをフィオナと同じような状態で漁夫の利を得た勇者一行が残った残存兵力を倒していた。
 そして、大魔王ズッコイも倒そうと思ったのだが、その勇者達の機密情報として、ニュースマンが悪事をリークしていて、それを誤魔化すために、勇者業をしている事が発覚。
 その勇者達の漁夫の利をさらにかすめ取る形で、フィオナが大魔王ズッコイも倒した事になった。
 これにより、後付けで、4つ目の依頼もクリアした事になってしまった。
 一体、どれだけ運が良いんだと言いたくなるが、トントン拍子に、10の課題の内の半分の依頼、5つ目の依頼を紹介するところまで来てしまった。
 これが、フィオナの力だとすると、何て恐ろしい力なんだとゾッとなるナマコミーだった。
 これだけ偶然が続くと、もはや、フィオナの実力だと認めざるを得なかった。
 5つ目の依頼は、魔女ズリーの討伐だった。
 魔女ズリーは大変狡猾な事でも有名な厄介な相手だった。
 目的のためなら手段は選ばず、討伐に向かった相手の家族を人質に取る事や、毒殺、偽情報のばらまき、ならず者を使っての暴行、強姦等々の卑怯な手は当たり前。
 中には想像も出来ないような悪い方法を使ったりする事なども珍しく無かった。
 例えば、一人殺すのに、ダムを決壊させて、村ごと水没させるなどの非道もあるし、逆恨みのために、山を一つ焼き払うなどもやったし、国を潰した事もあった。
 そんな厄介な相手にフィオナの様な世間知らずがどこまで対抗できるのか解らなかったが、大魔王ネーバの時の様にほぼ素通りで、魔女ズリーの所まで行けた時は、まさか……と思う、ナマコミーだった。
 現場についてみると、魔女ズリーは新しく作った魔法薬を誤って口に含み、更に飲んでしまい、食あたりで瀕死の状態だった。
 偶然、魔女ズリーの最期を看取る事になり、またしても、フィオナは任務を達成した。
 こんな偶然が五つも続けば、フィオナに対して恐怖心が芽生えてきた。
 これだけ、厄介な敵を相手にしていても彼女のスタンスは全く変わらない。
 相変わらず呑気に、何とかなるというスタイルで行動して、それが、ぴったりはまるかのように全て好転している。
 一体、なんなのだ?
 何が彼女に幸運をもたらしているのか?
 わけが解らない。
 怖すぎる。
 ナマコミーはフィオナの事が解らなくなった。


02 6つ目の依頼と7つ目の依頼


 なんだかんだで彼女が特A級に認められるための課題任務も後、半分――5つクリアすれば、達成となる状態まで来た。
 ナマコミーは考える。
 偶然、上手く行ってはいるが、彼女はまだ、一度も実力で戦っていない。
 こんな彼女を認めて良いものなのだろうか?
 長い監察官生活の中でも彼女のようなケースは初めてだった。
 本当にどう判断して良いのか全くわからない。
 だからこそ、今度は彼女の実力を見る依頼を選ばねばならない。
 ナマコミーはいくつもある依頼候補の書類をじっくりと見た。
 熟慮を重ね、やがて、一つの依頼に決めた。
 今度こそ――
 今度こそ、彼女の真価を見極める。
 そのつもりで、依頼を紹介した。
 6つ目にあたる、今回の依頼は、ブラックティーパーティーの壊滅だ。
 ブラックティーパーティーのメンバーは13名。
 月に一度、行われるティーパーティーでメンバー達は自分達の悪事を報告しあうというもので、メンバー達はそれぞれ普段は単独行動を取っているらしい。
 全く違うタイプのメンバー達で、ニュースマンほどではないが、このメンバー達も謎に包まれている。
 僅かな情報としては、メンバーは全員女性というところまで解っていた。
 今までフィオナが幸運だったのは、関係者達の多くが男性だったという事もある。
 男性であるが故に、見目美しい女性であるフィオナに骨抜きにされて彼女が喜ぶ方向に事が進んでいた。
 だが、今回は全員が女性。
 万が一、同性に好意を抱く者が居ても不思議ではないが、メンバー全員が、フィオナに好意を持つ可能性は天文学的確率すらないだろう。
 むしろ、ぶりっ子をしているフィオナに対し、嫌悪感を持つのではないかとナマコミーは推測した。
 だとしたら、これまでの幸運は通じない。
 あり得るとしたら、男性による助けだが、神出鬼没なブラックティーパーティーのメンバーに対して、そこまで、フィオナを守りきれる存在がいるとも思えない。
 フィオナは実力で戦っていくしかない。
 そう、判断した。
 ナマコミーとしては、監察官なので、基本的にフィオナの手伝いをしてはならない。
 前に思わず助けてしまったが、今回はそれはしないと心に決めている。
 自分は自分らしく、仕事をしよう。
 ナマコミーはそう思った。
 フィオナの捜査が始まった。
 始まったのだが……、
「生ゴミさん、生ゴミさん。これ見て下さい〜、可愛いですよね〜」
 フィオナはショッピングに夢中だった。
 相変わらずの反応だ。
 これで、ブラックティーパーティーのメンバーに行き着くとは到底思えない。
 だが、これから何かあるかも知れない。
 これまでの依頼はこの後の急展開で、任務を達成してきているのだ。
 だが、これまでの様には上手く行かないようだ。
 あちこち回るフィオナだが、どこへ行ってもブラックティーパーティーのメンバーに行き着かない。
 当然だ。
 本来はこれが当たり前なのだ。
 遊び回っていて、敵にたどり着くのであればみんなやっている。
 探しても探しても見つからないからみんな血眼になって探すのだ。
 フィオナも少し、それを見習って欲しいものだと思うのだった。
「ミス、フィオナ。どんな感じですか?」
「うん、生ゴミさん、それがねぇ〜見つからないのぉ〜なんでかなぁ?」
 当たり前だと思いつつも、
「どうされます?この依頼は降りますか?だとすると何らかのペナルティーを……」
 と言った。
 するとフィオナは、
「えっとねぇ〜、見つからないから後回しにするね。先に七つ目をやっちゃおう。七つ目はなぁに?」
 と言った。
 ナマコミーは一瞬、彼女が何を言っているのか解らなかった。
 先に七つ目をやる?
 確かに、依頼はどんな順番でやっても問題ない。
 大魔王ネーバと大魔王ズッコイの件の様に関連して依頼達成という場合も考えられる。
 だが、一度依頼を受けた以上、審査中である10の依頼を達成するまでに6つ目の依頼も達成する必要はある。
 必要はあるのだが、今やるという必要はない。
 だから、後回しにするのはありではある。
 普通のデンジャーハンターはそういう選択はしないというだけだ。
 こういう所が他のデンジャーハンター達と違う点なんだろうなと思う、ナマコミーだった。
 本人が後回しにすると言った以上、他の依頼を紹介するしかない。
 ナマコミーはいくつかある候補を探して見ることにした。
「ちょっと待ってください。今、候補をいくつか探しますので……」
「フィオナにも見せて欲しいな〜」
「ダメですよ。受けない依頼は見せられません。」
「え〜、けちぃ〜」
「けちじゃありません。フィオナさんを審査するのに十分条件を満たしている案件を紹介する事になっていますので、あなたに他の依頼候補を見せる事は出来ないのです」
「つまんな〜い」
「つまるとかつまんないとかの問題ではありません。ご理解下さい」
「ぶぅ〜っ」
「子供みたいにだだこねないで下さい」
 のぞき込もうとするフィオナを遮り、ナマコミーは七つ目の依頼にする案件を吟味する。
 彼の選択しだいではフィオナの任務の正否にも関わってくる事になる。
 あんまり、適当には選べない。
 フィオナの事は適当だとは思っていても彼自体は真面目に監察に取り組まねばならないのだから。
 吟味に吟味を重ねた結果、
「これにしますか」
 ナマコミーは七つ目の任務を決めた。
 七つ目の任務は闇のカリスマの暗殺だ。
 この任務を選んだ理由はこの闇のカリスマは、六つ目の任務であるブラックティーパーティーのメンバー達と繋がりがあるという噂もあったからだ。
 フィオナの力が本物ならば、大魔王ネーバと大魔王ズッコイの時のように、芋づる式に任務完了するのではないかという期待を込めていたのだ。
 闇のカリスマの名前は、タケザフという男だ。
 様々なテロ行為に関係しており、闇の組織の多くが、このタケザフという男を崇拝している。
 地球で考えれば闇側のキリストのような存在だった。
 タケザフが生きている限り闇の組織はどんどん出てくるので大宇宙連合軍はこの男の暗殺に多額の賞金をかけている。
 タケザフからブラックティーパーティーに繋がるかどうかは解らないが全く無関係でもないようなので、この依頼を紹介したのだ。
 タケザフの顔写真は解っているので、フィオナに見せた。
 フィオナは、
「フィオナの好みじゃないなぁ〜」
 と言っていた。
 自分好みじゃないからどうだというのだという言葉をナマコミーは飲み込んだ。
 フィオナはこういう奴なのだ。
 いちいち付き合っていたらストレスで死んでしまう。
 ナマコミーはさらっと流すことにした。
 ナマコミーは、
「そろそろ、あなたに与えられた21の力を使う時が来たのかも知れませんよ。実戦に備えて、少しは使いこなす練習をされたらどうですか?」
 と言った。
「そうだねぇ〜、ちょっと練習してくるねぇ〜」
 と言って、フィオナはどこかに行った。
 練習の間は、何も起きないだろうと高をくくっていたナマコミーだったが、突然、フィオナから連絡が入った。
「もしもし、ミス、フィオナ、どうしました?」
「どどど、どうしよう〜生ゴミさぁん〜」
「何があったんです?」
「それが、フィオナにもよくわかんなくて……」
「とりあえず、解るところだけでも良いですから説明して下さい」
「う、うん……わかった。フィオナねぇ、練習してたの……」
「練習?……あぁ、特殊能力の練習ですね。それは良いことですね」
「それがねぇ、良い事じゃないのぉ〜、でも良いことなのかなぁ〜」
「おっしゃっている意味が全くわかりません。もう少し詳しく教えてください」
「えっとねぇ。フィオナが練習していたところは練習しちゃいけないところでぇ〜」
「まさか、特殊能力禁止地域で練習してたのですか?」
「え〜と、多分そうなのぉ〜」
「何やっているんですか、そんな事をすれば、ライセンス剥奪ものの失態ですよ。良いですか、そういう場所では特別な事がなければ……」
「それがぁ〜特別な事があってぇ〜」
「特別な事ってなんですか?」
「タケザフって人が潜伏っていうのをしていてぇ〜」
「な、た、タケザフ?……ちょっともう少し解りやすく説明して下さい。何があったのですか?」
「それがぁ、フィオナにもよくわかんなくてぇ〜……」
 要領を得ない、フィオナの説明に狼狽えるナマコミー。
 とにかく、情報を得ないと何も解らないので、彼は独自のルートを使って、連絡を取っていった。
 すると、段々状況が解ってきた。
 フィオナは特殊能力禁止地域の一つで練習を始めたらしい。
 そこは、特殊能力に過敏に反応する植物が植えてあり、特殊能力を使ったら、植物が暴走する危険があるという事で禁止されているのだが、その時はたまたま、暴走の危険のある植物は移転作業でそこには無かった。
 その植物の移転先の現場では、タケザフが潜伏していたのだ。
 遠距離であったため、植物の暴走は小規模だったのだが、その植物の暴走にタケザフが巻き込まれた。
 一般人が巻き込まれたら、大問題ではあるのだが、巻き込まれたのが大犯罪者であるという事で特別事案として、処理されたという。
 結果、フィオナはタケザフの暗殺を成功させた事になった。
 さらに、タケザフは、ブラックティーパーティーのメンバーの詳細が書かれていた書類を持っていた。
 潜伏していたため、完全に油断していて、機密情報を所持していたのだ。
 タケザフの死により、気が動転していたフィオナは彼が持っていた書類を大宇宙連合軍の関係者に渡したのだ。
 それにより、ブラックティーパーティー全員の所在が判明、潜伏していた13名のメンバーが全員捕まった。
 メンバー達は言い逃れをしようとしたが、証拠となる書類が全部揃っていたので、言い逃れしようがなかった。
 これにより、事実上、ブラックティーパーティーも壊滅。
 あっという間に、6つ目と7つ目の任務を完了したことになった。
 ちょっと目を放している内に、これだ。
 ナマコミーはフィオナの何だかよく解らない力を彼女の力として認定した。
 彼女は本物だ。
 これが彼女のスタイルなんだと理解した。
 まさかとは思っていたが、本当に任務を完了したので、本当に驚いた。


03 8つ目の任務と9つ目の任務


 最初は10もの任務など、フィオナには無理だと思っていたが、気づけば、監査の任務も後、3つを残すのみとなった。
 このまま、行けば彼女は間違いなく、残り3つの任務もこなして、本物の特A級デンジャーハンターとして認定されるだろう。
 まだ、どこかで認めたくないという自分がいるが、7つも任務を達成されてはナマコミーも彼女の実力を認めざるを得ない。
 勢いが止まるどころか、どんどん、彼女のペースで任務が完了していく様を見ていく内に段々と彼女の実力が本物だと思うようになっていった。
 一応、認めてはいるが、それでも多少は不安が残る。
 このまま認めてはいけないのではないかという僅かなひっかかりがナマコミーにはあるのだ。
 だが、残り3回の任務を紹介し、彼女がそれを達成したら、ナマコミーは彼女の監察から外れる事になる。
 そこからは、フィオナが自分の意志で仕事を受け、依頼をこなして行く事になるのだが、こんな状態の彼女をこのまま、特A級デンジャーハンターとして認めて良いのかどうか、ナマコミーには判断出来なかった。
 彼女を認めてしまえば、それはナマコミーの責任になってくる。
 特A級に認定された後、彼女が不祥事でも起こしたら、それは認定した彼の責任にも繋がってくる。
 凄腕監察官としてのキャリアが彼女の行動一つで台無しになるかも知れないのだ。
 そう考えるとゾッとする。
 だからといって、彼女の合格を邪魔するつもりはない。
 それは、今まで、監察官としてやってきたプライドが許さない。
 彼女のスタイルを認めなかろうがなんだろうが、合格基準に達したら、彼は合格を認める事に心を決めている。
 彼女が世に解き放たれる事を思うを不安だらけだが、考えて見れば、彼女が世に出ると言うことは姑息な犯罪者達にとってはもの凄い脅威となるのではないかという期待もあった。
 何しろ、完全犯罪を狙っても、偶然が偶然を呼び、予想もつかない所から、犯罪者達を追い詰めるのだから、おちおち、潜伏もしていられないだろう。
 彼女を恐れる犯罪者達は彼女の暗殺に動くかも知れないが、それも通じないとすると、今度は障らぬ神(フィオナ)に祟りなしの様に、なるべくフィオナから離れる事を選択していくだろう。
 だが、離れても離れても彼女が依頼を受ければ、犯罪者達は追い詰められる。
 そういう意味では犯罪者キラーとして、十分やっていけるのではないかという期待もある。
 ひょっとしたらかつて無い成果をあげるのではないかという思いもある。
 色々と考える事はあるが、それも後、3つの任務で――
 考えに考え抜いて、ナマコミーは8つ目の依頼をフィオナに紹介するのだった。
 8つ目の依頼は、犯罪アーティスト、レッドゾーンの逮捕だ。
 レッドゾーンの犯罪は大量殺人だ。
 本人がアートだと言い張る、殺害の方法は、身体を切り裂き、バラバラにしたものをまた盛りつけるという残忍なものだ。
 本来ならば抹殺指令が出てもおかしくないのだが、レッドゾーンには闇の交際と呼ばれる宇宙裏社会の繋がりがある。
 レッドゾーンの情報から裏社会の勢力を一気に撲滅する事も不可能ではないため、捕縛を最優先として、考えられている。
 だが、レッドゾーンは、被害者の身体に自身の脳と心臓を移し、姿形を変えて行くという特殊能力があるため、現在、どんな姿形をしているかがつかめず捜査が難航しているとされている。
 これも、フィオナの力ならばと期待して、ナマコミーは依頼した。
 フィオナも依頼を受ける。
 いくら、彼女でも姿形を変える相手にはどうしようもないかも知れないという思いも少しはあったが、この任務もあっという間に解決した。
 レッドゾーンがフィオナの元に自首してきたのだ。
 タケザフの暗殺とブラックティーパーティーの壊滅は裏社会でも有名となり、フィオナの名前は一挙に広まっていた。
 彼女に狙われたら、どうしようもないと諦めたレッドゾーンは超法規的処置を希望し、自首してきたのだ。
 だが、レッドゾーンのやってきた犯罪は許せるものではない。
 レッドゾーンは望みを叶えられる事も無く、情報を引き出され、そのまま処刑された。
 その事がさらに、フィオナの名前を広げることになった。
 悪党達は彼女に狙われる事を震え上がって恐れだした。
 中には足抜けしようとする者も続出したという。
 宇宙犯罪史におけるこれだけの影響力を考えると、10回の依頼を待たずに、特A級ライセンスを与えても良いのではという話が持ち上がった。
 スーパールーキーの誕生だと言う声も少なくない。
 だが、ナマコミーはあくまでも10回の依頼を遂行して任務達成した後、ライセンスを正式に授与するのが望ましいと主張した。
 彼女のライセンス認定に反対という訳ではないが、最後まで、彼女の頑張りを見てみたいという気持ちになっていた。
 知らず知らずの内に、ナマコミーもフィオナのファンになっていたようだ。
 8つ目の任務達成により、残り2つとなった任務依頼。
 残り2つを選ぶ前に、長いデンジャーハンターの歴史を調べた。
 すると、三大珍事件とされる案件があり、それが、フィオナの解決方法とそっくりだというのが解った。
 三大珍事件――
 1つ目は同じ釜の飯事件という。
 デンジャーハンターのターゲットとなっていた犯行グループの名前は【同じ釜の飯】と言った。
 このグループの特徴はネットなどで、犯罪を呼びかけ、同じ釜で共に食事をして、結束を深めて、犯行を行うというもので、呼びかけ人となる者は普段、普通の生活をしていて、ある時、いきなり犯罪者となるため、当時、非情に厄介な犯罪として認識されていたという。
 どんなグループになるかは千差万別、様々な人種が【同じ釜の飯】を名乗ってきたので、一時はパニックにもなった。
 だが、それは、一挙に終息して行くことになる。
 それは、文字通り、【同じ釜の飯】が原因だった。
 ある時、集まった【同じ釜の飯】のグループが全員、食あたりで入院した。
 正に【飯】にあたったのだ。
 それが切っ掛けとなり、次々と【同じ釜の飯】のグループの食あたり事件がニュースとなった。
 元々、面白半分でこのグループに参加していた者達は自分達がターゲットになったのかと思い、段々、参加するものがいなくなった。
 参加者の殆どがおいしいとこ取りをするような性格の者達だったので、デメリットの方が大きくなって来たとして、縮小していったのだ。
 こうして、デンジャーハンターの出番がろくにないままに、【同じ釜の飯】はいなくなった。
 2つ目は、自業自得事件という。
 これは、ある犯罪組織が報復のために暗殺者を雇った。
 だが、その暗殺者は都合が悪くなり、別の者に依頼した。
 その者も都合が悪くなり、更に別の者に――
 というようなたらい回しをしている内に、ターゲットとなっていた、刑事ではなく、ターゲットは手違いで、最初に依頼した報復行動を取ろうとした男に変わってしまっていた。
 油断した、報復行動を取ろうとしていた男は他人に任せにしていたが故に、知らない内に、ターゲットが自分になり、そのまま暗殺される事になった。
 これは後の捜査で公になり、その組織は大恥をかき、統率も取れなくなったので、解散に追い込まれたという事件だった。
 3つ目は、ばれちゃった事件という。
 これは、ある正義を主張していた組織のトップが自分の権力を笠にきて、やりたい放題をやっていたのだが、ちょうど、その時、ドッキリの企画で隠しカメラを設置していて、そのやりとりが一部始終、全て記録されていた。
 それが、事前にわかって、そのトップはもみ消しを計る。
 段取りを取って、記者会見で言い訳をするが、愛人の手違いで、もみ消しをしようとしていた音声も明るみにでる。
 これは、愛人に自分の悪事をペラペラと自慢していたのだが、それを携帯の録音機能で録音されており、それが、泥棒に盗まれ、ひょんな事から、記者会見でその音声が流れたのだ。
 言い訳をするが、それも全て、虚しく響き、記者会見は中断。
 更なる工作をするが、全て裏目に出てしまい、そのやりとりまでもが公開されてしまった。
 どうしようもなくなり、そのトップは行方を眩ますという事件があった。
 これは偶然が偶然を呼び、トップにとっては最悪の形で明るみに出た事件だ。
 この三つの事件は第三者から見れば笑い話のような事件だったのだが、当事者にとっては悪夢としか言いようのない事件だった。
 フィオナの場合は、これと同じ様な状況を自然に作り出しているという事になる。
 それを考えると恐ろしいポテンシャルであると言えた。
 この事件を調べた事により、ナマコミーは自然にフィオナのおかしな力を力として認める事が出来るようになった。
 ナマコミーはよりいっそう、吟味に吟味を重ねて9つ目の依頼を選んだ。
 選んだ任務は、【ナイトメアタトゥー】の壊滅だった。
 構成員は全員、身体の一部にナイトメアをイメージしたタトゥー、入れ墨をしているという。
 服などを着られると全くわからないので、構成員が何名いるのかすら解らない。
 さらに、ナイトメアのタトゥーを入れたら自動的に構成員となるので、始末が悪い。
 ナイトメアのタトゥーには洗脳効果があり、普通の人間もいつ、構成員になるか解らないというものだ。
 こういう依頼は普通のデンジャーハンターが挑んでも、完全な解決という事にはなりにくい。
 むしろ、まだ、潜伏して居るのではないかという不安が残ってしまう。
 フィオナにはそれを覆す何かをして欲しいという期待を込めての依頼だった。
 これまでの名だたる犯罪者達を倒してきたフィオナだからこそ、期待を持てた。
 これまでの様に成功する訳がないという目で彼女の行動を見るのではない。
 何かやってくれるのではないかという期待の目で彼女を見ていた。
 だが、フィオナは特に目立った行動は取らなかった。
 ナマコミーは焦っちゃだめだ、
 フィオナはこちらの予想外の行動を取るのだから待つんだと思った。
 解ってはいるのだが、やはり、どこか、ハラハラして見ている自分もいるとナマコミーは思った。
 こういう目でフィオナを判断してはならないと思っていても、真面目な性格の彼は、どうしても、何で、こんな行動をするんだという目で見てしまう癖が抜けきらない。
 気持ちを落ち着けて待つ。
 ひたすら待つ。
 だけど、彼女は動かない。
 動かないで、何かしている。
 何をしているのかとナマコミーはちらっとのぞく。
 フィオナは、
「う〜ん……うまくいかないなぁ〜」
 と言った。
 ナマコミーは
「何をしていらっしゃるのですか?」
 と聞いてみた。
 フィオナは、
「えっとねぇ〜、フィオナ、お絵かきコンテストに応募しようと思っているのぉ〜。だけど、なかなか良い絵が浮かんでこなくてぇ〜」
 と答えた。
 なんと、呑気に絵を描いていたのだ。
 何をやっているんだとちょっといらつくナマコミー。
 だが、すぐにハッとなった。
 まさか、これが……と思うようになった。
 咄嗟に、ナマコミーはフィオナが応募しようとしているコンテストの応募要項を見てみた。
 一見、何の変哲もないコンテストのように思える。
 だが、一点、違った。
 それは、準入選の特典だった。
 【特別宇宙著作権固定】というものだった。
 準入選に入ったイラストは特別に宇宙著作権としてイラストの一部を認定される事になる。
 ナマコミーはフィオナの失敗作をかき集めて見る。
 すると、失敗作を組み合わせて貼り合わせると偶然、ナイトメアタトゥーと同じイラストになりつつあった。
 この組み合わせでイラストを完成させて応募して、準入選に選ばれ、ナイトメアタトゥーと同じ部分を指定して、【特別宇宙著作権固定】に認定して貰えれば、ナイトメアタトゥーは使用できなくなる。
 つまり、事実上の【ナイトメアタトゥー】の壊滅を意味する事になる。
 これは凄い。
 本当に凄い。
 こんな方法で、【ナイトメアタトゥー】を追い詰められるとは――
 ナマコミーは驚いた。
 彼女のとんでもない才能に驚いた。
 普通は思いつかない。
 こんな無茶苦茶な方法は。
 全然思いもよらない方向から、こんな手段を引っ張り出してくるとは夢にも思わなかった。
 だが、まだ、ピースが足りない。
 このままでは、【ナイトメアタトゥー】は完成しない。
 ナマコミーは、
「ミス、フィオナ、じゃんじゃん作って下さい」
 と応援に回った。
 フィオナは、
「うん、フィオナ、頑張るよ。じゃあ、この失敗作は……」
 と言った。
「あぁ、ちょっと、失敗作は預かります。大切に保管しないと」
「保管?なんで?」
「後で応募するからです」
「応募?しないよ〜だって、それ失敗だもん」
「いえいえ、応募しましょう。絶対に準入選を取るんです」
「えー、入選じゃないの?」
「準入選です。入選では意味がありません」
「何でぇ〜?上を目指そうよ」
「目指されても困ります。丁度、準入選くらいが良いのです」
「じゃあ、フィオナ作んない。作るのやめるぅ〜」
「そんな事言わないで、協力しますから」
「手伝って欲しくないもん、フィオナ、自分で応募するんだもん」
「そうそう、ご自分で応募するんですよね」
 などというやりとりがあった。
 ナマコミーは一瞬、真っ青になった。
 せっかく上手く行きかけていたのに、自分の余計な一言のお陰で、フィオナがやる気を無くしたら、全て台無しになってしまう。
 ナマコミーはフィオナを宥めつつ、やる気を引き出させて、失敗作をかき集めて、ようやく念願の【ナイトメアタトゥー】のピースを集めきった。
 後はこれを上手く貼り合わせて、ナイトメアタトゥーが中央に来るように失敗作を貼り合わせたのだった。
 すると、見事にナイトメア・タトゥーを含むデザインとなった。
 それをフィオナも気に入り、その作品を応募する事になった。
 応募してしばらく経つと、予想通り、【準入選】の通知が来た。
 早速、ナイトメアタトゥーと同じ部分を【特別宇宙著作権固定】に指定してもらった。
 これにより、ナイトメアタトゥーは使用できなくなった。
 普通の著作権では、先に作ったデザインが有効となるが、この場合は後に出来たものでも認定されるという事になっている。
 これで、ナイトメアタトゥーの洗脳効果は消え去り、【ナイトメアタトゥー】は壊滅した。
 これで、残す、ナマコミーの指定する依頼も後、1つとなった。
 いよいよ、これが、最後の依頼という事になる。
 この依頼をクリアすると、彼女は独り立ちする事になる。
 そう考えるとちょっと寂しくもあった。
 彼女には、散々、引っかき回されたがそれはそれで、普通に監察官をしていたら経験出来ない貴重な体験をさせて貰えたなと思うのだった。


04 最後の任務


 ナマコミーは最後の依頼を吟味する。
 色々、候補もあるが、これが、最後の依頼、最後の監察になるので、彼は慎重に慎重を重ね、悩みに悩んだ。
 色々候補はあったのだが、どれもこれも最後にふさわしいと思える依頼としては、不十分と思えた。
 選んでは却下、選んでは却下を繰り返していく内に、これが最後の任務と思える依頼に行き着いた。
 それは、1つ目の任務と同じ、【語祖】に関するものだ。
 1つ目の任務ではカースネックという【語祖】の中でも末席の格下的存在が相手だった。
 だが、今度はもう少し上の立場の【語祖】という事になる。
 思えば、ナマコミーが彼女に最初にインパクトを与えられたのはこの【語祖】を相手に渡り合ったという事だった。
 だからこそ、最後の依頼もこの【語祖】で行こうと思うのだった。
 現在、【語祖】関係の案件は3件入っている。
 その中でも彼女にふさわしい案件を選ばねばならない。
 レベル的には3件とも同じようなレベルと言って良かった。
 極端に、高いレベルの【語祖】の案件は無い。
 【話祖】の偽者とは言え、【語祖】は厄介な敵である。
 犯罪者の中でも上位に当たる。
 そう言った意味でも大物である【語祖】の案件はなかなか出てこない。
 【語祖】の人数が1500名ほどしかいないというのもある。
 だが、一旦、【語祖】が絡んでくるとなると、その任務は特A級の中でもかなり上位の任務となってくるのだ。
 3件の案件の【語祖】の名前はそれぞれ、【ギルティーアイズ】、【ブレイクライフ】、【イレイザーキル】という事になっている。
 全て、大宇宙連合軍によってつけられた仮名、コードネームだ。
 【語祖】は基本的に隠密行動を取っているため、本名が解らない事が多い。
 1つ目の依頼のカースネックも仮名であり、本名は、テウォイという事が後で解っている。
 カースネックが4つの存在を生み出せたのに対し、【ギルティーアイズ】は8つ、【ブレイクライフ】も8つ、【イレイザーキル】は9つの存在を一度に生み出す事が出来る。
 二桁以上の存在を生み出せる様になってからが、【語祖】としては一人前だと言えるらしいので、3名ともギリギリまだ、半人前と言った立場の【語祖】だと言える。
 3名とも同じ様なレベルであると言えるだろう。
 殆どドングリの背比べだと思った、ナマコミーは、フィオナに選ばせる事にした。
「ミス、フィオナ、【ギルティーアイズ】、【ブレイクライフ】、【イレイザーキル】という【語祖】が居ます。その中から、好きなターゲットを選んで下さい。それがあなたのテストの最後の任務となります」
「そうなのぉ〜?じゃあねぇ〜、わかんないからさいしょのギルちゃんでお願いしまぁすぅ〜」
「ギルちゃん……もとい、【ギルティーアイズ】ですね。了解しました。認定前最後の任務となります。気を引き締めてお願いします」
「うん、解ったぁ〜頑張るよ」
「その意気です。あなたの実力であれば、必ずや、【ギルティーアイズ】を倒せると私は信じています。後、一つです。頑張って下さい」
「任せて、任せて、フィオナやっちゃうよ」
 フィオナはやる気だ。
 実はフィオナが選んだ【ギルティーアイズ】は彼女にとっては少し因縁のある相手でもあった。
 【ギルティーアイズ】の本名はシュギルと言い、カースネック退治の時にお世話になったデッカイデー氏を殺害しているのだ。
 つまり、【ギルティーアイズ】はある意味、仇でもあるという事になる。
 そんな事は彼女は露程も思ってはいないのではあるが。

 【ギルティーアイズ】はカースネック以上の実力者で有ることは間違い無い。
 【語祖】全体としての大物ではないが、それなりに実力もあるので、カースネックの時の様に、誰かに助けてもらって解決するという事は考えにくい相手でもある。
 鍵となるのはまだ、出し切っていない、彼女に与えられた21のポテンシャルか、はたまた、それ以外の何かか?
 どちらにしても、それが、【ギルティーアイズ】の力を上回らない限り、任務達成とはならない。
 フィオナは相変わらず呑気だが、今までを上回る事をしないと【ギルティーアイズ】には勝てない。
 ナマコミーとしても、カースネック以上の実力者だという事は認識している。
 また、ナマコミーは属していなかったが、語祖達は何名かのグループで行動する事もあるという。
 【ギルティーアイズ】が単独行動を取っていれば、しとめることも考えられるが、何名かで行動をとっていたら、多勢に無勢、フィオナは窮地に立たされるだろう。
 【語祖】がチームを組むという事はそれだけ、危険度が跳ね上がるという事も意味している。
 そう、ナマコミーは失念していた。
 【語祖】が集団行動をとっているという事を――
 殆ど表舞台に現れないので、単独行動をそれぞれが取っていると思いこんでいるのだ。
 だが、実際には、フィオナに選択してもらった【ギルティーアイズ】、【ブレイクライフ】、【イレイザーキル】はチームを組んでいる。
 更に言えば、後、2名、名前の挙がっていない【語祖】と合わせて5名でチームを組んでいた。
 【ギルティーアイズ】→本名はシュギル 8つの存在を生み出せる。
 【ブレイクライフ】→本名はナジェ 8つの存在を生み出せる。
 【イレイザーキル】→本名はドクォ 9つの存在を生み出せる。
 それ以外の2名は、
 シュギルの兄、ヤリシュギ 9つの存在を生み出せる。
 チームリーダー、ジュルリ 12の存在を生み出せる。
 というメンバーで構成されている。
 全部足すと46もの存在を生み出せる事になる。
 この事実が解れば、1名でも相当、厄介なのに5名の【語祖】と戦うのはフィオナには無理なのではと普通は考えるだろう。
 ナマコミーも【語祖】は単独行動を取っていると思っているからこそ、最後の依頼として選んだのである。
 まさか、選択肢全てがチームを組んでいて、他にも2名居るなどとは夢にも思っていなかった。
 完全に判断ミスだった。
 ミスに気づかず、その上で、【ギルティーアイズ】の力の説明を開始するナマコミー。
 対して、フィオナはウトウトと寝息を立てていた。
 聞いちゃ居ない。
 ナマコミーの情報は間違っているので、聞いても意味がないので、それはそれでありかも知れなかった。
 下手に情報を頭に入れても彼女の少々、足りないおつむではパニックになるだけだ。
 それよりは、彼女に自由に行動して貰って案件の解決に向けて、しっかり監察して行くことの方が、ナマコミーにとっては重要なことと言えた。
 だが、この案件はフィオナが特A級ライセンスを正式に認められてからの最初の案件となることになる。
 実は、彼女は既にもう一つ、案件を解決していた事が後日解ったのだ。
 このまま、【ギルティーアイズ】の案件に取りかかっていたら、恐らくは、ナマコミーの判断ミスにより、行動を共にしていたナマコミーの安全自体も脅かされていたところだった。
 それだけ、この敵は難敵と言えた。
 なので、ある意味、知らず知らずの内に、ナマコミーを助けていたと言えるのだが、そんな事はナマコミーには解らなかった。
 なので、拍子抜けした感じで受け取っていた。
 自分の命が知らない内に助かっていたという事など、夢にも思っていなかった。

 彼女が知らずに解決していた案件は、6番目と7番目の案件のすぐ後に解決していたので、8番目だと思っていたのが、9番目、9番目と思っていた案件は10番目の案件として処理された。
 その案件は、意識せずに解決したが、ナマコミーの案件リストにしっかり入っていた案件なので、ちゃんと、数として認定されていた。
 それは、軍事施設ヘルダークベースの壊滅だ。
 ヘルダークベースでは、宇宙国際的に違法な軍事整備が行われていた。
 独裁者ヘルウィナー指導の元、どんどん軍備強化をしていき、手のつけられない状態になっていたが、フィオナが宇宙でファンになった宇宙アイドル、ミリアンに送るファンレターと共にプレゼントを贈った事で独裁者が死亡したのだ。
 ミリアンは特殊な趣味を持っている事で有名なアイドルで、ミイラを集めていると知ったフィオナは宇宙ネットでミイラを一つ仕入れてきた。
 それをそのままミリアンに送ったのだが、ミリアンは独裁者ヘルウィナーの行動に反対している運動の中心人物でもあった。
 ヘルダークベースでは、ミリアンを殺害しようと彼女に送られて来るプレゼントの中から彼女を殺害する道具を探していた。
 そして、偶然、フィオナが送ったプレゼントがそれに選ばれた。
 ヘルダークベースでは、ミリアンだけを殺害する特殊な匂いを出す、液体をフィオナが用意したミイラに忍ばせようという事になった。
 それを独裁者ヘルウィナーに見て貰おうと思い、彼の配下の者がフィオナが買ったミイラをヘルウィナーに見せた。
 それが、ヘルウィナーの運の尽きとなった。
 そのミイラは、独裁者ヘルウィナーにとってのドッペルゲンガーのような存在だった。
 対面してしまったため、ヘルウィナーは突然の心臓発作に見舞われ、この世を去ったのだ。
 ヘルウィナーの死去により、次の独裁者を巡って、それまでのヘルダークベースのbQとbRとbSの主導権争いが始まり、凄惨なつぶし合いが始まり、ついには、ヘルダークベースの解体にまで話が進んでいたのだ。
 つい最近まで、壊滅した理由がわからなかったのだが、よくよく調べて見ると実はフィオナのプレゼントが関わっていたという事が解り、急遽、彼女の手柄として、認定されたのだ。
 監察官をやって長い、ナマコミーだが、最後の最後まで、フィオナは予定通りに行動しなかった。
 思いも寄らないところから事件を解決していた。
 10の任務全てがそうだった。
 10も任務があるのだから、絶対に運だけでは解決しないだろうと思っていたが、ついに、運だけでここまで来てしまった感じになってしまった。
 認定は10以上の指定任務という事なので、10である必要はない。
 なので、11番目の依頼として、【ギルティーアイズ】の案件をという考えもあるのだが、それはやめる事にした。
 彼女は10の案件完了を待たずして、特A級ライセンスを正式認定しても良いのではという話も持ち上がっていた。
 それを無理言って、10の案件全てを依頼させてもらったのだ。
 新たに、1つ案件を増やすというのは無粋というものだ。
 そう考えて、ナマコミーはフィオナに特A級ライセンスの正式認定証を渡すのだった。
 ナマコミーは、
「おめでとうございます。ミス、フィオナ、あなたはたった今から、正式な特A級デンジャーハンターとして認定されました。これからは、どのような依頼もあなたの気持ち次第でご自由に選択していただいてかまいません。やれず仕舞いだった【ギルティーアイズ】の件もやるやらないはあなたに一任いたします」
 と言った。
 フィオナは、
「そうなの?やったぁ〜、これで、フィオナ特Aさんなんだねぇ〜。お金いっぱい貰えるね。そしたら、好きなのいっぱい買えるよねぇ〜」
 とはしゃいだ。
 今までであったら、窘めていただろう。
 だが、今の彼女は、特A級ライセンスの取得者として、自立している。
 どのような態度だとしてもとがめる理由は無いし、それは自己責任でやってもらいたいと思っていた。
「そうですね。依頼完了に伴い、かなり高額な報酬を得られるでしょう。今や、あなたは優秀な逸材でもあります。難しいことではないと思いますよ」
「うん、ありがとね〜。生ゴミさん、メル友になりましょう。これからも色々相談に乗ってくださいね〜」
「良いんですか?私とで」
「うん、良いよ、フィオナ、生ゴミさん好きだしぃ〜」
「じゃあ、正式にメルアド交換という事で」
「よろしくねぇ〜」
 という感じで、フィオナはナマコミーと別れた。
 まるで、友達感覚だった。
 とても、監察官に対する態度とは思えなかった。
 運だけでここまで来てしまったフィオナだが、とうとう、本物の特A級デンジャーハンターに選ばれた。
 その喜びを電話で家族に報告するのだった。
「あ、ぱぱぁ〜?フィオナねぇ、特Aさんになったよぉ〜、え?それは何かって?う〜ん、よくわかんないよ。多分、たくさんお金もらえるお仕事だよ〜。ぱぱの就職は?え?まだ?じゃあ、フィオナの方が大黒柱だね〜。これからはフィオナがぱぱ達を養ってあげるぅ〜」
 と言っていた。
 相変わらず、自分の置かれた状況を理解してはいない。
 
 だが、これが彼女の持ち味だ。
 欠点でもあるが、それが強味にもなる。
 彼女はこれからもこのペースでやっていくだろう。
 それがフィオナ・ジョンソンという女性なのだから。

 続く。







登場キャラクター説明

001 フィオナ・ジョンソン
フィオナ・ジョンソン

 この物語の主人公でジョンソン一家の末娘、次女です。
 甘えん坊な性格で、超箱入り娘として、育った彼女は地球での常識が欠落しています。
 宇宙漂流後は就職活動で肉体改造を受けます。
 超A級のデンジャー・ハンター見習いとなりますが、彼女はバイト気分で敵と戦います。
 呑気な彼女では与えられた任務をこなすのは無理だと思われてきましたが、運とよく解らない行動で次々と難事件を解決していきます。





002 ナマコミー
ナマコミー
 フィオナのデンジャー・ハンターとしての資質を審査するために派遣された監察官です。
 無性で、男にも女にもなれます。
 今まで関わった事のないタイプのフィオナに対して、多少苛つきつつも、彼女の才能を正統に評価していきます。













003 ニュースマン
ニュースマン
 フィオナに自首してきた非情に厄介なハッカーであり泥棒です。
 正体不明でしたが、フィオナに惚れ込み彼女のためにつかまる決意をしました。
 小太りな男性です。